「……」
森の中の茂みの中から、静かに息を殺して少女が様子を伺う。
朝間 夕美。 彼女はスタートからこれまで、幸いにも誰とも直接遭遇していない。
それは出発点が森の中であったこと、彼女自身がスナイパーとして必要な隠遁技術に長けていたこと、そして何よりも大きな「運」が作用しての事だ。
だが肝心の運は、支給された持ち物には作用してくれなかったようだ。
パックの中に入っていたのは、ジャンボサイズのイチゴパフェ。 何の変哲もなく、種も仕掛けもないイチゴパフェであった。 それは何より食べた彼女が良く理解した事だ。
それからもう一つ、蝶ネクタイの形をした変声器。 あとは基本的な支給品だけであった。
蝶ネクタイ型の変声器は、見た目に反してそうとうなテクノロジーが詰め込まれていることは説明書を読んだだけでわかった。
ほぼあらゆる人間の声を、たかが蝶ネクタイ程度のサイズのもので完璧に模倣することが出来るのだから。
…とはいえ、その機能が殺し合いの場においてどれほど役に立つのかは未知数かつ前代未聞、恐らく直接役に立つことは無さそうだ。
そんなわけで夕美は…確認すべき事項は全て確認はしたものの、実質丸腰同然の状態でこの場に放り出されているわけだ。
強いて言えば、食べてしまったイチゴパフェのグラスは手元に残っている。 割って使えばガラス片は十分凶器になりえるが、彼女は別段ナイフやなんかでの格闘戦は得意ではない。
スナイパーとしての資質に優れ、狙撃の腕はプロフェッショナルにも引けをとらないが、それ以外は普通の少女とそれほど大差はない。
さらに強いて言うならば、寝る事が特技で寝ながら大概の事が出来てしまうが……
「…確か、この辺り」
そんな彼女は、今"ある物"を探していた。
直接誰かに遭遇したわけではないが、一方的に長距離からの観察は行っていた。 前述の通り彼女はスナイパーとして優れており、目が良い。
相手から到底察知されないであろう距離から、生き延びる為にじっと息を殺し、隠れて観察を行っていたのだ。
そんな折、このE5の森とF5の町の間での『リオン・マグナス』と『
志々雄 真実』、『スティンガ・アルス』の遭遇から一部始終を見ていた。
人が死ぬのを見たことが無い訳ではない(といってもスティンガは厳密にはポケモン、ハッサムだが)。 あまり見ていて気持ちの良い物ではないが、この場はもはや戦場だ。 彼女はそう気持ちを切り替え、そういった不快をシャットアウトした。
そんな事より大事なのは、スティンガの持っていた短機関銃が比較的近辺まで転がってきていたはず、と言うことだ。
短機関銃は精度はあまり高くなく、連射する為のものゆえ狙撃には向かず、夕美にとってはどちらかといえば専門外… ではあるが、この際本格的な銃器が得られるならば贅沢は言えない。
銃器の型まで詳しく知っているわけではないが、おおよそ銃火器の扱いは彼女には問題ない。
「……あった!」
茂みの中から、夕美はそれを発見する。
リオンの放った火の玉の熱で歪んでひしゃげていたりしないかと不安になったが、幸いにもそういった様子は見受けられない。
夕美はそれを手に取る。 ずしりと、覚えのある重み。 モデルガンなどには無い、実銃の重み。
弾薬も問題ない。 安全装置にも特に異常は無い。 完璧だ。
念のために今一度周囲の確認をする。
リオンが確認の為に戻ってくるのではないかと懸念したが、どうやらその心配は無さそうだ。
他にこれといってすぐ近くには警戒すべき気配も無いと見るや、彼女は再び森の中に身を潜めた。
自分に今のところ味方は居ない。 すなわちバックアップも無いならば、敵に姿をさらすのはあまりにも危険…そう判断した。
発見されるまでは専守防衛、機会を伺いつつ情報と武器を集め、敵性勢力の殲滅。
(……柳也…)
彼女の脳裏に、憧れの青年の姿が浮かぶ。 名簿に彼の名前は無いということは、彼は参加していないということ。
ならば再び巡り合う為には、この場でなんとしても敵を殲滅して生き残らなければならない。
彼女はそう心に誓った。
* * *
目安として、彼女は多分2エリアぐらい先までは見えると思います。
スティンガの使っていたサブマシンガンを回収しました。
【E5 森・朝~昼前】
【名前・出展者】朝間 夕美@狂人戦闘舞踏祭
【状態】健康 だが三時間ぐらい寝てない
【装備】サブマシンガン@現実 蝶ネクタイ型変声器@名探偵コナ●
【所持品】基本支給品一式、パフェグラス
【思考】基本:生き残るため、敵と判断した対象の排除
1:先ずは隠れて見つからないこと、敵の先手を取れれば上々。 森から出るのは得策じゃない
2:情報、武器、まだまだ足らない。隙を見て集めないと
3:必ず生き残って彼と再びめぐり合う
【蝶ネクタイ型変声器@名探偵コ●ン】
言わずと知れた少年探偵の秘密道具の一つ。 殆どの人間の声色を作り出せる。
※C5~G5辺りに広がる森の中に彼女は潜んでいます。 隠れるのには非常に慣れており、見つけるのは困難です。
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最終更新:2008年11月19日 18:20