第五話「吸血機討伐」
バンパイオーは山中に降り立つと崖に寄り添い、その体をマントで包み込んだ。マントは見る間に崖そっくりに変質し、それとわからなくなった。
抜人「何にでもなるんだな、このマント」
どうでもいいことでも口に出していなければ、消えてなくなってしまいそうだった。
抜人「日が暮れる……戻るか、町に」
口に出しても虚しいだけだった。戻る町などすでに無い。
抜人「くそ。何だってんだよ……なんで、なんで……」
ジリリリリリリン。
ダン「はい、こちらゲンカイザー秘密基地……は?おいあんた、イタズラならもう少しリアリティを……え、まさか本当、で、ありますか!?」
益子「誰かしら?奥さん……じゃなさそうだけど」
ダン「はっ!ではそのように伝えておきます!それでは、失礼いたします!」
ヤブル「誰だったんだ?」
ダン「聞いて驚け。……内閣総理大臣だ」
益子「治水市。先日4体の異星人ロボットにより、壊滅した町よ。死者は10万人を超えるとか……」
移動中のゲンカイザーへ、併走するジープから通信が入る。
ヤブル「益子さん、俺を馬鹿だと思ってるだろ?それぐらい知ってるぜ!」
ダン「ま、馬鹿なのは事実だがな!」
ヤブル「お前もな、ダン!」
ダン・ヤブル「ハハハハハハハ!」
益子「……その後、仲間割れか何かで4体中3体は大破。残る1体は姿を消したわ。それ――コードネーム『吸血機』を探すのが民荷首相からの依頼よ。」
ヤブル「で、なんであんたらまで付いて来るんだ?」
ダン「そりゃお前を一人で総司令殿に会わせるなんて心配だからな」
ヤブル「総司令?そんなのも来るのか」
ダン「ハハハ、自衛隊の総司令官は総理大臣なんだよ!知らなかっただろう!」
益子(司令を会わせるのも十分心配だけど)「そろそろ着きますよ」
治水市。救助隊に混じって一足先に現地入りした尽たちが見たものは、瓦礫、そして凄惨な姿の死体の山だった。吐き気をこらえながら町の入り口まで戻ってきた一行。
尽「う、うう……」
新村「大丈夫ですか総理?」
尽「大丈夫です。新村さんこそ、顔色が……」
新村「あの状況を見て平気でいられる人間なんていませんよ。しかし、やはり私が同行で良かった。垂木さんにはとても見せられません」
尽「まったくです……ん、この音は」
ガションガションガション。
ダン「おお、これは民荷首相みずから。不肖赤井男、ここに参上いたしましたぞぉーっ!」
尽「あなたが赤井男司令ですね。こちらが伝益子さん。そして……」
ヤブル「この俺がぁぁぁぁぁ!突破だぁぁぁぁぁっ!!」
スピーカーから、ヤブルのシャウトが廃墟に響く。
益子「うるさ……ヤブル君、無闇に叫ばないで!」
その後から現れる白い巨大ロボ。
ヤブル「テッケンオー?テッケンも呼ばれたのか」
テッケン「なんだ、ヤブルもか。政府に協力なんて柄じゃないが、大の男に頭下げられちゃ仕方ねえ」
尽「そう、異星人の脅威に立ち向かうロボット二体に、ここへ集まってもらった。それくらい危険な相手だと判断してね。とにかく、一度降りてきてくれないか。ちゃんと挨拶がしたいんだ。」
テッケン(こいつがあのセイカイオーの民荷尽か……どう見ても普通の兄ちゃんだぜ)
そのくせ秘書やらSPやら記者やら、ぞろぞろと引き連れている。弱いくせに偉そうな人間が、テッケンは嫌いだ。
尽「初めまして、民荷尽です。君達の活躍には、本当に感謝している。本当はきちんとした席に招いて会いたかったんだけどね。」
尽が手を差し出すと、テッケンはそれを思い切り握りしめた。
尽「ててててっ!……さすが、強いんだな。鉄野拳児くん。」
テッケン「フン。気にしなくていいぜ。俺はかしこまった席なんか大嫌いだからな。それより少し町の様子を見させてもらうぞ。宇宙人のしでかした事ってのを知っておきたい。」
テッケンが廃墟に向かって歩き出そうとした瞬間。
尽「ダメだ、見るなっっ!!」
ビクッ!突然の怒声にさすがのテッケンも足を止めた。
尽「あ……大きな声を出してすまない。ただ、この先は見ないほうがいい。」
テッケン「……相当ひでえことになってるってのは、あんたの青い顔見りゃわかるさ。それとも、学生には刺激が強すぎるとでも言いたいのかよ、政治家先生?」
新村「きみ、失礼にも程が……!」
尽「待ってください、新村さん。そんなんじゃないよ……本当はね、鉄野くん。見ないであげて欲しいんだ。上手く言えないけど、あんな姿はみんな……たぶん、見られたくないと思うから。」
そう語る尽には、先程の印象からは想像できない異様な迫力があった。
テッケン(これが、この男の強さってわけか)「……わかった。悪かったよ。それから、俺のことはテッケンでいいぜ。……?おい、ヤブルどうした?」
ヤブル「わかんねえ……なんか、総理に怒鳴られたら、ブルっちまった」
尽「あ、ごめん!大丈夫?」
テッケン「なんだ、案外だらしねえんだな。こんな優男に怒鳴られたくらいで」
尽「優男はひどいなあ、テッケン君?」
テッケン「誰が見たって、優男だろうよ」
ヤブル(何だ……ずっと昔、おんなじように怒鳴られた気がする。じいちゃんか?
何があったときだっけ……)
抜人「ゲンカイザーにテッケンオー……来てくれたんだ……これで、助かる!」
救助隊員「ん?そこに誰かいるのか?無事ですかぁ!?」
抜人「あ、はい!俺、偶然山に入ってて……!?」
ヒュ――――ドズゥゥゥゥン!!
突然巨大な物体が空から落ちてきて、抜人を見下ろしていた。その足元に目を戻すと、救助隊員は血溜りになっている。
抜人「あ……何だよ、またかよ……もう、いやだ……助けてくれよ……」
ヤブル「てぇりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ドグォォォォォォン!
ゲンカイザーの跳び蹴りが決まり、巨大なものは吹き飛ばされた。
ヤブル「おい、そこの奴!走れるか!?すぐ逃げろ!」
抜人「あ、ありがと……うぅっ!?」
頭が痛み、声が響く。
(ワガ敵……滅ボセ……ワガ敵……)
抜人「何なんだよっ!?せっかく助かったんだ……逃げたっていいだろ!?」
耳を塞ぎながら喚く抜人。しかし声は直接頭の中に響いてくる。
(ワガ敵……滅ボセ……ワガ敵……)
ヤブル「大丈夫かあいつ……?」
テッケンオーを起動させながらテッケンは尽に問う。
「あんたは戦わねえのか?総理」
尽「僕は……」
テッケン「フン、すまねえ、悪い冗談だったな。あんたにはあんたの戦いがある。俺にもわかったよ。だから、早く逃げろ」
尽「……すまない!」
ふらふらとバンパイオーのところまで戻ってきた抜人。
「くそっ……なんで俺がやらなきゃ駄目なんだよ。あの二機だけで、十分じゃないかよ!」
毒づきながらもコクピットに乗り込むと、首筋に針が刺しこまれる。
抜人「痛ぇ……やってやるから、頭の中で喚くのをやめろ!」
岩肌に擬態していたマントが元の形に戻り、バンパイオーは廃墟に向かって飛翔した。
テッケン「くそ!思ったよりしぶとい奴らだぜ!」
ヤブル「GENKAITOPPA!ゲェェェェンカァァァァァイケェェェェェェェェン!!」
限界拳が一体のフランケイナーを吹き飛ばす!
ヤブル「へっ、なんてことねぇぜ!」
ダン「ヤブル、敵の数が多い。ペース配分してかねぇとヤバいぞ」
ヤブル「何言ってやがる!こんなの限界のうちに入ら……あ?どうしたゲンカイザー?」
ヒニョヒニョヒニョ~
ヤブル「あああ!エネルギーが、エネルギーが無ええええええええ!?」
ダン「言わんこっちゃ無ええええええっ!」
益子「司令、少し黙って!ヤブルくん、テッケンくん、南西の山からアンノウンが接近しています!」
尽「何ですって?まさか……」
益子「映像きます。……吸血機です!」
抜人「うおおおおっ!ブラッディブレードッ!」
バンパイオーがフランケイナーの一体に斬りかかる。しかし、目立ったダメージは与えられない。
抜人「くそっ、貧血でクラクラする……」
(ナラバ、吸エバイイ)
また頭に声が響く。見れば、バンパイオーの左手から爪が伸び、刃のように光っている。
抜人「こいつで、敵の血を吸えるのか……こうか!?」
爪を敵に突き刺す。フランケイナーはビクンと震えた。
抜人「よこせ……!」
シュゥゥゥゥゥゥッ……
フランケイナーは見る間に弱り、やがて倒れると灰になってしまった。
一方、抜人は高揚していた。
抜人「フ、フフ……こいつなら、いける!」
(コノ霊気……血ハ、モウイラヌ)
抜人「何?何をしようとしている!?」
(カカカカカ……)
抜人の頭に、不気味な笑い声が響いていた。
ヤブル「なんとか動けるようになったぜ……」
テッケン「総理さんよ、このコウモリ野郎俺たちのこと眼中にねえぜ?」
尽「ああ。仲間割れというより……もともと敵同士なのか?伝さん、通信を試してもらえますか?」
益子「やっていますが、応答はありません」
ヤブル「おい見ろ、何だありゃ!?」
吸血機の胸の肋骨状の装飾がバクンと開き、そこに光が集まり始めた。
抜人「通信機……どれだよ!?」
何かは知らないが、何かとんでもないことをしようとしている。抜人はゲンカイザーたちに警告を
与えようとしたが、そもそもバンパイオーにそんな物は無かった。
(カカカカカ……)
抜人「何がおかしいんだ……ぅっ!?何だ、これぇ!?」
頭の中に数え切れないほどの叫び声が響く。そしてそのどれもが、苦しみを訴えていた。
痛い。苦しい。熱い。助けてくれ。
抜人「何だよ、やめろ、うるさい黙れ!人の頭の中に、いったい何人……」
それが昨日ここで死んだ人達の声なのだと気付く前に、抜人は泡を吹いて気絶した。
カカカカカ……!
吸血機は不気味な笑い声を上げ、開いた胸から閃光を放った!
テッケン「な……これは!?ヤブルゥッ、伏せろォッ!!」
ヤブル「おおおおおぅあああっ!?」
ゴァァァァァアアアアアア!!
強大な破壊力をもった閃光が、視界を塗りつぶす。瓦礫が吹き上がり、塵と消えていく。
フランケイナーたちが、なすすべもなく消滅していく。
その場にいた誰も知る由も無いが、これが周囲の死霊をエネルギーとするバンパイオーの
半実体半霊体エネルギー弾、ファントムカノンであった。
尽「テッケンくん!ヤブルくぅぅぅぅぅん!!」
光が消え、視界が元に戻ると、そこにあったはずの廃墟はなかった。
ダン「何だ……何にも無え……!?」
尽「そんな……ヤブルくん!テッケンくん!?」
益子「総理、大丈夫です。二人の反応は、地面の中から」
テッケン「……ああ、とっさに物陰に伏せたら、埋まっちまった」
ヤブル「死ぬかと思ったぜ……」
テッケンオーとゲンカイザーが地面から這い出してくる。
尽「よかった……そうだ、吸血機は?」
益子「反応ありません。今のどさくさに逃げたものかと」
尽「そうですか……。吸血機には、ゲンカイザーたちを攻撃してくる様子はなかった。敵じゃ、ないのかも」
ダン「しかし、味方とも思えませんな」
テッケン「そうだぜ。俺たちが殺されかけたのは事実なんだからな!」
尽「わかってる。しかし吸血機……いったい、何者なんだ……?」
廃墟すらなくなった荒野に、吹き渡る風は冷たかった。
第5話 終
最終更新:2009年12月13日 17:29