12時ちょうどに始まった放送が、辺りを騒がしく響かせている。
8人の死亡者の名前と禁止エリア、そしてみろるんからの挑発的な言葉。
これを聞いた人は、何を考え、何を思うのか――
しかし、桐生院黒影はそれを聞いても、何一つ表情を変えず、ただ自らの作業に没頭し続ける。
森が火事になってきた為にマガジンの探索を諦めた黒影は、南東のファンタジーの町、支給地図が指すF5地点に位置する酒場にいた。
本来なら、冒険には欠かせない情報収集の基本とも言える場所なのだが、今は無人と化したそこで、彼はひたすら動き回る。
なにやら液体が入った樽を担いだと思えば、広い酒場の中心部にまで持ち運び、それを床の上に撒く。
そして、また空になった樽を担いで隅に行き、再び液体を満たした後に運ぶ。
そして、やはり床の上に撒く。
そんな作業を延々と続けている。
その様な行動を続けていくうちに、そこには徐々にその液体によって作り出された水溜りが姿を現し始めていた。
彼の行動の意図を知らぬ者ならば、誰が見てもその行動は奇妙に思うであろう。
しかし、ゲームに乗る事を決意した彼のことだ。
おそらく、なにやら考えがあるのだろう。
全く感情が無い無表情な顔をピクリと動かしもしない男。
はたして、その冷たい目の奥で何を思っているのだろうか。
そして、彼が作業を終えた後、サブマシンガンを構え辺りを移動し始めた。
◆
同じF5で、二人の男が並んで歩いていた。
方や、手にはソーディアン・ディムロスを装備した、リオン・マグナス。
もう方や、手にはフランヴェルジュを装備した、志々雄真実。
すでに一人を葬った二人の暴走は、おそらく並大抵の者の手では止められないだろう。
彼らは数時間前に最初の標的、スティンガ・アルスと遭遇し、そしてリオンの武器ディムロスでその全身を砕いた。
スティンガは当然即死。
彼が持っていたデイパックに入っていたのは、自分達と同じ支給品一式の他に、金槌、暗視スコープ、そして銃のマガジン。
しかし、そのマガジンを詰めるための銃は、先ほどの戦闘の時リオンが蹴飛ばしてしまい、どこにあるか分からない状態なのだが、二人は全く気にしていない。
そもそも、二人は、このゲームで優勝するとか、そういう類の考えなどは無い。
そう、二人はただ純粋に強者との戦いを楽しんでいるだけであった。
そのため、出来るだけ多くの武器を手にし、このゲームを少しでも有利に進めようなど、そんなことなどは全く考えてないのだ。
水と食料を山分けした後、暗視スコープはリオンが、銃のマガジンは志々雄がそれぞれ自分のデイパックに入れる。
ただし、使えそうも無い金槌だけはその場に放置された。
そして、二人は次なる獲物を探し続ける。
自らの欲望を発散させる為の、次の標的が欲しかった。
◆
町の中を歩いていくと、二人はついに一つの標的と遭遇した。
前方の建物の陰からこちらに向かって、黒影は突如こちらに向けて銃を数発ほど発砲してきたのだ。
姿が見えない事に危険を感じた二人は、すぐさま側の建物の陰に隠れる。
銃声が聞こえた後に、隠れた建物にいくつかの傷痕を生み出していった。
だがこの時、リオンの中では感激で胸がいっぱいだった。
ようやく見つけた標的が、ちょうど良く先ほど無くした物を抱えてきたのだから。
リオンの耳に確かに入った、黒影の手に握られたサブマシンガンの銃声。
瞬時に、それは先ほどスティンガが持っていた物と同じであると判断したのはさすがだ。
――せっかくだから、あの銃を手に入れよう。
リオンの中に欲望が浮上した途端、彼は呪文を詠唱した後、拡散させた攻撃魔法を音のする方向へと放った。
「ファイアボール!」
黒影の目の前に、火球が次々と飛び出して来る。
彼にとっては予想だにしなかっただろう。
相手は剣を持っているので接近戦で来ると予想していた矢先、"魔法"と形容せざるをえない攻撃を仕掛けてきたのだから。
そして、その内の一つが黒影の迷彩スーツに直撃。
迷彩スーツはボロボロになり、その効力を失ったため姿を曝け出してしまった。
さらに、顔の横にも直撃し、黒影の右頬に火傷の痕が出来てしまう。
しかし、黒影もすぐさま負けじと反撃を仕掛けてきた。
とはいえ、サブマシンガンの弾の残りはあと数十発程度なので四、五発ぐらいしか撃とうとしない。
その黒影の攻撃が止まった一瞬の隙をつき、今度は魔神剣を放つリオン。
自身の剣技にディムロスの発火能力を組み合わせ、威力を倍化させる。
もちろん、狙いながらだ。
しかし、黒影の反応の方が一瞬早かったらしく、再び別の建物の裏に隠れられてしまった。
だが、リオンはそれでも攻撃を休めようとしない。
乱射された炎を纏う衝撃波が、黒影の隠れる建物を破壊していく。
これにはさすがの黒影も反撃することは出来なかった。
ほんの少しでも姿を見せれば、すぐさまその炎の衝撃波を体全身に浴びる事になるからだ。
このままでは勝てないと判断したのか、黒影は建物に隠れながら後退を開始し始める。
飛び道具を持たない為、相手の動きを探っていた志々雄が黒影の撤退に気づいた時には、すでに数十メートルもの距離を離されていた。
志々雄に言われて気付き、このまま逃がしてやるものかと、リオンは負けじと前進しようとする。
しかし、飛び出そうとした瞬間、再び黒影が撃った銃弾が襲い掛かるため、追いかけることが出来なかった。
――このままでは逃げられてしまう。あいつはここで殺しておかないと。
そう考えながらも、黒影は建物の陰から陰へと飛び出しながら逃げ出している。
「ちぃ! 逃がすか!」
逃げられてなるものかと、リオンは急いで逃げる黒影の追跡を開始する。
しかし、志々雄はある不自然さに気付いた。
自分から仕掛けて、旗色が悪くなった途端、即撤退。
確かに当たり前の行動なのだが、あまりにもアッサリしすぎているのが何か引っ掛かる。
だが、志々雄は「まあ、いい」と疑問を完結させる。
逃げている男が何を考えているのかは、追いかければ分かる事だ。
そして、黒影は走り出す。
彼はこのまま逃げるつもりなのか、それとも別の場所を最終決戦の舞台として選ぶのだろうか。
いずれにしろ、決着の時はもう間近に迫っているように思えた。
◆
町中を駆けながらも、リオンは遥か前方を走る黒影の背後から、容赦なく炎の衝撃波を噴かせ続けた。
耳をつんざくほどの爆音が響くと同時に、周りの建物が炎に焼かれる。
しかし、数十メートル程の距離が離れている為、魔神剣はどれも黒影に命中することなく、ただむなしく町中にたくさんの炎を作り出すだけであった。
だが、リオンは諦めない。
いくら狙いを外そうとも、相手を仕留める事に専念する。
対し、前方の黒影は背を向けて走っているかと思えば、時々こちらを振り返り、四、五発程撃ち返し、そして再び走るのに専念する。 もちろんしっかりと狙いを定めていないので、その弾が二人に命中することはない。
しかし、リオン側も万一のことを考えると、障害物の後ろに身を隠さないわけにはいかなかった。
走りながらも繰り広げられる飛び道具戦の為か、その距離は一向に縮まる様子はない。
終わりの訪れぬ攻防と追跡を続けているうちに、気がつけばとある建物へと黒影は向かっていた。
裏通りの狭い道の側に位置しているその建物である酒場。
黒影はそちらへ向かっていたのだ。
しかし、リオンはそんなことなど気にせず、とにかくその酒場へと走った。
走りながらも、前方の黒影へ向けての攻撃の手は緩めない。
とある一軒の民家の横を通過したばかりの黒影の背中に向けて、さらに魔神剣を放つ。
だが黒影が角を曲る方が一瞬早く、攻撃の全ては民家の壁面に直撃するだけだった。
十秒ほど後に、二人も同じ角を曲り、そしてまた魔神剣を放つ。
そのときに黒影は酒場へと到着。
そして魔神剣の衝撃波は、その酒場の隣の建物に直撃した。
それでもリオンは諦めず走り、逃がしてなるものかと追いかける。
店内を駆け、そして裏口から出ようとする黒影。
数秒後、二人もようやくその場に到着し、酒場を出てからも走り続けている黒影へと向けて、魔神剣を放とうとする。
絶対に仕留めてやるという考えが、楽しみと恐れという、相反する気持ちから生み出され、それを実現化させるために、リオンは全神経を黒影を仕留めることに集中させ、全力で戦いに挑んだのだ。
店内には、二人が床に溜まった液体を踏みつける音と、魔神剣を放つ音が響く。
しかし、鼻に飛び込んできた異臭に気付き、ここで志々雄はある違和感に気がついた。
――外は雨なんか降っていない、ましてやここは店内。
――だから、こんなところに水溜りが出来ているはずがない。
――では、ここに溜まっている液体は何だ?
疑問の答えが浮かぶ前に、リオンの手元から衝撃波と共に巨大な炎が飛び出した。
いや、正確にはディムロスの発火能力故に飛び出した炎が、巨大な赤い悪魔へと変化したと言ったほうが正解であろう。
突如出現した巨大かつ高熱を発する紅蓮の炎にどうすることも出来ず、身を包まれたリオンは絶叫をあげた。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
空気中に出現した、二人を焼き掃おうとする紅蓮の塊は、瞬く間に成長し、ついには酒場全体を包み込む。
足元から何度も起こる爆発に、体重が48kgしかないリオンは身体を簡単に持ち上げられ、地面に叩きつけられた。
全身を駆け巡る痛み。
自らの身体を焼かれて起こるそれは、尋常なものではなく、リオンは人生史上最大の苦痛にのた打ち回った。
「うわぁぁぁぁぁ! あ、熱い! 熱いぃぃぃぃぃぃぃ!」
罠だった。
これは、黒影があらかじめ店内に高濃度のアルコールを撒き、そこで誰かが銃を撃てば、そのときに発する火花が気化したアルコールに燃え移り、そして爆発に飲み込まれるという罠だったのだ。
しかし、実際使われたのは銃ではなく炎を纏った衝撃波だった事は、黒影にとっては予想外だったが、それでも作戦は成功と言えるだろう。
そして、まんまとおびき寄せられたリオンが、それに気付いた時はもう遅かった。
アルコールのキツイ匂いと共に、自らの身体の肉が焼ける香りが鼻に入ってくる。
全身を焼かれながらも、生きようと――いや、生きたいと、リオンは必至に炎の海からの脱出を試みる。
だが、身体を動かせば、衣服と焼けた肌がこすれ合い、そこから耐えようもないほどの激痛が走り始めた。
その時、炎の海の外から飛び込んでくるタイプライターを打つ様な銃声にリオンは絶大なる恐怖に怯えた。
燃えさかる酒場の窓から、黒影が炎の内部に向けてサブマシンガンの残りの弾を、鉛雨の如く撃っているのだ。
そして、そのうちの一発がリオンの左足の膝を貫通し、そのまま床にめり込んだ。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!」
耐え切れぬ痛みに声を張り上げ、炎のど真ん中で倒れこむリオン。
そしてさらに襲い掛かる爆発が、いともたやすく、その場から動けない彼の身体を壊していった。
しかし、それでも彼はまだ死にたくなかった。
ゲームに乗り生命を奪った側についたリオン。
彼は何事も深く考えず、ただ“獲物”を仕留めることを選んだ。
しかし、このとき彼は“狩られる者”の立場となり、そして先ほど殺した男の気持ちを知った。
それに今ようやく気がついたが、もう手遅れかもしれない。
そして、リオンはただ必至に唯一心を開いているメイドへの今の想いを叫んだ。
「マリアン! マリアァァァァァァァン!!」
何度も起こる爆発は、徐々に酒場そのものを崩壊させるだけでなく、飛び散った火の子が辺り一面の建物にも被害を拡大させ、そして空を黒い煙が覆う。
南東に広がる町は、徐々に炎に包まれた紅蓮の世界へと姿を変えた。
だが、その地獄のような世界に、志々雄真実だけは平然と立っていた。
【F5 町の酒場・昼過ぎ】
【名前・出展者】桐生院 黒影@陽華がくえん☆ねこやしき
【状態】無感情モード、顔の右頬に火傷(戦闘に支障はない)
【装備】河城にとり製光学迷彩スーツ@東方Project(焼かれたため使用不可能)
サブマシンガン@現実(弾切れ)
【所持品】支給品一式
【思考】基本:ゲームに優勝して、元の世界に帰る
1:サブマシンガンの予備のマガジンを探す
備考
【名前・出展者】
志々雄 真実@るろうに剣心
【状態】健康
【装備】フランヴェルジュ@テイルズオブシンフォニア
【所持品】支給品一式+半人分、予備のマガジン、不明支給品
【思考】基本:あの男(黒影)をどうするか……
1:強い奴と戦いたい
2:弱い奴を殺す
【リオン・マグナス@テイルズオブデスティニー 死亡】
※F5の道の上に金槌が落ちています
※F5の酒場を中心に火事になりました
※リオンが持っていたソーディアン・ディムロスと暗視スコープが入っているデイパックがどうなったかは次の書き手さんに任せます
【暗視スコープ@現実】
どんな暗闇だろうと、良く見えるスコープ。
前の話
次の話
最終更新:2008年11月27日 18:16