白い布団で静かに眠る慧音の額に手を当て、静流は小さく嘆息した。
このままだと精神的にも体力的にも良くないと、永琳が怪しげな薬で眠らせたのだ。放っておけばすぐにでも飛び出してしまいそうな様子だった。責任感が強いのはいいけど、ほどほどにしてほしいものね。とは永琳の弁である。まったくだと静流は思う。
一緒にここまで来た
リグルとチルノは、所在なさそうに縁側に座っている。今の静流にどう接していいのかわからない、というのもあるのだろう。だが、瑞穂が攫われたという事実を、静流は周りが思うよりも遥かに冷静に受け止めているつもりだった。
「つちみかど……さねあつ……」
犯人が名乗ったという名を呟く。
怪我をしているとはいえ、抵抗もさせず慧音の意識を奪うほどの術を使うというのは尋常ではない。荒事が苦手といっても、あくまでそれは暴れん坊の妹紅などと比べた場合だ。実際に見ていないので何とも言えないが、仙人か、それに匹敵する存在であると判断した。しかも堂々と入っていく剛胆さと、人が出払った時を狙い澄ます用心深さを兼ね備えている。
永琳も気配を感じなかったと証言している。よっぽどの怪物だろう、と静流は判断した。
「ある種の幽体は訪問に許可を必要とする、とか書いてあったな。実体を持った幽体離脱……できないわけじゃあないんだろう。そう考える」
小さく独り言のように考えを口にしながら、静流は新聞で読んだ白玉楼とかいう場所を思い浮かべていた。そこの庭師は暇無しでいつも大変な思いをしているとかなんとか。
いや、そんなことはいい。
要するに話は単純だ。敵が現れたのだ。尊人党などとは違う、明確な敵が。
静流は平坦な胸に手を当て、ゆっくりと息を吐いた。まずは瑞穂を探そう。双子のシンパシーとでも言うのか、今までも妹の場所なら当てずっぽうでも当てられた。だから今度も——その時だった。
「ごうがーい! 今度は刷ってきました号外ですよー!」
ハツラツとした声を乗せて、突風が病室を吹き抜けていった。
時折、人里でも聞くことのある声だ。庭に颯爽と降りてきた黒髪の少女と面識はないが、彼女の名前は知っている。そう、『文々。新聞』の——
「射命丸文」
「あやややや!私の名前を知っているとは勤勉な読者がここにも!ってわけですねわかりますわかります人間にも理解者はいるものですねぇ記者冥利に尽きると言いますか最速記録に挑まんばかりに印刷した甲斐がありましたよええ!巫女とか魔法使いにも見習ってもらいたいものですそうこれからは新聞こそが文化的だと!」
舌を噛みそうなくらいの早口でまくし立てる射命丸。
彼女はミニスカートにブラウスという、なかなかシンプルな格好だ。高下駄と靴を折衷した履き物が天狗ということを主張している。静流が想像していたのはもっと奇抜な格好だったのだが、考えてみればこの方が動きやすくていいに決まっている。
静流は庭に降りると、ぺらぺらとしゃべり倒す射命丸の前に立った。
「で、何が起きたのさ。輝夜がここにいないのと関係あるんだろう」
疑問形ではあるが確信が見て取れる静流の言いぶりに、射命丸は感心するように目を細めた。
「ほほう。さすがは『文々。新聞』の愛読者というわけですか」
「それは関係ないと思うけどね」
「冷めた人ですねぇ輝夜さんなら、霧の湖が割れたと教えたら飛んでいきましたよそう、あなたを助けるためにねまぁ、無駄骨になったようですが無事なようで何よりですとはいえ、その程度の微弱な霊力でよく紅魔館まで出向く気になりますね。私はその勇気と剛胆さに驚愕せざるを得ませんよ。一体どんなすごい能力を持っているというのでしょう、あのわがままな姫に友達と言わせるのですから相当すごい力に違いありません、フフフ、少し試してみたいものですねぇ私の知的好奇心が沸き上がってきます」
「能力も何も、本を返しに行くだけなんだ。客として入ればいいんだよ」
「ふふふ冷静ですね隠しても無駄ですよ」
射命丸はじろじろと値踏みするような目を向ける。静流の隠し持った何かを探り当てようとしているのだろうが、無いものは出しようがない。このまま勝負をふっかけてきたら困るな、と思案していると、後ろから足音が聞こえた。
「私も気になるわ、あなたの能力」
落ち着き払った大人っぽい声。永琳だった。
「おっと思わぬ増援が登場これは期待が持てそうですワクワク」
「永琳まで……もしかして疲れているのかい。輝夜もいないんだ。少しは休みなよ」
「大丈夫よ。あなたに心配されるほどじゃないわ」
「他人の能力に興味を示すなんて、らしくもないね。輝夜に何か言われたんだろう」
永琳の微笑みがほんの少し、一瞬だけぎこちなくなった。
「へぇ……やっぱり輝夜は私が術を使えるようになる事がわかっていたんだな」
「術?そんなものが使えるほど霊力が無いみたいですが」
「でも静流は術を使えるんだよ。それが不思議なんだよねぇ」
『吾輩が思うに、それが東洋思想というものかもしれんな』
「あやや、会話に割り込んできたあなたは憑喪神。珍しいですねぇ、それに私向きです」
『うむ、君のように美しく快活な文筆家と行動するのも悪くないかもしれないな』
「えー」
「あなたたち、話の腰を折らないでくれるかしら?」
「おっとそうでした、ささ、真実の追究を再開しましょう!お知り合いのインタビュアーの助力を仰げるとはフフフ私も運がいいですね」
天狗に永琳。とんでもないのに目を付けられたな……と胸中で独りごちるが、不思議とこれが良くない事とは思わなかった。きっといい方向だ。という妙な確信がある。
「姫様は、あなたの力なら蓬莱人も滅ぼし得ると言いましたわ」
「……なんだって?」
静流は眉を跳ね上げた。能力と聞いて思い当たるのは、月雲先生やチルノと戦ったときの事だ。輝夜は見ていないはずなのに。いや、長生きしている彼女だからこそ見えるものがあるのかもしれない。会ったら聞き出してやる。
心の中で完結させ、静流は静かに口を開いた。
「どういう力なのかはわからないけど、今までに四回、変な事が起きた」
「聞かせてもらえるかしら」
「物が止まるんだ。蜘蛛の足がほんの一瞬だけ止まったり、私自身の落下が止まったり。チルノのスペルも止まって落ちた。私の能力なのかも定かじゃないけど」
「……ふむ。止まる、ね」
「止まると言いますとやはりあの人でしょうかですが、あれでは微妙に変な部分がありますね」
永琳と射命丸の頭に浮かんでいるのはやはり、時を止める紅魔館のメイド、十六夜咲夜の事だ。しかし時を止めたからといって自分の落下が止まったり、弾が落ちたりはしない。
「他に何か覚えているかしら?」
「……大きな白い狼。チルノと戦ったときに、ほんの少しの間だけ出てきたんだ」
「えっ、そんなのあたい知らないよ! よくわかんないズルされたけど」
「幻視だろうさ。燃える雪原なんてあるもんか」
「ほほぅ。ですが幻視といえども現象が起きたのは確かのようですねぇ悪魔の妹さんのように、能力をヴィジョンで捉えるタイプなのかもしれませんよ」
「燃える雪原に大きな狼……ね。そういえば、藤原のが妙に貴女を気に掛けていましたわ。彼女は何かを知っているのではなくて?」
はっと静流は眉を跳ね上げた。
そうだ。はぐらかしていたが、妹紅は静流のことをよく知っているような口振りだった。真剣に修行すればわかると言っていたが……。
爪が食い込むような強さで頭を押さえ、静流は拗ねたように表情を歪めた。
「どいつもこいつも、一番言わなきゃいけないことは隠すんだ。それがすごく、不愉快だよ。私に何を求めているのかも言わずに、私の知らない私が一人で歩いていくみたいだ」
「あや? 難しい事を言う人ですねぇ」
「悪かったね。昨日から頭が痛いんだ」
「だったら、後で頭痛薬を出しておくわね」
「効かないと思うけど、もらっておく」
「あら、私の薬は効き目抜群の八意印よ」
「ではでは静流さんは頭痛薬でも飲んでいてくださいっ、私は妹紅さんをマッハで連れてきますからねー!」
ドップラー効果で引き伸ばされた声を置き去りに、射命丸はものすごい速さで飛んでいった。さすがに音速とはいかないようだが、烏天狗の本領を見た気分だ。
見送りながら心の中で「止まれ」と念じてみたが、やはり何も起こりはしなかった。
よほど追い詰められていないとダメなのかもしれなかった。
「せわしないな、それにものすごい早口だ。新聞記者というのは皆ああなのかい」
「あら、天狗というのはもともと節操が無いものなのよ」
「そうでもなければ人里まで新聞を配りには来ないか。どんな人なんだろうと思っていたけれど、変わり者みたいだ」
「貴女が言うのもどうかと思うわね……さて、彼女が戻ってくるまできっと時間が無いわ。薬を持ってくるわね」
優しく微笑んで踵を返す永琳の後ろ姿を見ながら、静流は静かに嘆息した。
ずきずきと痛みは続いている。いやそればかりか少しずつ増している。そしてそれは、少なからず自分が危機に陥っている証拠のような、そんな気がするのだ。そういう時は、視界が開けて仕方がない。
「スゥー……」
深く深く息をして、静流は感覚を研ぎ澄ませた。射命丸が帰ってくる前に、場所くらいは見当を付けておきたかった。どうせならより精度高めに。
一見すれば平穏だが、それは永遠亭という砦があるからに過ぎない。何も解決などしていないし、事態は切迫している。そういう急流を頼りに、何度も何度も心の中で棒倒しを繰り返す。
深く広く根を張るように足を地に着けて、見えない支流を掴むようにそっと手を伸ばす。
「宿れ。已蒼!」
ばちんッと空気が爆ぜた。静流の右手がほのかに青く光る。
「あらあら、私がいなくなってからなんて。思った通り、人が悪いですわ」
と、薬を乗せた盆を手に戻ってきた永琳が目を細めた。静流は薬を受け取り、一気に飲み込むと、
「今のうちにやっておかないと、ほら。面倒だろう」
しれっと答えて竹林を指さした。
幻想郷の足音は二つある。一つは大地を踏みしめる音。
「否定する義理も無し、ね」
もう一つは、風を切る音だ。騒がしい真夏の突風が竹林の中を吹き抜けてくる。
「おー待たせしましたぁーッ!」
「バカやめ痛たたたた!」
その手にしっかりと妹紅の足を掴み、妹紅の体でいくつか竹を薙ぎ倒しながら、騒々しい天狗が戻ってきた。
「いやぁ妹紅さんが頑丈なおかげで予想外に早く着きました感謝感謝」
「やかましい! 死んだらどうする!」
「死なないって言ってませんでした?」
「いーや、死んだね。さっき何度か死んだかんね!」
「またまたご冗談を」
へらへらといなす射命丸を横目で見て、「客の多い日ね」と永琳は呟いた。
「はいそれでは役者が揃ったところで待望の質問タイムと洒落込みましょう!さあさあ妹紅さん静流さんが何か訊きたそうにしてますよどうですか、答えるべきだとは思いませんか思いますよねやっぱり!」
一方的にまくし立てる射命丸によって縁側に強引に座らされ、観念したように妹紅は、
「はいはい。あぁくそ、何言ってるか聞き取れん。はぁ……まあいいや、それで静流、何が訊きたいんだ? 言っとくけど、私が知ってることなんてほとんど無いかんな」
と困ったように静流を見た。
「……私の家は、陰陽師の家系なんだろう。
パチュリーにいろいろと聞いたんだ。妹紅はそのことも知っていたんだろう?」
「輝夜のヤツ、余計なことしやがって……」
「だけどきっとそれだけじゃあ無い。妹紅は滅多に自分のことを話したりしないって聞いてるよ。どうなのさ、私に何か伝えておかなきゃならない事があるんじゃないのかい」
「えーと……あれは夏目もいたし、なんとなく気が向いたんだよ」
「それが真実なら、ちゃんと私の目を見なよ。どうせ私に生半な嘘なんて通じないんだ」
睨み合うこと数秒。折れたのは妹紅だった。
「あぁもう、わかったわかった。私の負けだよ。ただし、何があったのか、後で聞くかんな」
しゃーねぇなぁ、とふてくされたように言って、
「おまえの家は私の記憶が正しければ、陰陽道の名家・土御門の分家なんだ。できたのは室町の終わり。応仁の乱の直後だったかな」
「よくそんな昔のことを覚えているね」
「知り合いだったんだ。短い間だったけどな。
まぁ歴史はこれくらいでいいとして、おまえの家には大きな役目があったんだ。むしろ、そのために創られた家っていうのかな……静流。おまえの家は、戦国の時代を連れてきた魔神を封印するための家なんだ」
「戦国時代を……? どういうことさ」
「きっと誰も信じないだろうけど、応仁の乱の背後には二柱の魔神が絡んでんだ。
一柱は戦乱を巻き起こす黒い悪龍、黒天龍王。そいつは人々を戦に駆り立てる能力があるんだが……まあいいや。とにかくそいつのせいで京都だけじゃなく、地方までゆるやかに戦火に包まれたんだ。
で、そんな泥仕合を終わらせに現れたのが白い魔神、氷刃烈火。そいつは黒天龍王とすこぶる仲が悪くて、大喧嘩をおっぱじめた挙げ句に共倒れ。結果的に乱は終わったけど、残り火で戦国時代がやってきたってわけだ」
「それは誰も信じないだろうね。どうせ人の目には見えないんだろう」
「大正解。ただ、それが見えた土御門家からすれば一大事ってことだぁな。琵琶湖に沈んでいった黒天龍王はひとまず放置して、土御門家は氷刃烈火を一人の女の中に封印した。それが——」
「私のご先祖様、ってことかい」
「そういうこと。氷刃烈火は眠ったまま、秋家の女に宿っていく。たぶん、静流の中にも。もし静流が術を使いこなせるくらいに成長したら、氷刃烈火が目覚めるかもしれん。だから私は何も教えなかったんだよ。これが私の知ってる全部だ。これでいいだろ?」
どっと疲れが押し寄せたかのように妹紅は肩を落とした。そこに、
「でも不思議な話ね。貴女は静流の両親には会ったことがないはずでしょう? どうしてわかったのかしら。秋なんて、他にもいる苗字なのに」
と永琳が口を挟んだ。妹紅はうーんと唸ると、
「なんとなーく似てたかんな。ピンときたわけだ。って、んなことはいいだろ! 私はおまえに話してたワケじゃあないぞッ!」
座ったまま跳ね上がって永琳にびしっと指を向けた。永琳は肩をすくめて、メモを取っている射命丸の隣に下がった。
「今度は静流の番だな。なんで聞きたくなったんだ?」
「瑞穂が攫われたんだよ」
「なるほどね……ってオイ! なんでそれを早く言わねぇんだ! 妹が攫われたってのに、なんでそうも悠長に——」
「悪魔みたいに強いヤツが瑞穂を攫う意味がわからない。どうすれば取り返せるのかもわからない。だから少しでも情報が必要なんだ。私の中に何か力があるのなら、それを使うためには『知らなきゃ』いけないんだよ」
「静流の……力だって?」
「そうよ。私たちは、姫様が言っていた静流の能力を探るために貴女を呼び出したの。姫様はうっすらと気付いていたみたいよ?」
「そういうことです妹紅さんあなたの協力に感謝しますよところで、肝心の能力が全く見えてきませんが氷刃烈火とやらは狼なのでしょうかそして、物が止まることに関係はあるのでしょうかさあさあズバリと!」
「ちょっと待った待った。どういうことだよ」
「どういう事もなにも、二人の言ったとおりさ。瑞穂を助けるには、あのよくわからない力くらい私の意志で使えるようにしないと、私はただの足手まといになるだけだ。そんなのは御免なんだよ。——私は、力がほしい」
真摯な目で力を渇望する静流の肩を、妹紅は狼狽した顔で掴んだ。
「使ったのか。氷刃烈火の力を」
物が止まったときのことを静流が話すと、妹紅は力無く腕を降ろした。
「大昔、私がちらりと見たのは、たしかに狼だった。あれの能力なんて私も知らんが……」
「いいさ。あれが魔神の力だって解っただけで十分だよ。おかげで瑞穂を攫った理由も見当が付いた」
その言葉に永琳も頷く。
「まぁ、おおかたその魔神の力が目当てでしょうね。でも、それは貴女の中に宿ったものでしょう? 瑞穂にも同じような力があるのかしら?」
当然といえば当然の疑問に、静流は口端を持ち上げて苦笑する。
「双子でどっちが姉か、なんて。考えるだけ馬鹿馬鹿しいじゃないか。私たちだって確信を持ってるわけじゃないんだ。みんなが静流という名前を聞いて私を姉だと言うだけで。だから私はこの名前が嫌いなんだ。誰でもないみたいだろう」
ため息混じりに愚痴を吐き出して、
「それに、私の見た狼が、瑞穂から流れてきたものかもしれないしね。まぁ、なんにせよ一緒だよ。どうせ私は助けに行くんだ」
青くほのかに光る右手を持ち上げた。
「あやや何をするつもりでしょう」
「よく見なよ。光がほんの少し傾いているだろう。そっちに瑞穂がいる……確率が高い」
「確定じゃないのかよ」
「高いだけマシだろう」
あくまで真顔の静流に一瞬うなずきかけた妹紅だったが、すぐに考え直したようにかぶりを振った。
「いやいや待てよ? 賢明な私はなにもおまえが行く必要なんざ無いってことに気付いたぜ。この私が行けば……あとは、そうだ永琳。おまえも来い。連帯責任だ」
がっしと肩を掴まれた永琳は困り顔で、
「なにが連帯なのかしら……」
「言われてみればそうだな。おまえの場合、連帯なんて言葉はいらないよな。見舞い人を連れ去られる診療所なんて、なぁ?」
にんまりとドス黒い笑みで迫る妹紅。がらが悪いせいで脅迫か何かにしか見えないが、その様子が静流にどことなく似ていて、リグルは蚊帳の外で納得の声を上げていた。類は友を呼ぶ、と。
何かと黒い噂の多い永琳にも責任を感じるところがあったらしく、嘆息混じりに首肯したのだった。
そこに揚々と乗っかってきたのは射命丸で、取材料の代わりに協力しますよとか理由を付けて反論も許さず同行を取り付けた。つまり、なにやら面白そうなので取材させろということだ。なんとも勝手な天狗だが、幻想郷でも有数の実力者には違いない。
「ちょっと戦力過剰すぎる気もするけど……まぁいいわ。姫様が帰ってくる前にすませましょうか」
「よし、決まりだな。静流と、えーと……青と緑はここで慧音を守るように」
『ひどッ』
口を揃えるチルノとリグル。
方向性こそ違うものの、この三人が組んだ今、相手が鬼の大軍でもなけりゃ負ける道理がない。この幻想郷にはもう、敵が逃げられる場所など無いように思われた。
だが、静流はなんとはなしに嫌な予感を感じずにはいられない。
どうして輝夜がタイミング良く出ていったのか。それは射命丸が関係している。つまり号外に載るような……
考えがまとまるのを待たず、嫌な予感は地を踏みしめる音と共にやって来た。
「お師匠様ー!」
芯の弱そうな声に、皆が一斉に振り向いた。
そこに立っていたのは、長い耳が少し欠けた鈴仙だった。