【これを読めばあなたも財政破綻マスター!?】レバノンが財政破綻した理由を解説します

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匿名ユーザー

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はじめに: 財政破綻リスクがゼロになる条件


MMTの本によく登場する、財政破綻(=国債のデフォルト)が起こらない条件は以下の通りです。

  • 変動為替相場制を採用していること
  • 発行している国債が100%自国通貨建てであること
  • 他国やIMFなどから通貨発行に関する制限を受けていないこと

この条件に完全にあてはまる国は世界に10ヵ国程度(アメリカ、日本、イギリス、オーストラリア、中国、スイスなど)しかなく、共通通貨ユーロの加盟国は当然あてはまりません。「では全ての国が変動為替相場制を採用して自国通貨建て国債を発行すればいいじゃないか!」と思われるかもしれませんが、実際にはそう簡単にうまくいきません。その例として最近財政破綻したレバノンをご紹介します。


①レバノンが固定為替相場制を採用しなければならなかった理由


レバノンでは1970~1990年にかけて断続的に内戦が発生しており、その度に自国の供給能力を破壊されてきました。このような状態で自国の需要を自国の供給能力だけで賄おうとすると、下図の左側の状態のようなインフレギャップが生じ、物価は上昇します。このタイプのインフレが実際に起こったのが第一次世界大戦後のドイツや第二次世界大戦後の日本です。


このような状態を回避するために、レバノンでは輸入依存型の経済活動が行われてきました。その証拠が下図のレバノンの貿易収支および経常収支のグラフ(ソース: UNCTAD)になります。内戦が終結した1990年頃以降、レバノン国民の需要を満たす国内の供給能力が圧倒的に不足しており、輸入依存による貿易赤字を背景に経常収支の赤字は拡大の一途を辿っていることが分かります。外務省によると、レバノンの主要輸入品は石油精製品、自動車、医薬品と生活に必要な工業製品が大宗を占めるのに対し、主要輸出品が金、発電装置、屑銅、書籍となっています。



経常赤字=レバノン・ポンド(LBP)で外貨を買う圧力が強い ということなので、レバノン・ポンド(LBP)の為替レートは常に下落の圧力を受けます。変動為替相場制の下でこの状態を放置しておくと、レバノン・ポンド(LBP)における輸入物価がどんどん跳ね上がることで輸入依存型の国民生活に支障をきたすため、政府が為替介入により為替レートの下落を押さえ込む必要が生じてきます。この政府による為替介入こそが固定為替相場制なのです。

②固定為替相場制とレバノンにおける為替介入


固定為替相場制は、政府が「今日から 1ドル=1500LBP にしま~す(笑)」と発表すれば終わりというわけではありません。変動為替相場制の下では自国経済に悪影響を及ぼしかねない場合に、政府が外貨 - 自国通貨間の逆売買(実際に行われた為替の売買と逆の同額売買を行うこと)を行って為替レートを無理やり安定させることが固定為替相場制なのです。

例えば、レバノンのように経常赤字が続き自国通貨で外貨を買う圧力が圧倒的に強い場合は、レバノン政府がドル等の外貨(いわゆる外貨準備)で自国通貨を買い戻す為替介入を行わなければ 1ドル=約1500LBP の為替レートを維持することができません。では、そのような為替介入を行うための外貨準備はどのように調達すればよいのでしょうか? それには以下の2通りの方法があります。

1.自国通貨で外貨を買うオペレーションにより調達する
2.外貨建て国債を発行し外貨を調達する

1の方法はそもそもレバノンが経常赤字国で為替レート下落圧力のため苦しんでいることから、さらなる為替レートの下落を招き本末転倒です。したがってこの場合2が適切な方法になります。

実際にレバノンはドル建て国債を発行し、国際金融市場からドルを調達することで外貨準備に充てていました。そしてそのドルの外貨準備で自国通貨であるレバノン・ポンド(LBP)を買い戻すことにより、1ドル = 約1500LBPの固定為替レートを維持し続けたのです。

③レバノンの財政破綻・財政破綻後の世界


前述の通りレバノンはドル建て国債を発行し国際金融市場からドルを調達していましたが、当然ドル建て国債はドルによる返済が必要であるため、外貨準備から返済分を支払う必要があります。したがって外貨建て国債を発行している状態で外貨準備が尽きたら、自動的にその国は債務不履行の状態に陥るのです。

レバノンは2010年頃から爆発的に増え続けた経常赤字(上図)による為替レート下落圧力を支えきれなくなり、ついに2020年3月8日に外貨準備が尽き、ドル建て国債の再発行も不可能に。いよいよ皆さんお待ちかねの国債のデフォルト、すなわち「財政破綻」が起こってしまいました!^_^!


↑レバノンの爆発の画像、財政破綻とは多分関係ない?

一度財政破綻が起こったら政府が「財政破綻しますた!w(テヘッ」と言って終わるわけではありません。財政破綻が起こるとまずレバノンがこれまで行ってきた為替介入がなくなるため、自国民が直接為替レート下落による輸入物価高騰の影響を受けます。例えばレバノン軍では以下のような事態が発生しています。



 経済危機が深刻化し、食品価格が高騰しているレバノンの軍当局は、勤務中の兵士に提供するすべての食事で肉の使用を取りやめた。国営メディアが先月30日に伝えた。

 レバノンは1975~1990年の内戦以来、最悪の景気低迷にあえいでおり、今や人口の約半数が貧困にむしばまれているという。



 同国通貨の対ドル公式レートでは、1ドル(約107円)が1507レバノン・ポンドに設定されているものの、闇市場では1ドルが8000レバノン・ポンド超に急落している。

 非政府組織(NGO)の消費者保護団体によるとこの結果、食品価格は昨秋以降、少なくとも72%の急騰をみせた。

 通貨が暴落し続ければ、価格のさらなる上昇が予想されている。

 そうした中、レバノン国営通信(NNA)は経済危機を理由に、同国軍が「勤務中の兵士らに提供される食事から肉を完全に抜いた」と報じた。

 先月30日の時点で、ラム肉1キロ当たりの販売価格は、2か月前の3万レバノン・ポンド(公定レート換算で約2100円)から8万レバノン・ポンド(公定レート換算で約5700円)に、また牛肉1キロ当たりの価格も、1万8000レバノン・ポンド(約1300円)から5万レバノン・ポンド(約3500円)超に上昇したという。

 レバノンは食料品の大半を輸入に頼っており、外貨不足と自国通貨の急落により、輸入がコスト的にも高くつき困難になっている。(c)AFP

AFP BB NEWSから引用




このように財政破綻が起こった国では政府による為替介入が不可能になるため、公式の為替レートを取引で使用できなくなり、輸入物価高騰を背景にしたインフレが発生するのです。こうなると、もともと為替介入が必要になるような、財政破綻の素質がある輸入依存の国ではますます輸入が難しくなり、生活自体が成り立たなくなってしまうのです。

まとめ: 真の財政破綻は知ってみれば結構怖い


いかがでしたか?

ここまでで変動為替相場制を採用できない背景、外貨建て国債を発行せざるを得ない理由、そして財政破綻のメカニズムと真の恐ろしさを理解できたのではないでしょうか。今回のレバノンの件は、自国の供給能力への投資を怠ることが最終的に財政破綻を招くということを示す良い例になったのではないかと思われます。

とりあえず、財政破綻論者はレバノンの実例を通して、財政破綻がなぜ怖いか、財政破綻のどこが恐ろしいかを明確に認識した上で正しく煽ってほしいものです。(というか分かってたら日本の財政破綻煽りできなくね?)

以上、管理人がレバノンの財政破綻についてお伝えしました。ご意見ご質問お待ちしております。

またご要望と管理人のやる気があれば、今度は自国通貨建て国債(え~~~っ!!!)で財政破綻したロシアの例も書きたいと思います。ご安心ください、当時のロシアも固定為替相場制でした。

ウンコメント

  • MMTとかどうでもいいから俺のNNTをなんとかしてくださいよ -- 名無しさん (2020-08-12 00:59:39)
  • とても参考になりました -- とても参考になった人 (2020-09-18 03:26:48)
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