およそ六尺。 わかりやすい単位に直せば約180cmの棒。
ただの棒と言うには少々作りが込んでいる棒… セイラの手元にあるそれは、不思議な力の込められた棒だった。
ブリムスラーヴス… この棒の名称らしい。セネットから説明書ごと譲り受けたが、詳しく読んだのはついさっきだ。
…どうやら、特殊な術の力を持っている棒のようだが。
しかしなんと言う巡り合わせだろう。 棒…正しくそれは、彼女の得意とする武器だ。
先のやり取りを思い返す。
彗星、と名乗っただろうか… モーリス、セネットの二人は気付いていなかった様子だったが、終始あの女の主導で話が進められていた。
こちらの意見などまるで聞くつもりがない様子だった。
…もしやと思ってコッソリと抜け出したが、セネットが苦しみ出したのはその直後だ。自分に身に覚えは無い…とすれば、間違いなく彗星の仕業。
…恐らくは、あのモーリスには自分に疑いが掛かるように吹き込んでいるに違いない。 姑息な人間とはそういったものだ。
(…凶悪な魔物のほうが余程純粋。 だから人間は嫌い…)
ぎりり。 ブリムスラーヴスを握るその手に力が籠もる。
――コツン
足音。 …まだ遠い。
セイラは今現在、屋敷の一室に身を隠している。 彗星から何か吹き込まれたモーリスや、彗星からの何らかの動きを恐れてだ。
…が、それにしては少し来るのが遅いと感じた。 何か仕掛けてくるならもっと早く来ると思ったのだが…
――ガシャリ
隣の部屋の扉を開ける音が聞こえた。 一部屋一部屋、しらみつぶしに探しているらしい… とすれば、次はこの部屋だろう。
セイラは術の詠唱(チャージ)を始める。 自身の知っている陰陽術の中で、最も効果の大きく構築に時間を要する術……
…当たれば相手は死も同然。 相手がもし敵意を持っていなかったとしても、構うものか。
(人間なんて…… 下らない)
十中八九、やってくるのはモーリスだろうか。 …どうやら同じイヴァリースの人間らしいが、こちらは異端者として追われる身。
知られたら………… …やはり、生かしては置けない。
――コツン
足音。今度はどんどん近付いている。
「肉体の棺に宿りし病める魂を 永劫の闇へ還したまえ……」
力ある言葉… 術の最後の一文を口に出して紡ぎ、標的の訪れを待つ。
――ガシャリ
「声が聞こえたぞ、誰かいる――」
「碑封印!」
…セイラの目に最初に飛び込んできたのは、ナイフを構えた男の姿。
声に気付いてこちらに視線を向けた瞬間…男の脚、腕そして頭まで、男は数瞬のうちに石化した。
「……誰?」
別に、男に問いかけたわけではない。 ただ単に、想像していた人物と違った――セイラは、モーリスが現れると予想していた――それだけの自問である。
知らない男だ。 もしかしたら敵ではなかったのかもしれないが、どうせロクな事にはならなかっただろうと割り切った。
セイラは近付くと、手にした六尺あまりの白く輝く棒を、大きく振りかぶって――――
――その石の塊は、思ったより簡単に砕け散った。
頭から右肩にかけて無惨に破壊されたその石像から、石化していないデイパックとナイフとを奪い取る。
デイパックの中身は……メイド服、爪楊枝… 後は自分に支給されたものと同じ、地図や食料など基本的なものだった。
(ゴミ…… とはいえ、使い道は無いわけじゃないわ)
自分に支給されたものは無い。 まるでゴミ同然のものだとしても、何も無いよりはマシかも知れないと思えた。
布切れ一枚が生死を分ける…そんな事も、戦場ではしばしば耳にする話だ。
ともかくセイラは、メイド服と爪楊枝などを自分のデイパックに詰め込んだ。
…その時にふと、床に転がる首輪に目が付いた。 自分の首に嵌められているのと同じ首輪…石化したこの男がつけていた首輪に間違いない。
首から肩辺りにかけて粉砕したにもかかわらず、首輪には目立って傷が付いている様子はない。よほど頑丈なのだろう…
――ちなみに、通常は首輪を無理に外そうとすれば爆発する。 だが石化した相手を粉々に砕いて外したからなのか、どうやら爆発はせずに床に転がり落ちたらしい――
これだけ頑丈な首輪…一体、知らされた機能以外に何が備わっているのだろうか?
置いていこうかとも考えたが、これも何かの役に立つのかもしれない。 他のものと一緒に、セイラはパックに放り込んだ。
そして…セイラはどうやら彗星からは放置されていると考え、そろそろ移動するかと考え始めていた。
【D2 屋敷内部・夕方】
【名前・出展者】セイラ@rn
【状態】健康 人間不信
【装備】ブリムスラーヴス@Saga Frontier2
【所持品】基本支給品一式 メイド服 爪楊枝 折り畳み式ナイフ 首輪@ロワイアル
【思考】基本:????(ゲームには乗っている)
1:彗星… 汚いやり方。やっぱり人間なんて信用できない
2:セネット… もう生きていないかもしれないわね
3:モーリス… どこに行ったのかしら?
4:安全を確認したら移動しないと…
【ブリムスラーヴス@Saga Frontier2】
輝く星のアニマ(魂)が込められた、棒の形をした魔道具(クヴェル)。 手にした者のアニマを引き出し、無属性の強力な術「メガボルト」を放つ事が出来る。
武器としての強度も高く、壊れる事は無い。
【デビット@ジャグラー 死亡】
* * *
「セネット…… セネットはどこに!?」
聞こえた銃声でようやく正気に戻ったモーリスは、彗星に連れて行かれたセネットの行方を真っ先に気にした。
…追いかけようとした矢先、玄関から入ってきたデビットと鉢合わせそうになった。
見つからないように隠れ(忍者だけに潜伏するのは得意)、様子を伺うと酷く警戒した様子だった。
(…見つかったら、嫌でも戦闘になるな)
出来ればそれは避けたい。 人を殺すのは嫌だからだ。
忍者なんていうジョブに就いているのも、どちらかと言えば偵察任務なんかをこなして戦闘には直接関わりたくないからだったり…
…と、そんな事はともかく。
デビットをかわすのに、随分時間を食ってしまった。
ようやくモーリスは屋敷を出ることが出来た… セネットは……いや、彗星は一体どっちに向かったのだろう?
セネットは無事だろうか。
セネットは無事だろうか。
セネットは無事であって欲しい。
モーリスは音も無く、素早く駆け出す。
両手に忍ばせた二振りの刃…出来ればふるう事が無ければいいと、その心で思いながら。
――屋敷の方から聞こえた何かの壊れる音は、モーリスの耳には届いていなかった。
【D2 屋敷の入り口・夕方】
【名前・出展者】モーリス@rn
【状態】健康
【装備】ソードブレイカー@TOD2&聖なるナイフ@DQ3
【所持品】基本支給品一式
【思考】基本:????(戦闘は好まないらしい)
1:セネットと彗星を探す
【ソードブレイカー@テイルズオブデスティニー2】
主に防御に用いる短刀。 刃の反対側が受けた刃を挟み込むような特殊な形状をしており、細身の剣ならばそのまま力任せにへし折る事も可能。
【聖なるナイフ@ドラゴンクエスト3】
聖水で清められたナイフ。 ちょっと切れ味はいいが、それ以外にこれといって変わったナイフではない。
* * *
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最終更新:2008年12月16日 17:04