保管庫
風見鶏の向く方へ 第2章 ◆IGfK3fyxFE
最終更新:
bar41
-
view
645 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 22:19:02.57 HQh+oqxl0
んでは投下~
第2章
「ただいまー。」
私は久々の我が家に挨拶を告げる。もっとも意識がなかったのが6日間ぐらいあったから、
実質は2日ぶりということになる。
車で母さんに病院から送ってもらう道中、母さんからいろいろ質問を受けた。
「遥凪、あんた名前どうする?2週間以内なら改名出来るけど。」
女体化した人は戸籍の性別の変更の際に名前を変更できる制度があるのだ。
ちなみに政府は女体化による男女比のバランスを取るためにこれを税金として有料にしている。
「う~ん、でももともと私の名前って性別の判断がつけ難い名前だったからそのままでいいんじゃないかな?」
「それもそうね。あと分かってると思うけどもう女の子なんだから色々注意しなきゃダメよ。」
「例えば?」
646 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 22:23:23.57 HQh+oqxl0
「そうね、まずはお行儀良くすること。言葉遣いも丁寧にね。まあこれはもう慣れてきてるみたいだから良いけど。
あと女の子だからって甘えてちゃだめよ。自分で出来ることは全部自分でやるようにしなきゃ。
そうじゃないと同性の子から嫌われちゃうわよ。
他には夜遅くならないように帰るとか、一人にならないようにするとか。
もう男じゃないんだから抵抗したり走って逃げたりすることも出来ない時だってあるんだからね。」
「わかった。出来るだけ気を付ける。」
私は素直に頷いた。確かに変な男に絡まれでもしたら今の私じゃ抵抗できない。
「あとお肌と髪の毛の手入れは怠っちゃダメよ。せっかくの綺麗な顔が台無しよ。」
「でも私そういうの良くわかんないよ?」
「そういう事は由紀が教えてくれるからよく聞いておくの。」
「はーい・・・。」
なんだか女になるってのは大変な事がたくさんあるみたいだな。
私は早くも僅かな疲れを感じつつ家の中に入った。
647 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 22:25:46.85 HQh+oqxl0
※ ※
「お姉ちゃん?おかえり~」
由紀がやたらうれしそうな様子で階段から降りてきて返事をした。
ちなみに私の家は2階建てで由紀の部屋も私の部屋も2階にある。
「お姉ちゃん、学校の制服届いてるからまずは着てみたら?」
「え?ああ、女子の制服か。」
「そうそう、あと普段着る服とかも私の貸してあげるから後でそれ着て一緒に買いに行こう!」
そういうと由紀は私のパジャマの裾を引っ張って部屋に強引に連れて行こうとする。
「はいはい、分かったからそう急かさないでよ。」
でもそんな由紀の姿は無邪気で微笑ましくてなんだか私は安心してしまった。
由紀が私の部屋のドアを開けて中に入る。入った途端私は自分の部屋の匂いが妙に男っぽくて
少し違和感を感じた。前まではこんなことは思わなかったのに。
――――やっぱり女になったから匂いに敏感になったのかな。
648 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 22:29:14.80 HQh+oqxl0
自覚はないようだが少しずつ感覚が変化しているらしい。
そんなことを考えていると由紀が制服の箱を開けてこっちに持ってきた。
「はい、お姉ちゃん。着方はわかるよね?」
「うん、多分大丈夫だと思う。」
――――しかしまたこの制服を自分できることになろうとはね・・・。
見慣れた制服だけどいざ自分が着るとなると新鮮に思えるから不思議だ。
パジャマを脱いで早速制服に着替える。
「由紀、普通上か下かどっちから着るもんなの?」
「スカートからだよ。(お姉、ホントに肌白くてキレイ・・・。)」
「そっか、わかった・・・・。え!?由紀ちょっとこれスカート短すぎじゃない?」
校則ではスカートは膝下になっていてこれは誰も守っていないがそれにしても
今の長さは股下から10~15cm程。流石に女になったばかりでは恥ずかしい。
649 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 22:34:08.60 HQh+oqxl0
「え~でもお姉ちゃん可愛いから大丈夫だよ。(やばいよ、お姉の生足細くてめちゃ可愛い)」
「そういうの関係なしにこれは無理だよ・・・////」
スカートから覘く自分の足が妙に蟲惑的でつい意識いてしまう。
ちょうどそれは自分が男であった時と同じように。
スカートのベルトを軽く緩めてまくってあった部分を少なくしてスカートを膝上くらいまで下げる。
「うん、これくらいならなんとか・・・。」
「まぁそれもそうだね。お姉ちゃんまだ女になったばっかだしね。
(これくらいの長さも、なんかお嬢様っぽくて逆にそそられるわね。)」
「上着はシャツで良いよね?」
「うん。じゃあ私の服貸してあげるからそっちに着替えて今から服買って着ちゃおっか。」
「わかった~。」
もうちょっと鏡に映る自分の姿を見てみたかったけど。
――――なんか皆が言うほど自分が可愛いと思えないなぁ。
顔立ちは整ってるとは思うけど、私より可愛い子なんていくらでもいそうだし。
鏡に映った見つめる自分の顔がなんだか嘘っぽく思えた。
650 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 22:34:51.03 HQh+oqxl0
この時私は、まだ自分の笑った時の表情を見たことが無かったから。
652 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 22:39:10.38 HQh+oqxl0
由紀のに着替え終わると私達は早速近くのデパートやらショップやらをまわって気に入った服を適当に買っていった。
買い物はもともと好きで気が付くと時計の針は午後5時を回っていた。
「お姉ちゃん、最後にランジェリーショップよって行こ♪」
「うわー分かってたけどなんか無駄に緊張する」
由紀に手を引っ張られて店内に入る。もう自分は女だと分かっているのに色とりどりの下着類を見ると
気恥ずかしくなってしまった。そんな私に構いもせずに由紀は品物を見てまわっている。
しょうがないので私も見てまわることにした。
十数分後に由紀が選んだものを持ってやってきた?
「お姉ちゃんどれ買うか決まった?」
「う~ん、一応。でもサイズこれで合ってるかな?」
「みせて。・・・ああこれで合ってるよ、お姉ちゃん胸のサイズBだから。
ていうか自分のフリーサイズくらい覚えとかないとダメだよ、服とか選べないじゃん。」
えっとお姉ちゃんのフリーサイズは上から○○、○○、○○だからね。
653 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 22:44:13.67 HQh+oqxl0
――――・・・。
「ねえ、由紀。ひとつ聞いてもいいかな?」
「なに?」
「何で私も知らない私のサイズ知ってるの?」
「・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。」
沈黙が降りる。しかし由紀は一瞬失敗したというような表情を見せた後、すぐに満面の笑みで言い放った。
「お姉ちゃん、本当にそんなこと聞きたいの?」
一部のすきも無い清清しいばかりの笑顔で。背筋に氷の感触を感じる・・・。
「お姉ちゃん、世の中には知らない方が幸せなことっていっぱいあると思うんだ」
「・・・そ、それもそうね。」
654 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 22:48:30.45 HQh+oqxl0
「でしょ。(ふぅ、なんとかごまかせたわね)
じゃあお会計済ましちゃうけどそれだけで良い?」
「うん。てか由紀って黒の下着とか着るんだ・・・。」
「ああ、これは私が着るんじゃなくてお姉ちゃんが着るの?」
「・・・え?」
「いや、お姉ちゃんが扇情的な黒の下着で乱れてるところ想像したらつい衝動買いしちゃって。
でもデザインも可愛いからいいでしょ?それにお姉ちゃんこういうエッチなの好きじゃない。」
クスクス笑いながら由紀が説明する。
「そ・・べ、別に・・・そんなの好きじゃないし////」
「あれぇ?お姉ちゃん何顔真っ赤にして動揺してるの?
もしかして沙夜さんが着てた黒の下着を脱がす事でも思い出しちゃった?沙夜さんに言ってたもんねー。
何だっけ、えっと確か『沙夜今日は黒のしt・・・』」
「わ~~~~~言わなくていいから/////
だいたいなんでそのこと知ってるの?」
655 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 22:52:31.33 HQh+oqxl0
「知られたくなかったら家でヤらなきゃいいじゃない。どうせヤってる時も
『うはwwwwwww俺達の声、妹に聞かれてるんだぜ?wwwwwwwwwwwwwwwwww』
とかいやらしいこと考えて沙夜さんとイチャついていたんでしょう?」
「そ・・・そんなこと考えるわけ無いでしょ!もう済んだんだからはやく会計してきてよ。」
「はいはい。わかりましたよ~(やっぱりいじめ甲斐あるなぁ♪)」
――――さ、沙夜とヤってるところ見られてたのか・・・。
帰る家路ではショックを受ける私をよそに由紀は妙に上機嫌だった。
656 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 22:57:41.69 HQh+oqxl0
※ ※
家に帰ると渡利からメールが届いていた。
『件名
本文 体の調子大丈夫か~?明日学校来るんなら女子の練習時間は9時かららしいから遅れないようにしろよ。』
――――そっか明日からは新しい学校生活のスタートなんだ。色々用意しとかなくちゃ。
ユニフォームとかどうしよ?バッシュもないしな~。
とりあえず渡利に明日学校に行くことだけ返信しとこうかな。
渡利にメールを返した後、私は立夏にユニフォームとバッシュの予備がないかという確認のメールを送った。
立夏からの返信はすぐに来た。
『件名 多分あるよ~。
本文 サイズとか確認したいから今から会わない?』
私は返信をせずにすぐに部屋をでて立夏に家へ向かった。
659 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 23:05:13.62 HQh+oqxl0
玄関ををでて向かいの家の隣の家の『西岡』と書かれたインターホンを押す。しばらくすると応答があった。
「夜分遅く申し訳ありません。一ノ瀬ですけど。」
「あー、遥凪?ちょっとまっててね。」
立夏の家と私の家はとても近いのでこうしてすぐに直接会いにこれるのだ。
中2の時に引っ越してきて以来、ずっと仲が良い。
ガチャリ
ドアが開いて立夏の顔が覘く。
「いらっしゃい、遥凪。上がって。」
「ん。お邪魔しまーす。」
入った途端立夏のお母さんと目が合った。
662 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 23:13:53.24 HQh+oqxl0
復活再開~!
「あ、どうも」
「まぁ、いらっしゃい。・・・あのどちら様?」
「お母さん、遥凪だよ、ハ・ル・ナ!」
「ああ、一ノ瀬のおうちの。ごめんなさいねぇ。すっごくキレイになったからおばさん誰か分からなかった。」
「いえ、お構いなく。」
――――今更だけどやっぱり周りにも影響あるんだな・・・。学校の友達とかにも。
そう考えるとなんだか複雑な気分になってきた・・・。
「ねぇお母さん、私の昔のバッシュまだ残ってる?」
「ん?たしか押入れの奥にしまっておいたと思うけど。」
「ありがと。遥凪行こう。」
立夏はすぐに私を連れて自分の部屋に向かった。
663 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 23:16:56.39 HQh+oqxl0
バタンっ
ドアがやや慌てられたように閉められる。
「ごめんね、うちのお母さんあんまり気が利かなくて。」
どうやら「変わった。」といわれて沈んだ表情を見られてしまったらしい。
――――顔に出ちゃってたか、しまったな
「いや、そんなに気にしなくていいよ。それより立夏の部屋っていい匂いするね。」
「うん、時々アロマキャンドルたいてるからじゃないかな?」
「え~なにそれ。見せて見せて。」
「えっとね・・・。」
立夏はごそごそと引き出しをあさると中からいくつもの種類のキャンドルの燃料を取り出した。
「これ見てていいよ、その間に私がバッシュ探しておくから。」
「え、でもそれじゃ悪いから私もなんか手伝うよ?」
664 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 23:19:42.29 HQh+oqxl0
「いや、えっと、その押入れのなかあんまり掃除とかしてなくて・・・だからその・・・」
――――そっか。女の子だもんな、自分の部屋の汚れてるところなんて見られたくないか。
「そっか、じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。ごめんね。」
「ううん、気にしないで。」
そういうと立夏は押入れの中をあさり始めたので私は言われた通りにキャンドルの種類と匂いを楽しむことにした。
――――あ、これ良い匂い。なんか落ち着く。私もこういうの買おっかな。
数分後・・・
「あった!」
立夏がうれしそうに声を上げる。
「本当に!?」
「うん。ちょっと履いてみて」
少し小さかったが特に問題なく履くことが出来た。
「ありがと立夏。わざわざ探してくれて。」
665 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/13(水) 23:22:15.99 HQh+oqxl0
「役立てたなら私もうれしいよ。あとユニフォームは私の代えのがあるから明日はそれ使ったら?」
「もうホントに何から何までありがとう立夏。今度もしなんか困ったことが絶対私に言ってね。
相談にのるからさ。話だけでも聞くから。」
「うん。ありがと」
そう言う立夏の笑顔はどこか寂びしそうに見えたがすぐにそんな曇りは消え去ってしまったので
私も大きく気に留めることは無かった。
それから立夏に何度もお礼を言って西岡家をあとにした。
「相談・・・か。言えないよね、『遥凪君が好きでした、私はどうしたらいいですか?』・・・なんて」
遥凪を見送って呟く立夏の目から、一筋だけ涙が流れた。
337 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/20(水) 20:26:44.77 5snTkAlh0
328ちょw寝るなw
334某氏にあこがれて罠をw
では行きますか~
カチャリ・・・
部屋の中で今は睡眠を貪っているであろう人物に気付かれないように私はそっとドアを開けた。
目標の人物の人物の黒く艶やかな髪が確認できる。
「すー、すー。」
僅かだがベッドから整った寝息が聞こえてきた。
――――ふふふ、どうやらまだ寝てるみたいね。
思い通り計画が進んだことに私は自然と顔から歪んだ笑みがこぼれた。
ベッドを上から覗き込むと透き通る様な白い肌の端整な顔立ちにうっとりとしてしまう・・・。
ためしにほっぺをつんつんしてみた。
「ん・・・やぁ・・・・」
表情を少しだけ歪めて、顔をそらす。
――――か、可愛いぃ~~~~!!!
心の中で絶叫しながら私の視線は無防備な唇を捉える。
338 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/20(水) 20:28:56.54 5snTkAlh0
――――これだけしても起きないなら軽くキスするくらいじゃ・・・
その後を想像してドクンドクンと鼓動が高鳴る。
――――マシュマロみたいな・・・うふふふふふ・・・・。
私が姿勢を屈めてその唇を奪おうと・・・・
ピピピッピピピッピ・・・
「きゃあっ!」
突然鳴り出した目覚まし時計に私は思わず声を上げてしまった。
「ん・・・ふあぁ・・・・」
その声と目覚まし時計でお姉ちゃんが目覚める。
――――やば、起きちゃった!
私と視線が思いっきり絡まる。
339 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/20(水) 20:31:31.80 5snTkAlh0
「あ・・・由紀、おはよう・・・ふあぁ・・・」
「お、おはようお姉ちゃん。」
――――どうやらまだ寝ぼけてるみたいね。
ホッと私は胸を撫で下ろす。
「んん・・・」
お姉ちゃんはググッと背伸びをした。下着の付いていない胸に自然に目が行ってしまう。
――――・・・これ、私が男だったら絶対押し倒すシチュエーションよね。
「あれ?なんで由紀がここにいるの?」
不意にお姉ちゃんは正気に戻って私に問いかけた。
340 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/20(水) 20:33:51.37 5snTkAlh0
「え?あ、ああ。えっとね・・・
あ、そうそうお姉ちゃんの部屋から目覚ましの音が聞こえてきてね。
しばらくしても起きてこなかったから起こしてあげようと思って。
で、お姉ちゃんの寝顔があんまりにも可愛かったからちょっと見惚れててね、
そしたらお姉ちゃんが急に起きちゃったからちょっとビックリしちゃったの。」
「ああ、そうなの。」
一気にまくし立てるように説明した私にお姉ちゃんは気圧されたようだった。
「あれ?でも・・・」
「そんなことよりお姉ちゃん、早くしたくしたら?男の子の時と違って朝は身だしなみ整えたりして忙しいんだから。
まずは台所に行って髪を整えてきて。ほら早く起きないと時間なくなっちゃうよ!」
「あ、うん。わかった。」
――――何とか勢いでごまかせたようね・・・・。
それにしてもあの唇を奪えなかったのは惜しいことをしたわ。
でもまだチャンスはあるわね、私が諦めない限り。
―――― 一ノ瀬由紀の挑戦は続く ――――
341 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/20(水) 20:37:29.38 5snTkAlh0
「それじゃあ行って来まーす。」
私は由紀に起こされた(?)後、すぐに身だしなみを整えてお母さんの作ってくれた軽い朝食を食べて家を後にした。
学校に着いた時間は7時40分くらいだった。先生に事情を説明したり朝練を少しやりたかったので
女子の練習時間よりも大分早く来たのだ。
職員室のドアを開けてまず男子バスケ顧問の恒川先生のところへ行って概ねを伝えて女子バスケ顧問の斉藤先生の
居場所を教えてもらった。どうやらもう体育館に行ってしまっているようだった。
私は体育館に行く途中に見慣れた学校の景色に違和感を感じて、それが自分の身長のせいだと気が付いて、
そしてなんとなく漠然とした不安を感じた。
体育館の入り口からちょうど出てきた斉藤先生に声をかける。
彼女は気の強い感じの男勝りな若い先生で、練習の時は鬼のように厳しいが普段はとても気さくだ。
授業では現代文を教えている。
「斉藤先生。あの1年の一ノ瀬ですけど・・・。」
「ん?・・・おお!一ノ瀬か。誰だかさっぱりわからんかったぞ」
342 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/20(水) 20:41:28.96 5snTkAlh0
「あはは、皆に言われますよ。ところで私もう男子じゃないんで女子バスケに入りたいんですけど
今日から練習参加出来ますか?一応用意は持ってきました。」
「ああ、それは構わんが。あんたはいいのかまだ変化があったばかりで色々落ち着いていないだろう?」
「いや、そんな時だからこそ逆にいつもやってること事をやんないといけないかと思いまして。
それに家でじっとしてるとなんだか落ち着かなくて。」
「ふむ・・・一理あるな。こんな時間に来たのは練習の前に少しやっておこうと思ったからか?」
斉藤先生はにやりと笑う。この人はこういうバスケのことには妙に鋭いのだ。
「まぁそういうことです。部室の鍵は?・・・あ、でもいいのかな元男なのにいきなり部室使っちゃって。」
「ああ、それは大丈夫だろう。理由はその内分かる。部室の鍵は・・・・っと、はいこれ」
先生はポケットの中から鍵を取り出すと私に手渡した。
「じゃあ、着替えたらすぐにアリーナに来い」
「は~い。って先生もやるんですか?」
「いや、一応の確認と言っておきたい事があってな。まぁ、来れば分かる。」
――――なんだろう?今ここで言えばいいのに・・・。
349 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/20(水) 20:54:39.80 5snTkAlh0
疑問に思いながらも斉藤先生はさっさと歩いて行ってしまったので私はとりあえず早く着替えることにした。
部室は思ったよりも整頓されていなかったけど、丁寧に使われているのが良く分かった。
ほこりやごみが無く、きちんと掃除もされているようだった。
――――斉藤先生の教育の賜物だな~。
遥凪は改めて斉藤先生に感心した。やっぱり掃除をしっかり出来ない部活に強いところは無い。
掃除をサボったり、きちんと決まり事を守れないチームはそれだけ統率力が無くて団結力も低い。
練習以外の面での部活の活動も大きくその部活の本質を決めることを遥凪は知っていた。
だからこそ、この状況に安心した。それらが出来ているということは、逆に部活の内容もしっかりしているからだ。
ささっと着替えて第一アリーナに向かう。普段女子男子とものバスケ部が使っている場所だ。
朝のアリーナは清清しくて差し込む陽光がまぶしかった。
350 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/20(水) 20:56:30.96 5snTkAlh0
「一ノ瀬、こっち来て3ポイントうってみろ。」
「はい。」
斉藤先生はもう部活モードのようで口調が厳しくなっていた。こちらも自然と硬くなってしまった。
――――でもまぁ、いつも通りのことだし。
そう自分に言い聞かせてボールをとって構える。
幾千と繰り返した動作。体の覚えるままにシュートを放つ。
見なくてもボールの軌道がイメージできる。そしてそのボールは吸い込まれるようにゴールへ行く。
- はずだった。
テンッテンッ・・・
ボールはゴールまで届くことも無くそのまま床に落下して虚しく音を立てた。
「え・・・。」
思わず呆然とする。
「やっぱりな・・・。あんたの体は前の物とは全然違うんだよ。」
先生はどこか悲しげに、そして優しげにつぶやいた。
352 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/20(水) 21:02:58.04 5snTkAlh0
「一ノ瀬、あんた女になる前にはずいぶんいい体してただろ?そういう子が女性化すると
あんた見たいに異常に筋肉が衰えるのさ。」
また心に風穴があいたような気持ちになった、初めて女体化した時の自分を見た時と同等の。
まるで突然友人が死んでいなくなってしまったような。
そんな私を見つめて先生はさらに付け加える。
「それだけじゃない、体力も随分少なくなっているはずだ。もう試合中ずっと走っていられるような
体力は無いだろう。身長は160センチギリギリあるみたいだから女子としては問題がないが
それでも以前のあんたと比べれば、ショートを打つ時の感覚もパスを受け取る時の対応も違ってくるだろう。」
――――甘かった。
私は痛感した。女体化したってバスケだけは今まで通りできると思っていた。
これだけが一ノ瀬遥凪という存在が一ノ瀬遥凪たる由縁になるとばかり思っていた。
だけど現実に女体化した影響はそれにすら影響を与えていた。
353 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/20(水) 21:07:08.17 5snTkAlh0
『もう、昔には戻れない。』
一昨日の夜、そう自分に言い聞かせた記憶が蘇る。
それでも、私には覚悟が足りていなかった。自分が女になっているという事を軽く考えていてしまっていた。
『これからの私』が一気に想像し難くなっていく。
そんな私の思考を見て取ったのか、斉藤先生はこう続けた。
「私はね、あんたには別の道があると思ってる。一ノ瀬は成績だって優秀だし、せっかく女の子になったんだから
この時期にも視野を広げてみるのもいいかもしれない。
今の一ノ瀬だったらモデルとかもいいんじゃないか?それに受験をするんだったら、なるべく早いうちから始めておいた
方がいいだろう。別にバスケにそこまで入れ込む必要も無いんじゃないか?」
先生は私のことを気遣ってくれているのか、普段よりも優しい口調で問いかける。
確かに先生の言う通りなのかもしれない。だけど私は妙に心に引っかかりを感じて素直に納得できないでいた。
「一ノ瀬、今すぐ結論を出す必要は無いから家に帰ってじっくりかんがえt」
「先生。」
強引に言葉の途中に割って入る。
358 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/20(水) 21:14:18.98 5snTkAlh0
「あの・・・先生。私みたいに女の子になっちゃった場合って、やっぱりその後の運動能力の発達が遅れたりするんですか?」
「いや、そんなことは無いが。だがジェニューイン(ここでは元からの女性の意)にはない、変化前とのギャップがあるからな。
トランスの場合はどうしても昔の自分と比べてしまうからそんな精神面での問題もあるだろう。」
「じゃあ問題ないです。ただ私の覚悟が足りてなくて動揺しちゃっただけですから。」
「しかしな、一ノ瀬・・・。」
「自分でも何の根拠もないんですけど、ここでバスケやめちゃったらこれからもっと色んなものから逃げちゃう気がするんです。
先生の言うことも自分なりに分かってるつもりです。・・・でもなんか心から納得できなくて。
それに、私が今足らないことは私の努力でカバーできる範囲だと思うんです。
だから、これからも私にバスケを続けさして下さい。お願いします。」
「・・・うん、あんたがそう思うなら私はもう止めないよ。自分の信じる方に進めばいいさ。
ただし中途半端だけは許さないよ。一度自分の決めたことはしっかりやり遂げな。」
そう言ってにっこり笑う先生の顔が朝日の中で輝いていた。
結果論になってしまうけどこの時のこの決断はやっぱり間違ってはいなかった。
そうじゃなければ、今の私にこんな未来はなかったから・・・。
to be continued