飛行船。
鋼機運搬用の小型飛行船ともいえるそれは『名無し』北部への妖魔の集団に向かって飛行している。
何をするためか・・・。
無論、その妖魔達を殺す為だ。
「あっれぇー、拗ねてんのかなーやっぱり?」
飛行船の後部にある鋼機格納庫内の鋼機に既に搭乗しているミナが飛行船を操縦しているクーガに向けて無線ごしに話しかけてきた。
「拗ねてるんじゃない、怒ってるんだよ。」
「あちゃー怒っちゃ駄目だよ、怒っちゃぁ。あんなの軽いジョークなんだからさ。」
軽口を叩くようにミナは言った。
「あ、あれが・・・ジョーク・・・・・・だって・・・・・・。」
もしあれをジョークで済ませられる人間がこの世に存在しているのならば、その人物を拝んでもいい。
その時、クーガは真にそう思った。
クーガが『名無し』を救う為に発案した妖魔殲滅の案は概ね通った事になった。
こと、妖魔を倒すという目的に関してはなんと満場一致の結果になるという事態であった。
ならば何が問題なのか・・・。
「それにあんなに面白い展開になるなんてこっち側も予想すらしていなかったわけで・・・。」
ミナが思い返しながら能天気に言う。
それがクーガにはとても歯痒い事だった。
話は5時間前の会議室にさかのぼる。
クーガが自分の発案した妖魔撃退案の決を採ろうとした時の事だった。
その時、一人の男が立ち上がった。
眼鏡をかけた細身の男。
そうこの会議でクーガの発言をことごとく反対してきたレイズだった。
「決を採る前に一つ、クーガ・ラグナグに一つ聞いておきたいことがあるんだがいいだろうか?」
ホークアイはそれを認めた。
「今更なんでしょうか?あなたの言ったことに対して全てこちらなりの対論を用意し答えたつもりですが・・・。」
「そうだな。」
レイズは即答した。
「簡単に認めるんですね、それではこれ以上、何を言いたいんですか?」
きっと、また何か新しい問題点を作ってごねるつもりなのだろう。
そうクーガは思っていた、だが返ってきたのは――
「とある人の教えでね、引き際は大切だと言われていてね。とりあえずこれから行う決でそれは決まるからいい。だが一つ、君に問いたい事があるんだ・・・。」
そのいい様は不思議な感じがあった。
もはやこの男は決によって得られる結果には興味を失っている。
クーガはレイズを見て何故かそう思えた。
いや、最初から無かったのかもしれない…。
「ええ、いいですが、これで本当に最後にしてもらえますか?」
何故?そんな風に感じたのだろうか。
クーガは考えたがその原因を突き止めることが出来なかった。
「ああ、約束しよう。」
レイズはそう言う。
そして少し回りを見渡した後、言葉を続けた。
「さてと、これはさきほどホークアイ氏が君にかけた誓約と同じようなもので単純に興味で聞く話だ。君は妖魔を倒す事でシャドウミラージュに課せられた任務を遂行できることから我々がその危険に身を晒す価値がある事を示した。」
「それが何か?」
「せっかちだな、君は・・・ここはいわゆる前説という奴だ、ここからが本当に聞きたいことなんだが、結局のところ、君は内心『名無し』に住んでいる人間を救おうとしてこんな発案をしているのだと思う。」
「だったらなんなんだ?」
クーガの声に少し怒気が篭る。
虫の知らせとでもいうべきか、さきほどから嫌な予感がするのをクーガは感じていた。
「うん、公私混同するのはこの際、別に良いよ、この部隊を作った理由だってそんなようなものだからね。でも君は一つ大事な可能性を見逃している、いや、あえて目を背けているとでもいうべきかな・・・。」
レイズに違和感を感じる。
さきほどまでのレイズの口調はある種、堅いものがあったのだが、それが何故か今は砕けた感じになっているのだ。
「勿体ぶらないでさっさとお願いします。」
「人の話はゆっくり聞いて欲しいもんだけどねー、ああ、わかった、わかった。じゃあ、本題に入ろう、では君はどうやって『名無し』に住んでいる人間たちをこのイアナーラに移住させるつもりなんだね?」
その言葉はズシリとクーガの心に突き刺さった。
「別にこれは集落にいる人間たちの移動手段をどうするんだ?なんて言ってるんじゃないよ、うん、うん、賢明な君ならわかる筈だ。彼らはいわゆるコミュニティという奴だ、国から追い出されて来た人間たちの集まり、それが生きるために懸命に努力して、一つの集落を作り上げた。その苦労は非常に大変なものだっただろう・・・。だから彼らは妖魔に従ってまでそのコミュニティを守ろうとした。そんな彼らがそう簡単にこの町に移住してくれるかい?」
「それは自分たちの命を守ろうとしたからだ!!だから、生きるためにはそういう支配を受け入れざるおえなかった、それは彼らの生きようとする意志に他ならない。だから生きるためならばきっと受け入れてくれる筈だ!!!」
クーガは大声をあげる。
それと同時に自身に余裕が無くなってきているのを感じる。
そうおそらくはこの男の言いたいところはそこでは無い。
ほうら―――あの男がニヤリと笑って言ってきた。
「そう、そこなんだよ、最大の問題点は・・・。この町はかつて貿易都市として栄えていた、そして妖魔に滅ぼされた街だ。きっと君にもこれが何を意味するかわかる筈だ。そう!君の言った通りなんだ、大事なのは例え移住したところでこの街でずっと生きていけるという保障がどこにあるのか?つまりはそういう事なんだ。」
レイズは続ける。
「今は僕らが各地で彼らと戦い、このシャドウミラージュの本拠地がイアナーラである事を突き止められないように各地でかく乱している。今のところはそれが上手くいっているのは確かだ。だがな、結局のところこれは一時的なものでしか無いんだよ。いつかはばれる、それに我々は別に街を守るために結成された部隊じゃあない、妖魔を殺すために結成された部隊だ。つまりはな、ずっとここに居座って守ってやれるわけじゃあない。それは君にも言える事だね、いくら自由が効く権限を持っているとは言っても、D型を与えられた者の責務を放棄する事なんて許されるわけがない。これが何を意味するか?簡単だ、結局のところその『名無し』の人間たちは妖魔達に殺されてしまうという結果が待ち受けているという事なんだよ。さてと、ここで質問だ、きっと君の案通りにいけば『名無し』の住人達はここに移住してくるだろう、君の言った通り生きる為にね。その後、君は彼らになんていうつもりだい?」
「・・・・・・・・・・・・。」
何も言えなかった。
「俺はあなた方を救うためにここまで頑張りました、その結果、あなた方を救う事が出来ました、あとはあなた達だけで頑張ってください。こう言うかい?」
何か言わないといけないと思うが、口が動かない。
何を言えばいいのかわからない。
「それともだ、僕たちはいなくなるけれど、この町はきっと大丈夫です、おそらくは妖魔達が襲ってくる事はもう無いでしょう。これなのかな?」
そんな、そんなのは…
「ああ、そうか、それでも僕が鋼騎士をやめてこの街のためにがんばります、自分に目をかけてくれた人の事なんて忘れました。うん、偽善者ならこれだな。」
そんなのは絶対に―――
「嫌だ・・・。」
何か言わないといけないそう思って最初に吐いた言葉がそれだった。
体が震えている。
「『嫌だ』ね・・・。それはガキの発言だよ。君の偽善と自身の心の裕福の為によって変な希望を与えて、君の心は満たされるわけだ、でも、その後さらに君は彼らに今以上の絶望を与えかねない。だとするならさ、そんな希望を与えてやらない方がずっと優しいんじゃないかと僕は思うんだけどね。」
「――嫌だ・・・。」
クーガは呟くように繰り返す。
それに対してレイズは冷たく――
「だからそれは――」
「嫌なんだ!!!もう、絶対に嫌なんだ!ちょっとでも可能性があるのにそれを見逃して後悔するのは嫌なんだ!!また、あの時みたいに後悔するのは嫌なんだ!!!だから、だから――俺は――俺は――。」
もし、あの村で妖魔達に襲撃された中、我が身可愛さに逃げ出したりしなければあの村は救う事ができただろうか?
もし、あの円盤上での闘いでもし俺があの時、諦めなかったら、俺はあの男を救う事が出来ただろうか?
周りの人間たちは仕方ない事だ、きっと諦めなくても助けられなかった、むしろ君まで死んでいたとクーガを慰めた。
でも0%ではなかった筈だ。
救えたかもしれない。
救えたかもしれないのに・・・!!
それを自分はしなかった。
そうしなかったのだ。
そう、だから、これからはと思った。
自分に決して諦める事を許さないという誓約を定めた。
だが、これはなんだ?結局、お前は何も変わっちゃあいない。
何がラグナグだ、何が名誉騎士だ、何が閃刃だ。
お前は祖父が死んだあの日、あの時からまったく前に進めていないのだ。
前に進みたいのに、前に、もっと、モットマエニ。
「ふむ、それが君の本質というわけか・・・危ういな・・・。」
狼狽するクーガを見てレイズは頷く。
「まあ、君の考えでは――」
そうレイズはクーガにさらなる追求をかけようとした時――
「―――グレイル、そろそろその辺にしてやってもいいんじゃないかの、これ以上はなんというか趣味が悪いじゃ済まされん域に入りそうだ。」
さきほどまで沈黙を守っていたホークアイがそう告げた。
「―――そうかな?」
ホークアイの発言を受けてレイズはおどけたようにそう言った。
「俺様もそう思うぜ、ちょっと悪ノリしすぎだ、隊長。」
「あたしもちょっと引いたわー。」
「クーガ君が可哀想ですよ、まだ入ってきたばかりなのにー。」
まったくです、だの会議室内の人間がレイズに向けて糾弾を開始する。
レイズは大声を上げて――
「ええい!お前らも最初はやる気満々でやってたくせになんだいきなりこの展開は!!!これじゃ俺一人が悪役みたいじゃないか、いや、嫌われ役楽しそうだしと引き受けたのは俺だけどさ!!!こんな展開、俺はまったくといって望んでいない!!!!」
クーガはきょとんとする。
いや、何が目の前で起こっているのかまったく理解出来ない。
「大体さー悪趣味よねー、人の心の傷まで抉ろうとするなんて・・・。」
「何が悪趣味だかまったくわからん、俺は俺なりにだな、こいつの化けの皮を引っぺがしてやろうかと・・・思ってただけで、これが悪趣味だっていうのか!!」
会議室上の人間たちが息を合わせて―――
「ああ!!」
「うん!!」
と言った。
「ちくしょー、てめえら、俺だけに責任押し付ける気だなぁ~。くくく、覚えてろ、ガメロン星人。」
「誰だよ、ガメロン星人って!!!」
「いや、知らない?最近スーサウで流行の―――。」
会議室中の人間たちがレイズに向けてわけのわからない騒動を起こしている中で・・・クーガは少しづつ冷静さを取り戻しつつあった。
そしてちょっと余裕が出来た頭で考える。
そもそも隊長ってなんだ、隊長って・・・なんの隊長?
情報の統括担当しているレイズって人だよな、こいつ。
えーと、でもさっきホークアイがレイズに向けてグレイルがどうだのこうだのと・・・。
グレイル、グレイル、なんか聞き覚えがあるなこの名前。
ん?名前、ああそうだ、思い出した、確かグレイルっていうのはシャドウミラージュの創設者で、えーとつまりは―――
「はぁぁああぁぁぁ?」
クーガは一つの結論にたどり着き思わず声を上げる。
「おう、クーガ君、どうしたんだね、ははは。」
それに対してレイズ(自称)は笑いながら言った。
なんかむかっ腹が立ってきた。
もし今、自分が考えている事が間違っていないのならば・・・えーと、その、この様々な感情のトルネードを何処にぶつけるべきか・・・。
いや、まずは事実確認が先だ。
うん。
「えーと、とりあえず聞いておくけれど、あなたの本名はレイズじゃあ、ありませんね?」
それに対してレイズ(仮)はにこやかに笑って――
「おう!よく気づいたな!!本当の情報担当のレイズ君はこっちの眼鏡くんだ!!」
とレイズ(ビチ糞)の横にいた眼鏡をかけた細身の男、指差した。
レイズ(本人)は申し訳なさそうな顔をしてクーガを見て
「は、はじめまして、じょ、情報の担当やってる、レ、レイズです・・・。」
とビクビクしながら応えた。
うん、もうこれは確定だな。
間違いない。
うん、うん、うん、うん。
「そしてレイズと名乗っていたあなた、あなたの名前は自分の予想だと『グレイル・レイスター』とかいう名前なんじゃないかと思うのですが・・・。」
「ピンポーン、大当たりー!!おいおい、皆見ろよ、こいつすげえぜ、ばれない様に髪を括ったりして完璧な変装までしたのにこいつあっさりと正体を当てやがった。」
さきほどまでレイズとかいう偽名を名乗っていた男グレイルが楽しそうにそう言うのに対し、セイム、ミナ、ホークアイをはじめとする面々がものすごーく可哀想なものを見るような目で見つめる。
「ああん、駄目、そんな純な瞳で見ないで!!感じちゃう!!!」
ふざけたような声でグレイルがそう言った。
どうしよう、物凄く殺したい・・・。
そうクーガが思った時、グレイルはクーガの方に向いて真面目な顔して語りかけてきた。
「まあ、悪ふざけはこのぐらいにしておくか、あらためて初めましてだ、クーガ・ラグナグ、俺がこのシャドウミラージュの部隊長を務めている、グレイル・レイスターだ。今のは、えーとなんだ、新人がどんなとーへんぼくなのかなーというのを皆で嘘ついて知ろうという、まあ、そんな感じの余興だった んだが、思いのほか上手くいってあんまりにも面白かったんでつい悪乗りしてしまった。柄にもない一人称、そうそう僕って奴、使ってたんだけど結構、 俺の演技もうま――――――うげぶ!!」
クーガの拳がグレイルの顔面を直撃する。
感情などよりも反射的に体が動いた感じだった。
「い、痛いじゃないか!!親父にも―――ぶげらば!!」
さらに一撃、もう一撃、両腕で二撃、拳打は止まらない。
「い、いや――うぎ――なんつーか――ぐご―――本当に―――げび―――すまんかったと思ってるからさ――うががが――ああ、悪乗りしすぎました、許してください本当にすいませ―――うぎぃぃいぃ。」
その瞬間、グレイルの股間にクーガの蹴りが炸裂した。
グレイルは股間を抑えて悶絶するように床に倒れこむ。
流石にその光景を見かねたのかセイムがクーガを止めに入ったのだが、まったくグレイルへの攻撃の手は緩まずその後、5人がかりでやっとの事でクーガを止める事に成功した。
とまあ、こんな事があったわけだ。
あとで聞かされたわけだが目的としてはクーガが一体どのような人物かわからないから、ちょっと騙して、どういう人物なのか知ろうという意図があったらしい。
なので、あの会議でされた内容は全て嘘・・・だとまだ良かったのだが、8割方は本当の情報だった。
つまりは妖魔が『名無し』に迫っているというは事実だったらしい。
だが、シャドウミラージュではレイズと名乗っていたグレイルが言っていたように『名無し』を見捨てる等という考えは毛頭無く、最初からどうあっても助けに行くという事で一致していたようだ。
つまりはクーガは必死になって説得するために頭こねくり回していたのが全て無駄だったという事を意味していた。
その上、あんまりにも情けない醜態まで晒してしまったのだ。
なんというか猛烈に死にたい。
「いや、でも本当に驚いたんだよ!!」
ミナが面白そうにあの会議室を思い出して言う。
クーガはそれに対してなんとも怪訝そうな顔をして
「何がだ・・・。」
と応答した。
「いやーあれだよ、実はさ、あんたがグレイルに向けて提案したあの案があったじゃない?」
「ああ、それがどうした?」
もう思い出したくもない事だった。
「あれね、グレイルの言ってたあたしたちに今回『名無し』へと戦力向ける為の大義名分として言ってたと事とまったく一緒だったんだよね。」
その発言にクーガはいささか驚いた。
“結局のところその『名無し』の人間たちは妖魔達に殺されてしまうという結果が待ち受けているという事なんだよ。”
ならばあの男が自分に向けた言葉は何だったのか・・・。
これを言ったのはグレイル・レイスター本人だった筈だ。
ならば自分のあげた案の駄な所も全て理解していた筈、それでいて彼はその案を発案したという。
矛盾していないだろうか・・・。
彼は結局は無駄な徒労に終わることを実施しようとしているのだ。
結局の所、目的を果たせない可能性の大きい案を取り入れたのは何故だ。
戦略的な価値があるから妖魔を殲滅するのであって『名無し』を見捨てるつもりで最初からいた。
そう、これならば筋は通っている。
だが、そういうわけでもなかった。
グレイルはクーガとミナを妖魔の殲滅に向かわせる一方で、護衛を兼ねてセイムを『名無し』の住人達の移送に向かわせた。
『名無し』の住人達には前もって交渉済みだったらしい。
だとするならば、グレイルは何故このような行動を取ったのだろうか・・・。
感傷か?それとも戯れか・・・。
それはクーガに不可能である事を示した男のする事とは思えなかった。
いや、もしかするとあの男は自分が答えられなかった、あの問いの答えを知っていたのかもしれない。
そう、『名無し』の人間達を完全に救える方法を・・・。
ふと、そんな考えがよぎったが――。
“ああん、駄目、そんな純な瞳で見ないで!!感じちゃう!!!”
「うん、無いな。」
即座に確信を持って断言した。
「あんた何独り言、言ってんの?」
あんまり唐突な発言だったせいかミナがいぶかしげに聞いてきた。
「いや、なんでもない。」
「そう。」
不満そうにミナが呟く。
ここで一つ気にかかっていた事があったのを思い出した。
この数時間で色々ありすぎて、頭がパンクしそうだ。
「そういえばさ、お前、大丈夫なのか?」
「ん?何が?」
「何がって、これからお前がやる事だよ。」
「あーあー、なんだークーガっち、もしかしてあたしの事、心配してくれてるの?」
「“っち”ってなんだ“っち”て!!やめろ!気色悪い・・・。心配してるかって?それは、まあな・・・俺の想定じゃあ、二機で妖魔を殲滅するという話だったわけだし、いくらD型を使うといってもお前一人で20の妖魔を撃退するというのはいくらなんでも無理があるんじゃないのか・・・。」
妖魔討伐に向けられたのはクーガとミナであったが、クーガの鋼機は修理中の為、持ってこれるわけもなく、この輸送機に乗っている鋼機はミナのグレリーナのみであった。
つまりはミナ一人で妖魔と闘うということに他ならない。
いくらD型といえどこれは死ににいくようなものなのではないかとクーガは内心思っていた。
「まあ、あたしと隊長以外の鋼騎士だったらそうだろうなー。」
ミナが自信気に言い放つ。
「凄い自信だな。」
「まあ、それは後のお楽しみというところかなー、それよりもあんたこそ、本当は『名無し』の方に行きたかったんじゃないの?」
「それは・・・まあ、なぁ。」
元々、クーガは『名無し』に向かう輸送車に乗りこんで、『名無し』の人々の護送の手伝いをするつもりだった。
「護送の手伝いをしようとしたら、鋼機に乗れないお前なんて邪魔なだけだって追い払われたんだもんね。それでも何かやりたいと頼み込んでたら、隊長にじゃあ、輸送機の操縦をやれと押し付けられて、まあ、何かな心中お察ししますよー。」
思い通りに行動が出来ず苛立ちを感じているクーガを面白そうなものを見るようにミナは言う。
「全部、知ってて聞いたのかよ、昨日も思ったが性格悪いなあんた。」
「だって、目的地着くまで鋼機の中で待機とか暇だし、狭いしー、いいよなークーガっちはそんな広いところにいられてー。」
鋼機の操縦は搭乗者の動きをトレースするシステムになっているのだが、広い操縦室で体の動きに合わせて機体が動くというわけではなく、体を動かそうとする方向に力を入れることでその方向に動くというものだった。
つまりは腕をあげようとするならば、腕を上に上げようとすれば、本当にはあげられないが、機体はそのような行動を取ることになる。
かつての鋼機は大型の操縦室があったのだが小型化、簡略化、そして動作情報の伝達の速さの考慮を重ねる内にこの形に落ち着いたのだという。
まあ、つまりは人、一人が満足に動けない程度には狭い。
「広いっててもなぁ・・・別に空気がいいもんでもないし、機体は自動操縦になってて俺がやることは無いしで―――」
「あは、つまりはクーガっちも暇なんだ。」
「だから『っち』はやめろと『っち』は・・・だいたいだなぁ、輸送機の操縦なんてほとんど機械がやってくれるんだし鋼機に遠隔操縦用の機能も搭載されてるんだから、俺がこの輸送機に乗っている意味もほとんど無いだろ。こんなんなら役立たずでもいいから『名無し』の方に連れてってくれって嘆願するべきだった・・・。」
「あれだと思うよ、非常時の時のためって奴、もし輸送機が壊れて墜落しそうになったらがんばってね!」
ため息を付くクーガを茶化すようにミナが言った。
実際の所、クーガに輸送機に乗るように指示したのはグレイルだった。
自身が鋼機に乗れない負い目とシャドウミラージュ隊長からの指示という事もあって、クーガはこの指示を断る事は出来なかっただろう。
「それよりもさ、クーガっち、今暇だよね?」
「ああ、もうお前、面白がってやってるだろ!」
「もち。」
「あのなぁ…。」
「そんなことは気にするだけ無駄だから、さあ、質問の解答を!!クーガっち。暇なの?暇じゃないの?」
「まあ、暇といえば、暇だ。」
実際のところ操縦も全部機械任せの為やることが無い。
だからあと目的地につくまでの1時間の間クーガはやることが無かった。
「そうかー、ちょっと聞いても良い?」
「何をだ?」
「ゼス・ブラックスターの事・・・。」
「昨日ので納得したんじゃなかったのか?」
その話をするのは心底嫌だといわんばかりにクーガは言った。
「んーでもやっぱり本人の口から聞いておきたくて・・・。」
クーガはため息を付く。
「そんなにしてまであの男の事、聞きたがるのはなんでだ?」
「んー、あたしは昔あの人に世話になった事があるからね、言ってしまえば恩人だった。だからゼス・ブラックスターが死んだというのは結構ショックなニュースだったんだ。ゼス事件の事は情報も規制されてて関係者の誰もが真相を話してくれない、だから私は独自で色々情報を探ってたというわけ。」
何故、そこまでゼス事件にミナが執着していたのか、クーガは納得した。
あの男は孤児の救援に力を入れていたりもしていたといわれている。
彼はその戦績から孤高な男であったと思われがちだがその実、面倒見がよく、当時の騎士団では誰よりも仲間を思いやっている人間だったといわれている。
それゆえにゼス事件があった今でもあの男を尊敬している人間は多いのだ。
だから噂がたつ、ゼス・ブラックスターは何かの陰謀に巻き込まれて殺されたのではないか?という事が・・・だ。
「それでなんで俺なんだ?」
クーガはそう静かに答えた。
「まあ、色んなルートで調べてみたんだよね、昔のツテとかも使ったりしてさ、そしたらどうもゼス事件以降に名誉騎士の位を受けたクーガ・ラグナグって男が事件の中枢に関わっている人間らしいって所までは掴んだんだよね、つまりはあんただね。んで、なんとかあんたに出会えないかなと思ってたところ、あんた自らがシャドウミラージュに配属されてくるっていうじゃないか。こればっかりは驚いたなー、まさか自分から会いたかった人間に会えるなんて…。そして昨日、ちょっとカマかけてみたんだよ・・・。そうしたらまさかのビンゴっぽい反応するじゃない?」
その時、クーガは失敗したなと思った。
クーガはあの時、この女は確信を持って俺に問ったのだと思っていた。
それゆえに感情あらわにしてしまった。
頭の中であの男が笑う声が聞こえる。
それがクーガにはどうしても嫌だった。
「だからせっかくだしね、聞いておきたいんだ、あのゼス事件何があった?そして何でゼス・ブラックスターは死んだのか?」
ミナは静かに問う。
その声には怒り等といったような感情はなくただ、ただ、その事象に対しての興味という本質があるようにクーガは思えた。
「知ったところでなんになる・・・あの話は俺にもいい思い出じゃない・・・。」
「それでもあたしは知りたい、別にあんたがゼスを殺していたって私はあんたの事を恨んで殺したりはしないよ、あたしにやらなければならない目的があるしね。それに、あたしはゼス・ブラックスターの事を人間としてはそれほど好きではなかったからね。本当にこの件に関して調べているのは興味本位なんだよ・・・。」
「目的?」
「くだらない事だよ、それに質問しているのはあたしの方だ、質問に質問で返すのはマナーが悪いって言うんじゃないかな?」
クーガは押し黙る。
何かを言おうとして、出てこようとする言葉を飲み込むような仕草がスピーカー越しから感じ取れた。
「かーーーー、だんまりかー、わかったいいよ、いいよ、ならば一つ賭けをしない?」
「賭け?」
「そう賭け、3分以内に今からあたしが妖魔達20数体を倒す事が出来たら、なんでもあたしの問いに答えてもらえるという賭け。」
「一体それで俺になんの得があるんだ?それに・・・本当に大丈夫なのか?」
ミナの事を心配するようにクーガは言った。
3分で20数体の妖魔を倒す、それを1機で行うという事は真っ向勝負にはならずにセオリーとしては一気に大量殲滅用の兵装を使って倒すという事になる。
確かにそのような兵装を使えば不可能ではないのだが、クーガには大きく気にかかる事があった。
クーガはこの輸送機にミナの乗る鋼機『D-40 グレリーナ』が積み込まれる現場に立ち会っている。
その時、クーガが見たグレリーナはそのような大型の大量殲滅兵装が搭載できる重鋼機H型を素体としたものではなく、軽装を主体としオールラウンダーな能力を誇る鋼機であるS型を素体としたようなものだった。
セイムの鋼機であるシュナイザーのような複雑な可変機能があるようにも見受けられなかった為、そのようのは大火器は搭載していないと見るべきだろう。
むしろ、その紅蓮のような赤いカラーリングとは対象的に非常に細い体をしていた為、通常のS型鋼機が搭載しているような武装のほとんどが装備できないように見えた。
普通に考えるならばミナが宣言した3分どころか分の悪い戦いどころか勝つのが不可能に近いような戦いといえるのだ。
無論、ワンオフで造られたD型であるが故の何かがありそれの信頼があるからこそ単機でグレイルをはじめとするシャドウミラージュの面々はミナとグレリーナを送り込んだのだろうが・・・やはり3分で戦いを終わらせるというのはクーガにもとてもではないが考えづらい事ではあった。
「ん?だから、さっきも言った通り、だいじょ~ぶだって!ミナお姉さんの凄さを信じなさい!!それにね、賭けの事だけどねゼス事件の事は聞かないって約束もするよ。」
イアナーラを発つ時、シャドウミラージュの誰もが彼女の心配をしていなかったところから見るにおそらくはあの部隊のミナを知る誰もが心配する必要すらないという考えなのだろう。
ミナも勝つ事を当然とした上でこのような話を持ちかけてきている。
これはかなり高い勝算があるという事なのだろう。
「だがな、賭けってのはお互いにリスクを背負ってやるもんだと思うんだけどお前はリスク背負って無くないか?」
ミナが少し考えるような間を置いてから答えた。
「闘うことがリスクってのは駄目?」
「駄目だね、さっきからお前は楽勝みたいな話をしていたじゃないか、俺はお前の能力知らないし、そんなのをリスクと認めない。だから・・・そうだな、もし失敗したらお前の目的とかいうのを聞かせてもらうなんてのはどうだい?じゃなかったらこんな部隊にいる理由でも―――」
「えー、人の過去ほじくるのは悪趣味だよー。」
口を尖らせながらのミナの発言に対して大きく息を吸ってクーガは答えた。
「お前に言われたくない!!」
最終更新:2009年12月09日 08:16