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懐疑の弾丸 3



「よかった、席が空いてて……もう足がくたくたよ」
適当なコーヒーショップへと足を運び、藍沢は恋人の零す愚痴など聞きもせず、注文を済ませた。
恋人のそっけない態度に――彼がそういう態度に非常に鈍感なのをわかってはいるが――金髪の女性は悪態をついた。
レベッカ=マーチンは明快で気さくな英国人だ。藍沢のガールフレンド。
彼女は、コアなファンを持つ名の知れたライターなのだが――政治事の記事を書く材料として藍沢を見ることは絶対ない、もっぱら彼女の書く記事はファッション批評だ。
藍沢自身もそれを気にすることはなかった。
いい意味で二人は、互いの仕事に興味を持ってはいない。
藍沢は、注文した一杯が届くまでの時間を、思考にまわした。
黙り込む藍沢を咎めることはしない。
一見して無言の冷めきったカップルなのだが、それは奇妙な一蓮托生だった。

さて――藍沢は考える。
今回の事件を期に、今一度『英武政権』を大衆に見直してもらおう、それが目的の『政府展』だった。
一部の中堅政治家達の、いろいろな努力があって、開催された。
彼らの回顧的な意識が、あれだけの雑務の苦を紛らわせたのか――俺には勘弁だ。
展覧会は主に、英武総志郎就任から死去までの、あらゆる資料、遺品を展示し、さらには過去のロボットの展示まで行われ、その規模は、さすが日本政府と言わせるだけの内容ではあった。
だが――と藍沢は心で呟く。
今のところは思っていたほど盛況とは言えない。
前総理存命の頃の『政府展』は、今でも記憶に残る大盛況だった。
大衆の意識が、少しずつ政権から離れているのだろうか――。
運ばれてきたエスプレッソの安い香りが、尖った心持ちを和らげてくれた、そんな気がした。

「チケットの売れ行きを見て不安だったが、混んでなくてよかった」
「不満?」
「いや、なんというか――実を言えば、興味がなかった。ただ、人が少ないなりに考えさせることもある」
「例えば?」
「政治に興味のある人気ライターの心境とか」
「それって、変わり者ってことかな?」
「……冗談だよ」
文句を言いながらもカップに口を付ける、ブロンドの髪の美人の姿は、実に様になっていた。
彼女の怒った素振りと、いらずらっぽい笑いを見れて、藍沢は満足した。
外を見れば、道路に車はまばらで、大衆が湧き上がるようなことも、なにもない。
前売りのチケットは好評のようだが。
魅力――か。
政権に必要なのは、有能な人間だけじゃないな。
前総理は当然だが、尽は――どうだっただろう。
無二の親友の面影が、なんだか遠く感じられた。


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最終更新:2009年11月24日 07:00