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**&font(b){独自兵器開発:エアバイク } &blankimg(123.jpg,width=600,height=440) &font(red){↑クリックで拡大表示}                                          作:SOUさん ---- #center(){&font(b){設定文章}} &font(blue){【独自兵器開発記念ゲーム】} Aの魔法陣によるビギナレース大会 (前編):[[http://74405495.at.webry.info/200705/article_1.html>http://74405495.at.webry.info/200705/article_1.html]] (後編):[[http://74405495.at.webry.info/200705/article_2.html>http://74405495.at.webry.info/200705/article_2.html]] ---- ○BIGINA-B01 ピケ わんわん帝國ビギナーズ王国で開発が進められた歩兵用兵器。 偵察能力に劣る帝國のI=Dを補助する目的で開発されているため、各種センサーと情報処理機能が内蔵されている。反面、兵装は皆無となっている。また、静粛性の確保に技術が投下されている。 ジャイロを回転させることによる重力制御による浮遊機構と、ロケット噴出による推進機構をもつ。通常の2輪バイクではなく、エアバイクが開発された最大の理由はその高い走破性である。開発が行われたビギナーズ王国では一年の多くが雪に覆われるため、雪上においても迅速に歩兵を運用する必要があった。ロケット噴出機構は急発進・急制動を可能とするために採用された。ロケット噴射に伴う騒音は、逆波長の振動を発生するノイズキャンセラーが組み込まれ、静粛性が確保されている。 操縦は体重移動とフットペダルによる。前部風防裏にグリップが用意されているものの、両手を自由にした操縦を前提にした設計になっている。自由となった両手により戦闘あるいは前部風防裏にあるコンソールの情報処理を行う。 各種センサは高速で移動する際の障害物探知にも利用されるが、その主たる目的は敵陣に潜入した際の偵察、情報収集用である。敵部隊の発見のみならず、周囲の地形の解析、敵武装の分析が行われる。部隊の先駆けとして戦場を疾走し、情報を収集、火力部隊の運用を促すことこそがエアバイクの本領であるといえる。 所属   わんわん帝國 全長   2.4m 全高   1.1m 乾燥重量 300kg 使用用途 陸戦/偵察 機動性  最高 センサー 優秀 装甲   最低 搭乗者  1名 固定武装 なし 推力   静止500kg ステーション なし 装備可能武装 なし 機能:空中・水上移動、シーカー装備、サーマルセンサー・レーダー・ソナー等の各種センサーとその情報を処理する高性能コンピュータ、姿勢制御コンピュータ、各種状況をパイロットに伝えるコンタクト型網膜投影式モニター ---- 独自兵器開発史 ■始まりはハリセンから ・ボケーズとツッコミーズ ビギナーズ王国、十数名のフィクションノートを抱えるこの国では、建国以来、体がギャグで出来ているボケーズと常識人集団ツッコミーズがいつ終わるともしれない抗争を繰り返してた。 ボケーズ筆頭はビギナーズ王国が誇る摂政SOU。今は亡き執政刻生。そして両刀使いといいつつボケーズに走った、ウィルことWyrd=紘也。後に星青玉、ピストンを加えて陣容を厚くすることとなる。 一方のツッコミーズ筆頭は執政SW-Mである。ツッコミーズはS×H、tacty、ニーズホッグ、amurといった人数の面ではボケーズを圧倒する勢力を築いていた。しかし、積極的にボケーズに対して統制を加えるのは執政SW-Mのみであり、実働戦力としてはボケーズに遅れをとってしまっていた。 ちなみに、ツッコミーズの中でyuzuki、西條による天然コンビが独自勢力を築きつつあるが、それはまた別の話である。 ・斬艦ハリセン登場 「スパーンッ!!!」 一閃。振り上げられたハリセンの軌跡。星になったSOU。 トモエリバーの試験飛行を無事に終え、帰ってきた宴席の最中にも、ボケーズとツッコミーズは互いにしのぎを削っていた。 隙あらばボケを噛まそうとするボケーズと、常在戦場といわんばかりに鋭く反応するツッコミーズ。 その夜。両者の対立の均衡を崩す者が現れた。ウィルである。 ツッコミとして名を馳せていたウィルは突如パンダの着ぐるみで現れたのだった。 この奇行にボケーズとツッコミーズのバランスは崩壊。全フィクションノートがツッコミを開始した。 これに対しウィルは華麗にツッコミをスルーし、遂にSW-Mのハリセンまでも無効化してしまった。 そのウィルを叩き切ったのがSW-Mが持ち出した斬艦ハリセンであった。 材質はトモエリバーの装甲板を流用し、一枚一枚研ぎ澄まされた扇子状部位。紙と呼ばれたその装甲も、軽量が故の使い回し。その末端には高周波振動装置が内蔵されており、あらゆる物を叩き切る。 斬艦ハリセンを振りかぶったSW-Mの表情は、もはや常識人のそれとはかけ離れていた。 藩王会議の開催通知により事なきを得た宴席であったが、出席者の心胆は震え上がっており、斬艦ハリセンの名は王国全土に轟いたのだった。 ・独自兵器開発開始 81207002。になし藩国への根源種族侵攻ならびに撃退作戦から帰還した藩王たくまは、バトルメード達の帰還を待って、戦力強化に乗り出した。フィクションノートの意見を受けて実施した政策の一つが独自兵器開発の検討とコンペティションの開催であった。第一次独自兵器開発コンペである。 藩王たくまは独自兵器開発に、戦力強化のみならず、王国のアピール的な要素も期待していた。当時のビギナーズ王国はわんわん帝國の中において資産的には中規模、その中でも比較的恵まれている方であった。しかし、知名度という点からは帝國に限っても低く、外交窓口も摂政SOUに限られていたために、友好的な関係にある藩国も皆無といえた。独自兵器により、中小藩国群の一つという立場から抜け出そう、それが藩王たくまの狙いであった。 第一次コンペには多くのフィクションノートから募集が寄せられた。 「斬艦ハリセンをっ!」「巨大ハリセンをっ!」 SW-Mの斬艦ハリセンを求める声。 「パンダ量産の暁にはっ!」 ウィルのパンダを求める声。 ツッコミーズとボケーズの抗争を象徴するかのような意見対立はみられたものの、大勢は斬艦ハリセンに傾きつつあった。 藩王は半ば呆れながらも、フィクションノート達の熱意を受け、独自兵器開発を進める決意を固めていた。 ■戦艦だっ!戦艦しかない! ・方針転換 独自兵器の開発自体は既定路線として国家政策になりつつあった。 しかし、開発者である執政SW-Mの個人レベルでは斬艦ハリセンの開発が進められていたものの、その正式採用は噂の域を出なかった。 この背景には当時の世界情勢が大きく影響している。 当時は未だ同時多発爆発事件すら勃発しておらず、戦争がどのような展開となるのか判断することはできなかった。 技術力の面では他国に遜色のない王国であったが、積極的な工業化を避けたために工業力が限られていた。 そのため、開発能力への工業力の割り振りには細心の注意が求められており、藩王たくまは迂闊な決断をすることができなかった。 ハリセン、パンダと歩兵用兵装への関心の流れが急転換する事件が起こる。 同時多発爆発に端を発する根源種族の本格侵攻である。 根源種族、とくにアラダの戦闘能力は圧倒的であった。 この時のビギナーズ王国の戦力はトモエリバー6機とバトルメード部隊。 トモエリバーは同時期ににゃんにゃん共和国で次々とロールアウトされていた新型機に比べると、大きく見劣っていた。 バトルメードは援軍能力により帝國全体の戦力不足をカバーする役目を果たしていたが、純粋に戦力として評価すると心許なかった。 独自兵器の開発も王国の戦力増強策として注目されることとなる。 こうして、王国内での独自兵器開発議論が活発化する。そして、第二次独自兵器開発コンペの開催が高らかに宣言された。 ・深まる対立 第二次コンペの議論の対象は歩兵用兵装からキャリアへと移っていた。 「戦闘機だ。航空偵察で、帝國の偵察国家として名を馳せるんだ!」 「RBだ。もうトモエの時代は終わった!」 「小型戦艦だ。アイドレス初の機動戦艦をっ!!」 「やはり斬艦ハリセンが・・・」 各々全く異なるタイプの意見が提出され、議論は紛糾。 藩王たくまを始め、戦闘機を望むものは、その機動性と制空能力に魅せられていた。 ピストンは、RBのポテンシャルに期待をかけていた。 SOUは、自国のアイドレスの戦力の低さに注目し、大型のI=D、小型戦艦への戦力集中を訴えた。 一方で、ニーズホッグやタルクは斬艦ハリセンへの思い入れを改めてアピールした。 摂政の思い入れは特に強かったようだ。ある日、フィクションノートを召集し、彼らの前で熱く戦艦への思いを語った。 「私はあるアニメが好きなんだ。 その戦艦は単艦で行軍するのだよ。重力制御で攻撃する砲と人型機動兵器のみを頼りに。 自分達が信じる正義をなすために宇宙を駆けめぐるんだ。 その正義は一度くじけるのだけれど・・・再び立ち上がって彼らの正義を為すんだっ! 何が言いたいかというと・・・そうだ。ロマンだ。戦艦にはロマンがあるんだっ! そしてオペレーターの女の子に『馬鹿ばっか』と言われたいんだっ!」 摂政の演説もむなしく、第二次コンペは多数の意見が乱立する結果となる。 その後、議論は継続され、様々な兵器案がその対象となった。 たくまやSOUが必至に意見の収集に努め、議論の方向を固めつつあったものの、決定打ともいえる意見は未だ見えなかった。 ■キノウツンの衝撃 ・歩兵大活躍 作戦名「The thing which removes a mistake」 。 青森救出を目的としたこの作戦は、戦団長海法による歩兵の運用が脚光を浴び、歩兵の再認識がなされた作戦である。 ビギナーズ王国国民もこの作戦に従事しており、独自兵器の開発にも大きな影響を与えることとなる。 歩兵の運用に注目したのはエアバイク派である。 作戦前から歩兵の機動兵器の提案はなされていたため、作戦の結果は彼らを大いに発憤させることになる。 一方で、作戦を決定づけた火力に注目したのは戦艦派である。 すでに戦艦を提案した摂政SOUはエアバイクを提案し、その中核で活動していたが、彼の意見を引き継ぎ戦艦開発を主張していた。 藩国の意見は依然収拾には至らなかった。 藩王たくまとしてはこのまま議論の終結を待つわけにはいかない。決断の時は迫っていた。 たくまは最終的な決定をフィクションノートの投票に委ねた。 投票はたくまが好んで取る意思決定であった。 投票は最適な意思決定手段とはいえないが、国民へ主権を付加し、国民の政策参加を促す効果はある。 中小藩国の藩王たくまの処世術であったといえる。 投票は案の定エアバイクと戦艦に意見が割れる結果となる。 なお、この時、動物兵器を希望する意見が形成されつつあったが、時は既に採択の局面に移っていた。 採択されたのはエアバイクだった。 そして、amurは一人こう訴えるのだった。 「航空機に乗りたい」と。 ■エアバイクの開発 投票の結果を受けて、エアバイクの開発が高らかに宣言された。 ビギナーズ王国技術者陣は歓声を上げてこれを迎え入れた。 王国の技術者達は独自兵器開発宣言から散々準備を続けて、ひたすら本採用を待ち続けていたのだった。 隠れて試作型の作成を行うものすらいた。 技師でもある摂政SOUもその例に漏れず、既にエアバイクの試作機を完成させていた。 藩王たくまはSOUを中心に正式な開発計画を立ち上げた。 開発総指揮兼技術主任SOU。 開発事務官兼記録官ピストン。 そして、ビギナーズ王国技術開発局と王国吏族を動員したエアバイクの開発が始まった。 ■開発宣言 81407002。 ビギナーズ王国で長期に渡り議論が続けられた独自兵器の開発問題もようやくの解決を迎えようとしていた。 エアバイク。I=Dに先んじて行動し、戦場を駆けめぐる機動歩兵部隊の設立を目指した歩兵支援兵器が、投票により最多得票を得たのである。 藩王たくまは独自兵器開発計画発動を宣言。ここにエアバイクの開発が始まった。 開発総指揮には、摂政のSOUが任じられた。彼は、多忙な身なれど技術主任も兼任することになっている。 他のフィクションノートとして、開発事務官としてピストンがあてられた。 その職務は書類の準備から、開発資材の発注、工場ラインの確保などであり、有り体に言えば雑用である。 また、同時に文族として開発計画を記録することにもなった。 その他、量産機製作にはビギナーズ王国技術開発局の職員があてられ、吏族達が事務官団としてピストンを補佐した。 ■試作機の分析 開発決定を待たずに試作機を作り上げていた人物がいた。ビギナーズ王国の摂政SOUである。 王国の摂政業務に加えて、参謀府においても獅子奮迅の活躍をする彼は、独自兵器の開発においても正式決定を待たずにエアバイクの試作機を完成させていた。この人は一体いつ寝ているのか?フィクションノート達の疑問がさらに深まる離れ技であった。 激務のただ中にあるSOUが開発担当に任ぜられたのも、偏に彼が試作機を作り上げたからである。 「うむむ・・・」 試作機を目の前に技術者達が頭をかかえていた。 「いかがいたしました?」 油の臭いが漂う整備工場に不釣り合いのエプロンドレスを身にまとったメードが尋ねる。 「おう、ピストンかよ。危ないからすっこんでろ。」 棘のある言葉にピストンがたじろぐ。 別に技術者と事務官の仲が悪いわけでも、職人意識が素人を拒んでいる訳でもない。ただ、メードガイを毛嫌いしていた。 メードガイ。多くの藩国がそうであるように、王国のフィクションノートにおいてもメードのほとんどが男性であった。 ピストンもその例に漏れず、北国人特有の美しい容姿と化粧、服装でごまかしているものの、立派な男性であった。 美しい容姿といっても、北国人からすれば当たり前の話であるので、男性が女装している姿が気分のいいものではない。 さらに、技師の一人yuzukiは王国唯一の女性メードであった。 yuzukiは技術者として一流でありながら、愛嬌のある顔立ちの持ち主である。その上、彼女の振る舞いはどこか人を和ませる。 その上でメード服である。自然、技術者達の中にもyuzukiのファンは多い。 開発局などでメード服を見かけ、「yuzukiたん♪」とつい反応した挙げ句、よくよく見ると摂政だった。 なんてことが日常茶飯事である技術者にとってメードガイは敵である。 そして、技術陣にとって腕の見せ所である独自兵器開発の現場に現れたのが、SOUとピストンのメードガイ二人。 まさに悪夢であった。 SOUは試作機を仕上げた後、別の職務に追い立てたれていたため、現場に顔を出すのはピストンのみ。 自然、ピストンは技術者達の憎悪を一身に受けることになっていた。 一方のピストンは慣れない事務仕事に加えての、この仕打ちである。 結局、この日も最低限の仕事を回すのが精一杯で家路につこうとしていた。 「えらく落ち込んでいますね。」 居酒屋でひたすらビールを飲み続けるピストンに声をかけたのはニーズホッグだった。 「んああ。ニーズさん。」 ニーズホッグの顔を見て、ピストンの表情が弛緩する。 落ち着いた物腰のニーズホッグは、SOUのように派手に立ち回ることはないものの、その仕事ぶり、振る舞いから周囲の信頼が厚い。 「ニーズさぁぁん。聞いて下さいよぉ。」 頬も赤くなり、すっかり酔いの回ったピストンは、持っていたジョッキを飲み干しながら愚痴り出した。 「なるほど。わかりました。」 半ば泣き言に近くなっていたピストンの説明を聞き終えたニーズホッグは、手元のウィスキーのグラスを空けると立ち上がってピストンの肩を叩いた。 「まぁ、技術開発局の件はお手伝いしますよ。それよりだいぶお疲れのようですから。今日はもうゆっくり休んで下さい。」 そう促してのぞき込むと、ピストンはうとうとと、船を漕ぎ始めていた。 翌日、整備服姿のニーズホッグが顔を出すと、技術者達の態度は違っていた。 試作機を囲みながら状況を確認すると、どうやら浮遊機構がよく理解できない構造になっているらしい。 エアバイクの要になる部分であるため、ゆめゆめ疎かにはできない部分である。 試作機設計者のSOUはここのところ参謀府に出払っているためか政庁にもほとんど姿を見せない。 幸い浮遊機構については、ニーズホッグに当てがあるらしい。翌日、クルクル文化圏だかどうだか説明していた。 ピストン一人で工場に赴くとまだぎこちない部分はあるが、量産機の製作は何とか軌道にのりそうだった。 ■テスト走行 春めいてきた王国の首都外環道路を一台の車が走っていた。制限速度を超えているようだが、見なかったことにして欲しい。 今日は量産機の雪上走行テストの日である。大事なテストの日である。そのテストに遅刻、していた。。。 別にピストンが時間にルーズだから、とか寝坊しがちだから、とかいうのは普段の日常なのだが、今回だけは違う。 テストパイロットとして依頼していたS×Hが、急遽参謀府から出頭要請を受けていたのだ。連絡を受けたピストンが慌てて、車で参謀府まで迎えに行く。 参謀府で出会ったS×Hは見る影もなくやつれていた。顔色は悪く、目はうつろ。髪は真っ白になっていた。 「大丈夫、さあ急ごう。。zzz」と、助手席に乗り込んだS×Hは出発前に眠り込んでいた。 全然大丈夫じゃないS×Hを横目に、ピストンは車を走らせた。 首都郊外の空き地を借りた仮設テスト会場にたどり着くと、すでに技術者の面々が準備を整え、首を長くして待っていた。 首都南部の雪原はまた雪が降り積もっており、一面の銀世界である。 そこに鎮座するエアバイク。真っ白なボディが周囲の色と同化しつつも、その流線的なボディは機会オンチなピストンにも鮮烈に映った。 「へぇ。これですか。新型機ってやつは。」 傍らに立ち新型機を見つめるS×Hの目は輝き、生気を取り戻してる。 パイロットスーツに着替えた後、軽いブリーフィングを行う。 スペック的な話ならばピストンが車の中で行ってもよかったのだが、何せ移動中は貴重な睡眠時間であったし、S×Hはピストンからまともな説明が聞けるとは思っていなかった。 すっかり取り残されたピストンを尻目に、技術者と話し込んだ後、「やっぱり乗ってみないとな」と、エアバイクにまたがった。 「ところでピストンさん、コイツの名前はなんていうんですか?」 突然名前を聞かれてピストンは戸惑った。技術者とは「バイク」で通っていたし、そもそも名称なんて考えていない。 「い、いや、まだ決まってませんよ。」 名前か、どうしたものかな?と考えていると、S×Hは不満そうだった。 「これから命を預ける機体に名前がないなんて愛がない。」 そうだな・・・と考え込んだS×Hは、機体を触り始める。 「うん。そうだ。ピケにしよう。決まり。」 「えっ?」 呆気にとられたピストンを意に介さず、S×Hは続ける。 「おし、ピケ。よろしくなっ。」 そう言うと、S×Hは何かを握り目をつぶった。彼なりの精神集中であることは、依然I=Dに同乗した時に知っていた。 それにしても・・・勝手に名前を決めていいのかな? ピストンはそう思いもしたが、この日を境に公式文書にエアバイクの名称としてピケが登場することになる。 目を見開いたS×Hは話しかけるのも躊躇われるほど顔つきが変わっていた。 ピケはキーを差し込まれ静かに起動した。白銀の機体が音もなく浮かび上がる姿は幻想的であった。 最初ピストンがピケをみた時には何かの魔法か尋ねたものだったが、どうやら違うらしい。ニーズホッグさんによれば、クルクル文化圏というところで開発された科学技術で、ジャイロの回転を利用して定常的に反重力を生成する技術らしい。 小一時間ほどかけて原理について説明してくれたのだが、ピストンにはさっぱり理解することができなかった。 フットペダルに徐々に荷重がかけられる。遊びを越えた当たりでスラスターが点火され、ピケが前身を開始した。 時速90kmほどに達したところで今度は旋回。旋回は体重移動によるため、通常のオートバイと同じ感覚で操縦できる。 そして、さらに加速を続ける。時速150km、180km・・・時速200kmを超えたところで、減速。 戻っていたS×Hは満足そうだった。 「うん。気持ちいいね。次はリミッター外してみよう。」 技術者の顔が蒼白になる。エアバイクに搭載されたロケットブースターは急発進・急制動を可能とするために出力を高めに設定されていた上、未調整であったためにリミッターが設定されていた。浮上するエアバイクでは路面との摩擦抵抗が発生しないため、通常のバイク以上の速度による走行が可能である。先ほどの走行でも軽く時速200kmは出ていた。おそらくリミッターをカットすれば300km、400kmでの走行も可能になる。 しかし、そんなレーサーでもない機体で最高速を追求する意味はない。また、貴重なテストパイロットであるS×Hの危険を考えるととても容認することはできない提案だった。結局ニーズホッグがなだめることよって、事なきを得るに至る。 テストの結果は早速量産機にフィードバックされることになる。 こうしたテストや、耐久テストなどは短期間ながら繰り返され、エアバイクの量産に向けてツメの調整が進められた。この代償としてS×Hが過労気味になり、参謀府でぶっ倒れる、という事件がおこるのだが、それはまた別の話である。 そして量産に向けた障壁は技術面だけではなかった。 ■生産開始 機体の調整の裏側では、膨大な書類仕事がピストンを待っていた。 実務に関してはほとんど吏族達に丸投げしていたのだが、それでもピストンが処理すべき問題は山積みである。 そもそも吏族でなく、事務仕事経験がほとんどないピストンの仕事の効率が極端に悪いせいもあるのだが、突貫の計画であるために問題が紛糾していたからだ。資材の追加調達、バイク業界との折衝、追加予算の申請書類。 臨時に設けられた執務室に山積みの書類を前に、現実逃避の欲求に駆られるピストンであったが、泣く泣く仕事を続けるのであった。 今日も生産ラインの確保に国内をかけずり回ってきたところである。 元々生産ライン自体は計画発動前から確保されていたのだが、王国には独自のI=D生産ラインを持たないために初期配備の数を少しでも確保しようと腐心していたのだった。 「まずい・・これ以上仕事が遅れると、計画の遅延がますます進行してしまう。。。」 この時点で計画の遅延は必至であった。それでも、ここで妥協しては、と泥沼にはまっているピストンであった。 「調子はどうですか?って、大変なことになってますね。」 執務室を訪れたのはtactyだった。吏族・護民官・参謀の資格を有し、その事務能力には定評のある人物である。 王国の財務処理やフィクションノートの根源力などの監査・管理業務を積極的に指揮し、国内での実績を着実に積み上げている。 対外的にも参謀での戦力集計業務を中心に忠実に職務をこなし、最近では宰相の補佐官に登用されるという噂があるほどである。 「た、tactyさ~ん」 どうでもいいが、ピストン。泣き言を上げてばかりである。 「はいはい。ピストンさん、一人で仕事やりすぎなんですよ。もっと他の人間を使って上げないと。」 と言いつつ、積み上げられた書類に次々と目を通し、内容、重要度、緊急性によって整理を始める。 「自称丸投げ師は伊達じゃありませんよ」 目は書類に向けながらも、にこやかに微笑みながら、そう告げる。 「ピストンさんはここに積んだ書類から処理を始めて下さい。吏族で出来る仕事、摂政か執政に回す仕事、藩王に奏上する仕事はとりあえず振り分けておきますので。」 その後も、暇をみてはtactyはピストンの下を訪れ、仕事の振り分け、事務処理の協力を行った。 いよいよ、国内の生産能力をあげての独自兵器の生産が開始されることとなる。 ■摂政の暗躍 遂にエアバイクのロールアウトを目前に控えたその日。 ピストンはせめてもの感謝と労いにと、ニーズホッグ、S×H、tactyら、フィクションノートの面々に加えて、主要な技術者、吏族を招いての酒宴を設けていた。 大概の酒宴ではピストンは酒が進むに連れて暴走を始め、混乱の極地の中でお開きとなるのだが、今日に限ってはピストンも大人しいものだった。しかし、抑えられたエネルギーは間違えた方向へ発散されようとしていた。 「大体、摂政はどこにいってるんだっつーの。」 疲れのためか普段より早く顔を赤くしているピストンは、ここぞとばかりに積み上げられた不満を口にした。 「結局計画中あの人の姿全然みてねーよ。。。一応総指揮なら肩書きらしく・・」 「ピストンさん、それ、違いますよ。」 ピストンが愚痴りはじめたのをみて、ニーズホッグが穏やかな口調で否定する。 「確かに摂政は色々制約があって、満足に動けていなかったかもしれませんが、立派に職務を果たしてましたよ。大体、私がここにいるのも摂政の指示ですし。」 「えっ?」呆気にとられるピストン。 「あっ、その意味では私も一緒ですよ。結局こっちに回った分の参謀府の仕事肩代わりしてくれたのは摂政ですしね。」 S×Hもニーズホッグに賛同する。 「うんうん。私も摂政の指示がありましたしね。」 tactyはさらに続ける。 「あの方、ピストンさんがぐるぐるしているのを察して、色々人回していたんですよ。その上、昨日までエアバイクに追加武装積めないか検討続けていたみたいですよ。ピストンさんも書類みているはずでしょう?」 にやり、としながら発せられたtactyの言葉に、ピストンの記憶が一致する。 「あっ、そういえば。。。」 生産ラインが稼働した後にもかかわらず、追加武装の検討と試算に関する書類が提出されていて、不信に思っていたのだ。 「彼らのメードガイ嫌いも一番よく知っているのは摂政ですし。」 ニーズホッグが隣のテーブルで酒を呑む技術者達を見ながら、tactyの言葉を補う。 「結局、あの人の手の上で踊っていたわけですか。。。」 ピストンは憮然とした、どこかやりきれない表情ながら、摂政を思う。 「まぁ、今日この場に摂政がいたら面白い光景が見れたんでしょうけどねぇ?」 S×Hが面白がってピストンを冷やかす。 S×Hの言葉に、自分が摂政に完膚無きまでに打ちひしがれている姿を想像したピストンは身震いする。 その様に一堂が笑いを堪えていると、最後の参加者が登場した。 宴席は計画総指揮の苦労を労い無事に終了した。思えば摂政が五体満足で済む宴席も珍しいものであった。 こうしてビギナーズ王国の独自兵器は、エアバイク「ピケ」として日の目をみることになる。 願わくばピケが帝國の目となり足となり、王国の勇壮を讃える機体とならんこと。                                                    作:ピストンさん ---- #back(left)
**&font(b){独自兵器開発:エアバイクピケ } &blankimg(123.jpg,width=600,height=440) &font(red){↑クリックで拡大表示}                                          作:SOUさん L:エアバイクピケ={  t:名称=エアバイクピケ(騎跨装備)  t:評価=なし  t:特殊={   *エアバイクピケの騎跨装備カテゴリ = バイクとして扱う。   *ピケはウォードレスを含む歩兵、偵察兵が使うことができる装備である。   *ピケを装備する歩兵・偵察兵のARに+3する。   *ピケを装備する歩兵・偵察兵の中距離移動で消費するARは1である。   *エアバイクピケの人機数=0.5人機として扱う。  } →次のアイドレス:・変形型エアバイクI=D(乗り物)・サイドカーの開発(乗り物)・対戦車ライフル付きエアバイク(乗り物) } ---- #center(){&font(b){設定文章}} &font(blue){【独自兵器開発記念ゲーム】} Aの魔法陣によるビギナレース大会 (前編):[[http://74405495.at.webry.info/200705/article_1.html>http://74405495.at.webry.info/200705/article_1.html]] (後編):[[http://74405495.at.webry.info/200705/article_2.html>http://74405495.at.webry.info/200705/article_2.html]] ---- ○BIGINA-B01 ピケ わんわん帝國ビギナーズ王国で開発が進められた歩兵用兵器。 偵察能力に劣る帝國のI=Dを補助する目的で開発されているため、各種センサーと情報処理機能が内蔵されている。反面、兵装は皆無となっている。また、静粛性の確保に技術が投下されている。 ジャイロを回転させることによる重力制御による浮遊機構と、ロケット噴出による推進機構をもつ。通常の2輪バイクではなく、エアバイクが開発された最大の理由はその高い走破性である。開発が行われたビギナーズ王国では一年の多くが雪に覆われるため、雪上においても迅速に歩兵を運用する必要があった。ロケット噴出機構は急発進・急制動を可能とするために採用された。ロケット噴射に伴う騒音は、逆波長の振動を発生するノイズキャンセラーが組み込まれ、静粛性が確保されている。 操縦は体重移動とフットペダルによる。前部風防裏にグリップが用意されているものの、両手を自由にした操縦を前提にした設計になっている。自由となった両手により戦闘あるいは前部風防裏にあるコンソールの情報処理を行う。 各種センサは高速で移動する際の障害物探知にも利用されるが、その主たる目的は敵陣に潜入した際の偵察、情報収集用である。敵部隊の発見のみならず、周囲の地形の解析、敵武装の分析が行われる。部隊の先駆けとして戦場を疾走し、情報を収集、火力部隊の運用を促すことこそがエアバイクの本領であるといえる。 所属   わんわん帝國 全長   2.4m 全高   1.1m 乾燥重量 300kg 使用用途 陸戦/偵察 機動性  最高 センサー 優秀 装甲   最低 搭乗者  1名 固定武装 なし 推力   静止500kg ステーション なし 装備可能武装 なし 機能:空中・水上移動、シーカー装備、サーマルセンサー・レーダー・ソナー等の各種センサーとその情報を処理する高性能コンピュータ、姿勢制御コンピュータ、各種状況をパイロットに伝えるコンタクト型網膜投影式モニター ---- 独自兵器開発史 ■始まりはハリセンから ・ボケーズとツッコミーズ ビギナーズ王国、十数名のフィクションノートを抱えるこの国では、建国以来、体がギャグで出来ているボケーズと常識人集団ツッコミーズがいつ終わるともしれない抗争を繰り返してた。 ボケーズ筆頭はビギナーズ王国が誇る摂政SOU。今は亡き執政刻生。そして両刀使いといいつつボケーズに走った、ウィルことWyrd=紘也。後に星青玉、ピストンを加えて陣容を厚くすることとなる。 一方のツッコミーズ筆頭は執政SW-Mである。ツッコミーズはS×H、tacty、ニーズホッグ、amurといった人数の面ではボケーズを圧倒する勢力を築いていた。しかし、積極的にボケーズに対して統制を加えるのは執政SW-Mのみであり、実働戦力としてはボケーズに遅れをとってしまっていた。 ちなみに、ツッコミーズの中でyuzuki、西條による天然コンビが独自勢力を築きつつあるが、それはまた別の話である。 ・斬艦ハリセン登場 「スパーンッ!!!」 一閃。振り上げられたハリセンの軌跡。星になったSOU。 トモエリバーの試験飛行を無事に終え、帰ってきた宴席の最中にも、ボケーズとツッコミーズは互いにしのぎを削っていた。 隙あらばボケを噛まそうとするボケーズと、常在戦場といわんばかりに鋭く反応するツッコミーズ。 その夜。両者の対立の均衡を崩す者が現れた。ウィルである。 ツッコミとして名を馳せていたウィルは突如パンダの着ぐるみで現れたのだった。 この奇行にボケーズとツッコミーズのバランスは崩壊。全フィクションノートがツッコミを開始した。 これに対しウィルは華麗にツッコミをスルーし、遂にSW-Mのハリセンまでも無効化してしまった。 そのウィルを叩き切ったのがSW-Mが持ち出した斬艦ハリセンであった。 材質はトモエリバーの装甲板を流用し、一枚一枚研ぎ澄まされた扇子状部位。紙と呼ばれたその装甲も、軽量が故の使い回し。その末端には高周波振動装置が内蔵されており、あらゆる物を叩き切る。 斬艦ハリセンを振りかぶったSW-Mの表情は、もはや常識人のそれとはかけ離れていた。 藩王会議の開催通知により事なきを得た宴席であったが、出席者の心胆は震え上がっており、斬艦ハリセンの名は王国全土に轟いたのだった。 ・独自兵器開発開始 81207002。になし藩国への根源種族侵攻ならびに撃退作戦から帰還した藩王たくまは、バトルメード達の帰還を待って、戦力強化に乗り出した。フィクションノートの意見を受けて実施した政策の一つが独自兵器開発の検討とコンペティションの開催であった。第一次独自兵器開発コンペである。 藩王たくまは独自兵器開発に、戦力強化のみならず、王国のアピール的な要素も期待していた。当時のビギナーズ王国はわんわん帝國の中において資産的には中規模、その中でも比較的恵まれている方であった。しかし、知名度という点からは帝國に限っても低く、外交窓口も摂政SOUに限られていたために、友好的な関係にある藩国も皆無といえた。独自兵器により、中小藩国群の一つという立場から抜け出そう、それが藩王たくまの狙いであった。 第一次コンペには多くのフィクションノートから募集が寄せられた。 「斬艦ハリセンをっ!」「巨大ハリセンをっ!」 SW-Mの斬艦ハリセンを求める声。 「パンダ量産の暁にはっ!」 ウィルのパンダを求める声。 ツッコミーズとボケーズの抗争を象徴するかのような意見対立はみられたものの、大勢は斬艦ハリセンに傾きつつあった。 藩王は半ば呆れながらも、フィクションノート達の熱意を受け、独自兵器開発を進める決意を固めていた。 ■戦艦だっ!戦艦しかない! ・方針転換 独自兵器の開発自体は既定路線として国家政策になりつつあった。 しかし、開発者である執政SW-Mの個人レベルでは斬艦ハリセンの開発が進められていたものの、その正式採用は噂の域を出なかった。 この背景には当時の世界情勢が大きく影響している。 当時は未だ同時多発爆発事件すら勃発しておらず、戦争がどのような展開となるのか判断することはできなかった。 技術力の面では他国に遜色のない王国であったが、積極的な工業化を避けたために工業力が限られていた。 そのため、開発能力への工業力の割り振りには細心の注意が求められており、藩王たくまは迂闊な決断をすることができなかった。 ハリセン、パンダと歩兵用兵装への関心の流れが急転換する事件が起こる。 同時多発爆発に端を発する根源種族の本格侵攻である。 根源種族、とくにアラダの戦闘能力は圧倒的であった。 この時のビギナーズ王国の戦力はトモエリバー6機とバトルメード部隊。 トモエリバーは同時期ににゃんにゃん共和国で次々とロールアウトされていた新型機に比べると、大きく見劣っていた。 バトルメードは援軍能力により帝國全体の戦力不足をカバーする役目を果たしていたが、純粋に戦力として評価すると心許なかった。 独自兵器の開発も王国の戦力増強策として注目されることとなる。 こうして、王国内での独自兵器開発議論が活発化する。そして、第二次独自兵器開発コンペの開催が高らかに宣言された。 ・深まる対立 第二次コンペの議論の対象は歩兵用兵装からキャリアへと移っていた。 「戦闘機だ。航空偵察で、帝國の偵察国家として名を馳せるんだ!」 「RBだ。もうトモエの時代は終わった!」 「小型戦艦だ。アイドレス初の機動戦艦をっ!!」 「やはり斬艦ハリセンが・・・」 各々全く異なるタイプの意見が提出され、議論は紛糾。 藩王たくまを始め、戦闘機を望むものは、その機動性と制空能力に魅せられていた。 ピストンは、RBのポテンシャルに期待をかけていた。 SOUは、自国のアイドレスの戦力の低さに注目し、大型のI=D、小型戦艦への戦力集中を訴えた。 一方で、ニーズホッグやタルクは斬艦ハリセンへの思い入れを改めてアピールした。 摂政の思い入れは特に強かったようだ。ある日、フィクションノートを召集し、彼らの前で熱く戦艦への思いを語った。 「私はあるアニメが好きなんだ。 その戦艦は単艦で行軍するのだよ。重力制御で攻撃する砲と人型機動兵器のみを頼りに。 自分達が信じる正義をなすために宇宙を駆けめぐるんだ。 その正義は一度くじけるのだけれど・・・再び立ち上がって彼らの正義を為すんだっ! 何が言いたいかというと・・・そうだ。ロマンだ。戦艦にはロマンがあるんだっ! そしてオペレーターの女の子に『馬鹿ばっか』と言われたいんだっ!」 摂政の演説もむなしく、第二次コンペは多数の意見が乱立する結果となる。 その後、議論は継続され、様々な兵器案がその対象となった。 たくまやSOUが必至に意見の収集に努め、議論の方向を固めつつあったものの、決定打ともいえる意見は未だ見えなかった。 ■キノウツンの衝撃 ・歩兵大活躍 作戦名「The thing which removes a mistake」 。 青森救出を目的としたこの作戦は、戦団長海法による歩兵の運用が脚光を浴び、歩兵の再認識がなされた作戦である。 ビギナーズ王国国民もこの作戦に従事しており、独自兵器の開発にも大きな影響を与えることとなる。 歩兵の運用に注目したのはエアバイク派である。 作戦前から歩兵の機動兵器の提案はなされていたため、作戦の結果は彼らを大いに発憤させることになる。 一方で、作戦を決定づけた火力に注目したのは戦艦派である。 すでに戦艦を提案した摂政SOUはエアバイクを提案し、その中核で活動していたが、彼の意見を引き継ぎ戦艦開発を主張していた。 藩国の意見は依然収拾には至らなかった。 藩王たくまとしてはこのまま議論の終結を待つわけにはいかない。決断の時は迫っていた。 たくまは最終的な決定をフィクションノートの投票に委ねた。 投票はたくまが好んで取る意思決定であった。 投票は最適な意思決定手段とはいえないが、国民へ主権を付加し、国民の政策参加を促す効果はある。 中小藩国の藩王たくまの処世術であったといえる。 投票は案の定エアバイクと戦艦に意見が割れる結果となる。 なお、この時、動物兵器を希望する意見が形成されつつあったが、時は既に採択の局面に移っていた。 採択されたのはエアバイクだった。 そして、amurは一人こう訴えるのだった。 「航空機に乗りたい」と。 ■エアバイクの開発 投票の結果を受けて、エアバイクの開発が高らかに宣言された。 ビギナーズ王国技術者陣は歓声を上げてこれを迎え入れた。 王国の技術者達は独自兵器開発宣言から散々準備を続けて、ひたすら本採用を待ち続けていたのだった。 隠れて試作型の作成を行うものすらいた。 技師でもある摂政SOUもその例に漏れず、既にエアバイクの試作機を完成させていた。 藩王たくまはSOUを中心に正式な開発計画を立ち上げた。 開発総指揮兼技術主任SOU。 開発事務官兼記録官ピストン。 そして、ビギナーズ王国技術開発局と王国吏族を動員したエアバイクの開発が始まった。 ■開発宣言 81407002。 ビギナーズ王国で長期に渡り議論が続けられた独自兵器の開発問題もようやくの解決を迎えようとしていた。 エアバイク。I=Dに先んじて行動し、戦場を駆けめぐる機動歩兵部隊の設立を目指した歩兵支援兵器が、投票により最多得票を得たのである。 藩王たくまは独自兵器開発計画発動を宣言。ここにエアバイクの開発が始まった。 開発総指揮には、摂政のSOUが任じられた。彼は、多忙な身なれど技術主任も兼任することになっている。 他のフィクションノートとして、開発事務官としてピストンがあてられた。 その職務は書類の準備から、開発資材の発注、工場ラインの確保などであり、有り体に言えば雑用である。 また、同時に文族として開発計画を記録することにもなった。 その他、量産機製作にはビギナーズ王国技術開発局の職員があてられ、吏族達が事務官団としてピストンを補佐した。 ■試作機の分析 開発決定を待たずに試作機を作り上げていた人物がいた。ビギナーズ王国の摂政SOUである。 王国の摂政業務に加えて、参謀府においても獅子奮迅の活躍をする彼は、独自兵器の開発においても正式決定を待たずにエアバイクの試作機を完成させていた。この人は一体いつ寝ているのか?フィクションノート達の疑問がさらに深まる離れ技であった。 激務のただ中にあるSOUが開発担当に任ぜられたのも、偏に彼が試作機を作り上げたからである。 「うむむ・・・」 試作機を目の前に技術者達が頭をかかえていた。 「いかがいたしました?」 油の臭いが漂う整備工場に不釣り合いのエプロンドレスを身にまとったメードが尋ねる。 「おう、ピストンかよ。危ないからすっこんでろ。」 棘のある言葉にピストンがたじろぐ。 別に技術者と事務官の仲が悪いわけでも、職人意識が素人を拒んでいる訳でもない。ただ、メードガイを毛嫌いしていた。 メードガイ。多くの藩国がそうであるように、王国のフィクションノートにおいてもメードのほとんどが男性であった。 ピストンもその例に漏れず、北国人特有の美しい容姿と化粧、服装でごまかしているものの、立派な男性であった。 美しい容姿といっても、北国人からすれば当たり前の話であるので、男性が女装している姿が気分のいいものではない。 さらに、技師の一人yuzukiは王国唯一の女性メードであった。 yuzukiは技術者として一流でありながら、愛嬌のある顔立ちの持ち主である。その上、彼女の振る舞いはどこか人を和ませる。 その上でメード服である。自然、技術者達の中にもyuzukiのファンは多い。 開発局などでメード服を見かけ、「yuzukiたん♪」とつい反応した挙げ句、よくよく見ると摂政だった。 なんてことが日常茶飯事である技術者にとってメードガイは敵である。 そして、技術陣にとって腕の見せ所である独自兵器開発の現場に現れたのが、SOUとピストンのメードガイ二人。 まさに悪夢であった。 SOUは試作機を仕上げた後、別の職務に追い立てたれていたため、現場に顔を出すのはピストンのみ。 自然、ピストンは技術者達の憎悪を一身に受けることになっていた。 一方のピストンは慣れない事務仕事に加えての、この仕打ちである。 結局、この日も最低限の仕事を回すのが精一杯で家路につこうとしていた。 「えらく落ち込んでいますね。」 居酒屋でひたすらビールを飲み続けるピストンに声をかけたのはニーズホッグだった。 「んああ。ニーズさん。」 ニーズホッグの顔を見て、ピストンの表情が弛緩する。 落ち着いた物腰のニーズホッグは、SOUのように派手に立ち回ることはないものの、その仕事ぶり、振る舞いから周囲の信頼が厚い。 「ニーズさぁぁん。聞いて下さいよぉ。」 頬も赤くなり、すっかり酔いの回ったピストンは、持っていたジョッキを飲み干しながら愚痴り出した。 「なるほど。わかりました。」 半ば泣き言に近くなっていたピストンの説明を聞き終えたニーズホッグは、手元のウィスキーのグラスを空けると立ち上がってピストンの肩を叩いた。 「まぁ、技術開発局の件はお手伝いしますよ。それよりだいぶお疲れのようですから。今日はもうゆっくり休んで下さい。」 そう促してのぞき込むと、ピストンはうとうとと、船を漕ぎ始めていた。 翌日、整備服姿のニーズホッグが顔を出すと、技術者達の態度は違っていた。 試作機を囲みながら状況を確認すると、どうやら浮遊機構がよく理解できない構造になっているらしい。 エアバイクの要になる部分であるため、ゆめゆめ疎かにはできない部分である。 試作機設計者のSOUはここのところ参謀府に出払っているためか政庁にもほとんど姿を見せない。 幸い浮遊機構については、ニーズホッグに当てがあるらしい。翌日、クルクル文化圏だかどうだか説明していた。 ピストン一人で工場に赴くとまだぎこちない部分はあるが、量産機の製作は何とか軌道にのりそうだった。 ■テスト走行 春めいてきた王国の首都外環道路を一台の車が走っていた。制限速度を超えているようだが、見なかったことにして欲しい。 今日は量産機の雪上走行テストの日である。大事なテストの日である。そのテストに遅刻、していた。。。 別にピストンが時間にルーズだから、とか寝坊しがちだから、とかいうのは普段の日常なのだが、今回だけは違う。 テストパイロットとして依頼していたS×Hが、急遽参謀府から出頭要請を受けていたのだ。連絡を受けたピストンが慌てて、車で参謀府まで迎えに行く。 参謀府で出会ったS×Hは見る影もなくやつれていた。顔色は悪く、目はうつろ。髪は真っ白になっていた。 「大丈夫、さあ急ごう。。zzz」と、助手席に乗り込んだS×Hは出発前に眠り込んでいた。 全然大丈夫じゃないS×Hを横目に、ピストンは車を走らせた。 首都郊外の空き地を借りた仮設テスト会場にたどり着くと、すでに技術者の面々が準備を整え、首を長くして待っていた。 首都南部の雪原はまた雪が降り積もっており、一面の銀世界である。 そこに鎮座するエアバイク。真っ白なボディが周囲の色と同化しつつも、その流線的なボディは機会オンチなピストンにも鮮烈に映った。 「へぇ。これですか。新型機ってやつは。」 傍らに立ち新型機を見つめるS×Hの目は輝き、生気を取り戻してる。 パイロットスーツに着替えた後、軽いブリーフィングを行う。 スペック的な話ならばピストンが車の中で行ってもよかったのだが、何せ移動中は貴重な睡眠時間であったし、S×Hはピストンからまともな説明が聞けるとは思っていなかった。 すっかり取り残されたピストンを尻目に、技術者と話し込んだ後、「やっぱり乗ってみないとな」と、エアバイクにまたがった。 「ところでピストンさん、コイツの名前はなんていうんですか?」 突然名前を聞かれてピストンは戸惑った。技術者とは「バイク」で通っていたし、そもそも名称なんて考えていない。 「い、いや、まだ決まってませんよ。」 名前か、どうしたものかな?と考えていると、S×Hは不満そうだった。 「これから命を預ける機体に名前がないなんて愛がない。」 そうだな・・・と考え込んだS×Hは、機体を触り始める。 「うん。そうだ。ピケにしよう。決まり。」 「えっ?」 呆気にとられたピストンを意に介さず、S×Hは続ける。 「おし、ピケ。よろしくなっ。」 そう言うと、S×Hは何かを握り目をつぶった。彼なりの精神集中であることは、依然I=Dに同乗した時に知っていた。 それにしても・・・勝手に名前を決めていいのかな? ピストンはそう思いもしたが、この日を境に公式文書にエアバイクの名称としてピケが登場することになる。 目を見開いたS×Hは話しかけるのも躊躇われるほど顔つきが変わっていた。 ピケはキーを差し込まれ静かに起動した。白銀の機体が音もなく浮かび上がる姿は幻想的であった。 最初ピストンがピケをみた時には何かの魔法か尋ねたものだったが、どうやら違うらしい。ニーズホッグさんによれば、クルクル文化圏というところで開発された科学技術で、ジャイロの回転を利用して定常的に反重力を生成する技術らしい。 小一時間ほどかけて原理について説明してくれたのだが、ピストンにはさっぱり理解することができなかった。 フットペダルに徐々に荷重がかけられる。遊びを越えた当たりでスラスターが点火され、ピケが前身を開始した。 時速90kmほどに達したところで今度は旋回。旋回は体重移動によるため、通常のオートバイと同じ感覚で操縦できる。 そして、さらに加速を続ける。時速150km、180km・・・時速200kmを超えたところで、減速。 戻っていたS×Hは満足そうだった。 「うん。気持ちいいね。次はリミッター外してみよう。」 技術者の顔が蒼白になる。エアバイクに搭載されたロケットブースターは急発進・急制動を可能とするために出力を高めに設定されていた上、未調整であったためにリミッターが設定されていた。浮上するエアバイクでは路面との摩擦抵抗が発生しないため、通常のバイク以上の速度による走行が可能である。先ほどの走行でも軽く時速200kmは出ていた。おそらくリミッターをカットすれば300km、400kmでの走行も可能になる。 しかし、そんなレーサーでもない機体で最高速を追求する意味はない。また、貴重なテストパイロットであるS×Hの危険を考えるととても容認することはできない提案だった。結局ニーズホッグがなだめることよって、事なきを得るに至る。 テストの結果は早速量産機にフィードバックされることになる。 こうしたテストや、耐久テストなどは短期間ながら繰り返され、エアバイクの量産に向けてツメの調整が進められた。この代償としてS×Hが過労気味になり、参謀府でぶっ倒れる、という事件がおこるのだが、それはまた別の話である。 そして量産に向けた障壁は技術面だけではなかった。 ■生産開始 機体の調整の裏側では、膨大な書類仕事がピストンを待っていた。 実務に関してはほとんど吏族達に丸投げしていたのだが、それでもピストンが処理すべき問題は山積みである。 そもそも吏族でなく、事務仕事経験がほとんどないピストンの仕事の効率が極端に悪いせいもあるのだが、突貫の計画であるために問題が紛糾していたからだ。資材の追加調達、バイク業界との折衝、追加予算の申請書類。 臨時に設けられた執務室に山積みの書類を前に、現実逃避の欲求に駆られるピストンであったが、泣く泣く仕事を続けるのであった。 今日も生産ラインの確保に国内をかけずり回ってきたところである。 元々生産ライン自体は計画発動前から確保されていたのだが、王国には独自のI=D生産ラインを持たないために初期配備の数を少しでも確保しようと腐心していたのだった。 「まずい・・これ以上仕事が遅れると、計画の遅延がますます進行してしまう。。。」 この時点で計画の遅延は必至であった。それでも、ここで妥協しては、と泥沼にはまっているピストンであった。 「調子はどうですか?って、大変なことになってますね。」 執務室を訪れたのはtactyだった。吏族・護民官・参謀の資格を有し、その事務能力には定評のある人物である。 王国の財務処理やフィクションノートの根源力などの監査・管理業務を積極的に指揮し、国内での実績を着実に積み上げている。 対外的にも参謀での戦力集計業務を中心に忠実に職務をこなし、最近では宰相の補佐官に登用されるという噂があるほどである。 「た、tactyさ~ん」 どうでもいいが、ピストン。泣き言を上げてばかりである。 「はいはい。ピストンさん、一人で仕事やりすぎなんですよ。もっと他の人間を使って上げないと。」 と言いつつ、積み上げられた書類に次々と目を通し、内容、重要度、緊急性によって整理を始める。 「自称丸投げ師は伊達じゃありませんよ」 目は書類に向けながらも、にこやかに微笑みながら、そう告げる。 「ピストンさんはここに積んだ書類から処理を始めて下さい。吏族で出来る仕事、摂政か執政に回す仕事、藩王に奏上する仕事はとりあえず振り分けておきますので。」 その後も、暇をみてはtactyはピストンの下を訪れ、仕事の振り分け、事務処理の協力を行った。 いよいよ、国内の生産能力をあげての独自兵器の生産が開始されることとなる。 ■摂政の暗躍 遂にエアバイクのロールアウトを目前に控えたその日。 ピストンはせめてもの感謝と労いにと、ニーズホッグ、S×H、tactyら、フィクションノートの面々に加えて、主要な技術者、吏族を招いての酒宴を設けていた。 大概の酒宴ではピストンは酒が進むに連れて暴走を始め、混乱の極地の中でお開きとなるのだが、今日に限ってはピストンも大人しいものだった。しかし、抑えられたエネルギーは間違えた方向へ発散されようとしていた。 「大体、摂政はどこにいってるんだっつーの。」 疲れのためか普段より早く顔を赤くしているピストンは、ここぞとばかりに積み上げられた不満を口にした。 「結局計画中あの人の姿全然みてねーよ。。。一応総指揮なら肩書きらしく・・」 「ピストンさん、それ、違いますよ。」 ピストンが愚痴りはじめたのをみて、ニーズホッグが穏やかな口調で否定する。 「確かに摂政は色々制約があって、満足に動けていなかったかもしれませんが、立派に職務を果たしてましたよ。大体、私がここにいるのも摂政の指示ですし。」 「えっ?」呆気にとられるピストン。 「あっ、その意味では私も一緒ですよ。結局こっちに回った分の参謀府の仕事肩代わりしてくれたのは摂政ですしね。」 S×Hもニーズホッグに賛同する。 「うんうん。私も摂政の指示がありましたしね。」 tactyはさらに続ける。 「あの方、ピストンさんがぐるぐるしているのを察して、色々人回していたんですよ。その上、昨日までエアバイクに追加武装積めないか検討続けていたみたいですよ。ピストンさんも書類みているはずでしょう?」 にやり、としながら発せられたtactyの言葉に、ピストンの記憶が一致する。 「あっ、そういえば。。。」 生産ラインが稼働した後にもかかわらず、追加武装の検討と試算に関する書類が提出されていて、不信に思っていたのだ。 「彼らのメードガイ嫌いも一番よく知っているのは摂政ですし。」 ニーズホッグが隣のテーブルで酒を呑む技術者達を見ながら、tactyの言葉を補う。 「結局、あの人の手の上で踊っていたわけですか。。。」 ピストンは憮然とした、どこかやりきれない表情ながら、摂政を思う。 「まぁ、今日この場に摂政がいたら面白い光景が見れたんでしょうけどねぇ?」 S×Hが面白がってピストンを冷やかす。 S×Hの言葉に、自分が摂政に完膚無きまでに打ちひしがれている姿を想像したピストンは身震いする。 その様に一堂が笑いを堪えていると、最後の参加者が登場した。 宴席は計画総指揮の苦労を労い無事に終了した。思えば摂政が五体満足で済む宴席も珍しいものであった。 こうしてビギナーズ王国の独自兵器は、エアバイク「ピケ」として日の目をみることになる。 願わくばピケが帝國の目となり足となり、王国の勇壮を讃える機体とならんこと。                                                    作:ピストンさん ---- #back(left)

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