(やれやれ、東さんとはぐれちゃったかな)
空を仰ぐユージの心中は抜けるような青空とは対照的に灰色だった。
一年生の皆でやって来た海岸で、ユージは一人ため息を吐く。
(なんでこんなことになったかな……)
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
きっかけは昨日の武道館でのキリノの一言だった。
「えー、先輩たち行けなくなっちゃったんですか?」
床掃除を終えたユージ達1年の耳にサヤの残念そうな声が届く。
何事かと武道館の入り口を眺めると、
サヤが携帯電話を片手に項垂れ、傍らでキリノが渋い表情をしているのが見えた。
「……はい……はい……はあ、それなら仕方ないですね~」
携帯電話から顔を離したサヤに、掃除道具を片付けたミヤミヤが語りかける。
「どうされたんですか、部長?」
「うう~、先輩達と海行けなくなっちゃったよ~」
「先輩って……3年の方々ですか?」
「そう。折角海の家の割引券もらったのに~」
「へえ、海の家のクーポンなんてあるんだ」
ユージはサヤが握る青い券をしげしげと眺める。
「タウン情報誌についてたクーポンなんだけど、ちょうど5人分あったからさ。
あたしとキリノ、先輩たち3人でいっちょ気晴らしに、と思ってたのに」
ミヤミヤは頬に人差し指を当て眉を傾ける。
「海って……確か3年の先輩がたって進学するんじゃ」
「まあその、受験勉強の合間にぱ~っと気分転換しようかな、って話だったんだけど……
先輩たち3人とも模試の点数下がって外出禁止令が出ちゃったみたいで……」
「あーあ、せっかく最後の夏に先輩たちと思い出作りしたかったのに……
どうしよ、この5人分のクーポン券、明日までだよ……」
サヤの5人分という言葉にキリノがぽんと手を叩く。
「よし、じゃあこうしようよ!3年&2年女子が駄目ならスライド式で2年&1年だ!」
「……おお、いいねえいいねえ、ナイスアイデア!3人とも大丈夫?」
サヤが1年女子の顔を見回すと、突然のことに驚きながらも全員首を縦に振った。
「明日は道場がお休みなので大丈夫です」
「私も、1日ぐらいなら遊んでも……実は泳げないんですけど」
「あたしは特に予定はありませんけど……タマちゃんとサトリが行くし、いいかな」
「「よし、じゃあ決まり」」
キリノとサヤがはちきれんばかりの笑顔でハイタッチをした瞬間、
二人の携帯が同時に着信音を鳴らす。
「「嘘」」
メールに目を落とした瞬間二人はがっくりと肩を落とす。
「何かあったんですか?」
「かずひこが熱出したって……明日両親いないし、あたしが面倒見なきゃ……」
「なんかさー、お母さんがジョニーズのシークレットライブの情報掴んだってさ……
こりゃあたしが明日お店に立たなきゃいけないみたいだねぇ……」
「それじゃあ先輩たち、明日は無理なんですか?」
困惑したタマキを見て、2年生の二人は涙目になりながら謝った。
「うう……ごめんなさいねタマちゃん!」
「あーあ、2年1年女子合同海水浴も中止かー。ちょうど券は5人分あるのに……」
しばし黙りこくった後、キリノは突然顔を上げる。
「……そだ、1年全員で行ってくれば?ちょうど5人分だし。ダン君は大丈夫?」
「おお、明日は特に予定はないぞ。俺もミヤミヤといっしょに海行くぞ~」
「まあ、ダン君もいっしょに来てくれるの?」
満面の笑みを浮かべるミヤミヤを見て、サヤは少し口を尖らせる。
「ミヤミヤ……あたしらと行くより露骨に嬉しそうだね……」
「あら先輩、そんなことは……ありますけど」
「やれやれ……。で、ユージ君は明日どう?」
「あ、すいません。明日は俺おじいちゃんの畑を……って先生?」
答えようとしたユージはいきなりコジローに手を掴まれ部員達の輪から引き剥がされる。
「ユージ、明日はお前が東を見張っといてくれないか」
耳元で囁くコジローにユージは怪訝な表情を返した。
「東さんが、どうかしたんですか?」
「よく考えてみろ、海だぞ海。街中で買い物に行くのとは訳が違う」
「もしかして、水の事故……ですか?でも普通の海水浴場なら……」
「東なら足のつく場所でも溺れられるだろう、
段差のない場所で躓けるんだぞ。あいつのドジを甘く見るな」
「まあ、確かに……」
「キリノやミヤミヤがいればある程度は安心できるが、
キリノは行けないみたいだし、ミヤミヤは使い物にならないみたいだし」
コジローの視線をユージが目で追うと、
ミヤミヤとダンは二人だけの世界を作り上げていた。
「ミヤミヤの水着楽しみだなぁ~~……でも少し不安だな……
ミヤミヤ、きれい過ぎて男達が群がっちゃうかも……」
「あら、あたしが軽い男のナンパで心動かされると思ってるの?
大丈夫よ、ダン君以外の男なんて皆ジャガイモみたいなもんだから」
「ミヤミヤ~、お前は最高の彼女だ~」
「ダン君もさいっっこーーの彼氏よ~~~」
「あー、確かにあれは……舞い上がってますね」
けっ、と軽く舌打ちしてからコジローは再度ユージに頼み込む。
「まあそういうわけで、あれだ。お前が最後の砦だから、付いて行ってくれねえかな。
俺も暇なら付いてくんだが、明日は校区の見回り当番だからなぁ」
「コジローせんせ~、何男二人で何こそこそ話し合いしてるんすか~?」
「なんでもねーよ、キリノ」
「ふーん。で、ユージ君は結局どうするの?」
ユージはコジローの視線を感じながら渋々首を縦に振る。
「じゃ、決まりだね!明日はあたしら上級生の分も
1年生で楽しんできなさい!」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(で、海に来たのはいいけどさ。早速俺だけ個人行動だし……)
ダンとミヤミヤは早速二人でどこかへふけ込み、
砂浜で子供向けヒーローショーが始まった瞬間
タマキは目を輝かせて子供達と一緒にブレイバーの応援を始めた。
(で、一番心配な東さんの姿はどっか行っちゃたし……
あ、東さんいたいた……と、誰だあの人達?)
麦藁帽子をかぶり緑色のセパレーツを着た東は、3人の男達に囲まれていた。
長身でネックレスをつけた男と、スキンヘッドで無精ひげを生やした男と、
サングラスをかけた男と一目でガラが悪いと分かる男たちだった。
(なんか……見覚えあるような)
「よーよー、ねえちゃん一人?」
「俺らと一緒に遊ばない?」
「え、え、その、あの」
3人に囲まれ逃げ場の無いサトリは、
おろおろしながらねっとりした視線に曝された自らの体を浮き輪で隠す。
「いいねいいねぇ、そのほどけそうな紐パン!結構やらしいね」
「こういうまじめそうなお子が結構大胆だったりするんだよね~」
どう見てもサトリが嫌がっているのは明白だ。
そして彼女が強引なナンパを断りきれそうにないのも。
(海にはこういう危険もあり、か……)
ユージはサトリの傍らに立つと一際大きな声で話しかける。
「やあサトリ、大丈夫?」
ユージの顔を見るとサトリは主人に頭を撫でられた犬のように顔を綻ばせた。
「え……あ、はい、大丈夫です、ユージ君!」
「おいおい、なんだてめえは。俺達が今話を……」
3人はユージの顔を見て息を呑む。
(おいこいつって……)
(レイミに頼まれて以前からんだ……)
(た、確か剣道使うんだよな)
「俺の彼女がどうかしたの?」
ビーチパラソルの先端を突きつけられると、3人はひぃと小さく叫んだ。
「な、なんだ彼氏持ちかよ」
「それじゃ用ねえよな、うん」
「べ、別にお前にびびってる訳じゃないんだからね!」
3人は捨て台詞を吐くとあっという間にサトリとユージの側から離れて行く。
「……やれやれ、東さん変な事されなかった?」
「あ、いや、大丈夫です……」
それまで赤面していたサトリの表情はさっと翳り、
しょんぼりとしたまま歩いてく。
「あ、あれ、東さん?ごめん、俺がいきなり下の名前で呼んじゃったから怒った?
あいつら追っ払うのに恋人のふりするのが一番かな、って思って」
「もう、いいです。ほんとに大丈夫ですから」
短く呟くと、サトリはポカンとするユージを振り払うように小走りで駆けて行った。
(俺、なんか変なこと言ったかな……)
「あ、東さん待ってよ!」
その時突風が吹きぬけ、サトリの麦藁帽子を宙へとさらう。
しかし持ち主のサトリは麦藁帽子に一瞥もくれず、
ユージが慌てて帽子を拾い上げ辺りを見回した時には、
もうサトリは人ごみに紛れユージは彼女を再度見失ってしまった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
30分ほど海水浴場を歩き回ったユージは、
人気のない入り江状の砂浜でようやく浮き輪とともに海面に浮かぶサトリを見つけた。
しかしどうにもその様子が怪しい。まるで失くし物を探すように、
胸元まで海水につかりながら辺りの様子をきょろきょろと伺い、
泣きながら海藻を千切っては投げ散らかしている。
「東さん、どうかしたの」
「あ、ユージ君!駄目!来ちゃ駄目!」
あからさまな拒絶にユージはショックを受け、腰まで水につかりながら顔を引きつらせる。
「ごめん……俺、そんなに失礼なこと東さんにしたのかな……」
「え、あ、あの……だって、ユージ君、あたしに壁、作ってるし」
「俺が……東さんに壁?」
「ほら、今も東さんって」
「え……?」
「タマちゃんも……キリノ部長も、サヤ先輩も、宮崎さんも。
先生もダン君も、ユージ君は剣道部の皆を下の名前や愛称で呼んでるのに」
(タマちゃん、キリノ先輩、サヤ先輩、ミヤミヤ、
コジロー先生にダン君……確かに)
「なのに私だけ……私だけ東さんって……」
(ああ、それで……)
ユージは先ほどサトリを名前で呼んだ後苗字で話しかけた時、
サトリが落胆したのを理解した。
「ごめん、俺そんなつもりじゃ……」
「だから私は、ガブっ」
高い波がサトリの口に入ったのを見てユージは一歩近寄る。
「と、とにかくそんな深い所じゃ危ないよ!東さん泳げないんでしょ?」
「き、来ちゃ駄目ですっ!絶対、絶対来ちゃ駄目っ」
必死に叫ぶ東を見てさすがにユージも彼女の様子が少しおかしいことに気づく。
どうもただ名前を呼ばれなかったことに疎外感を覚えただけではないようだ。
「どうしたの、なんか様子が変だよ?」
数刻の間を置いて、サトリはポツリと呟いた。
「流されちゃった……」
「流されたって、何を?」
(メガネ?いや、水着に着替えた時からつけていなかったし。
麦藁帽子はさっき俺が海の家のロッカーに入れてきたし……)
さらに長い沈黙の後、サトリは泣きそうな顔になりながら答える。
「水着……硬く縛ってたのに……」
ユージは首をかしげる。なぜなら彼にはサトリの胸部を覆う緑の布地が見えていたから。
「え?水着なら着てる……」
そこでユージはようやく気づき目線を下に落とす。
履いてない。
「ほ、ほんとだ……ぶ」
「見ないで下さいっ」
顔にワカメを投げつけられた。
「あっ、あ、あ、ごめん!!」
顔についたぬるぬるのワカメを剥がしながら急いでユージは体を反転させる。
「ユージ君に、ユージ君に……見られ……見られちゃったよ~」
「わわ、東さん、泣かないで!」
いくら周辺に人気がないとはいえ、
200メートルも歩けば1000人近くの人が海水浴を楽しむ大きな砂浜がある。
もしサトリの声に誰かが駆けつけてくれば、
サトリは人としての尊厳を失ってしまうだろう。
すぐ背後に、晴天の下同級生の女の子が下半身を曝け出したままにしている。
そう考えた瞬間、ユージの下半身が膨張し始めた。
(な、何考えてるんだ俺!!)
「と、とにかくさ、見てないから」
「顔、下に、向けてたじゃないですか!」
泣き止まないサトリをユージは必死になだめた。
「だ、大丈夫だよ!屈折とかのせいで、全然分かんなかったし!」
「『ほんとだ』って言ってたじゃないですか!わ~~~~ん」
「……と、とにかく!その、ボトムを探さないと……」
そこまで喋ってユージはこの辺り一帯に緑色の海藻が生い茂っていることに気づいた。
これでは同色の水着は海藻に紛れてなかなか見つからないだろう。
(そっか、さっきワカメを必死に千切っていたのは、水着を探していたからか……)
「じゃあ俺すぐに海の家で新しい水着買ってくる……うわっ」
今まで一番高い……おそらく50cmはある高波に後頭部を襲われ、
ユージは慌てて振り向いた。
「大丈夫東さ……」
そこには信じられない光景が広がっていた。
浮き輪の中心には白い桃……いや、東のお尻が海面に突き出され、
天に向けられた足が空しく海面を叩いている。
そして彼女の上半身は完全に海中につかり、酸素を求め暴れていた。
どうやら最悪の予想が現実となったようだ。
高波にさらわれたサトリは上下逆転したまま、
自らを助けるはずの浮き輪が逆に邪魔となって海面に顔を出すことができない。
「あ、東さんガバゴボっ」
思わずユージが近づくと彼の悔パンを水中の東が掴み、
ユージも上下逆転する。
(こ、こういう時は慌てず海水を飲み込まないようブボッ)
ユージの鳩尾を暴れるサトリの肘がめり込む。
ありったけの酸素を放出しながらも、
海中で何回転かしながらユージはサトリの体の天地を元に戻す。
サトリが暴れなくなったのを確認して、ユージは急いで顔を水上に出そうとした。
サトリの体に密着したままだったり、何か輪のような物をくぐった気がしたが
肘打ちを食らい酸素を失っていたユージは細かいことを気にしている余裕はなかった。
「ぷはっ」
肺に大量の酸素を送り込んだ瞬間、
ユージは5センチ先にある東の瞳と目を合わせる。
「なっ」
二人とも一瞬虚を突かれた様に固まった。
「あ、ご、ごめん!」
東は今まだ何も下半身に身に着けていない。
その事実を思い出したユージは振り向き距離をとろうとする、
が。
「あ、あれっ!?」
足がつかない。海中で暴れもつれ合ううちに少し深いところに流されたのだろうか。
しかし足がついていないのに、ユージはおろか泳げないサトリも水に浮いたままだ。
そして距離をとることも、体の向きを変えることもできない。
何かがユージを……いや、ユージとサトリの体を拘束している。
「え、えええええっ」
ユージとサトリは、二人で浮き輪の中にいた。
(い、一体どんなもつれ方をしたらこんなミラクルな事になるんだ!)
その時ユージの頭の中にコジローの言葉が響く。
『東のドジを甘く見るな』
(うう……しかしまさか、ここまでとは!)
「きゃああ、ユ、ユージ君!」
「あ、東さん駄目だよ暴れちゃ!」
なんせ浮き輪は定員オーバーでかなりぎちぎちの状態だ。
もしこんな自由の利かない状態で今度またひっくり返ったら、
今度こそ二人とも上下逆転したまま溺れてしまうかもしれない。
「と、とにかくもっと浅い箇所まで……」
「ひぃあっ」
ユージが立ち泳ぎで移動しようとした瞬間、東の喉からいつもより音程の高い声が上がる。
「あ、東さん!?」
「ユ、ユージ君……水着!」
「うん、確かに水着がないのは大変だけど、このままだと」
「わ、私じゃなくて……ユ、ユージ君の……」
「へ、俺の水着?…………!?…………!!!!」
ユージはペニスの先端に、ぬるっとした人肌に温かい感触を覚え戦慄した。
どう考えてもそれはユージの股間を覆っているはずの悔パンではない。
(俺の水着……膝までずり下がってる!)
さっきサトリに掴まれ暴れられたとき、膝まで下ろされたのだ。
だとしたら、今ユージが感じている感触は。
(えええええ、これって、これって、あ、東さんの……)
意識した瞬間、ユージのそこへ加速的に血が集まり、
斜め下を向いてたそれの先端はぐいぐいと天を向く。
「やっ……う、動いてる……!」
サトリは海中でユージのそれにまたがるような体勢になってしまった。
思わずサトリはユージに寄りかかり、ユージの胸板に柔らかな双丘が押し付けられるから、
ますますユージの分身の硬度が上がる。
「あ、東さん、動いちゃ駄目だって!」
「わ、私は別に……だけど、波が、波のせいでっ……」
波が通り過ぎるたびに浮き輪が上下に揺れ、
浮き輪に拘束されている男女の体も動いてしまう。
そのたびにユージとサトリの接触している粘膜も絶妙な動きで擦れ、
二人の腰に融ける様な痺れる様な甘い感覚が走る。
(駄目だ……こんなの……くそ、でも浮き輪が……外れないと動けない、
そうだ、空気を抜けばその分隙間ができて抜け出せるかも)
ユージは手探りで浮き輪の栓を外すが、それでも空気が抜けきるまでは時間がかかる。
(く、空気が抜けきるまでは……た、耐えないと!)
ユージの肉棒の返しの部分と、サトリの秘裂の中にある突起が触れた。
「うっ」
「あああっ」
サトリはさらに甘ったるい声を上げユージにしがみつく。
少女の体がぴくりと痙攣し柔らかい太股でユージの肉棒を挟み込むから、
二人の感じる甘い感覚はさらに強く激しくなる。
「あ、東さん……あ、暴れちゃ……」
下腹部の奥底から湧き上がる射精感に耐えていたユージはサトリの顔を見てギョッとする。
サトリはぽろぽろと大粒の涙を流していた。
「こんな、こんなんじゃ……ユージ君に、嫌われちゃうよ……
こんな……こんな状況でエッチな声上げたりなんかしたら……
軽蔑されちゃうよ…………私はただ……ユージ君と…………剣道したり…………
勉強教えてもらったりして…………仲良くなりたかっだけなのに……」
(ああ、だから東さんは)
だからサトリは、ユージに名前で呼んでほしかったのだ。
それを理解した瞬間、ユージの目に映るサトリの顔が変わった気がした。
潤む瞳も、弧を描く眉も、半開きになった口も、
全てがかけがけのないものに変わったように思えて。
(あ、駄目だ、我慢、できな)
次の瞬間また大きな波が二人を揺らし、
カリとクリトリスが大きく擦れ合った。
「うっ」
ユージは短く呻きつつ射精し、
「あっ、ああああっっ」
サトリは高く切ない声を響かせびくびくと痙攣した。
抱き合ったまましばらく無言のままはぁはぁと息を吐いていた二人は、
いきなり同時に海中へ没する。
(あ、ようやく浮き輪の空気が……)
何とか下半身まで届くようになった手でまず海パンをずりあげると、
ユージは東の体を抱え陸へと向かおうとするが、
射精したばかりの疲労と倦怠感が襲い掛かり体は思うように動かない。
(嘘だろ……こんな所で力尽きちゃうなんて……)
絶望しかけた瞬間、ユージは赤いワンピースを着た
小柄な少女の姿を見た。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
帰りの電車の中、室江高剣道部の一年生達は東を除いた4人が横一列に座っていた。
「いやー、タマちゃんのおかげで助かったよ」
「ほんと、タマちゃん偉いぞ~~岩場で見つけたきれいな貝殻上げるよ」
タマキ何も言わず少し頬を染め、ヒーローショーでもらった
ブレイバーラムネを飲み干した。
死にそうになっていたユージとサトリはタマキに助けられ、何とか事なきを得た。
おまけにサトリのボトムも助けたタマキの頭に乗っかっていたのだから
色んな意味で恩人である。
4人から少し離れたところで麦藁帽子を目深にかぶったサトリを
ミヤミヤは心配そうに見つめる。
「サトリ、あんた本当に大丈夫?助けてもらった後、奇声上げてたらしいけど」
「あ、はい、大丈夫です……」
「そ、ならいいけど」
タマキに助けてもらった後足の着く場所でしばらく呼吸を整えていたサトリは、
命の恩人の頭に自分の水着が引っかかっているのを見た瞬間、
声にならない声を上げてそれをひったくり、水中でそれを装着した。
おかげでなんとかサトリは人としての尊厳を失わずすんだのだ。
……ユージ以外の人間には。
ユージは席を立ちサトリの傍へ近づく。
近づいてきた人物がユージだとわかると、
サトリは帽子のつばの角度をさらに下げ顔を隠し立ち上がろうとしたが、
その腕をユージに掴まれる。
「ちょっといいかな?」
サトリは何か喋ろうとしたが、すぐに口を閉じ俯く。
「……ねえ、俺とどうしたいの?」
「え?」
「あの時の続き。
言ったよね、もっと俺と剣道したり、
勉強教えてもらったりしたいって。……その後は?」
サトリはしばし考え込む。
「私は……私は、ただ、もうちょっとだけ……仲良くなりたいだけです」
思わずユージは噴き出してしまった。
その笑いを嘲笑と取ったサトリは泣きそうな声を上げる。
「あ、すいません。やっぱり、下着も流されて溺れそうになって
おまけにユージ君まで巻き込むような私じゃ……」
「あ、いやいや、その、そういう意味じゃなくて」
「……じゃあ、なんなんです?」
「その、なんていうか……無欲だな、って思ってさ、サトリさんは」
「え……?」
サトリの手から力が抜け、麦藁帽子がずり落ちる。
床に落ちる前にその帽子をユージが掴み、彼女の頭に被せる。
「あのさ……今日のこと引きずって、部活で気まずくなるとか嫌だから。
だからこれからも……俺はサトリさんと仲良くなりたいなって思うんだけど。
……どうかな?」
しばし放心していたサトリは目じりから一筋の涙を零し、
満面の笑顔で首を縦に振った。
「はいっ……喜んで!」
おまけ
「ミヤミヤ、砂とか入ってないか~~」
「ダン君が優しく、丁寧にしてくれたから大丈夫よ」
(……どこで、何をしたら、どこに砂が入るんだろう)
ユージは遠くから聞こえてくるバカップルの会話に心の中で突っ込んだ。
と、二人の会話を遮断するように、
グチュグチュとなにやら液体をかき混ぜるような音があたりに響く。
「タマちゃん?さっきからずっと口ゆすいでるけど、どうかしたの?」
「……すいません宮崎さん、下品ですよね」
「あ、別に責めてるわけじゃないんだけど、なんか渋そうな顔してるし大丈夫かなって」
「あの……今日……」
タマキは何かに気づきハっとしてサトリの様子を伺う。
サトリはユージの方に体重を預け、スースーと安らかな寝息を立てていた。
サトリが寝ているのを見てタマキはホっとした様子で話を続ける。
「あの、今日、東さんを助けた時」
(はは、タマちゃんもドジに悩むサトリさんに気が使えるようになったんだね。
えらいえらい)
ユージは心中でタマキを褒めつつ、
ペットボトルの蓋を開けウーロン茶をごくごくと飲み干す。
「なんか変なもの飲んだみたいで……口の中が苦くて粘々するんです」
溺れていたサトリの周りに漂う苦くて粘々した物の正体に気づいた瞬間、
ユージは口内のウーロン茶を盛大に噴き出した。
終わり
最終更新:2008年10月27日 23:08