懐疑の弾丸4
今の時代に必要なのは何か、という質問をしたことはあった。
人にではない、超高度CPUに、である。
国会議事堂――、『コッカイダー』の頭脳にだ。コッカイダーは、あらゆる事柄を予測する巨大コンピューターであり、全世界最大最強の対外要塞でもある。国心は政変の朝にそれを見た。宙に浮く巨人、究極の自己判断型要塞だ。
奴は完全に国益のために作られたのだ。英武総志郎が死んでも、その影響力を失わないために。そう相沢は考えていた。
自己判断で作動、行動をする、誰にもコントロールすることは出来ない。
正直、厄介な物を残していったものだ――と相沢は思う。
コッカイダーの頭脳解析は、政変直後から行われていた。世論はコッカイダーを危険視し、政府もそれに応じる形をとって解析が行われた。世論が巻き起こる前にも解析の提案は幾度かあったが、政界内での討論は難航。
今回、世論の後押しがなければ、解析はあと数十年先の話となっていただろう――。国心自身は解析に賛同していたため、この決断には好意的だった。
だが、その期待に反しコッカイダーは、あらゆる回答に対しても、エラーを提示してきた。様々な専門家が、あらゆるアプローチをかけた。
構造体解析では複雑な中身を分析するに至らず、心理学的な見地で試してみても、回答はエラー。数度、数百、エラーを提示し続けた。
語ることなどない、ということなのだろう。
「なにも考えてない、ということはないと思う」
と、厚生労働大臣の姫也昴は言った。
超高度CPUに関して、彼女はスペシャリストだった。コッカイダーの解析に立ち会った藍沢は、彼女のだらしない姿をよく記憶していた。飾り気のない、ぱっと見れば汚らしいYシャツ。身なりは極中性的な男性のようだ。
ただ彼女の気品漂う顔立ちは、疑うことなく彼女を美人だと認知させられた。寝泊まりに関して無頓着な彼女は、髪もぼさぼさで、普段表に立つ時には見れないメガネを、しっかりと掛けていた。
彼女は続けて言った。
「入力された情報に対して、コッカイダーは必ずも答えを出してはいるが、あえて口にはしていない。そうコッカイダーは決めている」
「黙秘してるってことですか?」
「そう」
昴さんは、CPUの微妙な表情を読みとっているのかもしれない。彼女は天才だった。
問題は、政変以前のコッカイダーは完全なイエスマンだったということだ。大きな議題に対しても、判断を政治家に委ねているのが標準動作だった。では、何かがコッカイダーに重大な変化を与えたということなのか。
何かが鍵となったのか?
政変時に使用された『君我代』も、今はちゃんと国会議事堂の中に戻っていた。
コッカイダーは何らかの必要条件を要求している、ような気がする。政変以前と決定的に違うのは、やはり民荷尽なのだ。
利賀栄一では駄目なのか、いったい何故?
「明確な答えは分からない、――でも探し出してみせる」
何故、と藍沢は聞いた。
「お父さんが残したものだから」
姫也姉妹――昴と姉の美郷は、双子の彼女たちは英武総志郎の養子だった。
あらゆる専門家たちが手を振り、頭を下げ、去っていっても、彼女はその格好のまま作業を続けていた。
最終更新:2009年11月24日 07:01