開始の合図から、数分、いや、十数分経っただろうか。
少年は支給品と思われるデイパックを抱えながら、走る。走る。
恐らく、支給品など確認してはいないだろう。
少年の優先すべきものは一つだ。
自分の命。
人のことを優先できるほど成熟していない。
その前に、自分より人を優先できる漫画の主人公など、実際いやしないのだ。
自分の命と人の命を天秤にかけたら、どちらが重いか?
そんなもの、天秤にかけるまでもない。
「人気の無いところ、人気の無いところ……」
さきほどから少年はそればかりを繰り返す。
だが、不思議と息は切れていない。
一歩一歩と踏み出す速度は人間のそれではないことがわかる。
不意に走っていた足を止める。
目の前には、イーブイの彼の家と良く似た今の時代に似つかわしくない城。
(この上なら、人間は登ってこられない)
デイパックを抱えている両手に力を入れ、力一杯跳ね上がった。
城のわずかなおうとつに足をかけ、あっという間に頂上部に到達する。
そして、屋根の尖っていない、なるべく斜めになっているところに腰を下ろすと、ようやくデイパックに手を伸ばした。
「気合のハチマキ……?」
少年がまず引っ張り出したのはなんの変哲もない白いハチマキ。
持ち主が瀕死になるような大技を受けても、かろうじで命を引き止めることのあるハチマキだ。
その効果を知ってか否か、少年は苦虫を噛み潰したような顔をした。
さらに中を覗くと、中世ヨーロッパを思い出させるようなレイピア、数種の木の実と人間が食べるような食料、そして毒針。
ほかに入っていた拡声器が何を意味するのかはわからないが、毒針は使えそうだ……。
と、ここまで考えて身震いした。
自分が人を殺すことを考えるなんて、信じられなかった。
「ああぁぁぁ、駄目だ駄目だ駄目だ。オレは関係ないオレは関係ない関係ないぃ…っ」
「関係、あるに決まってるでしょう?」
まるで少年の周りの空気だけが凍りついたようだった。
突然の声に、とても小さいとは言えない声があがる。
その声は、少年の真下から。
「まったく、困ったものですよね。こんなゲーム、私も好きじゃないシャレですよ」
殺伐としたこの場にはとても似合わない声色。
やれやれ、と手を振る青年に、否定も肯定の意も見えない。
それがさらに恐ろしく、ろくに返事もしないでその場を逃げ出そうとした。
しかし、その瞬間、とても現実味のある熱っぽい痛みが―それはすぐに鋭く尖っていって―
その激痛に悲鳴を上げ、相好ともに、膝が崩れる。
「おっと、逃げないでくださいね。こちらも、あなたがちゃんと話を聞いてくれれば害はあたえませんから。いやぁ、それにしても私の得意分野は隠密行動なんですけどねぇ。なにせ支給されたものは投げナイフでして。」
やけに長い話だ。
少年は腕にはしる痛みに声を殺すことができない。
青年はそれを不快に思ったか、嫌々話を中断する。
猫を追い払うかのように、手を払っているのが屋根からでも確認できた。
腕は痛い。痛くて仕方がない。が、逃げなければ命はない……それはあの青年の目が物語っている。
痛みに顔を顰めながらも、なんとか立ち上がり、向こう側へ跳んだ。
青年はまるで気分でも害されたかのように深呼吸―否、溜息をひとつ。
「ナイフ、返していただきたかったんですけどね」
支給されたナイフにも限りがある。
あの少年に投げたナイフだって無駄なものではないのだ。
とりあえず、この目の前にある非現実的な城にでも潜伏することにする。
カロリーメイトとは。主催者も遊んでいるとしか思えない。
【G1 城、裏側・朝】
【名前・出展者】ヒュー@新月
【状態】 右腕損傷
【装備】レイピア、木の実、毒針
【所持品】支給品一式
【思考】
基本・逃げる
1、腕の痛みをどうにかしたい
2、安全な場所を確保したい
3、某イーブイの人助けて!
【G1 城、城壁・朝】
【名前・出展者】吹留要@新月
【状態】 健康。機嫌悪い
【装備】投げナイフ、毒草(摘んできた)
【所持品】支給品一式、不明支給品
【思考】
基本・私の後ろに立たないでください
1、カロリーメイト
2、邪魔すぎたら殺す
3、手榴弾欲しい
*
前の話
次の話
最終更新:2008年11月15日 16:59