「081」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

081 - (2006/06/13 (火) 14:37:09) の1つ前との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

081.改竄   その男について語ろう。  彼は、暗殺者だ。そして、この茶番の参加者である。  裏切り者、と云う名のカタールを手に、森を歩いている。  此処までは、周知だ。さて、語られていない事実を、少しずつ語るとしよ う。    彼は、昔、一人の女性と出会った。遊び半分で出向いた危険な島での事 だ。  化物の様に馬鹿でかい蜻蛉に襲われて、死に掛けたところを救われた。  だから、彼は探している。其の女性を。確かに、あの集合場所で見たはず だ、と。  だが。そこに根本的な錯誤が一つ、潜んでいる。  そもそも、『何故』あの鮨詰めの部屋で、迷い無く、記憶の片隅にしかな かった様な女性の事を瞬時に把握できたのか。  何故、こうして歩き続ける自身に何の迷いも抱く事が無いのか。  改竄されている。そう、改竄されているのだ。記憶が、意識が、そして心 が。  『彼女』にしてみれば簡単な事だ。丁度、日記のページに嘘を付け加える 程度の感覚しかあるまい。    しかし、彼はその記述に忠実に従う。  曰く、探せ、と。♀プリーストを探せ、と。そして、守れ、と。  そして、改竄された彼は、自身を疑う事など在りえない。  そもそも、『自己』がはっきりと認識できる改竄など、改竄ではありえな いからだ。  言うなれば、人が己を人であるのを当然の事実として疑わないのと同じ 事。  それは、彼の行動の当然の前提だ。  正気を保ったまま、彼は狂った。   「…誰ですか?」  相も変わらず祈り続けていた司祭の女は、足音を聞き、祈りを止めた。  振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。 「久しぶりです俺ですよ俺亀島で助けて頂いた」   「…?」  朗らかに、しかしおかしな調子で喋るアサシンを彼女は知らぬ。当然だ。   「また会えて嬉しいですよこんな事になって俺最初プリさん見かけた時はど うした物かと思っちゃいましたし。 ああ心配しなくていいですよこれからは俺がプリさん守ります近づく奴は皆 殺しにしてみせますよ。 これでも武器はアタリですからきっと力になれると思いますこれが終わった らきっと一緒に公平やりましょうね楽しみだなぁ」    司祭には構わず、その男は一人で、朗らかなまま、しかしおかしな調子で 喋り続けていた。  もっとも、本人には、それは極めて普通に喋っている様にしか聞こえてい ないのだろう。  だが、残念ながら主観と客観は違う。彼がそのように聞こえている事が、 他人にも同じである、とは限らぬ。  そして、男に施された記述は、余りも稚拙で、目の前の司祭が、記憶の中 のそれとはまるで違っていても構わなかった。  或いは、彼の女は恣意的にそうしたのかもしれぬが。   「あ、あのっ…すみません。どちら様ですか?」   「仕方ないよ俺はまだあの時只のピグミンで弱っちかったからそれで覚えて ないんですよ けど俺は覚えてるから安心してくださいああ俺は君を他の奴を殺して絶対に 守って見せるから」    思考の堂々巡り。司祭が誤解を解こうと百万言を費やそうとも、結局彼が 行き着く結論は同じ。  男は、只言葉を続ける。『俺が君を守るから。守る為に他の奴は殺し尽く すから』と。  付け加えるならば、この娘と出会った時点で彼は、自らに課した一つの目 的を果たした。  それは、『司祭の女と出会う事』。  残る目的は、後一つ。『司祭の女を守ること』。  嗚呼、男の手には『裏切り者』。それを持つ男もまた『裏切り者』。   <♂アサシン=>精神操作> ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[080]] | [[目次]] | [[082]] |
081.改竄   その男について語ろう。  彼は、暗殺者だ。そして、この茶番の参加者である。  裏切り者、と云う名のカタールを手に、森を歩いている。  此処までは、周知だ。さて、語られていない事実を、少しずつ語るとしよ う。    彼は、昔、一人の女性と出会った。遊び半分で出向いた危険な島での事 だ。  化物の様に馬鹿でかい蜻蛉に襲われて、死に掛けたところを救われた。  だから、彼は探している。其の女性を。確かに、あの集合場所で見たはず だ、と。  だが。そこに根本的な錯誤が一つ、潜んでいる。  そもそも、『何故』あの鮨詰めの部屋で、迷い無く、記憶の片隅にしかな かった様な女性の事を瞬時に把握できたのか。  何故、こうして歩き続ける自身に何の迷いも抱く事が無いのか。  改竄されている。そう、改竄されているのだ。記憶が、意識が、そして心 が。  『彼女』にしてみれば簡単な事だ。丁度、日記のページに嘘を付け加える 程度の感覚しかあるまい。    しかし、彼はその記述に忠実に従う。  曰く、探せ、と。♀プリーストを探せ、と。そして、守れ、と。  そして、改竄された彼は、自身を疑う事など在りえない。  そもそも、『自己』がはっきりと認識できる改竄など、改竄ではありえな いからだ。  言うなれば、人が己を人であるのを当然の事実として疑わないのと同じ 事。  それは、彼の行動の当然の前提だ。  正気を保ったまま、彼は狂った。   「…誰ですか?」  相も変わらず祈り続けていた司祭の女は、足音を聞き、祈りを止めた。  振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。 「久しぶりです俺ですよ俺亀島で助けて頂いた」   「…?」  朗らかに、しかしおかしな調子で喋るアサシンを彼女は知らぬ。当然だ。   「また会えて嬉しいですよこんな事になって俺最初プリさん見かけた時はど うした物かと思っちゃいましたし。 ああ心配しなくていいですよこれからは俺がプリさん守ります近づく奴は皆 殺しにしてみせますよ。 これでも武器はアタリですからきっと力になれると思いますこれが終わった ら一緒に公平やりましょうね楽しみだなぁ」    司祭には構わず、その男は一人で、朗らかなまま、しかしおかしな調子で 喋り続けていた。  もっとも、本人には、それは極めて普通に喋っている様にしか聞こえてい ないのだろう。  だが、残念ながら主観と客観は違う。彼がそのように聞こえている事が、 他人にも同じである、とは限らぬ。  そして、男に施された記述は、余りも稚拙で、目の前の司祭が、記憶の中 のそれとはまるで違っていても構わなかった。  或いは、彼の女は恣意的にそうしたのかもしれぬが。   「あ、あのっ…すみません。どちら様ですか?」   「仕方ないよ俺はまだあの時只のピグミンで弱っちかったからそれで覚えて ないんですよ けど俺は覚えてるから安心してくださいああ俺は君を他の奴を殺して絶対に 守って見せるから」    思考の堂々巡り。司祭が誤解を解こうと百万言を費やそうとも、結局彼が 行き着く結論は同じ。  男は、只言葉を続ける。『俺が君を守るから。守る為に他の奴は殺し尽く すから』と。  付け加えるならば、この娘と出会った時点で彼は、自らに課した一つの目 的を果たした。  それは、『司祭の女と出会う事』。  残る目的は、後一つ。『司祭の女を守ること』。  嗚呼、男の手には『裏切り者』。それを持つ男もまた『裏切り者』。   <♂アサシン=>精神操作> ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[080]] | [[目次]] | [[082]] |

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
人気記事ランキング
目安箱バナー