『輪廻の階層 第2カイ/その世界、虚空』
輪廻の階層。
今俺が居る場所の名前らしい。
意気揚々と答えたくせにそれが何なのか、何度か聞いても「そのうち分かる」と流されてしまい、これでは結局何も分からないのと同じだ。
何も無い空間を巨人がひたすら突き進む。
只でさえ何も無い中、両者無言のこの空気はきつい。
「なぁ、質問を変えるがあんた何者だ?」
さっきまで反応を見せなかった仮面の男がその言葉に反応した。
「…他人に聞く前に自分から名乗るのが礼儀だろう。」
やっと乗ってきたかと思えば嫌味な口調で切り返してきやがって。仕方がないので従う。
「わかった、俺の名前は…ン?…名前…あーっ俺の…名前?」
何故だ。自分の名前がどうしても思い出せない。
それを見透かすように男が語りだす。
「フ…いいか、此処に居ると次第に自分の記憶を失っていく…が、先ず真っ先に失うのは自分の名前だ。」
「無論俺も名前を失っている。そして…。」
周囲が急に歪みだしたのが巨人の中からも感じ取れる。
瞬く間に不気味な景色に包み込まれた。
「こいつ等もな!!」
空間が完全に侵食されたと同時に、巨人の左右は二つの巨体に挟まれていた。
「グオォーッ!!」
雄叫びをあげなから一匹が飛び掛ってくる。その姿様子はライオンの狩りのようだ。
しかし仮面の男の駆る巨人は動じることなく体を反らせながら掴み、巴投げの要領で投げ飛ばす。
すると飛び上がった獅子の影に紛れていたのか鳥のような怪物が斜めから急降下してくる。
体勢の整わない巨人はそのままブリッジの形で体をギリギリまで反らすが回避には至らない。
ガリガリと音を立てながらドリルのような先端部が巨人の肉体を削り、俺と男の目の前まで迫ってくる。
ボゴッ!
鈍い音と共に目前の凶器は吹き飛ばされた。
充分に反らせた体勢からバネの反動を得た蹴りが直撃した為だ。
そのまま倒立を経て立ち上がり、後ろに構えるとそこには既に体勢を立て直し飛び掛る獅子の姿。
先程から学習したのかその軌道は低く、鋭い。
それを瞬間的に捉えたのか巨人も姿勢を低くして迎え撃つ。
地を抉る様なアッパー。
だが、獅子の怪物は直前で速度を落としてタイミングをずらし、それを掻い潜るとその牙と爪で巨人を捉えた。
必死に振り払おうとするがそう簡単にはいかない。
爪でガリガリと体の表面を削りながら喉元に喰らいつこうとする。
視線をずらせば先の鳥が復帰しようとしている。
喰らいつく獅子を引きずりながら移動を試みるがその距離は短く、精々背面を取られない位だ。
「グケエェーッ!!」
耳を劈くような奇声と共に怪鳥はわずかに飛翔すると、此方にその巨大な鉤爪を向け一気に滑空する。
仮面の男にも焦りが感じ取られる。
俺はあまりのスピードに危機感など忘れ呆気に取られているが幸い動体視力は良いので状況の把握は出来る。
苦肉の策か獅子を軽く喉元まで引きつけヘッドバットを放つ。
しかし突き立てられた爪が引き離される事はない。
ガキイィィィ!!!
体の自由の取れない巨人の側面に鉤爪が食い込む。
ここで獅子は攻撃の成功を確認してなのか急に爪を引き抜くと後ろに跳び下がった。
「キエェェェ!!!」
再び怪鳥が奇声を発すると巨人の体が宙に浮く。
自身と大差ない体を掴みあげながら飛翔を始めた怪鳥は高度を上げて行く。
段々と小さくなっていく地上の獅子が距離を取りながら落下してくるであろう獲物に備え構えている。
「まずいな…。」
今まで一度も喋る事の無かった男が言葉を漏らす。
「『アレ』を使うしかないな。お前、気合いれて踏ん張れ。」
「はぁ!?ちょっとまて!」
俺の返答を聞く間もなく内部の温度が急激に上がる。
巨人の体から炎の如く紅い煙が噴き出される。
「うおおおおぉぉぉ!!!」
男の叫びに応じ巨人も咆哮を上げる。
それと同時に爆発的なエネルギーがオーラとなって放出されていくのが灼熱地獄と化した内部からも感じ取れる。
「グ…キェ…。」
放出されたオーラに中てられた怪鳥が苦痛の声を上げると鉤爪のホールドと動きがわずかに衰える。
その一瞬の隙を突き巨人は片腕で相手の首を掴むと食い込んでいる鉤爪を肉体のその部位ごと強引に引き剥がす。
そのまま空中で相手を真下に持っていくと下方の位置を一瞬確認し右拳を振り上げる。
拳は凝縮された紅蓮のオーラに包まれる。内部も限界まで燃え上がり俺の意識はまともに保てていない。
「破アァァァァッ!!!!!」
凄まじい音と共にその拳は怪鳥を叩きつけ、流星のように堕ちていく。
その先の地には構える獅子―しかし巨人の凄まじい速度は反応する間さえ与えない。
爆音と共に大地が砕ける。
砕かれた大地にオーラの余熱を残しながら怪物の残骸を脇に、そこには確かに巨人が立っていた。
最終更新:2009年12月11日 08:19