どれだけの時間が流れただろうか。

 レイヴン、ジューダス、そしてネスは構えて睨みあったまま動かなかった。
 もしかしたら3分にも満たない、もしかしたら一時間は過ぎたかもしれない、互いに時間の感覚があやふやになるほどに、神経を研ぎ澄ましたまましばらくの時が過ぎた。

「…お前さん達は、何を望んでるんだい?」
 そうして初めに口を開いたのはレイヴンだった。
「貴様には関係ない」
「だからジューダス! あんまり相手を挑発しちゃダメだってば!」
 強硬に敵意を見せ続けるジューダスと、可能ならば戦闘を回避しようとする様子のネス。 二人の意見の相違がレイヴンには見て取れた。
「やれやれ…じゃあ、ちょいと質問を変えようか。 そもそもお前さん達はどうして俺に――」
「黙れ。 僕は貴様の質問を許可した覚えは無い」
「ジューダス! いくらプリン駄目にされたからって、そこまで怒らなくてもいいだろ!?」
 ネスがいい加減にしろ、とジューダスに言わんばかりに怒鳴る。
「喧しい! 第一、僕がそれだけの事で本当に怒ると思っているのか!?」
「ふむ… なるほどな、それでお前さんは仕掛けてきたわけだ。 やれやれ、ようやく合点が行ったぜ」

 レイヴンは大きく溜息をつくように言うと、おもむろに構えを解いて見せた。
 ジューダスは眉をひそめる。
「…貴様、何のつもりだ」
「その点に関しては済まなかった。 …なにぶんこっちとしても、まさかお前さんにボールが当たるとは思っていなかったモンでな」
 レイヴンは頭を下げて、謝辞を述べた。
「俺は別にお前さん達とやりあうつもりじゃなかったんだが… ちょいとジューダス――お前さんが躍起になって仕掛けてきたモンで、力が入っちまっただけさ」
「ホラ、やっぱりジューダスのせいじゃんか!」
 素直に謝って見せたレイヴンを見て、ネスがジューダスに追い討ちをかける様に責める。
「……ふん、素直に謝った事については認めるがな。 僕は許すつもりはない」
「はは、コイツは手厳しいな。 お前さん達も中々の使い手のようだし、俺は出来れば敵に回したくないと思ってるんだが…」
 そういって、そっぽを向いてしまったジューダスの機嫌をとるように、レイヴンはまた微笑を作って向けてみせる。
「それって、俺達の力になってくれるって事…だよね!」
 ネスがレイヴンの言葉の真意を汲み取って尋ね返す。
「…そのニヤけ面を僕に向けるのを止めたら、考えてやってもいい」
「おいおい、お前さん本当に厳しいな。 第一お前さんも、そんな仮面で顔を隠してるなら大差ないと思うんだが」

 ひゅっ

 そんな風切り音が、顔を背けていたジューダスの耳に聞こえた。
 何かと思い、音のしたほう――ネスとレイヴンのほうを向く。
 見ればレイヴンが、緋色に輝く一振りの剣を手にしていた。  ……ネスの持っていたはずの緋緋色金の光剣を。
「ネス――――!」
「え」
 気付く間すら与えてもらえず、ネスは背中側から袈裟懸けに切り裂かれた。 肩から反対側の腰へ、一刀両断――

――レイヴンは、口を開いた最初から狙っていた。 ジューダスとネスの意識の差が見て取れたのを皮切りに、口八丁で油断を誘い、隙を見せて寄ってきたネスから悪タイプ『どろぼう』の技で剣を奪い、返す刀で切り伏せたのだ。

「……やれやれ、コイツはとんでもない切れ味だな。 身体の骨まで、まるで感触無しに斬れちまうとは…」
 斬り捨てたレイヴン自身、その剣の切れ味には驚いている様子だ。 ネスは――――もはや生きているかどうかを確認する事すら必要ないほどに、無惨に二つになっていた。
 まさに血の海、と形容できるほどに血が飛沫を散らす。 その中でレイヴンは、先程と何一つ変わりなく微笑をジューダスに向けて見せた。
「貴様ッ…!!」
「さっきも言ったが… 俺のこの顔はちょいとしたクセなんだ。 いつも微笑んで、真意を表情に表さない為の…“仮面”って奴さ」
 お前さんの仮面のようにな、と付け足してジューダス(の仮面)を指した。
「…貴様のような下衆と一緒にするな!」
 怒りを向けるジューダス。 それに対してレイヴンは変わらぬ調子で、手振りを交えて言葉を返す。
「はは、ソイツは手厳しいな。 …ま、正直やらずに済むならそれが一番なのは本音さ。 ただちょいと気の毒な事に、このネスって坊主は真っ直ぐ過ぎた。 …ジューダス、お前さんの判断は間違ってなかったのにな」
「黙れ」
 真っ直ぐすぎる故にネスは騙された。
 ジューダスは……嘘だとは気付いてはいなかったが、レイヴンを警戒し続けてネスに注意を促していたのに。
「お前さんもどこか場慣れした様子だったが… ちょいとばかり“甘さ”が見えちまったな」
「黙れ! …黙れ、下衆が!!」
 ジューダスは激昂する。
 昔は。 リオン・マグナスであった頃は。 彼らと会うまでは、彼はそんな“甘さ”は持っていなかった。
 スタン。 カイル。 その“甘さ”は彼らと出会って、やっと手に入れた“優しさ”だった、ような気がする。
 まるでそれを全部無駄だと否定されたような気がして。 ジューダスは怒りを露にした。

 そうして晶術を詠唱し始めたジューダスを、容赦無くレイヴンはネスと同じく一刀の下に斬り捨てた。


「…やれやれ、俺としてもそういう甘い奴は嫌いじゃないんだが、な」
 彼らには偶々運がなかった。 それだけだ、とでも言いたげにレイヴンは呟く。
 そうして数瞬今後の方針を考えた後、レイヴンはジューダスとネスの支給品を回収した。(チャーシューとプリンは食料品に含め、毛糸玉は放置した)
 ついでに自分のデイパックの中身も確認し、最低限使い方も記憶する。 …と、ふとジューダスの被っていた仮面を外す。
「……仮面の下は、まあ随分な色男だな。 やれやれ、こんな仮面で勿体無いモンだ」
 女性ファンが放っておかないだろうに、などと呟きながら仮面もパックにしまい込んだ。 レイヴンは内心、ここで仕留めて正解か…などとも少しばかり思いつつ。


 …そうしているうち、誰かが墓場の方――こちらへと向かってくるのが、レイヴンには見て取れた。

 *   *   *



【C1 墓場 昼前】

【名前・出展者】レイヴン@反乱
【状態】ちょっと返り血を浴びてるかも
【装備】緋緋色金の光剣@世界樹の迷宮Ⅱ 諸王の聖杯(ポケモンなので素手でも十分強いが)
【所持品】ポケモンボール@みんなのポケモン牧場、ジューダスの仮面@テイルズオブデスティニー2 他、未確認支給品三点(レイヴンの二つ、ジューダスの一つ)
【思考】基本:降りかかる火の粉を払うため、ゲームを早々に終わらせる
 1:向かってくる何者かを確認、奇襲可能な隙を狙う
 2:奇襲が無理ならば強襲、多少の傷は覚悟の上で確実に仕留める
 3:相手が女性でなければいいが…


 【名前・出展者】ジューダス@テイルズオブデスティニー2
 【状態】死亡


 【名前・出展者】ネス@MOTHER2 ギーグの逆襲
 【状態】死亡


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最終更新:2008年11月20日 18:31