・・・どうしよう。
ベッドの中で、あたしは少しだけ困惑していた。
さっき、お父さんから電話があった。なんでも出先で急な用件が入ってしまったらしく、帰りが明け方になりそうだって。
一人で大丈夫か? って聞かれたけれど、あたしはなぜか大丈夫だって即答してしまった。
・・・一人じゃない、と言えなかった。自分でもよくわからないけど、ユージくんがここにいることをなぜかお父さんに伝えられなかった。
電話を切ってユージくんにそのことを伝えると、
「じゃあ俺、今日はここに泊まってくよ。晩御飯なに食べたい?」
なんてものすごく爽やかな笑顔で返されてしまった(そして本当にゴハンの用意までしてくれた。おいしかった)。
あたしの体調を心配してか、早々と床に入ることになったのがおよそ一時間前。さっき時計を見たけど、まだ10時をちょっと回ったくらいだった。
・・・眠れない。時間が早すぎるというのが一つ、そしてもう一つは・・・床で毛布に包まっているユージくんの後姿。
「・・・ユージくん、もう寝ちゃった?」
小声で聞いてみるけど、返事はなかった。眠ってるみたい。
よく考えたら、帰ってきてからずっとあたしの看病(じゃないけど、彼からすればそうだろう)をしていたんだから、疲れてるのも当たり前だ。
あたしの方はと言えば、もう体の重さも感じないし、そもそもずっとこうしてベッドで横になっていたんだから、ちっとも疲れてなんていない。
あたしはベッドから起き上がり、ユージくんの方に歩み寄った。すうすうと寝息を立てている彼の隣に屈み込み、少しだけはだけてしまっている毛布をかけ直そうと手を伸ばす。
と、その瞬間。
「・・・ん」
ユージくんが寝返りを打った。その拍子に、掴んでいた毛布がぐいっと下に引っ張られる。
「わ」
暗くて足元が覚束なかったせいか、あたしはあっさりとバランスを崩してしまった。ユージくんの隣に倒れ込む。
・・・最初っから屈んでいたので大して音も立てなかったけれど、それでもユージくんを起こしてしまったかと思い、あたしは彼の顔を覗き込んだ。
「・・・・・・」
目の前にあるユージくんの顔に変化はない。良かった、起こしたりはしてないみたいだ。
安堵すると同時に、あたしはものすごく当たり前のことに気が付いた。
・・・ユージくんの顔が、近い。
ものすごく近い。猛烈に近い。
寝息が聞こえるどころか、彼の吐き出す息が顔にかかるくらいに近かった。すうすうと穏やかで、単調な呼気。それが、あたしの頬に届いている。
・・・じわり、と。
頭と、それから体の奥。
まるでユージくんの息から乗り移ってきたみたいに、ぽっと熱が灯った。
まただ。またこの感覚だ。今日だけでもう何度目になるだろう。
動悸が激しくなっている。顔と体が熱い。体っていうか・・・また、胸の先と太腿の間が。
じっとしていられなくなってくる。けれど・・・やっぱり、どうすればいいのかよくわからない。
さっきはなんだかよくわからないうちに勝手に消えてくれたけれど、今度もそうなるのを待つしかないんだろうか。
助けを求めるような心持ちで、あたしはユージくんの顔を見た。もちろん、眠っているユージくんにそれが通じるはずはないんだけど。
・・・あれ?
なんだか、さっきとは違う感覚に襲われた。
いや、違わないんだけど、今度は更に・・・なんだか、変な衝動が湧き上がってくる。
あたしはそれに抗おうとした。だってそうしなければ、ユージくんを起こしてしまうことになりかねない。
けれど目の前にユージくんの顔がある以上、それも無駄な抵抗だった。あたし、こんなに意思が弱かったっけ?
あたしは・・・ユージくんの体に、自分の体を寄せていた。
いや、寄せたなんていうレベルじゃない。ぴったりと、密着させていた。彼の両腕の中に自分の体を押し込むような形で。
恐る恐る、彼の顔を見上げる。流石に起こしてしまっただろうか。
けれど、やっぱりユージくんは眠ったままだった。良かった。
・・・いや、断じて良くない。ここからどうすればいいんだろう。
なんだか、頭の中が空回りしている。熱でおかしくなってしまったんだろうか。
たぶんこのまま眠ってしまったとしてもユージくんは迷惑だなんて思わないだろうけど、それには一つ問題がある。
他でもない、あたしの方に全然眠れる気配がないということだ。密着することでユージくんの体温まで移動してきたのかと思えるほど、体が火照っていた。
・・・まずい。なにか、体に力を込めたくて仕方がない。
けれどこの状況ではそれは難しいとしか言えないし、なにより・・・力を込めたいというか、もっと具体的なことを、あたしの頭は望んでしまっている。
・・・ユージくんに、しがみつきたい。
今度はさっきよりも更に我慢できた時間が短かった。やっぱり恐る恐る手を伸ばし、ユージくんの脇へと回す。
そのまま彼の体を引き寄せるように、あたしはユージくんにしがみついた。
と、そこで。
腿の辺りに奇妙な感触を覚えて、あたしは思わず動きを止めた。
なんだろうと思い、視線を落としてみる。
・・・? 見てみたけれど、やっぱりなんなのかわからなかった。あたしの腿にユージくんのズボンが当たっているだけだ。
更によく目を凝らしてみると、どうやらユージくんのズボンの一部が内側から押し上げられているように膨らんでいるんだと気付いた。
変な感触の正体はこれだったのだ。ユージくん、ポケットになにか入れていたんだろうか(にしては微妙に位置がおかしい気もしたけれど)。
ともあれそのままではしがみつきにくかったので、あたしは少しだけ体の位置を変えることにした。
腰を動かし、ユージくんのズボンの膨らみがちょうど腿の間にくるようにする。
途端。
「あうっ・・・!」
思わず、変な声が出た。
・・・なんだろう、今のは。
膨らみがパジャマ越しにあたしの下腹部に触れた瞬間、よくわからない感覚が全身を突き抜けた。
・・・いや、よくわからない、というわけじゃない。さっき、ベッドの中で感じたものによく似ていた。
あ・・・これは、ひょっとすると。
熱でぼうっとしていたあたしの頭の中に、ある考えが閃いた。
そう、さっきは確か、この感覚の後に一気に熱というかいろいろなものが退散していったのだ。ひょっとしたら、今度もそうなってくれるかもしれない。
期待を込めて、あたしはもう一度ユージくんのそれに体を押し付けた。
「あ、うぅ・・・っ!」
またしても声が出る。けれど確実に、腰から湧き上がった感覚はさっきのそれと同じものだった。うん、いい調子。
でも・・・まだ、弱い。さっきベッドの中で感じたのは、こんなものじゃなかったはずだ。
もう一度、今度は擦り付けるようにして押し当てた。これならどうだろう。
「はう・・・っ!!」
一際大きな声が口から飛び出してしまった。今のは・・・かなり、近かった。
でも、まだ違う。こんなものじゃない。さっき感じたのは、もう頭の中のなにもかもを押し流してしまうような、波濤みたいに強烈なものだった。
いつの間にか荒くなっている息を整える気も起きず、あたしはもう一度だけユージくんの顔を見た。
・・・なんだか、少しだけ息苦しそうな表情にも見えるけれど、それでも眠っていることだけは間違いない。
あたしはユージくんの背に回した手に更に力を込めて、もう一度下腹部を押し付けた。
「あうっ・・・! あ、んっ、んぅ・・・!」
今度は押し付けたまま、そこから更に擦り付けるように腰を動かしてみる。
・・・なんだか、体の奥からなにかがせり上がってきているような感覚だった。しかもそれは下腹部からの刺激と相俟って、消えることなくどんどん大きくなっていく。
「んっ、ん・・・ユージ、くん・・・っ!」
もう声を潜めようなんていう考えはどこかへ行ってしまっていた。とにかくあの波みたいな感覚が訪れるのを、腰を動かしながらひたすらに待つ。
・・・下着がまたしてもぐちゃぐちゃになっていることには気付いていたけれど、考えられなかった。
「あっ・・・」
そうして、遂に。
「ん・・・んんっ・・・!!!」
腿の間から一気に広がる奇妙な感覚に、あたしはようやくそれが来たんだと・・・いや、そんなことを考えることすらできなかった。
体が震える。頭の中も視界も真っ白になって、なにも考えられなくなる。なにも見えなくなったのは、きっと目を閉じていたからだろう。
改めて、それはやっぱり津波みたいなものだった。体の中心から外側に向かって、なにもかも押し流していくような感覚。熱だとか、衝動だとか。
・・・しばらくして、それも通り過ぎた。ゆっくりと目を開ける。
ユージくんは眠ったままだった。ズボンの膨らみもそのまま。当たり前だけど。
よかった・・・途中から声をまったく抑えられなくなっていたけど、それでも起こさずに済んだみたい。
あたしの方はと言えば、全身に気だるさがへばりついていた。なぜだかものすごく疲れている。
・・・でも、ちょうどいいかもしれない。このまま眠ってしまおう。
下着の感触がやっぱり気持ち悪いけれど、正直、今は起き上がるのも億劫だった。
あたしは改めてユージくんの体に自分の体を密着させて、そのままもう一度目を閉じた。
・・・すぐに、眠りに落ちた。