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「・・・タマちゃん、少しは落ち着いた?」
あたしは答えられなかった。それどころじゃなかったというのもあるし、全然落ち着いてないというのもある。
どうにか家まで帰ってきたけれど、相変わらず頭がぼーっとしているというか、火照っている。
なんとか着替えだけして、あたしはすぐにユージくんにベッドに押し込まれた。
・・・お父さんが留守にしていたので、帰ってくるまではとあたしの面倒を見ることにしてくれたのだ。
正直、それはそれでかなり困る。
「うーん・・・なんだろう。風邪? じゃないしなあ」
言いながら、ユージくんがあたしの額に手を伸ばそうとする。
反射的にあたしはそれから頭を遠ざけてしまった。
「?」
ユージくんが怪訝な顔をした。
「ね、熱はないと思うから・・・計らなくても大丈夫だよ」
「そう? ならいいけど・・・でも、顔赤いままだよタマちゃん? ちょっと待ってて、タオル濡らしてくるから」
そう言ってユージくんが部屋を出て行く。そこでようやく、あたしは大きく息を吐き出した。
良かった。ユージくんに触れられていたら、また熱を出してしまうところだった。
・・・保健医の先生から聞かされた話は、色々な意味でショックな内容だった。
先生はあたしの体に起こっている異変の一つ一つを確認するように指摘して(死ぬほど恥ずかしかったけれど、えっちな漫画を見てしまったことも話した)、その上で、はっきりと言ったのだ。
欲情しているのだと。
・・・つまり、性的な意味で興奮してしまっているのだと。
性の仕組みなんて保健の授業で聞いたこと以上の知識を持っていなかったあたしは、もう本当に色んな意味でショックを受けた。
当然それをどうすればいいのかわからなかったので先生に聞いてみたけれど、苦笑いを浮かべるばかりで、うやむやにされてしまった。
なんだかユージくんの方に意味ありげな視線を送っていたけれど、それがどういう意味なのかはユージくんもわかってないみたいだった。
あたしは布団の中で寝返りをうった。
・・・なんだか、落ち着かない。
いや、落ち着かないというより・・・持て余しているような感じだった。
体の中になにか熱が篭もっていて、それが一秒と我慢せずに全身を駆け巡っているような感覚なのだ。
・・・あ、また。
胸の先っぽと脚の間が、じんじんと痺れてきた。それと頭の中も。
けれど、どう対処すればいいのかがわからなかった。痛いわけじゃないし。そんなところに塗る薬も知らない。
ただ・・・体を動かしたいという欲求だけは、益々強くなった。
体には力が入らないのに、じっとしていられない。体の中の熱を発散したくてたまらない。
でも、どうすればそれができるのかがわからない。
欲情するって、こういうことなんだ・・・本当に、どうしたらいいんだろう。


何度も布団の中で体勢を変えていると、ユージくんが戻ってきた。
「タマちゃん、タオル・・・って、タマちゃん!?」
あたしの顔を見るや、ユージくんが駆け寄ってくる。
「さっきより顔熱そうだよ!? それに息も荒くなってるし! 病院行った方がいいって!」
・・・こんな状態で病院なんかに行ったりしたら、それこそ恥ずかしさで死んじゃう。
あたしは首を横に振った。
「だ、大丈夫だから・・・病院には、行かなくても」
「でも」
「それより、ユージくん・・・お願い」
熱を帯びた頭で、けれどどうにかあたしはユージくんに言った。
「なんだか、さっきからおかしくて・・・胸、さすってて」
「胸? 苦しいの?」
「苦しいのとはちょっと違うんだけど・・・よくわかんない」
「うん、わかった」
あたしが言うと、ユージくんはあたしの額に濡れたタオルを置いた後、布団の上からあたしの胸に手を置いた。

・・・全身に、もの凄い衝撃が突き抜けた。びくんと体が震える。

ユージくんはそのまま、ゆっくりとあたしの胸をさすり始めた。労わるような手つきで、更には心配そうな表情であたしの顔を見詰めている。
・・・けれど、あたしはユージくんの顔を見返している余裕なんてなかった。
ユージくんの掌が胸の先端を行き交う度に、そこから頭へ、そして爪先まで、どうにも言い表せないなにかが走り抜けていく。
「タマちゃん、本当に・・・大丈夫なの? 病院行かなくても平気?」
「あ、ふぅ、う・・・うん・・・」
まともにものを考えられなくなりかけている頭で、それでもなんとか言葉を返すことができた。
・・・なんなんだろう、これは。頭がぼーっとするどころの騒ぎじゃない。
体中の血液が一滴残らずそこに集中しているんじゃないかと思えるくらい、胸の先が熱かった。まるで今この時だけ、あたしの全部がその一点に乗り移っているような。
「あっ、うっ、んっ・・・」
胸から広がる刺激に頭がおかしくなりそうで、あたしはきつく目を閉じた。
・・・変だ。もうあたし、なにもかも変だ。


 じっとしていられず、体をもぞもぞと動かすと、ユージくんが手を止めた。
「た、タマちゃん? 本当にこんなんで平気なの? なにか薬とか」
「つ、続けて・・・お願い・・・」
ユージくんの言葉を遮って、あたしは懇願するような口調で言っていた。ユージくんは戸惑ったようだったけど、それでもまた胸をさすってくれる。
「あぅ、ん・・・!」
知らず、あたしは歯を食いしばっていた。きっとユージくんからすれば苦しそうな表情に見えるんだろう。
・・・本格的に、頭がどうにかなりそうだった。さっきよりも明らかに息も荒くなっているし、ユージくんにさすってもらっている胸の先は充血し過ぎて痛みさえ感じるくらい。
「ゆ、ユージ、くん・・・」
熱でどうにかしてしまったのか、あたしは思わずユージくんの名前を呼んでいた。
「なに? タマちゃん?」
ユージくんが心配の籠もった声をかけてくれる。
・・・その時、なにも考えられなくなっていたはずのあたしの頭の中に、ユージくんの顔が浮かんだ。
ただし・・・今目の前にいるはずのユージくんじゃなく、さっき思い浮かべた方のユージくん。
つまり、あたしに欲情している、ユージくんの顔が。
その瞬間、あたしは太腿の間になにか奇妙な感触が生まれるのを自覚した。

なに? もしかしてあたし・・・漏らしちゃったの?

慌てふためき、あたしは布団の中でそっちへと手を伸ばした。指先をそこに触れさせる。
その途端。
「ふぁ・・・あ・・・あっ・・・!」
触れた場所から全身の至る箇所へと、津波のようななにかが瞬時に広がった。熱だとか痺れだとか頭の中のよくわかんないものだとか、そういったものをあっという間に押し流す。
これは一体なんだろうと、考える余裕すらなかった。
「あっ・・・んっ・・・ユージくん・・・っ!」
なにも考えられない。頭の中が真っ白になる。
「タマちゃん!?」
布団の中でびくびくと体を震わせているあたしを見てか、ユージくんがあたしの名前を呼ぶ。
けれどあたしは答えられなかった。津波のようななにかにさらされたまま、呼吸をすることも忘れている。
・・・しばらくして、ようやくそれはどこかへ行ってくれた。はあ、と自分でもびっくりするくらいに熱くなった息を吐き出す。
あたしはそのまま数秒ほど、放心したようにぼーっとしていたけれど、やがて目を開けてユージくんの顔を見た。
・・・もの凄く心配した顔を浮かべて、あたしを見てくれている。
「・・・ありがとう、ユージくん。少し・・・楽になった気がする」
「ほ、本当に?」
ユージくんが表情を変えずに聞いてくるけれど、嘘じゃなかった。
まだいつも通りだなんて口が裂けても言えないけれど、それでもさっきまでのよくわかんない感覚は多少薄れていた。津波と一緒にどこかへ押し流されてくれたみたい。
その代わり、今度は更に体が重く感じるけど。
と、そこであたしは気付き、口を開いた。
「あ・・・あの、ユージくん。その、お願いがあるんだけど・・・」
「うん? なに? まださすってた方がいい?」
「う、ううん。それはもういいの。その・・・汗でびしょびしょだから、その・・・着替えを・・・」
「わかったよ。えっと、あのクローゼットだね」
どこかほっとしたような表情で頷いて、ユージくんがクローゼットへと近づく。
・・・下着の感触が気持ち悪い。汗でべたべただ。剣道の稽古をしてる時よりも濡れてるような気がする。
特に下の方がひどい。さっきつい漏らしちゃったのかと思ったけれど、それも無理もないくらいに湿っていた。
着替える前にシャワーでも浴びた方がいいかなとも考えたけれど、まだだるさが抜けきっていなかったので諦めた。
「じゃ、ここ置いておくよ」
「うん。ありがとうユージくん」
あたしがお礼を言うと、ユージくんは部屋から出て行った。
ベッドから降りて、着替えるべく服を脱ぐ。案の定、下着は悲惨なことになっていた。

・・・あれ? なんだろう。
これ、汗じゃないような・・・気のせいかな?

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最終更新:2008年06月23日 23:14