町から出て、少し歩いたところでレベッカは1人の男と鉢合わせた。声をかけようとすると、口を塞がれた。男は口の前に人差し指を持っていく。「黙れ」ということだろうか。
そして鉛筆と紙を取り出すと、文字を書いてレベッカに見せた。

―主催者は盗聴を行っている。今から書く内容は聞かれてはならない。俺と同じように筆談を。会話は不自然のないよう続けてくれ。OK?―

“盗聴”という単語に驚きつつ、レベッカは同じように紙と鉛筆を取り出すと、文字を書いた。

―OK―

男は頷くと、自然に会話を始めた。上から下まで真っ黒な男は、何処か怪しげだ。

「まず聞くが……お前はゲームに乗っているか?」
―この付近で死者は出たか?―
「いいえ、乗っていません」
―はい、でました―

何故そんなことを聞くのか少し疑問に思ったが、正直に答えておく。とりあえずはゲームには乗っていないと見てもよさそうだった。

「俺は暗黒 黒王。クロ、と呼ばれている。ゲームには乗っていない。お前は?」
―その死体の場所は分かるか?―
「私はレベッカ・ミューン。医者です。こちらはソーディアンのシャルティエくん」
―確定は出来ません。けれど、大体の位置は分かります―
『やあ、僕シャルティエ!』

喋る剣のシャルティエに驚いた様子もなく、黒王――クロは自然に会話を続け、鉛筆を紙に走らせる。

「喋る剣か……。不思議なものもあるものだな」
―その死体はどこにある? よければ、案内してくれないか?―
「はい、私も最初はびっくりしました」
―確かB3の辺りです。ところで、何故遺体の場所が知りたいのですか?―

レベッカには特に考えはなく、ごく普通に浮かび上がった疑問をそのまま書いただけだった。残酷な答えを予想していなかった。

「ああ、俺も少し驚いた」
―死体の首輪を回収する為だ―

レベッカは一瞬、言葉を失った。その一瞬の間に様々な考えが浮かび上がり、ぐるぐると回りまわっていく。――彼は、「クロ」と名乗った男はなんと言った?
「死体の首輪」を「回収」する? 「首輪」を「回収」? 無理矢理取ったら爆発するのに、どうやって。爆発させないように首輪を取るには――
行き着いたその“残酷な答え”にレベッカは、らしくもなく感情のまま行動した。パァン、と乾いた音が鳴る。気づいた時にはレベッカは、クロの頬を力一体はたいていた。

「最……低……! こんな、死者を冒涜するような……!!」

何時もは穏やかな彼女は、震えた。怯えているからではない。クロに平手打ちをしたことを悔いているからではない。それは、死者を冒涜されたことによる純粋な……怒り。
クロのただ一つの大きな失敗は、医者である彼女に“死体の首を切る”ことを教えてしまったことである。
レベッカは鉛筆と紙を手早くデイパックに仕舞い、クロから逃げるように走り去った。クロはそれを追いかけるような真似はしなかった。――追いかけてはいけないような気がした。


【C3町の前・昼前】

【名前・出展者】暗黒 黒王@リアクション学院の夏休み
【状態】健康、少し複雑な気持ち
【装備】逆刃刀・真打@るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―
【所持品】簡易首輪レーダー(パッチ当て済み)@暁、基本支給品一式
【思考】基本:主催者を倒しゲームを終わらせる
1:…………
2:レベッカの言っていたB3の方へ行ってみる
3:主催者打倒のための仲間を集める
4:なんとか記憶を取り戻したい


   *   *   *


レベッカは走った。残酷な考えを持ったクロから、少しでも遠く離れた場所に行きたいと思ったのだろう。この時ばかりは彼女はモットーである“平等”を忘れてしまった。
結果的に自分の所為で死んでしまった、名も知らない少女。死ぬ間際だというのに自分を後ろめたく見るなと、状況を打破しろと言葉をかけて最後は笑顔で逝った少女。
その少女の遺体の首を切って首輪を持っていくなんて――! 例えソレがここを脱出する為だとしても、レベッカには許すことが出来なかった。
でも、本当はあのクロの行動は正しい。首輪を解除するのは、まずは首輪を調べるのが先決だ。分かっている。けれど許せない。口先だけで、何も出来ないことを実感させられ、涙が流れた。
シャルティエにはかける言葉が見つからず、ただただ黙っていた。

「あっ!」

何かに躓いたのだろうか。レベッカは草の上で転ぶ。それが余計に惨めな気がして、できるなら大声を上げて泣き出してしまいたかった。

『レベッカ、大丈夫!?』
「へ……き……。平気よ、シャルティエくん……」
『無理しなくていいよ……』
「無理なんか、してないよ……。駄目だね、私……あんなことで泣いちゃって」
『レベッカにとっては“あんなこと”じゃないんでしょ?』

シャルティエの言葉にレベッカは黙り込んだ。シャルティエは言葉を続ける。

『僕は剣だから疲れとか感じないけど、レベッカは疲れてるんでしょ? ほら、そこに湖があるから。休もう』
「……でも、」
『また走るつもり? その疲れた体で?』
「……分かったわ」

シャルティエに促され、レベッカは立ち上がった。服を2、3回埃を落とすためにはたき、湖の方へと向かう。……ふと、湖に人影が見えた。

「誰かいるみたい……敵じゃないといいなぁ」
『こっちも僕達に……っていうか、レベッカに気づいたみたいだね。どうする?』

無論、出来るなら戦わないで済む方がいいに決まっている。レベッカは一度デイパックとシャルティエを地面に置き、敵意がないことを相手に示した。

   *   *   *


「私はレベッカ・ミューンです。医者をやっています」

レベッカと名乗った少女はそう言って、軽く頭を下げた。心なしか、少し目が赤く腫れているような気がする。

「俺はゼルガディス=グレイワーズだ」
「博麗霊夢よ」
「私はリシェル・メルゲンハイムよ」

それぞれ名乗り終えるとレベッカは、はっとしたように鞘に収まった剣を持って言った。

「こちらはソーディアンのシャルティエくん」
『やあ、僕シャルティエ!』

3人はその声を聞き、驚いていた。――ただ1人、ゼルガディス=グレイワーズは別の驚き方をしていたが。

「ソーディアン……? それが、アトワイト以外のソーディアンなのか?」
『えっ、アトワイト? アトワイトがここにいるの!?』

予想通りだった。どうやらシャルティエとアトワイトは知り合いらしい。
ふと、霊夢がいかにも「状況がよく分からないから説明してちょうだい」とでも言いたげな目でゼルガディスを見ていることに気がついた。シャルティエ、レベッカの言葉を織り交ぜつつ、ゼルガディスは説明を始めた。
合成獣説明中。。。 とりあえず、こんな感じの言葉で済ますことが出来るのだからパロディ小説は非常に便利である(と、筆者は思う)。

「ふうん……。持つだけで魔術が使えて、しかも喋れる剣ねぇ。魔理沙が喜びそうだわ」
「正確には晶術っていうらしいけどね。私が使う術は譜術っていうんだけど……」
「ややこしいわね~。一つに統一すればいいのに」

レベッカと霊夢がそんな会話を交わしている中、ゼルガディスは少し前に戦った見たこともない術を使ってきた子供を思い出していた。
晶術はアトワイトから大体聞いたが、今度は「譜術」という術の名前が出てきた。あの子供の使っていた術も、もしかしたら――

「……レベッカ。よければその譜術とやらについて教えてくれないか?」
「あ、はい。譜術っていうのは、空気中の音素(フォニム)を用いる術のことです。音素(フォニム)は全部で7種。私が得意とするのは第七音素(セブンスフォニム)を使う癒しの術です」

――つまり彼女は、その癒しの術を使って医者をしているのだろう。しかし気になるのは、音素(フォニム)の部分だ。
レベッカは音素(フォニム)を用いて譜術を使うと言っていた。つまりは、音素(フォニム)がないと彼女は譜術を使うことが出来ないのだ。

「音素(フォニム)の皆無は分かるのか?」
「はい、一応は。……この場所にも音素(フォニム)はあるんですが、なんだか薄い気がするんです」
「――つまり?」
「私が癒しの術を使っても、何時も通りの効果は期待出来ないと思います」
「……そうか」

しかし、1人でも傷を癒すことが出来る人物がいるのは嬉しいことだ。霊夢やリシェルがどうかは知らないが、ゼルガディスは治癒(リカバリィ)程度しか白魔術を使うことが出来ないのだ。
しかも“医者”で治癒の術が“得意”と言うからには、おそらくは相当上級のものや解毒の術なんかも使えるだろう。

「……私でお役に立てるのなら、是非同行させてもらいたいのですが……」
「あら、私は初めからそのつもりだっだけど」
「俺は別に構わないが」
「私も結構よ」

霊夢達の言葉にレベッカは、深く頭を下げた。――クロとの出来事は、胸の奥に仕舞っておくことにした。


【E4 湖のほとり 昼前】

【名前・出展者】レベッカ@テイルズオブジアビス更なる悲劇
【状態】疲労(戦闘に支障はない)、僅かな迷い
【装備】ソーディアン・シャルティエ@テイルズオブディスティニー
【所持品】魔理沙の箒@東方 アクアマリンの指輪@テイルズオブファンタジア 基本支給品一式
【思考】
基本:あの子(ララ)の遺志を継ぎ、この状況を打破する
1:G3に向かい、人を探したい
2:シャルティエをリオン・マグナスの元へ届ける。また、レニーファを探す
3:出来ればクロにはもう会いたくない
※クロのことは話していません。また、話すつもりはありません
※譜術の効果が減少するのではないかと推測しています

【名前・出展者】博麗 霊夢@東方Project
【状態】健康
【装備】鉈@ひぐらしのなくころに
【所持品】支給品一式
【思考】基本:主催者打倒の為の仲間を探す
1:ショウジュツだのフジュツだの、ややこしいわね
2:コトナを探す
3:ゲームに乗っている奴はぶっ飛ばす
※:リシェルがゲームに乗っている事には気付いていません


【名前・出展者】ゼルガディス=グレイワーズ@スレイヤーズ
【状態】やや疲労、右足に火傷(ある程度治療済み)
【装備】万能包丁@テイルズオブデスティニー2
【所持品】支給品一式、お料理セット@テイルズオブデスティニー2、ロリポップ@テイルズオブジアビス
マジカルポット@テイルズオブデスティニー2、ルルさんセット@スレイヤーズ
【思考】基本:不明(少なくともマーダーではない)
1:コトナに会って謝りたい
2:あの子供(フレイア)の使っていた術も、まさか……
※リシェルがコトナと会っていて、攻撃を仕掛けた事は知りません


【名前・出展者】リシェル・メルゲンハイム@PQR
【状態】逃走と移動でのちょっとの疲労
【装備】手榴弾×75個ぐらい エメラルドリング@テイルズオブシリーズ
【所持品】基本支給品一式 
【思考】基本:ゲームに乗って生き残る
1:霊夢とゼルガディス、レベッカを利用して生き残る
2:あの剣……中々便利そうね
3:主催者を倒すのも選択肢の一つかしら
※:コトナに遭遇して攻撃を仕掛けた事は伝えていません


【名前・出展者】ソーディアン・シャルティエ@テイルズオブデスティニー
【思考】
1:ゲームに乗ってない人がいてよかったですね
2:坊ちゃんドコー?


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最終更新:2008年11月23日 17:33