懐疑の弾丸 2
「やっぱり、あなたみたいな人でも懐かしがったりするの?」
藍沢の側に立つ、金髪が美しい女性がカメラを片手に言った。
「ひどい言いようだ」
ここは、撮影禁止だぞ――と言う前に彼女は、カメラにフィルムが入ってないことを示した。
「フィルターからのぞき込むだけでもいいの、写真は対象との空間を読むものよ」
「そういうものかい?」
「あなたのお父様は、カメラマンじゃなかったかしら?」
「……親父の仕事には、興味をもったことはなかった」
藍沢の父は、アメリカ人だ。
著名な新聞社でほどほどの人気を持った記者だったらしい。記事を読んだことはないが――。やっぱり懐かしむような思い出はなかった。
「こいつの方が、ある意味では思い出深い」
「ブリティッシュファントム……あなたの先生の、命を奪った」
「――悲惨だった。こいつは、先端部がまるで刀のように簡単に装甲を貫く。見事なくらいだ、今でもはっきり思い出せる」
有田昇平。
当時の外務相を勤め、大いに手腕を振るった名大臣であり、藍沢にとっての師匠でもあった。
英武チルドレンと呼ばれる、政治家の英才教育機関に居た頃の。
沢山のことを教わった。
有田は、ユニークな人だった。
一つの質問に、十の理由と答えを述べた、そんな男だった。
思い出せば、何故彼の元にいたのかはあやふやだ。その感性に惹かれたのか、あるいは――経歴だったか。自分はその頃から利己的な子供だったのだなと、当時の自分を思い浮かべた。
「これ、やっぱり撮らせてもらえない?」
「ん?」
藍沢は、プライベートな写真なら――と答えた。
「もちろん、あなたを仕事の材料にはしない。プライベートであるうちは」
「この前の記事読んだけど、あの文体でコラムでも書けば、売れると思うけど」
「トゲがありすぎて――あなたくらいよ、あれを好きになれるのは」
そうかな、と呟いて二人は博物館をあとにした。
最終更新:2009年11月24日 06:58