「143」(2006/06/16 (金) 07:32:10) の最新版変更点
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143.花婿と花嫁~次
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──さて、その花嫁の話をしよう。
まだ、正気だった頃、彼女は、その男に憬れていた。
まるで魔法の様に鋭い剣を鍛え上げていく、彼の姿が好きだった。
彼女自身が、鍛冶師とは名ばかりで、怪物との争いに明け暮れる冒険者だったからかもしれない。
握りなれたチェインを片手に、並み居る化物を撲殺している間も。
手に入れた商品を並べた露天を、彼の露天の露天の傍にこっそり出している間も。
何気ない会話が、並べているどんなカードよりも、高価に感じられて。
彼女と、彼は青い空の下で、お互い笑い合っていられた。
ともかく、知らない間に、彼女は彼が好きになっていった。
恋、というのはえてしてそういうもの。
この鍛冶師のそれは、少し初心に過ぎるかもしれないけれど。
彼女は彼に恋していた。
それは今も同じ。
狂った彼女の世界で。
歪んでしまった彼女の視界の中で。
それだけが真っ直ぐに。
拾った包丁を片手に、歪んだ世界を歩んで、彼女は思い人に出会った。
「やっと会えたよ。やっと会えた。でも残念ね。ここが大聖堂だったらよかったのにね。
プロンテラの近くにまでこれたのにね。うふふ。貴方が花婿で私は花嫁。楽しみだなぁ」
緑色の絨毯の上。草の臭いがする草原。
恋人達が愛を誓う大聖堂のステンドグラスの光は無く。
それは、砦の向こうに見える鏡写しの首都にある。
「貴方が欲しいのぉぉぉぉぉぉぉぉ…いっしょになりましょぉぉぉぉぉぉっ!!」
女の鍛冶師は、包丁を逆手に、不明瞭な絶叫を上げて走りだした。
ざくっ。
包丁が突き刺さる、音がした。
──さて、その花婿の話をしよう。
まだ、正気だった頃、彼は、毎日の様に首都の一角で武器を鍛えていた。
何時だって成功していた訳では無い。むしろ、失敗した数の方が思い起せば多かったのだろう。
何時からだろうか。彼が、そうして武具を鍛えているのを、きらきらした目で見ている女の子が傍らに居るようになったのは。
彼は鍛冶仕事しか出来ない男だったから、何を話していいか判らなくて、彼女には何も気の利いた事が言えなかった。
鍛冶仕事なんていうのは、きっと、つまらない光景だったんだろう。
その証拠に、彼には依頼人と、数少ない同業者以外には友人、と呼べる人間が殆ど居なかったから。
それで構わなかった。特に気にしたことも無かった。
彼は、それが仕事だったし、周囲の人間達の事を彼はそんな相手として見ていた。
けれど、きらきらした目で、自分の仕事を見ているその女の子が彼は好きになっていった。
ガチン、ガチンと彼が剣を打つ度、その女の子の目は、散る火花を写しこんで、まるで宝石みたいだった。
…或いは、本当に彼にとってその女の子は宝石だったのかも知れない。
暫く時間がたって、少しの間顔を見せなかった女の子が、自分と同じ職業についていて。
はにかんだ様な笑顔で、私に手伝える事があったら言ってよ、そんな事を言われて、やっぱり返す言葉が見つからなくて。
ああ、判ったよ。期待せずに待ってる、そんな変な台詞しか出てこなかった。
何時も彼女は彼の近くに露天を出すようになっていて。
その頃には、幾ら彼でも、少し彼女の事を意識し始めていて。
不器用ながらも、短い言葉を何時も交し合っていた。
それだけが、すごく幸せだった事を覚えていた。
ともかく、気づけないでいたけれども、彼は彼女を愛していた。
何処にでも転がっている出会いでも、それは彼とって、どんな名刀よりも輝いてみえた。
幾度と無く、製作品をへし折ってしまうぐらい不器用なやりかたでも、構わなかった。
彼は、彼女を愛していた。
それは、今も何処かで悲鳴を上げている。
彼は心を壊され。
衝動に支配された、その世界の中で。
只、その執着だけが今も幽かに残っていた。
ざくっ。
包丁が突き刺さる、音が。
視線を下げると、そこで縋りつくように彼女が、彼の肩に包丁を突き刺して、笑っている。
真っ黒い衝動が、突き上げるように叫び声を上げていた。
「殺す。殺す殺す殺す。殺す殺す殺す殺すころころころころころrtdafz▲×↓~~~!!!」
斧を握る片腕に力が篭った。
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143.花婿と花嫁~次
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──さて、その花嫁の話をしよう。
まだ、正気だった頃、彼女は、その男に憬れていた。
まるで魔法の様に鋭い剣を鍛え上げていく、彼の姿が好きだった。
彼女自身が、鍛冶師とは名ばかりで、怪物との争いに明け暮れる冒険者だったからかもしれない。
握りなれたチェインを片手に、並み居る化物を撲殺している間も。
手に入れた商品を並べた露天を、彼の露天の傍にこっそり出している間も。
何気ない会話が、並べているどんなカードよりも、高価に感じられて。
彼女と、彼は青い空の下で、お互い笑い合っていられた。
ともかく、知らない間に、彼女は彼が好きになっていった。
恋、というのはえてしてそういうもの。
この鍛冶師のそれは、少し初心に過ぎるかもしれないけれど。
彼女は彼に恋していた。
それは今も同じ。
狂った彼女の世界で。
歪んでしまった彼女の視界の中で。
それだけが真っ直ぐに。
拾った包丁を片手に、歪んだ世界を歩んで、彼女は思い人に出会った。
「やっと会えたよ。やっと会えた。でも残念ね。ここが大聖堂だったらよかったのにね。
プロンテラの近くにまでこれたのにね。うふふ。貴方が花婿で私は花嫁。楽しみだなぁ」
緑色の絨毯の上。草の臭いがする草原。
恋人達が愛を誓う大聖堂のステンドグラスの光は無く。
それは、砦の向こうに見える鏡写しの首都にある。
「貴方が欲しいのぉぉぉぉぉぉぉぉ…いっしょになりましょぉぉぉぉぉぉっ!!」
女の鍛冶師は、包丁を逆手に、不明瞭な絶叫を上げて走りだした。
ざくっ。
包丁が突き刺さる、音がした。
──さて、その花婿の話をしよう。
まだ、正気だった頃、彼は、毎日の様に首都の一角で武器を鍛えていた。
何時だって成功していた訳では無い。むしろ、失敗した数の方が思い起せば多かったのだろう。
何時からだろうか。彼が、そうして武具を鍛えているのを、きらきらした目で見ている女の子が傍らに居るようになったのは。
彼は鍛冶仕事しか出来ない男だったから、何を話していいか判らなくて、彼女には何も気の利いた事が言えなかった。
鍛冶仕事なんていうのは、きっと、つまらない光景だったんだろう。
その証拠に、彼には依頼人と、数少ない同業者以外には友人、と呼べる人間が殆ど居なかったから。
それで構わなかった。特に気にしたことも無かった。
彼は、それが仕事だったし、周囲の人間達の事を彼はそんな相手として見ていた。
けれど、きらきらした目で、自分の仕事を見ているその女の子が彼は好きになっていった。
ガチン、ガチンと彼が剣を打つ度、その女の子の目は、散る火花を写しこんで、まるで宝石みたいだった。
…或いは、本当に彼にとってその女の子は宝石だったのかも知れない。
暫く時間がたって、少しの間顔を見せなかった女の子が、自分と同じ職業についていて。
はにかんだ様な笑顔で、私に手伝える事があったら言ってよ、そんな事を言われて、やっぱり返す言葉が見つからなくて。
ああ、判ったよ。期待せずに待ってる、そんな変な台詞しか出てこなかった。
何時も彼女は彼の近くに露天を出すようになっていて。
その頃には、幾ら彼でも、少し彼女の事を意識し始めていて。
不器用ながらも、短い言葉を何時も交し合っていた。
それだけが、すごく幸せだった事を覚えていた。
ともかく、気づけないでいたけれども、彼は彼女を愛していた。
何処にでも転がっている出会いでも、それは彼とって、どんな名刀よりも輝いてみえた。
幾度と無く、製作品をへし折ってしまうぐらい不器用なやりかたでも、構わなかった。
彼は、彼女を愛していた。
それは、今も何処かで悲鳴を上げている。
彼は心を壊され。
衝動に支配された、その世界の中で。
只、その執着だけが今も幽かに残っていた。
ざくっ。
包丁が突き刺さる、音が。
視線を下げると、そこで縋りつくように彼女が、彼の肩に包丁を突き刺して、笑っている。
真っ黒い衝動が、突き上げるように叫び声を上げていた。
「殺す。殺す殺す殺す。殺す殺す殺す殺すころころころころころrtdafz▲×↓~~~!!!」
斧を握る片腕に力が篭った。
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