「……気にいらねぇな」

近くの木にもたれかかったまま、ハンドレッドマン――神無月 零は独りごちた。

――殺し合い。
あの訳の分からない巨乳美少女とニコニコキザ男は、確かにそう言った。
そして、見せしめにでもするかのように殺された、自分と同じ位の少年。

短い間だったが、魔法の世界――エリス王国に住んでいた零にとって、死は決して遠い存在のものではなかった。
零自身、仲間と共に幾多の戦いを潜り抜けてきたのだ。
必要とあれば、自分の手を血で汚すことに躊躇いは無い。


しかし、それとこれとは話が別だ。
自分の銃は、決して罪無き人の命を奪う為にあるのではない。
いきなり殺し合えと言われて「はいそうですか」と従うほど安い生き方はしていないのだから。

それに……こんな所で殺し合いに乗っているようでは、仲間達に会わせる顔が無い。
水波、パール、知雨、そしてフォルトゥナ。
弟分のカイリス。
ゲイルは……まぁ、いいか。

いくつもの危機を共に越えてきた仲間達だからこそ分かる。
あいつらが今の自分の立場でも、決して殺し合いに乗ったりはしない。
最後まで自分の信念に従うはずだ。
だからこそ、自分もここで無様な姿を見せる訳にはいかない。

「天才スナイパー、ハンドレッドマンをこんな首輪一つで飼い馴らせると思ったら、大間違いだぜ」

その不敵な笑みに反応するかのように、左耳のピアスがキラリと光った。


身体を起こし、スタート前に支給されたデイパックの中身を調べる。
水や食料、メモ帳に鉛筆、地図の支給品一式、そして何かの符と説明書らしき紙切れがあった。

その紙には『パチュリー・ノーレッジのスペルカード一式』と表記されている。
内容は「符に書かれている呪文を唱えることにより、弾幕が出てきます。ただし使い捨て」と書いてあった。

更に、オマケとして飛翔の符も入っている。
効果は「スペルカード同様、呪文を唱えることにより飛行能力が得られる」と書いてあった。

ただし、効果は五分間だけと付け加えられているが、空を飛ぶことができない零にとっては渡りに船であろう。

使い方こそ零がいた世界とは大きく異なる物だったが、簡単な呪文を唱えるだけなので特に問題は無い。
とりあえず、適当な奴を一枚手に持ち、残りの符は全部ポケットに入れていつでも取り出せるようにしておいた。


準備が整ったら、まずは他の参加者を探そう。
他人をむやみに信用できるほど平和ボケしているつもりは無いが、それでも情報を集めなくてはどうにもならない。
それに他の参加者も自分と同じように連れてこられたのなら、ゲームを快く思わない奴もいるだろう。

しかし、相手が殺しを望まない人間では無かったとしたら?
生粋の悪人ならまだいい。
こちらも容赦をしてやる余地は無い。
そうではなく、ただ恐怖に駆られて襲ってくるような相手だったら?
……やりたくは無いが、そのときは覚悟を決めるしかない。

「善人を……特に美少女を泣かすような奴らには情無用だからな、オレっちのモットーは」

どんな理由があろうと、野放しにしておいてはいたずらに死人を増やすだけ。
いざとなったら非情に徹するしかない。

「……まぁ、今はそんな事考えてたってしょうがねぇか」

一瞬浮かんだ影もどこかへ消えて、零の目には不敵な光が宿る。
バックを肩に担いで、彼は動き出した。

「さ~て、いっちょ行きますか!」


【E5 草原・朝】

【名前・出展者】神無月 零@familiar spirit and eye bandage
【状態】良好
【装備】パチュリー・ノーレッジのスペルカード一式+飛翔の符@東方Project
【所持品】支給品一式
【思考】基本:他の参加者と接触
1:ゲームに乗っている奴らには情け無用(場合によっては殺害も辞さない)


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最終更新:2008年11月15日 18:10