「えっと……大変そうですね」

助けを求めた青年にそう言われて、さっさとどこかへ逃げられてしまってから一時間後。
時刻は既に昼前に差し掛かっていた。

だが、青年が逃げたくなる気持ちは分からなくもない。
その時のサントの表情は涙と鼻水で、何と言うか……こう、非常に表現しづらい顔になっていたのだから。


「はあ……誰かいないかなぁ……」

C5の深い草むらの中を歩いている男は一人呟きを洩らす。
疲れきった声、憔悴しきった表情で。

――サント・アンヌ。
かつてリアクション学院の合宿でどこからともなく現れた、ヘタレ小悪党その人である。

この戦いが始まってから五時間近く。
その間、多くの参加者たちがドラマチックな出会いと別れを繰り返していった。
……だが、そんな中にも例外はある。

「会ってイキナリ逃げるなんて、そりゃないだろ……」

そう、それがサント・アンヌ、その人であった。

あれから――精霊ヴォルトに白旗を振ってから――サントは移動しながら周囲の様子を伺う事にした。
自分以外にも数十人規模の人間が殺し合いを始めている中、目立った行動を取る事は命取りとなる。

そう考えての行動ではあったが、もう一つ重大な理由が存在した。
そう、それは――

『℃@∬◆〒』
「え?『あれから誰とも会わないな』だって? ああ……そうだな……」

――サントの頭の上を占領するヴォルトの存在である。
そして、サントがいつの間にかヴォルトと会話ができるようになっていたのは、友達がいなかったからだと思う。

ヴォルトの知能は予想外に高い。
実際、周囲を索敵しているのは脱力中のサントではなく、ヴォルトである。
器用な事に地図を持ちながら、サントを引っぱっていた。

……その一方、サントはといえば、いじけてばかり。
親指の爪を噛みながら、涙を流しブツブツ呟きを洩らしていた。
その顔はハッキリ言って可愛くない。

「くそっ……我輩はサント……サント・アンヌなのだぞ……? それなのに……それなのに、どうして精霊ごときの命令に従わなければならんのだ……?」
『§♭▽&●』
「え?『うるさいぞ、サント!』だって? あっ! す、すんません、すんません! 静かにしてますから、どうか……どうか、電撃だけはっ……!!」

これからの方針を決定するのは、もはやサントの仕事ではなかった。
ヴォルトにボロ負けしてからこっち、ヴォルトとサントの間には絶対的な立場の差が生まれていたのである。

すなわち――

『ヴォルト>>>(越えられない壁)>>>サント』

――であった。

「ううっ……クロ……我輩は…………」

かつての部下の事を思って、サントは一人涙する。


だが、その部下といえば――

「さて小説家、これからの事だが……」
「何か手があるのかい、クロ?」

そして、主催者達の方も――

「ゲームは順調に進んでいるみたいですぅ」
「はい、みろるんさん」

――サントの事など、誰の頭の片隅にも無かった事を記しておこう。


【C5 深い草むら・昼前】

【名前・出展者】サント・アンヌ@リアクション学院の夏休み
【状態】健康、めっちゃ脱力、ヴォルトの下僕
【装備】サードニックスの指輪@テイルズオブファンタジア
【所持品】支給品一式
【思考】基本:手下を集めてみろるんにリベンジしたい
1:……ヴォルトを切実になんとかしたい
2:クロとの合流

備考
  • ヴォルトと会話が出来るようになりました

【名前・出展者】精霊ヴォルト@テイルズオブファンタジア
【思考】不明だが、サントの頭の上が気に入っている様子?
サントから主導権を完全に握っている

【名前・出展者】ディー・ゼロディス@テイルズオブコンチェルト
【状態】健康
【装備】無し
【所持品】支給品一式、エリクシール(×3)@テイルズオブシリーズ、霊夢のスペルカード@東方Project
【思考】基本:ルイスとフレイアを探してから帰りたい
1:さっきの男、勘弁してくださいお願いします

備考
  • ディーの逃げた方角は次の書き手さんにお任せします


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最終更新:2008年11月19日 18:38