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『ある薔薇乙女達の鍋』 - (2007/02/28 (水) 15:07:32) のソース
『ある薔薇乙女達の鍋』 「あ、水銀燈なの~」 校門には雛苺の方が先に来ていた。 「早いのね、雛苺。待ったぁ?」 「い、今来たの。でも寒いから早く行くなの」 雛苺の顔を覗き込むと、丸っこいほっぺたがかすかに紅くなっている。それなりに待たせてしまったのは確かなようだ。 「ごめんねぇ。早くいこっか」 そう言いながら、雛苺のほっぺを毛糸の手袋をはめた手で包み込む。 「あったかいの~!」 「何やってるんだ、お前ら?」 後ろから声をかけてきたのはジュンだった。 「晩ごはんの材料を買いに行くのなの!」 「ふ~ん。大変だな」 「ちょうどいいわぁ。ジュン、あなた荷物持ちしなさぁい」 ここにジュンが現れた事はことは都合が良い。ただでさえ7人分の材料はかなりの量になるというのに、ましてや今日は鍋にするつもりだったのだ。雛苺と2人で持って帰るには荷が重い。 「なんで僕がそんなことしなくちゃいけないんだ」 当然というかなんというか、ジュンはすんなりとは受けてくれなかった。なら来たくなるようにするだけだ。 「あら、手伝ってくれたら我が家の鍋をごちそうしてあげようと思ったのにねえ。真紅たちと一緒に」 ここで真紅の名前を出したのは、真紅とジュンは恋人同士だからだ。 「・・・わかったよ。行くよ」 一瞬迷って、ジュンは了承してくれた。 「素直じゃないわねぇ」 彼が素直じゃないのはいつものことだけど、真紅と一緒に鍋を囲めるとなればやはり断れないようね。 「わぁ~い。みんなで一緒にごはんなの~!」 心底喜んでいる様子の雛苺を見て、ジュンも笑っていた。彼の目にはひょっとすると、真紅しか写っていないかもしれないけれど。 雛苺を挟んで10分ほど歩き、家と学校の中間に位置するスーパーに着いた。 「今日は鍋にするから、いっぱい買うわよ~。ジュン、カート持ってきてちょうだぁい」 「へいへい」 やる気の無い返事を返して、彼はカート置き場へ向かっていった。 「雛苺、何鍋がいい?」 何を具にするか詳しく考えていなかったので、雛苺に意見を求めてみる。 「うにゅー鍋!」 なんとも微笑ましい、言い換えると危険な言葉が返ってきた。 「それじゃ闇鍋よ・・・うにゅーは別に買っていくとして、何がいいかしらねぇ」 正直言って自分も特に希望があるわけではなかった。ここまで来て考えていないのもなんとなく間が抜けているような・・・。 「うにゅーは駄目なの?でもでも、翠星石も真紅も甘いもの大好きなのよ?」 そういえばそうだ。自分以外の姉妹たちは皆、極端な甘党だったりする。 「うふふ、そうねぇ・・・。じゃあ具は決定ね」 怪しい顔をしているのを自覚して笑っているところへ、ジュンが戻ってきた。 「なんて顔してるんだよ・・・ところで何買うか決まってるのか?」 怪訝そうに聞くジュンに、私は極上の笑みを返してやる。 「ええ。みんな喜ぶわ」 「そっか。じゃあとっとと行こうぜ」 彼はあっさり行ってしまった。もう少し面白い反応を期待していたのに・・・。 「まぁいいわ。まずは野菜よ」 気を取り直して、とにかく買い物だ。まずは青果コーナーだ。 「きゃべつ~。にんじん~」 雛苺がどこかで聞いたような節で歌いながら、見当外れの野菜の方へ向かっていく。 「そんなもの買わないわよぉ」 そう言いながら、私はてきぱきと必要な材料をカートに放り込んでいく。 「本当にこれで一食分?」 ジュンが驚くのも無理はない。若い乙女が7人もいる家の1食に使う食材の量は、彼の家の比ではない。 「これが普通よぉ。あの子達の食欲を甘く見ちゃいけないわぁ」 「水銀燈お菓子買ってきたの!」 雛苺がどこからか大きいサイズのマポロチョコを持ってきた。 「う~ん。まあそれぐらいはいいか」 この会話を聞いて、ジュンが忍び笑いをもらした。 「まぁ、何がおかしいのかしら?」 私は若干つっけんどんに聞いてやる。 「いや、お前っていい姉さんやってるんだなって思ってさ。気分悪くしないでくれよ」 意外な答えだ。少しだけ自分の頬が赤くなっているのを感じて、私は俯いて返事をする。 「あ、ありがとう。でもあなたのお姉さんには負けるわ」 今度は彼の方が驚いたようだった。 「お、おう。サンキュ、伝えとくよ」 少し気まずい沈黙が降りてしまったところで、雛苺が私の顔を下から覗き込んできた。 「次は何買うなの~?」 心の中で雛苺に感謝して、私は表情を取り繕って次に必要な物は何だったか、頭をめぐらせる。 「えっと、そうね。次は・・・あ、あれよ!」 目的の物を発見して、それに向かって思わず指をさす。 「・・・なあ、マジであれ買うのか?真紅たちって甘党じゃなかったっけ」 「真っ赤なの~」 2人はそれぞれの驚きを示してきた。 「うふふ、いいのよ。あの子達が私の頼みを断った罰だわ」 そう言って、私はそれを手に取る。 「性悪だな・・・」 今日の鍋に一番必要なこれは、『キムチ鍋の素』。 「う~ん、まあ任せるけどさ・・・で、後は何買うんだ?」 ジュンの発言に、私はしばらく考えて答えた。 「冷蔵庫の中にこんにゃくとかは残ってるはずだから、後はお肉だけね」 それを聞いて、彼の足は少しばかり軽くなったようだ。 「よし、じゃあ適当なの買って帰ろうぜ」 「そうするの!」 私はここで、彼への感謝の意を表してみることにした。 「おい、それってかなり高いやつじゃ・・・」 自然に入れたつもりだったが、彼には気づかれていた。 「いいのよ、手伝ってくれたあなたへのささやかなお礼」 そう言って、断れる人じゃないのは分かっている。 「そっか。じゃあありがたく頂こうかな」 「ありがたくいただけなの~!」 調子よく雛苺が合わせてくる。それを契機に、私たちは声をそろえて笑った。 その後。 「全員来なさぁい。御飯が出来たわよぉ」 みんなを呼びながら、私は鍋を食卓へ運んでいく。 「遅いのだわ・・・何この匂いは!?」 「鼻に来るですぅ!」 期待通りの反応だ。 「何って、激辛キムチ鍋よぉ。雛苺と金糸雀は薄めて食べてね~」 「えっと、僕にもお湯もらえないかな・・・なんて・・・」 目を細めて蒼星石を軽くにらみつけ、最後まで言わせない。 「あんたたちはそのまま食べなさぁい」 「ちょっと、無理かも・・・」 「人の頼みをあっさり断ってくれたのはどなただったかしらぁ~?」 「ひええぇぇ・・・・・・」 結局真紅たちはひぃひぃ言いながら鍋を残らず食べさせられたとさ。 ---- - ひでぇ・・・水銀燈には逆らえない・・・・(’*’) -- 黒羽 (2006-10-22 19:51:12) - こわぁい・・・でも銀様だから・・・(///) -- 水月 (2006-11-03 18:06:50) - あのぅで、出来れば蒼翠の小説もっと書いてくださらないでしょうか。お、おねがいしますっ(土下座) -- 琴 (2006-12-03 16:34:55) - キムチはあかん でも銀様なら… -- 夕クシー (2006-12-09 10:15:30) - 燃え〜 -- オレ (2006-12-16 19:19:20) - やっぱり、銀様はいいっすね! -- 宝樹 (2006-12-29 15:24:55) - 水銀燈のJUMへのほのかな恋心がいい -- 名無しさん (2007-02-26 01:24:10) - たまらなく良いです!キムチ鍋食べたくなってきました(´Д`) -- ミロ (2007-02-28 15:07:32) #comment