「……ちょいと効きが悪いな」
可能な限り楽な姿勢で『羽休め』を使いながらレイヴンが呟く。
…効きが悪い、とは羽休めの事だ。 本来は一回の使用で、およそ体力を半分回復する技なのだが…
はめられている首輪のせいか、それとも他に何か原因が有るのか、効果はおよそ四分の一足らずまで落ち込んでいた。
緊急時の回復手段として有用かとも思っていたが、コレでは戦闘中に使えるようなレベルではない。 今のような、周囲に誰も居ない状況でしか望めないだろう。
「…さて、しかしここは一体……」
どこだろうか。 …周囲は荒地、レイヴンの視力では他にこれと言って目印になるようなものはわからない。 強いて言えば、向こうに山が見える程度で――
――山。
「……山か。 確か――」
羽休めの、仰向けに寝転がった姿勢のままレイヴンは持ち物から地図を取り出す。 山があるのは主にE1~F2のエリア。
…現在時刻と日の傾きからするに、どうやら山があるのは北の方角だと把握できた。 …ここは恐らくE3あたりだろうか?
「やれやれ、けっこう吹っ飛ばされたモンだ…」
大の字に寝転がりながら、溜息をつくように一人呟いた。
そして、起こった出来事を反芻し始める。
…彼女は無事に"ゼルさん"と再会出来たようで、何よりだ。 確か、当の"ゼルさん"は彼女の事を"コトナ"と呼んでいたな。
あの"小説家"と名乗った男は…どうにも、俺と同じ"読めない"空気を纏っていた。 妙な事を考えてなければ良いんだが。
レイヴンは溜息をもう一つつく。 …彼女、コトナ――女性の目の前で積極的に"コロシ"を行うのは彼の理念に反する。
だが…… あの"小説家"は危険だと、彼の封じているはずの『暗殺者としての本能』が警鐘を鳴らしたのだ。
あの場で始末しなければ、何を仕出かすかわからない…… だが結局は"ゼルさん"をけしかけられた挙句、レイヴンは敗退する他なかった。
(やれやれ。 …もしや、短いやり取りだけで俺の思考と嗜好を読まれちまったか)
だとしたら非常に厄介だ。
…敵に回すのは得策ではない。 下手をすれば、完璧に欺いたつもりでも読まれた挙句に、不意打ちを返り討ちされる可能性すらある。
(完璧な策士タイプか… だが体格を見た限り、ああいった手合いにありがちな『戦略が専門で戦術は専門外』ってタイプだな)
だが、それでも強力な攻撃を放ってきた。
やはり直接敵には回さず、同調して生き延びるか… それとも、疲弊した隙を見計らって真正面から力押しをするか…
(力押しってのは性分じゃないが。 …あくまでも奇襲や欺瞞の通じない場合の、最終手段だな)
もちろん、小説家に関わらないに越した事はない。 コトナの事は心配だが… まあ、恐らく"ゼルさん"に任せておけば問題はないはずだ。
「あ。。。」
「っ!?」
誰かの(女性だとはわかる)声。 急に現れた気配。
完全に不意をつかれ、レイヴンは一瞬無防備な姿を晒していた。
一方、鏡で移動していたらうっかりレイヴンの近くに現れてしまったミアージュも、一瞬反応が遅れてしまった。
それまでの彼女ならば躊躇なく、無防備なレイヴンの脳天をハンマーで打ち砕いていたかもしれない。だがレベッカとひと悶着あった直後の彼女には、若干の迷いが存在した。
その若干の迷いが、レイヴンの生死を左右したのは偶然とも必然とも言えた。
レイヴンは仰向けの無防備な体制から身を翻して立ち上がり、ミアージュのハンマーの間合いの若干外まで距離をとった。
「…やれやれ。 お前さん、一体何処から現れたやら…」
ミアージュの動作に注意を払うレイヴン。 相手が女性ゆえにレイヴンに攻撃の意思は無いが、それでも襲い掛かってくるなら攻撃の回避はしなければならない。
「うっかり。。。してました。。。」
巨大ハンマーを握り締めた手に、まるで抜けてしまった気合を入れなおすかのようにもう一度握り締めるミアージュ。
「おいおい、出来れば勘弁して欲しいんだが…」
「。。。どうして。。。」
攻撃する意思を見せないレイヴンに、ミアージュは既視感(デジャヴュ)を覚える。 先程の霊夢と、レベッカとの戦い。
「そりゃあ、お前さんを傷付けたくないからさ。 …出来れば見なかった事にしてもらえるかい?」
「どうして。。。 どうしてあなたも同じ事を言うの。。。」
「…さて、お前さんが俺を誰と同一視してるかは知らないが。 俺は俺の理念に従って、そう決断してるだけさ」
まるで困惑した様子のミアージュに、レイヴンはそう言ってのける。
「。。。、知らない。。。 あなたの事なんか知らない。。。」
「はは、そりゃ参ったな。 …だがこれだけは言っておきたい。俺は、お前さんのする事を咎めはしないし、邪魔をする気もない」
拒むように言うミアージュに、レイヴンは笑顔でそう言葉を返す。
「。。。?」
「…お前さんが何を望むかは知らないが、俺は可能ならお前さんに力添えをしたいと言ってるのさ。 …嫌かい?」
「。。。。。。どうして。。。?」
ミアージュには、まるで目の前の男が何を考えているのか理解できなかった。 殺し合いの中で、見ず知らずの相手がそんな事を言い出すなんて考えられない。
「…そうだな。 たとえお前さんがただ一人、勝ち残って願いをかなえようとしているのなら…俺は、お前さんと二人生き残るまで戦い抜いて、お前さんに殺されようじゃないか」
まるで訳がわからない。 …自分を騙そうとしているのだろうか?
「わからない。。。。。。 そんな事をしても、あなたは何の得にもならない。。。」
「はは、ソイツはどうだろうな。 …少なくとも、俺は恋焦がれる心に損得を求めた事がないからな。 ちょいとわからない所さ」
…… ……
ミアージュの思考が、一瞬言葉の理解を躊躇した。 あまりにもこの場に似つかわしくない単語が聞こえたからだ。
「。。。今。。。 なんて言いました。。。?」
「俺がお前さんに恋焦がれる心に、損得勘定なんてつけようがない……と言ったんだが」
目の前の男は爽やかな笑顔で、繰り返し言った。
事実、レイヴンは別に嘘偽りを言っているわけではない。 目の前の少女に心奪われたのは本当と言うか、それが彼のいつもの事である。
何しろ平時非常時関わらず、老若問わず、ポケモンの種族の垣根どころか人間にすら女性であれば声をかけるのが彼だ。
それこそが彼のアイデンティティ、彼の彼たる所以(ゆえん)。 欠かすことは死に等しいと言っても、おそらく彼は否定しないだろう。
勿論、その中で彼なりのルールは持っているのだが…
「…信用できないかい?」
レイヴンはそうミアージュに聞き返す。
「。。。えっと。。。。。。」
「…っと、参ったな、失礼した。そう言えばお前さんがいきなり現れたから、名乗りもしていなかったな」
さらに困惑した様子のミアージュに、まさしく自分のペースに巻き込みながらレイヴンは続ける。
「俺はレイヴンって言うんだ。 …挨拶が遅れて済まないな」
「あ。。。ぁわあわ。。。私はミアージュって言います。。。ます。。。」
僅かに微笑みながらもを帽子を取って挨拶をするレイヴン。 その様子に釣られる様にミアージュも名乗って、ぺこりと頭を下げる。
…と同時に、ハッとミアージュは我に返る。 自分は何をしているのだ、一体。
まるでおちょくられているような気分になって、顔を上げてレイヴンをキッと睨む。
「…………」
「。。。ッ!?」
ぞくり。
何か。
さっきと変わらないレイヴン。
だが。
「…もしもお前さんがそれでも俺に敵意を向けるなら、俺も敵意を持ってお前さんに接しなきゃならない。 殺意なら、俺も殺意でお前さんに応える。 …後で、俺自身酷く傷付くんだがな」
今のレイヴンは、恐ろしい。 ミアージュはそう感じた。
「…やれやれ、悪かった。脅すつもりじゃなかったんだが、これでも俺は真剣なんだ。 なに、俺は一度向けた想いは、裏切るつもりはないさ」
ミアージュに恐怖を抱かせてしまったと見て、すまなさそうな様子でレイヴンが言う。
さっきとまるで変わらない立ち姿のレイヴン。やはり、さっきと変わらず殺意も敵意も持っているように見えない。
「……ミアージュ。 俺はお前さんの味方でありたいと思っている。 お前さんは……どうだい?」
また、微笑を見せてミアージュに尋ねるレイヴン。
「あ。。。ぁゎ。。。。。。 味方、なのですか。。。?」
それに毒気を抜かれたようにミアージュは聞き返す。
「ああ。 …お前さんが俺を敵としない限り、俺はお前さんの味方であり続けるさ」
少し考えて、ミアージュは決める。
「だ、だったら。。。 よろしくお願いします。。。ます。。。」
「はは、少しでも信用してくれたんなら嬉しいモンだ。 …お前さんの意思に、俺なりに従わせてもらうとしよう」
レイヴンはミアージュの前にひざまずいて言った。 …彼なりの誠意の示し方であった。
…この時レイヴンはミアージュの左手中指がない事に気付き、彼女はさぞ痛かろうと思って顔をしかめたが…それはあまり関係のない話であった。
「…ところで一応聞いておきたいんだが、お前さんには心に決めた相手は居るのかい?」
「あ。。。あゎぁわあゎ!? どどどどうしてそんな事を」
「…はは。 やれやれ、その反応だと居るみたいだな… 他人の恋愛は応援する性質なんだが」
コイツは下手すれば、かなわぬ恋になりそうだ…と、レイヴンは心で苦笑するのだった。
【E3 草原の中の荒地・昼過ぎ】
【名前・出展者】レイヴン@反乱
【状態】あちこちに焦げ後(ほぼ全治)、そこそこの疲労
【装備】リボルバー銃(残り5発)
【所持品】基本支給品一式 命の玉@ポケットモンスターDPt
ジューダスの仮面@テイルズオブデスティニー2、カエルグミ(緑)@マジカルバケーション、アヒルの玩具@テイルズオブエターニア
【思考】基本:降りかかる火の粉を払うため、ゲームを早々に終わらせる(自分が勝者になるにしても、主催を打ち倒すにしても、終わらせる)
1:ミアージュに協力する
2:もしかなわぬ恋でも、ミアージュを想い続ける(彼女の左手の中指はどうしたんだろうな…)
3:女性を相手にコロシをするのは心が傷付くが、もしも彼女(ミアージュ)が望むならそれも仕方が無い
4:あの小説家って奴は、敵にするのは危険だな…
5:レイスが再び敵となるなら、自分の手で仕留める
※ミアージュの目的をまだ聞いていませんが、本人が話すまで自分から聞くつもりはありません
おまけ:レイヴン恋愛ルール 紳士の心得 ※可能な限り厳守
1:一度決めた相手は、相手に完全に捨てられ拒まれるまで裏切らない、それが紳士の心
2:略奪愛は出来れば避けたい 他人の恋路を応援するのも紳士の務め
3:積極的、だがあくまでもスマートに 強引過ぎる男は紳士にあらず
【名前・出展者】
ミアージュマリアウェル=Åм@空婿(ry
【状態】左手の中指が無い 脚の氷は多分問題ない(らしい) 軽度の疲労
【装備】巨大ハンマー
【所持品】基本支給品一式 不明支給品1~2個
【思考】
基本:ゲームには乗って願いをかなえる
1:レイヴン、へんな人。。。。。。
2:少し休みたい
3、。。。そういえば。。。。。。左手の中指がない。。。
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最終更新:2008年12月16日 16:11