入院中のテッケンには個室があてがわれていた。見舞いにやってきたヤブル、秀一、乙女。
ヤブル「テッケン、具合はどうだ?……おい、開けろよ」
戸が開かない。
テッケン「俺は動けねえ。テッケンオーも壊れた。もうお前らとは関係ない」
秀一「君はすぐに治る。テッケンオーもだ。関係ないことは無いぞ」
テッケン「うるせえな。俺はもう駄目なんだ、帰ってくれよ」
乙女「もう!あなたがこんなに弱虫だったなんて知らなかったわ!」
テッケン「そうさ、俺は弱い。だから、負けた……」
ヤブル「何言ってんだよテッケン、どんな強い奴だって」
言いかけたヤブルを秀一が制した。
秀一「帰ろう。こういうときは、待つしかないものだ」
帰り道。
乙女「申し訳ございません。せっかく来て頂いたのに」
ヤブル「何か信じらんねぇな、あれがテッケンだなんて……」
秀一「そうか?私にはわかる気がするがな」
ヤブル「どういうことだよ?」
秀一「彼は世界最強の男だ。勝って当然、圧倒的な力に屈したことなど一度もなかったのだろう。
落ち込みもするさ。いつも一度負けてからが勝負のお前にはわからんかも知れんが」
ヤブル「……なんか癪にさわる言い方だぜ」
秀一「フ。だが、敗けを知らない強さには限界がある。これを機に彼は更に強くなる、ヤブルみたいにな」
乙女「まあ、良いことをおっしゃいますのね、涼茂様」
ヤブル「何たって生き地獄の住人だからな!」
ヤブルは逆襲とばかりに言う。もちろん褒め言葉なのだが、秀一は自分の努力をひどく恥ずかしがる。
秀一「その話はやめてくれ……」
乙女「では、私はこれで」
秀一「私もこれから遠出しなければならない。ここで解散だ」
ヤブル「ああ、じゃあな」
一人歩き出すヤブル。
「敗けを知らない強さの限界か……悔しいが確かによくわからんぜ」
ぼろぼろの学生服を着た顔色の悪い少年がふらふらと歩いてくる。ヤブルは何気なくすれ違おうとしたが、
少年が突然つまづき、肩がぶつかった。
抜人「あっ、すみません」
ヤブル「気をつけろよ……って、おい大丈夫か!?」
少年はそのまま座り込み、気を失ってしまったのだった。
第16話「抜人とヤブル」
突家の居間。
抜人「すみません、おかわり……」
益子「はい、どうぞ」
じいちゃん「それにしてもよく食うのう。よほど腹が減ってたようじゃな」
益子「服もぼろぼろだし。君、いったい何があったの?」
抜人「……」
バンパイオーが「吸血機」と呼ばれ恐れられていることを、抜人は既に知っている。
まして地球のロボットであるテンサイダーに撃たれたのだ。本当のことなど話せるわけが無い。
じいちゃん「無理に答えんでも良い。よほど辛い目に遭ったんじゃろうな」
抜人「……すみません」
ヤブル「ところでさ、お前どっかで会った事ないか?なんか覚えがあるんだが……」
抜人「え?うーん……俺の方は覚えてないですけど」
ヤブル「そうか。じゃ、人違いだな。悪い」
抜人「いえ、別に……あの、なんでこんなに親切にしてくれるんです?」
ヤブル「気にすんなよ。困ったときはお互い様じゃねえか」
抜人は不思議なものでも見るように、ヤブルを見つめた。
ヤブル「どうした?」
抜人「あ、いや、その言葉TVとかじゃよく聞くけど、実際に聞いたのは初めてだから」
ヤブル「ああ、実は俺も一度言ってみたかったんだ」
抜人は一瞬きょとんとしたが、やがて笑い出した。
「ハハッ。そうですよね」
ヤブル「はははは!そうなんだよ!」
ピー、ピー!
司令室にいるダンから通信が入った!
『伝くん戻ってくれ、ウツノイドだ。ヤブルは戦闘準備!』
――急に皆の顔つきが変わった。
益子「わかりました、すぐ行きます!」
ヤブル「おっしゃ、俺も行くぜぇ!!」
ヤブルと益子が居間を駆け出していく!
抜人「な、何ですか?」
じいちゃん「すまんの、騒々しくて。この家は少々訳アリでな」
窓の外にどこかで見たような飛行機が飛んでいくのが見えた。
抜人「あれはゲンカイザーの……まさか、ヤブルさんが」
ならば自分に見覚えがあってもおかしくは無い。治水市で、ヤブルはゲンカイザーの眼を通して、確かに自分を見たことがあったのだ。
じいちゃん「そのまさかじゃ。だがまあ、気にせんとゆっくりしておれ。君の体は弱っとる」
知らなければ、そうしていたかもしれない、しかし。
抜人「おじいさん、俺……ちょっと出てきます!」
現場に急行したゲンカイザーを待ち受けていたのは、8本の腕を持つ大型のウツノイドだった!
フ・カノー「フフフフ、これがギバップのデータから魔闘メカの長所を取り込んだ擬似魔闘ウツノイド
レコンサイルだ。突破、わがデータによって地獄に落ちるがいい!」
益子『秀一くんから連絡があったわ。お父様の仕事で今海外ですって!』
ヤブル「俺一人でこのデカイのと闘るのか……面白え!いくぜフ・カノー!!」
巨大な敵と対峙するゲンカイザーを遠目に見ながら、抜人はバンパイオーの元へ走った。
抜人「あんなでかいのと、たった一人で」
ハッチを開きコクピットに滑り込む。治水市でゲンカイザーに救われてから、ずっと考えていた。
あのパイロットはなぜ、何のために命をかけて戦うのか?
抜人「……困ったときはお互い様、か」
答えはごく単純だった。ただ純粋に、自分の中の何かのために。
抜人「俺には戦う理由なんて無い。戦いたくなんてない。だけど……この気持ちだけで、十分だったんだ!」
もう誰も喪いたくない。針が首筋に食い込んだ。
ガガガガガガガッ!
ヤブル「うおぁあああああああっ!!」
何しろ8本も腕があるのだ。そこから繰り出されるラッシュは半端ではない。
仰向けに倒れたゲンカイザーは起き上がる隙すら無く、間断なく襲い来るパンチを浴び続けていた。
益子『し、司令、何かアドバイスしてあげてください!』
ダン『伝くん無茶振りはやめろ!腕が8本だろ?え~とえ~と……』
フ・カノー「フフフ、手も足も出まい!さあ、そろそろ……ム?」
その時。
突風が吹き荒れ、太陽には厚い雲がかかり、辺りはにわかに暗くなった。
ザッ、ザッ、ザッ……
足音が聞こえてくる。そして薄闇の向こうから現れたのは、黒いマントに身を包んだ巨大ロボット。
フ・カノー「あれは」
ヤブル「吸血機!?」
血液を通わせたマントを外し、筒状に硬化させると槍になった。
抜人「おぉぉぉっ、ブラッッディ・ランサァァァァ!!」
バンパイオーが大きく振りかぶり、助走をつけて槍を投擲する。ウツノイドはその腕で槍をはじいたが、その隙にゲンカイザーが立ち上がっていた!
ヤブル「今だッ!てぁりゃぁ!!」
ゲンカイザーのアッパーカットを受け、ウツノイドが姿勢を崩す。
抜人「ぅわあああああああっ!!」
バンパイオーが疾走し、ウツノイドに跳び蹴りをかけた!
ウツノイドがよろけ、のけぞる。バンパイオーは素早く槍を拾い、マントとして再び身に着けた。
抜人「通信ができないんなら、態度で示すだけだ!」
フ・カノー「おのれ、邪魔をするな蝙蝠ロボォォォォ!!」
抜人「!?」
レコンサイルの4本の右腕が一斉にバンパイオーを襲った!
ゴァァァン!
抜人「うう……」
吹き飛ばされ、ビルに叩きつけられたバンパイオーはうなだれ、そのまま沈黙した。
ヤブル「あいつ……助けてくれたのか?」
フ・カノー「ち、驚かせおって。さあゲンカイザー、続きを始めようか」
レコンサイルがゲンカイザーに見下ろし、戦闘姿勢をとった。
ヤブル「くっ……」
そして最初のパンチが繰り出されようとしたその時、モニターにダンの姿が!
『ヤブルゥゥゥゥ!ラッシュ時には事故に注意だ!!』
ヤブル「!そうか、うぉぉぉぉおお!!」
バシィン!
ゲンカイザーが渾身の力でパンチを受け止める!
フ・カノー「何!?」
あまりにも速いラッシュだったため、レコンサイルは続くパンチを止められなかった。
ガガンガガンガガンガガン!
受け止められた腕が盾にされ、肘から下でもげる。
ヤブル「覚えとくんだなフ・カノー!俺の戦いはいつも2回戦からだぜ!!」
もげた腕を投げ捨て、ヤブルが叫んだ。
フ・カノー「いい気になるな、戦い方はまだ幾らでもあるわァァァァッ!」
そうして構え直したレコンサイルの腕を、突如後ろから伸びた無数の腕が縛りつけた!
フ・カノー「な、何!?」
吸血機のマントだった。
抜人「わかってくれ、ヤブルさん!」
ヤブル「おっしゃあ!はっきりわかったぜ吸血機、お前は敵じゃねえ!」
フ・カノー「おのれ、離せ!う、うおあぁぁぁぁ!?」
ヤブル「限!界!ケェェェェェェェェェン!!」
限界拳がヒットし、レコンサイルが弾き飛ばされる。そしてその先で待ち構えるバンパイオー!
抜人「ブラッディ……ブレ――――ド!」
バンパイオーが腰だめに構えた剣を縦一文字に振り上げると、レコンサイルは両断された。
フ・カノー「ク……不確定要素だ、撤退する!」
ドゴォォォォォァァァァンン!!
レコンサイルが爆発した。
ゲンカイザーが歩いてきて手を差し出した。握手を求めているようだ。
抜人「ロボット同士で……そういうもんなのか?」
パイロットのマナーはわからないが、ともかく敵でないことは伝わったらしい。抜人はバンパイオーの右手を伸ばそうとした。その瞬間。
(――ワガ敵を滅ボセ)
抜人「!?」
思わずバンパイオーの手を引っ込めていた。
抜人「何を、何を言うんだ!ゲンカイザーが敵のわけ無い!」
(ワガ敵を滅ボセワガ敵を滅ボセワガ敵を滅ボセ)
抜人「く、ゲンカイザーに手を出すな!……ここにいちゃいけない」
バンパイオーは数歩後ずさりして飛び上がり、体をマントで包むと虚空に消えた。
ヤブルには吸血機が、突然苦しみだして慌てて逃げたように見えていた。
「いったい何なんだ……」
だが、敵ではない。そう思えた。
その一部始終を影から監視していた男がいる。黒づくめの服に身を包んだ筋肉質の身体。
一見してギャングか何かのようだが、どこか聖職者のようでもある。
???「対象ロスト。テレポートです」
???『仕方が無い、状況を終了する。テレポート先もじきに掴めるだろう」
???「了解」
国会議事堂、総理大臣控え室で、尽は公安委員長の甲賀公康と面会していた。
公康「尽、最新の要チェック組織リストだ」
尽「ありがとう。それで、例の赤いロボットの目星は?」
公康「いや、これが奇妙なほどわからない。よほど小さな組織なのか」
尽「それであんな巨大ロボが作れるものなのか?」
公康「個人で巨大ロボットを作った鉄野博士という前例がある。天才科学者なら可能だろう。
それよりここを見ろ」
尽「……水面下で20機以上の中型ロボットを入手?何て組織だ?」
公康「ヴァイスキルヒェ。カトリックを母体にしたカルトだ」
抜人は突家に戻るや否や、貧血で倒れこんだ。
じいちゃん「どうした小森くん!ひどい貧血じゃないか」
益子「それにこの傷。まるで吸血……」
益子が首筋の二つの針の痕を見て言いかけると、抜人は思わず傷を隠した。これだけでバンパイオーとの繋がりが明らかになるわけもなかろうが、見られたくはなかった。
抜人「これは……虫刺され、です」
益子「ごめん、気に障った?」
抜人「……少し」
これからもバンパイオーは凶悪な侵略者と恐れられ、追われるのだろうか。
それでも、何かがふっ切れた気がした。
最終更新:2011年12月10日 21:57