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其の五後半 「私は心から、誇りに思うよ」




 陽光は入らぬはずの洞窟が、いまこの時は明るかった。内部を飛び回る五つの閃光が
時折ぶつかり合いながら暗がりを照らしているのだ。
 その一つ――ツチイミを駆る紅蓮は、清明が繰り出した四機の正体について
既に見当をつけていた。十二神将の霊力をも呼び水として召喚される、四つの
更なる上位存在と言えば、一つしかない。
「東西南北、天の四方を守る“四神”か」
 東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武。陰陽師で知らぬ者はない、強力な
神獣である。――そんなものまで使役できるのか、あの男は?
 紅蓮はしかし、まだ自分の方が優勢であると知っている。そうでなければ、
これまで清明が自分との戦いをのらりくらりと避けてきた理由がない。
 ツチイミは神をも滅ぼす式機だ。いかに四神が揃い踏みしたとて、負けはありえない。
「この世に遍く、神など不要だ」
 朱雀の翼が起こす火炎を孕んだ旋風を切り裂き、青龍が吐きつける雷の息を
掌で受け止める。白虎の爪が呪いによって強化されたツチイミの装甲を切り裂き、
紅蓮は微量の驚きを覚えたものの、瞬時にその傷は修復される。
 時間差をつけた四機一斉攻撃――彼はそう読んでいた。しかし、最後に来るはずの
玄武が見当たらない。
 潜んでいるな――なおも攻撃してくる三機に向け、周囲の壁面から針状に成形した
土くれを飛ばす。以前ホシカゲとアメオスにも使った、呪術によるミサイル『針羽蟲』。
 あえて大仰に印を結び、三機に集中していると見せて、伏兵を誘い出す。それが
紅蓮の狙いであり、果たして最後の一機は背後の土中より飛び出してきた。呼応する
ように朱雀の焔が針羽蟲を一つ残らず爆破し、前方の三機も突っ込んでくる。
 ――『あれ』を使うか?
 紅蓮は自問し、それに否の答えを出した。この程度の単調な挟撃、二本の腕だけで
充分に対処できる。
 ツチイミの右手には神剣・天叢雲。一閃すれば忽ち、見えざる衝撃波の怒涛が
三機の神獣を跳ね飛ばす。左手には濃密な闇を纏い、掌から迸った黒い光が
回転しながら飛んでくる玄武を直撃する。
 しかし、その一射で破壊できると踏んでいた玄武はそのまま紅蓮に迫ってきた。
強靭な甲羅が、ツチイミの砲撃をも弾き返しているのだ。
「ツチイミの力は確かに四神の合計をも上回る。だが……」
 清明の声と共に玄武はツチイミに激突し、そのまま洞窟の壁に叩き付けた。
「操手たる貴様が、その性能を完全に引き出せていないのではね」
「……!」
 紅蓮は確かにツチイミを乗りこなしている。三位式機の操手としては、まだ
隆道やヒオムシとは桁の違う高みにいる。
 しかし、それでも機体の出しうる限界性能を引き出すには程遠いのだ。三位式機の
場合、性能の99%と100%の間には無限に等しい差がある。
「動かすことさえ出来なかった者が、何を言う!」
 拳で玄武を跳ね飛ばし、吐き掛けられる雷撃と炎の渦を掻い潜ってツチイミが飛んだ。
白虎の追撃を神剣で受け止め、そのまま刃を押し込んで袈裟懸けに斬り下ろす。
 そのまま畳み掛けんとするが、玄武が回転しながら突っ込んで来たことで彼は
その好機を逸した。舞い上がって回避しつつ、今度は玄武に向かって斬り付ける。
 火花散る一瞬の拮抗。しかし、紅蓮の膨れ上がる憎悪に刃の鋭さが増していく。
「ああ、認めるとも……生身で雌雄を決すれば、我はまだ貴様に勝てまい」
 神獣最強の重装甲に、刃が食い込む。
「しかし、そんな仮定には何の意味もない。今の我は“地”の三位式機を駆り、貴様は
 四神を操って戦っているのだからな。いかに我がツチイミの力を全て使えぬとて、
 この場で貴様を葬るに足ればそれでよいのだ」
「足らぬと言っておこう」
 天叢雲が遂に玄武の甲を破り、内部機関に致命的な一撃を与えても、
清明に動揺した様子は見られなかった。
「どの道、今日は貴様と刺し違えるつもりで来た。生きて帰ることを前提にすれば、
 確かに私はこの戦いに勝てないだろう。しかし、命を捨てる覚悟があれば……」
 墜落する玄武から清明が飛び出し、その身体を青龍が受け止める。紅蓮は神剣を
真っ直ぐに構えて追撃するが、白虎の長爪が交差しその切っ先を阻んだ。
「覚悟を決めたところで、切り札の四神さえツチイミを止められぬではないか」
 清明を嘲笑うように、神剣が禍々しい暗黒を帯びた。その切れ味が増していき、
白虎の機体が一気に両断される。
「二機落ちたぞ。そろそろ諦め時だ、清明」
「――なにか、壮大な勘違いをしてはいまいか?」
 未だ、余裕の表情さえ見せる清明。万策尽きた人間の顔ではない――かといって、
敗死を前に自棄を起こした人間の臨死幸福でもない。
 この男は、まだ何か手を隠していると言うのか。
「私は、死をも厭わずに戦えば貴様と相打ちに持ち込めると言うつもりはない。
 命を引き換えにすれば、貴様を倒せると言いたいのさ」
「そうか。では、やってみろ」
 ツチイミが飛んだ。清明にどんな手があるにせよ、それを使わせなければよい。
先ほどは十二神将を呼び水に召喚された四神の思わぬ抵抗によって阻まれたが、
そのようなことは二度も起こり得ない。神獣機ですら人間が操るには強大すぎる代物
なのだから、それ以上の存在など清明であっても御し得ないはずだ。
そもそも、高天原の神々を除いて四神以上のモノなど――
 そこまで考えて、紅蓮はふと思い当たった。陰陽道は五行説を基礎とする。
大陸の伝承では四つの方角を守る神であった四神が、陰陽家に取り入れられた際、
五行説との調和を為すために一体追加されている。
 東西南北の中央に座し、四神を統べる最強の神獣。それは……
「言ったはずだ。私の『最初で最後の本気』だと――四神解体!」
 清明の声に応え、神獣機が再びバラバラになっていく。破壊された白虎と玄武さえ
自らパーツ単位に分解し、膨大な式機の部品が羽虫の群れの如く洞窟内を飛び回っている。
 清明を仕留めんと突進した紅蓮は、先刻より遥かに大きな力で跳ね飛ばされ、
空洞の内壁を数百メートルに渡って抉りながら止まった。機体は無傷だが、操手の
動揺は小さくない。
「馬鹿な――『そんなモノ』は、いかに貴様と言えども操れぬはず……」
 パーツの再構築が始まる。今度は全てが一つに、巨大な式機を形作ってゆく。
「そう、普通には人間が呼ぶことすら叶わぬ神性よ。しかし紅蓮、たとえ天照大神でも
 然るべき器さえあれば使役は可能ぞ。『献魂の法“御鏡”』を使うことでな!」
 献魂の法“御鏡”――紅蓮の知らない術であった。
 当然だ。それは安倍清明が編み出した、彼だけの切り札なのだから。

 陰陽師は術を用いる際、『命』が身体を動かすために用いるエネルギーの一部を
消費している。そのため術を使うだけ疲労するし、命を削りすぎれば死に至る。
 しかしそれとは別に、精神の源たる魂のエネルギーを利用することで、
まともに使えば術者が即死するような術をも発動する方法が存在する。
 それが“御鏡”と名付けられた、『献魂の法』。

「私は、この身に残った魂のすべてを、貴様との戦いに注ぎ込む。ゆえに
 この機体には第五の神獣が宿るのだ――降り来たれ、“黄龍”!」
 光の中で四神は融け合い、一体の巨大な式機となった。それは黄金色に輝く巨大な龍。
 神獣機“黄龍”の、空前絶後となる降臨であった。

「いかに最強の神獣とは言え、この次元のものである以上、三位式機には及ばぬ」
 ツチイミの言霊増幅機関が発動する。操手のイメージを読み取り、発した言霊を
顕現させる、三位式機だけに許された神の力。
「冥き、光よ!」
 かざした掌より放たれるは黒の砲撃。あらゆる自然物を塵へと還す熱量が
黄龍を直撃する――しかし、金色の装甲は突き刺さる闇を無傷のままにかき消し、
弾いていた。その口が開いたかと思うと、お返しと吐き出される小太陽。
 急遽それを回避したツチイミの背後で光弾は炸裂し、一瞬にして地下空洞を
熱プラズマの荒れ狂う灼熱へと変えた。
 洞窟を崩さんばかりに地形を変えてしまうその破壊力に閉口しつつ、紅蓮は
受けに回ることなく機体に印を結ばせる。
「鋼の槍よ、驟雨と成せ」
 黄龍の周囲に細い金属柱が出現し、それらが槍のように鋭く成形され、巨大な
機体に襲い掛かる。輝く装甲に触れるそばから槍は撥ね返されていくが、紅蓮は
音速の数十倍でツチイミを飛ばしながら、言霊を紡ぎ続ける。
「雷の剣よ、業深き咎人を裁け」
 虚空より、放電。自然の雷とは比較にならない電流が龍の身体を跳ね回る。
しかし、その内にある清明はまったくの無事であった。
「無駄だ。黄龍の装甲は、そんな攻撃では破れない」
「……ならば!」
 視神経の反応速度を遥かに超えるスピードで、ツチイミが肉薄する。構えた神剣は
長大な首を捉えかけ、寸前で爪に止められた。
 弾指の鍔迫り合い。なれど、紅蓮もこの対応は予測済み。
 握る得物に両の手をふさがれ、印も結べぬはずの機体から、神殺しを自任する男が
裂帛の気合を込めて叫ぶ。
「ならば噛み砕け、金剛の顎<あぎと>よ!」
 直下の地中より、ダイヤモンドの完全結晶で作られた巨大な牙が飛び出した。
その牙が龍の長躯を捉え、ぎりぎりと喰い込む。
 ダイヤは衝撃にこそ弱いものの、耐圧性においては世界最強の物質のひとつである。
まして紅蓮の術で強化されたそれは、黄龍の放つ高熱に焼かれることもない。
「印もなしに術を――まただ、一体どんなトリックで?」
 鹿島のときと同じであった。言霊を具象化するとは言え、性能を完全に引き出されて
いない三位式機では、言葉だけでこれほど高度な術を発動することは出来ないはず。
 清明の自由が奪われたその隙に、無防備な背部へ神剣が突き刺さる。
「流石に神剣は防げぬらしいな? このまま、捌いてくれよう……!」

 操縦室にある清明の身体は、自身の血で赤く染まっていた。
 これが黄龍を操る代償の一つ、ダメージのフィードバック。機体に受けた損傷が、
命への傷として清明の身体にも反映されるのだ。
 そしてもう一つの代償、精神の磨耗は――
「まずいな……もう内裏にいた頃のことが、思い出せない」
 生まれ落ちたとき、人の魂はみな同じ姿をしている。それが命ある身体に宿り、
経験を積むことで大きくなり、固有の形を作ってゆくのだ。
 即ち魂を作るものは『記憶』。献魂の法とは、限界以上の力と引き換えに
己が生きてきた歳月の記憶を少しずつ失ってゆくことに他ならない。
 また、清明は本来の寿命よりもかなり長く生きている。当然それは自らの術で
した事だが、これは彼の生まれ持った命が既に燃え尽きていることを意味する。
 そう、彼は死人だった。
 清明は本来なら命が動かすはずの身体をも、精神の力――魂の力で動かしてきた。
だから毎日のように書物を読み続け、遠い異国や未来の知識を仕入れ続けていたのだ。
消費すべき記憶が、無くなってしまわぬように。大切な記憶を忘れぬように。
 だが、もし記憶を消費し尽くすようなことがあれば……そのとき、安倍清明は
塵となって消滅するだろう。自身にかけた術の全てが消えてしまえば、彼は
自分の身体さえも生かしておくことが出来ないのだから。
 黄龍を使うということは、彼にとってまさに『命を懸ける』行為であったのだ。

 突き立てられた神剣が、そのまま龍の背中を走る。その傷が操手へと伝わり、
清明が纏う狩衣の背で血の花が咲く。
「あまり調子に……乗るなよ」
 咆哮する黄龍。その音波がダイヤモンドの分子構造を激しく共振させ、巨大な牙を
爆破するようにして砕く。拘束を逃れた身体をよじり、長大な尾をツチイミに叩きつける。
 四神の攻撃とは桁違いの衝撃が、操縦室の紅蓮を襲った。慣性制御の術が
働いているはずの操手に衝撃を与えるとは、一体どれほどの加速度が生じたのか。
 しかしひび割れた土色の装甲は、瞬時に再生。やはり、三位式機は不死。
(乗り手を、紅蓮をやるしかない――私の魂が消えてしまう前に!)
 脳裏から記憶がこぼれ落ちていく。ヒオムシとは、どのように出会ったの
だったか……もはや、思い出せない。
 それでもいい。もう忘れることなど怖くはなかった。たとえ出会った人々の
記憶が消え果てても、『自分』というものがいなくなっても。
 彼らのために戦っているという、その真実は残る。

 かっと開いた口より、小太陽の連射。直撃すれば、機体が残っても操手は
無事には済まないであろう圧倒的な熱量に、ツチイミはランダムな回避運動を取る。
 しかし一見して無秩序と見えるその軌道は、清明が意図的に作り出した退路。
巨体に似つかわしくない機敏さで黄龍が飛翔し、ツチイミの正面に躍り出る。
「これで!」
 龍の喉より、再び渦巻く熱光の球。先ほどまでより小さいが輝きは強い。
操縦室を撃ち抜くために、エネルギーが一点に凝縮されていた。
「押し切る――天叢雲よ!」
 迫る光弾に、神剣が一閃。弾かれた小太陽は天井に大穴を穿ち、山を貫き、
空の彼方へと消えていった。エネルギーが凝集されていればこそ、紅蓮はそれを
弾くことができたのだ。
 しかし剣を振り抜いた一瞬、ツチイミは前を無防備に開けた形となった。
「隙、見たり!」
 電光石火、黄龍が飛びつく。巨大な爪で両腕をホールドし、両足は尾で締め上げた。
両者のうち、自由に動くものは黄龍の頭のみ。これを最後と、灼熱の砲口が
ツチイミの胸に狙い定める。
 印も結ばずに術を撃ってくる手段が気にならないではなかったが、この好機は
逃せるものではなかった。たとえ何かしてくるにせよ、この拘束を抜けられる
ような術であれば、自分の砲撃の方が速いという確信もあった。

 記憶はもう、ほとんど底を突いている。何のために戦っているのだったか?
未来から来たホシカゲの操手、彼と何か約束したような気がする……。
 そしてヒオムシ。我が愛弟子、真名は確か……そう、日吉だった。
 ――まだだ! あの子の記憶だけは、最後まで消えてくれるな!

 黄龍の牙が溶けるほどの光弾が生成されてゆく。それはもはや地上に堕ちた
太陽そのもの。清明の魂が放つ、最後の煌きであった。
 そのとき、ツチイミの左手から神剣が落ちた。それはゆっくりと落下を開始し
――清明からは死角となる位置で、別の手がその柄を掴み取る。
 二機の両手は塞がっているというのに。
「贖え紅蓮、神の焔に灼かれて!」
 巨大な火球が、ツチイミの眼前でいっそう膨れ上がる。
 しかし、清明の全霊を懸けた一撃が放たれることはなかった。
 黄龍の首を一条の閃光が薙ぎ、太陽を口に銜えたまま、その頭が胴体を離れたのだ。

「実に、危うい戦いであった」
 口いっぱいに湛えていた光が消え失せるのと平行して、斬り飛ばされた黄龍の
首が虚空を落ちてゆく。ツチイミを抑えていた胴体部も力を失い、剣を振るう
までもなく落下していった。
「まさに貴様は最強の陰陽師と呼ぶに相応しい男であったぞ、清明。貴様に
 敗因があるとすれば……切り札を先に晒したことか」
 ツチイミの背部に一基ある、見ようによっては翼のような形のパーツ。平時は
スタビライザーとして機能するそれが今は大きく形を変え、巨大な腕となっていた。
 これが紅蓮の切り札、第三の腕“冥無量後光”である。
 印を結ばずに術を行使しているように見えたのは、機体の影でこの隠し腕が
印を作っていたため。機体を拘束されたときも背部は自由だったから、両腕より
リーチが長く力もある第三の腕に神剣を持ち替え、黄龍を一刀のもとに両断したのだ。

 清明の見立ては正しかった。あの時、紅蓮が何らかの術で脱出を試みれば
砲撃の方が速かったであろう。
 ただ、神剣による直接攻撃がそれよりも速かっただけのことだ。
 眼下で光となって消えてゆく黄龍を見ながら、紅蓮は機体を翻した。
「時を費やしすぎたな。疾く行かん、我を待つ千年先の空と海へ……!」

 もはや安倍清明に、己の敗北を認識できるだけの精神すら残されていなかったことは
彼にとって幸であったか、それとも不幸か。
 黄龍は術の瓦解と共に端から霧消していき、血の海と化した操縦室に収まっている
男もまた、自らの死を先延ばしにしてきた術が解けていくにつれ、四肢の末端から
きらきらと光る、砂とも塵ともつかぬものに変わってゆく。

 何も思い出せない。鬼才の名を欲しいままにした少年時代のことも、世に倦んで
早すぎる隠遁を始めた青年期も、自らを一種の式神として生き長らえてきた年月も。
 今しがた戦っていた相手の顔さえ思い描けず、弟子を預けた男の名前など忘却の彼方。
そもそも弟子などいただろうか――空白だらけの走馬燈が回る。

 前後不覚、廃人も同然の有様となった清明だが、ふとその口から明瞭な言葉が
滑り出す。例え全てを忘れても、これだけは言おうと思っていた言葉だ。
「ヒオムシ、お前の師であれたことを……」
 言葉なき想いは伝わらない。想いなき言葉はただ空虚。
 ゆえに想いは言葉に、言葉は力に。イメージ、アンド、ワード。

 しかし彼は、途中で口を止めてしまった。自分の呟いた名が気になって仕方がないのだ。
 ヒオムシとは誰だろう。忘れてはならない、大切な名前だったような気がする――。
 言おうとしたことの続きは忘れてしまい、己の口から出た言葉を虚ろな目で
反芻していた清明は、やがて眠たげな微笑を浮かべた。

 ――そうそう、何を忘れているんだ。
 私の大切な……息子の名前じゃないか――。

 そして、清明の中に残っていた最後の記憶が消える。
 ついに真っ白になった走馬燈が回転をやめても、彼の顔は穏やかな笑みを湛えたまま。
 天下無双の大陰陽師・安倍清明は、塵となって消滅した。





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最終更新:2010年02月11日 21:43