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7 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/21 22:02 ID:SxiiysuX
現在の状況
*は非選手
<ナゴヤドーム>
川上、井端、小笠原(星野により足を負傷)
音スコアラー*、長谷部ブルペン捕手(星野の殴打により負傷と思われる)*
<栄駅構内>
野口、荒木(鈴木平により全身を負傷)
<名駅マリオットアソシア>
中村(負傷)、山本昌(重傷)、彦野OB(重傷)
<その他>
屋内練習場(BR本部):山田、仁村など幹部
マリオットアソシア非常階段:島野コーチVS橘高審判員
10 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/21 22:11 ID:SxiiysuX
これまでのあらすじ
日本のまんなか中京に本拠地を構える中日ドラゴンズ選手たちは、ある日突然殺人ゲーム『バトルロワイアル』参加者に選ばれる。
友情と裏切り、血と涙、さまざまな死闘を繰り返したのち、ナゴヤドームにたどり着いた川上憲伸たちは星野仙一との決闘に勝つ。
しかしゲームはそれでは終わらなかった。
かつて同じ戦いに巻き込まれた彦野の出現により、中村と山本昌は、悪の黒幕が高見の見物をする名駅ツインタワーのホテルマリオットアソシアへ挑んでいた。
『老人』の刺客により彦野と山本は瀕死の重傷を負う。
そして老人の待つ部屋へたどり着いた中村の孤独な戦いを、川上たちはナゴヤドームのライブビジョンで目にする…。
19 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/24 18:06 ID:ePlt6lVy
「このわしに傷を付けるとは大した奴…さすが中日の正捕手だ、しかしこのわしに勝てると思うなよ!」
そう絶叫に近い言葉を吐き捨てるやいなや、老人は中村めがけて飛びかかってきた。
しかし年老いた身体はあまりに軽く、中村にいともたやすく捉えられてしまう。
体勢を逆転させ、老人を床に叩きつけると鈍い音がして両腕が折れた。
そして中村は、見てはならないものを目にする。
……球界最大の機密事項を。
20 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/24 18:06 ID:ePlt6lVy
東京・大手町。
ものものしい数の警備員が立ち並ぶ読売新聞社会議室に備えられたモニターの前で、原辰徳は驚愕していた。
「んー原君、こんなことも知らなかったのですかー?もっとクレバーにならないといけませんよ?クレバーに。んん?」
そう言って読売ジャイアンツ監督長嶋茂雄は満面の笑みをたたえながら好物のメロンを頬張る。
「し…しかし監督、こんなことがあってもよいのでしょうか」
怯えた顔の原が見つめる先には、読売新聞社社長にして球団オーナー渡辺恒雄の腕から飛び出たチューブやショートする基板が画面に映しだされていた。
「オーナーは今年何歳になると思ってるんです?あの年齢であのパウアーは不思議だと思わないんですか?」
老人が最初の肉体改造、そうだ、読売の大砲清原和博の言う肉体改造ではない、文字どおりの改造手術を受けたのは終戦まもなくのことだという。
それから年月を重ね、身体に不具合が起きるたびに手術を繰り返し、外見は年齢を重ねながらも精神と肉体の若さを保ち続けていたのだ。
「そしてナウ、今のオーナーはですねえ、ブレインだけが生身のヒューマンになっているそうなのですよ?」
恐ろしい。
あの異常なまでのバイタリティはそうして養われていたものなのか。
原はへなへなと床に崩れた。
「いいですか原君、これくらいのことで驚いてはいけませんよ?あのオーナーの最もクレバーなことを教えてあげましょう」
「な、なんですか?」
聞きたくないという表情をして原は顔を上げる。
「オーナーが損をすることを一番嫌っていることは君でもご存じのことでしょう。あのバディーも、そういった考えのもとに造られているのです」
「…え?」
21 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/24 18:07 ID:ePlt6lVy
「みすみす負け試合をするほどオーナーはクレイジーではありません。中村君との決戦を望んだのは、勝ち目があったからなのですよ」
「勝ち目?」
「そーーーーーーーーーーうです」
長嶋は指を一本立てて、原の目の前に突き出した。
「あの人の身体は、生命の危機を感じると、爆発するようになっているのです」
「爆発……つまり…死ぬときは自分に襲いかかった相手を巻き添えに……?!」
「そーーーーうです!エクセレント!」
自分はこの球団にいてはいけない。
この世のものとは思えない現実を知っていても全く動じない長嶋を見て、原はそう心に誓った。
それを逃れられない宿命だと知っていながら。
22 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/24 22:10 ID:1+X767BG
「ごめんなさいね。主人、もうすぐ帰ってくると思うんですけど」
橘高との死闘を繰り広げていた島野は、ツインタワー屋上で赤々と点滅を始めたエマージェンシーランプによってその闘いの中断を余儀なくされ、間一髪で乗用車に滑り込み、西へ向かって走っていた。
思い出すのは、星野夫人との日々。
星野の側近として長く仕えていた島野は、星野の自宅を訪れることもしばしばあり、必然的に夫人と顔を合わせることが多くなっていた。
控えめながら世話好きな夫人の姿に、島野はいつしか淡い恋心を抱いていた。
リビングのソファに座り星野の帰りを待つ島野に、星野夫人は日本茶を勧める。
その日、島野はこらえきれなくなったあまり、思わず夫人の手を握りしめていた。
「奥さん…!」
「!…いけません…!!」
その日以来、島野は気まずくなって星野の自宅を訪れることはなくなり、夫人とも疎遠になっていた。
月日は流れ、島野がやつれ果てた夫人と再会したのは、星野に連れられて見舞いに病室を訪れたときたっだ。
星野が花瓶の水を取り替えに立ったとき、星野夫人は島野の手を取って懇願した。
…お願いします。
…どうか、どうか夫を、星野仙一を、あなたの力で胴上げしてください。
「奥さん…、あなたの願い、叶えてみせますよ」
車は小牧で名神自動車道に入る。
目指すは、甲子園。
24 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/25 00:10 ID:5PKZjg/W
中村の目の前で電流が散っていた。
「道連れだ」
いつもよりしわがれた老人の声。
剥き出しの機械の腕に、逃げる間も無く両の足首を掴まれた。
人間の力ではない。下手に動けば骨が折れるだろう。
鳴り響く警報が五月蝿い。
どこかでランプが光っているらしく、部屋の中が赤い色の光に満ちていた。
「どうした、命乞いの一つもしないのか」
「何故?俺はあなたを殺しに来たんですよ。
あなたが死にさえすればいいんです」
言葉が思うより先に口から滑り出す。
自分が、恐ろしいほど落ち着いているのがわかった。
「…理解できん」
「川上たちはもう一人前ですからね。
俺たち年寄りなんか居なくても、
もう立派にペナントを戦い抜いてくれる…」
「だから、死んでもいいというのか?何故だ?
死んでしまえば全ては終わりだ!
わしの権力も財力も、全て消えてなくなってしまう…」
中村は嘆息した。哀れな老人だ。
これが人を信じなかった報いか。
不意に、足首を掴んでいた力が弱まった。
「ち、力が入らん…わしは死ぬのか…し、死ぬのは嫌だ、死ぬのは」
この老人の小さな体が弾けるのに、もう幾許も無いらしい。
「…さようなら」
振り向くことなく中村は部屋を出た。
老人は尚も何かを言っていたが、聞いてやる義理も時間もない。
これほど派手に警報が鳴り響いているということは、
かなりの範囲が爆風で吹き飛ぶのだろう。逃げることは適うまい。
…ただ、自分の死に場所はここではないと思った。
26 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/25 11:24 ID:H3RGnSII
「昭和33年、栄光の巨人軍に入団以来今日まで17年間、巨人軍ならびに長嶋茂雄のために絶大なるご支援をいただきまして…」
ホテルのフロア中に、野球人はもちろん誰もが聞き覚えのあるあの一節が流れ始めた。
もはや五感をほとんど無くした彦野と山本の耳にも、それはかすかに届いていた。
…ああ、武志、これで終わるんだな。
山本は笑っていた。
不意に、誰かに抱き起こされる感覚がわかった。あれだけの傷を受けて、まだ触覚は残っているらしい。
…武志か?
…そうですよ、昌さん。
声に出すことはなくとも、二人の間で伝わる言葉。
「…私は今日、引退しますが、我が巨人軍は永久に不滅です。…」
…終わるのか?
…ええ、全て終わりますよ。
…もう、苦しむことはありません。あとは、全て憲伸達に任せましょう。
「…長い間、皆さん、本当にありがとうございました。」
…お前と一緒でよかったよ。
…俺もですよ、昌さん。
…昌、武志、お前らは最高のバッテリーだよ。
「では、そろそろ行きましょうか。」
閃光……………………!
27 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/25 17:43 ID:MlVSNaJS
俺たち、とても幸せだったよ。
こんなに長い間、野球の選手でいられたんだ。
この球団に入ったこと、一度も後悔なんかしていない。
だから。
川上、井端、小笠原、荒木、野口。
後のこと、任せたぞ。
お前らなら、きっと掴める。
俺たちも触れたことのない、日本一の称号を…
きっと…
28 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/25 18:18 ID:H3RGnSII
「あ…!」
荒木の頬に涙が伝うのを野口は目にした。
「どうした、荒木?」
荒木は自らのことなのに不思議そうな表情をしてみせる。
「わかりません…、でも、今、なんだか、ものすごく井端さんに会いたい。行かなきゃ」
苦痛に顔をしかめながらも、荒木は野口に寄りかかり立ち上がった。
今きっと何かが終わったのだと、野口も荒木も気づいていた。
だから、薄暗い地下鉄の線路なんて歩かない。いつしか、雨はあがっていた。
30 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/25 21:36 ID:vvaAMNt6
ツインタワーの爆発とともに巨大画面から巻き起こった爆風が落ち着きを見せると、画面は再びノイズがかった映像を映し始めた。
「お疲れ様でしたー」
CBC加藤小百合アナウンサーの声とともに、見覚えのある場所が現れる。
窓の向こうに名古屋城を臨むこの部屋は、監督クラスの人間のインタビューでよく使われるキャッスルホテルだ。
三脚を畳むADの姿が映り、どうやら取材が終わったところなのだと想像がつく。
次に現れたのは、ソファから立ち上がるスーツ姿の星野の姿。
「で、監督。さっきの質問、答えてくださいよ」
小百合アナが立ち去ろうとする星野を追いかける。
「いやあ、女性にそんな風に言われるとなあ、参ったな」
星野の顔がとろけそうに崩れている。頭を掻く。
「これはオフレコにしておきますから。ね?監督。監督が後継者にしたい投手って、いったい誰のことなんですか?」
「んーーーー、まあ、なあ。内緒だぞ?」
「はぁい!」
小百合の喜ぶ様子を見て、ますます表情がゆるむ。そしてゆっくりと口を開く。
「俺はなあ…。憲伸に後を継いでほしいんだよ」
「川上投手にですか?」
ライブビジョンをじっと見上げていた川上は思わず当たりを見回した。井端と、小笠原と、目が合った。
「ああ…。だがな、どうもあいつはあと一歩のところで、思い切りが足りないんだよ」
「思い切り、ですか?」
「そうなんだよ…、押しが弱いというかな。だから…」
星野の言葉が一瞬止まり、川上は息を飲んだ。
「いっそ、俺を倒して踏み越えてゆく男になってほしいんだ」
「倒す!きゃあ、スゴイですね!」
「まあ、例え話だがな。人気だけじゃなくて実力でエースの名を掴み取る、それくらいの男になってほしいんだ、憲伸には…。」
映像はそこで途切れた。
31 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/25 21:37 ID:vvaAMNt6
川上はマウンドに横たえられた星野の遺体を見た。
だから、弾切れの銃を俺に向けたんだ。
本気で立ち向かう勇気のない俺を、本物のエースにするために。
この人は、死ぬまで星野仙一だった。ドラゴンズファンに最も愛された男であり、ドラゴンズを最も愛した男だった。
不意に小笠原がベンチの奥に走っていった。タオルを手にして戻ってくる。
川上は、手渡されたそのタオルを、星野の身体にそっと掛けた。
『HARD PLAY HARD』
闘将・星野にふさわしいスローガンが、プリントされていた。
32 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/26 00:47 ID:I/HYbtUy
「試合終了、だな」
山田がサイレンのスイッチを押した。
同時に、巨大なモニターから
首輪の位置を示す光点と会場の地図が消えていく。
それに代わり、細い枠に囲まれた文章がゆっくりと浮かび上がった。
十八時二十一分
監督死亡/ゲーム終了
生存者: 2 11 43 47 48
「さて。これからが忙しいぞ」
再び本部にざわめきが戻ってくる。
仁村はどこかぼんやりとその様を見ていた。
全てが終わったのだ。
この球界から「プログラム」が消える。
二人の人間の命と引き換えに…
「そう言えば」
山田がぽつりと言った。
「島野はどうしたかな。死んではいないだろうが」
仁村はそうですね、と生返事をした。
33 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/26 11:51 ID:eBRgOg6J
名古屋中にとどろくけたたましいサイレンの音に、誰もが安堵の色を浮かべた。
「これから、どこへ行くんですか」
歩を進めようとしていた音に、井端が問う。
スタッフでありながら戦いに巻き込まれて傷ついたブルペン捕手を自分の寺で介抱するのだという。
『壁』さながらの巨体を背負い、音はどこかへと消えていった。
「行こうか、俺達も」
ドームの重い扉を開けた。流れ込む外気が心地良い。
辺りはすっかり暗くなり、今までの惨劇とは不釣り合いに平和な夜空が広がっていた。
気が付くと、向こう側から近づいてくる人影が見える。
あちらもこちらの様子を確認できたのか、大きく手を振っているのが見えた。
「あれ、荒木じゃないか?野口さんもいるぞ」
川上に促され、井端は駆けだした。
間違いない、野口に支えられているのは満面の笑みの荒木だ。
「荒木!」
「井端さーーーん!はは…、すみません、走らせちゃって」
もう何年も会ってないかのような。そんな感覚だった。
井端が目の前にたどり着くと、野口は仕草で肩を貸せと言い、荒木の身体を預ける。
「ちょっ…、おい荒木、重っ…」
「ははは…、井端さん、やっぱり生きてた…」
「バカ、お前みたいなのほっといて死ねるか」
ようやく、選手達に笑顔が戻った。
34 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/26 12:04 ID:eBRgOg6J
それからの球団復興作業は、山田と野口を中心に急ピッチで進められた。
捕手として初のメジャーリーグ行きに挑戦するも敢えなく夢破れた横浜の谷繁。
巨人からは、ユーティリティピッチャー前田幸長亡きあとの補強として平松を。
イチロー放出後に収益が激減したオリックスが選手を大量解雇したと聞けば、山田の縁故で藤立、木村、栗山を採用した。
そして運命のドラフト会議。
山田は過去に類を見ない、上位二名に捕手を選択するという斬新な策に出た。
不況による廃部で急遽ドラフト対象になった河合楽器の若手ツートップも無事に確保。
新生ドラゴンズの誕生は順調に進んでいた。
もちろん、慌ただしさから他球団の動向を調査する十分な余裕はなく、阪神球団に流れ着いた島野が中心となって極秘裏に進めている『星野蘇生計画』など、知る由もないことである。
37 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/26 16:36 ID:eBRgOg6J
2001年・冬。
名古屋の街の復興は着々と進み、『バトルに加えるほどの面白みもない』として伊良湖にキャンプ名目で送られたファームの選手達も続々と戻ってきた。
破壊された中日ビルの改装のため自宅兼球団事務所仮庁舎となった昇龍館のリビングで、野口は井端とともにノートパソコンを睨んでいた。
選手会長と副会長、書記に会計がまとめていなくなったものだから忙しい。
会計にはまめな男を選んでいてよかった、幸いにして正津の遺品には大学ノートの表紙に『こづかい帳』とマジックで書かれた選手会費帳簿が残っていた。
ピンポーン。
玄関先で、来客を知らせるチャイムが鳴る。
野口はパタパタとスリッパの音を立てて向かう。
「今日から中日ドラゴンズに入団することとなりました、中京大中京高校三年、前田章宏です!よろしくお願いします!!」
最敬礼を通り越して何というのだろう、ブレザー姿にサブバッグと枕を抱えた少年が、膝に着くまで深々と頭を下げていた。
見上げるほどの身の丈にいい体格をしているが、表情はまだまだあどけない。汚れを知らない顔である。
自分たちがなくしてしまったものを、野口は見たような気がした。
そして、彼や新しくこのチームに足を踏み入れる者達の瞳を、自分たちが味わったような惨劇で汚してはならない。
固く心に誓いながら、野口は両の手で、前田と名乗った少年の手を握った。
「ようこそ、中日ドラゴンズへ。」
42 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/26 22:12 ID:I/HYbtUy
新しい年が始まって暫く経つ。
川上は、ナゴヤドームの一番ゲート前に来ていた。
シーズン中は人の溢れ返るここも、今は人影もなく閑散としている。
プログラム終了直後は、花を携え泣きながら現れるファンも
少なくなかったが…
直にキャンプも始まろうかというこの季節、
人々は次第に悲しみを忘れていっているようだった。
風が冷たい。
あれから色々な事があった。
沢山の死を埋め合わせる為のあらゆる作業。
名古屋のそこここで葬儀が行われ、
川上たちは必ずそれに参列した。
山本と中村、彦野の三人の死体は見つからなかった。
あの爆発でばらばらに吹き飛んでしまったのだろう。
ただ、焼け焦げた、誰の物とも知れぬ帽子が一つだけ
瓦礫の下から発見された。
遺族の了解を得、その帽子は現在川上の所有物となっている。
これは山本の帽子だったのか、中村の帽子だったのか。
川上は右手に持っていたそれを、そっと己の頭に乗せてみた。
焦げた臭いが鼻を突いたが、大して気にはならない。
ガラス越しにゲートの中を覗き込む。
濃紺の石で作られた慰霊碑が、薄暗い中に浮かび上がっているのが見えた。
犠牲になった選手の名前と球団のロゴが刻み付けられた碑だ。
なんて多くの名前が刻み付けられているんだろう…
見つめている内、だんだんと、その石の輪郭がぼやけて滲んでいく。
川上はガラスに額を押し付け、泣いていた。
46 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/26 23:01 ID:I/HYbtUy
投手は川上。
遊撃に井端、二塁に荒木。
それ以外は無名選手ばかりの開幕戦。
山田は黙ってベンチで腕組みをしていた。
ヘッドコーチとなった仁村が、何やら
打撃コーチの佐々木と話し込んでいる。
島野はあれきり戻らなかった。
噂によると大阪にいるというが、もうそんな事はどうでもいい。
橘高も何食わぬ顔で審判を続けている。
もういつまでも過去の事は考えていられないのだ。
これから、ペナントレースという名の生き残り競争が始まるのだから…
ドームには沢山のファンが詰め掛けていた。
もうすぐ、試合が始まる。
証明がいつもより眩しく感じられた。
47 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/26 23:02 ID:I/HYbtUy
2002、プロ野球セ・リーグペナントレース。
中日はあまりに少ない戦力で精一杯戦い抜いたが、
五位以上に二十近いゲーム差をつけられての
最下位に終わった。
しかし、リーダーとしてチームを引っ張った川上の
焼け焦げた野球帽は
多くの野球ファンの心に残り
以後、彼のトレードマークとして長く親しまれることとなった。
彼らが日本一の称号を掴み、慰霊碑に
優勝旗を捧げるのは、まだ少し先の話である。
50 名前: 代打名無し 投稿日: 02/06/26 23:07 ID:tAPZNBxY
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91 名前: ◆xYQkNOZE 投稿日: 02/06/29 00:25 ID:Meu2ZvK2
「そーれ音重鎮…か。」
現役時代の応援歌をつぶやくように歌ったあと、音は目の前の真新しいユニホームに溜め息をついた。
慰霊祭での読経を終えた音は、監督室まで来るよう山田からの呼び出しを受けていた。
慰霊も済んだしどうにでも好きにしろ、と丸腰で向かった音に山田が伝えたことは、非常に拍子抜けするものであった。
スコアラーから二軍コーチへの異動。
「そんなに選手が大事なら、現場へ戻ったらいい」
山田は事務的にそれだけ伝えると、ユニホーム一式を手渡して無言で部屋を追い出した。
あの外様監督は私に何を望んでいるのだろうか。
それを推し量れるほど、ピッチャー出身の山田と外野育ちの音には繋がりがなかった。
けれども、これもまた運命。
落合の魂は、無事に昇天しただろうか。
『83』の背番号を受けた音は、今、天を仰いで再びユニホームに袖を通す。
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↑皆の魂が浮かばれますように。と思っての小ネタ。
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