第二十四話「流星雨」
ザクッ。
バンパイオーは、ゲンカイザーの腹に爪を突き立てた。
テッケン「ヤブル!」
しかしゲンカイザーは抵抗せず、自分に爪を突き刺している手に、そっとその掌を重ねるだけだった。
ヤブル「ぐっ……何だ、それ?おい……抜人、なんだろ?目ぇ覚ませよ、抜人!」
外部スピーカーをオンにして、ヤブルは叫んだ。
秀一「ヤブル無茶だ!お前も灰にされてしまうぞ!」
ヤブル「そんなこと無え!絶対無え!……こいつが、そんなことするはず無えんだ……なぁ、抜人。
聞こえてんだろ?目ェ覚ませよ、おい……ぶっちゃけこれ凄ぇ痛えんだぞ!?」
ヤブルの血が、熱が、バンパイオーへと取り込まれていく。
何も無い、どこか真っ暗な場所で、抜人は目を覚ました。
抜人「ヤブルさん……?」
『手を差し伸べてくれる者があったか。助かった』
抜人「誰だ。どこにいる?」
『私だよ。今、姿を見せる』
そうして闇の中に現れたのは、疲れ切った顔の男だった。
抜人「あんたは、俺をバンパイオーに乗せた――」
ノーライ「覚えていてくれたか。ノーライ・フキングだ」
抜人「あんたは何なんだ。なぜ今になってのこのこ現れた。あんたのせいで俺は、俺は……」
ノーライ「……順を追って話そう。まず、今まで姿を見せなかった理由からだ。
私には、もう身体が無い。魂をバンパイオーに記憶させただけの死者、いわば亡霊だ。
そんなだから、私にはこうして君に語りかけられる時間が、もうあまり無い。全てを一から説明する
時間が惜しかった。それで、君が一人である程度事情を察してくれるまで待ったのだ」
抜人「ふざけるな!そのせいで俺がどんな目に遭ったと思ってる!」
ノーライ「全て見ていた。……申し訳ない」
抜人「……ッ!で、あんたいったい何者なんだよ?」
ノーライ「私はバンパイア星人。君達から見れば異星人だ。想像はついていたと思うが」
抜人「ああ、そうだな!それで?バンパイオーとは何だ?あの敵は?地球には何しにきた?」
ノーライ「奴ら、クロイツ人は宇宙の……聖職者、とでもいうのだろうか。邪悪なものを討ち滅ぼしながら、教えを
説いて回る。私の星は、彼らにとって邪悪とみなされたのだ」
抜人「実際そうなんだろうが。どうせ人の生き血を啜ったりしてたんだろう、この吸血鬼」
それは逆鱗だったらしい。ノーライは初めて激昂した。
「バカを言うな!同じ人間同士でそんな事をするものか!……そりゃあ他の動物からは、頂いていたが」
彼の星では人類が皆吸血鬼だから、人から吸うことは共食いに等しい、というわけか。
ノーライ「仕方ないじゃないか。他の生き物から命を貰わなければ生きていくことができないのは君達も、奴らも
同じことだ。その形態が少し違った、それだけでなぜ邪悪と決め付けられねばならん?」
屁理屈を、ということもできるが、それはフェアではないのだろう。肉を切り、加熱し、咀嚼して呑みこむという当たり前の食事が、ノーライには目にどう映ったかも知れないのだ。
ノーライ「奴らは宇宙から飛来し、我々を殺し始めた。当然我々は抵抗した。奴らはそれをまた邪悪と言った。
そうこうしている内に、古くから崇められていた神像が、巨大ロボットであることがわかったのだ」
抜人「それが、バンパイオー……」
ノーライ「私はそのパイロットに選ばれ、奴らの兵器に対抗できる唯一の戦力、抵抗のシンボルとなった」
抜人「しかし、あんたの星は負けた」
ノーライ「数を最大の武器とするクロイツには、バンパイオー1機ではどうにもならなかったのだよ。 最終的に仲間たちは生き残ることよりも、星の記憶を残すことを選んだ。そうしてバンパイオーと私を、
あらゆる犠牲を払って宇宙に逃がしたのだ。星のすべてが消し去られる前に」
抜人「……」
ノーライ「しかし、奴らはそれすらも許さなかった。最後の一人まで狩り立てようと、執拗に私を追ってきた。
バンパイアだけじゃない。スケルトン、フランケン、ワーウルフ……いくつもの星が奴らに滅ぼされた。
そして滅んだ星の戦力は奪われ、次の星の制圧に使われる」
抜人はこれまでのクロイツ人の戦力を思い返してみた。ガイコツ、フランケン。それらは多分、滅ぼされた星のロボットだったのだろう。
「すると今周りにいるクレリッカってのが」
ノーライ「奴らの本来の戦力。クロイツが本気でこの星を潰しにきたという証拠だ」
抜人「なるほどな。だがあんたらと俺たちの星に、何の関係がある?何で地球に来た」
すると、ふとノーライははにかむように俯いた。
「……実を言えば、何の関係も無かった。ただ、たった一人でさまよう宇宙は寂しくて……美しい星を見つけた時、
故郷に代わる死に場所にしたくなっただけなのだ。
その結果クロイツはこの星に降り立ち、今度はこの星に狙いを定めてしまった。本当に、詫びる言葉も無い」
それは、確かに迷惑な話だった。今の話が本当なら、ただ死ぬだけのためにやってきた男のために、何千何万という命が失われたことになる。
だが、抜人にはノーライを責める言葉を口にすることが出来なかった。それどころか、目には涙が溢れてくるのだ。
ノーライ「なぜ、君が泣く?」
抜人「……だってあんた、俺と同じじゃないか!いきなり襲われて、逃げて、追われて……迷惑だってわかってても
独りでいられなくて……同じじゃないか……俺に、あんたを責められるかよ……!」
ノーライ「……ありがとう」
言うと、ノーライは上を仰いだ。つられて抜人が上に目をやると、真っ暗だった場所に、一筋の光が差し込んでいた。
ノーライ「この星にはまだ、光があるんだ。手を伸ばして、掴め!」
抜人「……吸血鬼にそんなこと言われるなんてな」
抜人が腕を伸ばすと、光は手の形になり、抜人の腕を掴んで引き上げていく。
光の手に引き上げられながら、抜人は眼下の闇に取り残されたノーライを見た。
ノーライは抜人を見上げながら、心の底から嬉しそうに、微笑んでいた。そして叫んだ。
ノーライ「確かにバンパイオーは魔的な力を持つ。だが、所詮は機械だ。惑わされるな。
バンパイオーは君の力だ。君の思うように使うんだ、小森抜人くん!」
気が付くと、抜人はバンパイオーのコクピットに戻っていた。
目の前には、腹を刺されたままのゲンカイザー。抜人は慌てて爪を引き抜くと、ハッチを開け、外に顔を出した。
生ぬるい夜風が抜人の体を煽る。
人間でいえば鎖骨に当たる位置にあるハッチからは、ゲンカイザーの胸にあるコクピットは見下ろす位置だった。
抜人「そう……俺です、ヤブルさん。すいません、俺……」
するとゲンカイザーのコクピットハッチも開き、ヤブルが出てきた。その腹は血に染まっている。
「へへ、気にすんなよ、これくらい全然余裕、だぜ……ほれ!」
ヤブルが何か、箱を投げて寄こした。受け止めると、そこからヤブルの声がした。
『通信機だ。これで話せるよな?まずはこいつらぶっ倒しちまおうぜ!』
抜人「……はい!」
5機になったスーパーロボット達の大攻勢が始まる。ヨユウダーが斬り、スーパーテッケンオーが蹴り、テンサイダーが撃つ。しかし、クレリッカは後から後から湧いて出る。
抜人「くそっ、きりが無い!」
リュウ「むう、こちらももうエネルギーが切れる。そろそろ帰らせてもら……」
乙女「でも、あきらめるわけには参りませんわ!」
リュウ「もちろんです!乙女さんのためならこの雷場竜、身が砕け散るまで戦うことを誓いますよ!」
秀一「とはいえ、本当に砕け散ってもらっても困る……一発逆転の方法でも考えねばな」
ヤブル「……ひとつ、あるぜ」
テッケン「ああ、俺も知ってる」
そう言うとゲンカイザーとスーパーテッケンオーはバンパイオーの方を見た。
抜人「俺、ですか?」
テッケン「治水市で使ったすげえビームだ。あれなら奴らを一掃できる」
『ファントムカノンのことか』
その声は抜人の頭の中に直接語りかけてきた。だがバンパイオーの不吉な声とは違う、普通の男の声だ。
抜人「ノーライなのか?俺、そんなの知らな……」
ノーライ『君はあのとき意識が無かったからな。だがあれには大量の死霊が必要だ。早い話、犠牲者が。ここでは
まだそれほどいないようだ。第一あれの威力では、この街ごと消え去ることになるぞ?』
抜人はノーライの言葉に背筋を寒くしながら、その話を仲間に伝えた。
「なんか、資料が足りないから撃てないらしいです。もし使えても街ごと消え去るとかって」
リュウ「それでは打つ手が無いではないか!」
ノーライ『案ずるな。媒介さえあれば、手はある』
抜人「媒介って、血のことか?だけど……」
ノーライ『怖いか。もはや君自身からそれだけの媒介を得るのは不可能。かといって敵から吸うことは君の心を
蝕む。私としても勧めたくは無い』
ヤブル「おい、どうしたんだよ、抜人?」
抜人「手はあるけど、エネルギーが足りないんです」
ヤブル「エネルギーってもしかして、血か?お前の貧血の原因」
抜人「……そうです」
リュウ「ならば敵から吸い取ればよかろう!さっき敵を灰にしていたのは、そうなのだろうが!」
ヤブル「お前は黙ってろ!……」
ヤブルが不意に口を止めると、ゲンカイザーはバンパイオーに、背中を見せるように向き直った。
ヤブル「俺の使えよ。敵から吸うの、嫌なんだよな?」
抜人「て……ヤブルさん!」
ヤブル「なぁに、さっきも言ったろ、まだまだ全然余裕だぜ!」
抜人「見てたでしょう!?バンパイオーが血を吸ったら、相手は干からびて灰になるんですよ!」
ヤブル「ああ、だから、加減して頼むぜ」
抜人「ヤブルさん……」
テッケン「乙女、分離だ。……血の気の多さなら負けないぜ。二人分なら、何とかなるだろ」
ヤブル「どっちみち、何とかしなけりゃ俺たちは負ける。やるしかねえだろ!」
抜人「……二人の血、貰います!」
ゲンカイザーとテッケンオーが横に並び、その後ろにバンパイオーが立つ。
二つの背中に向けて、バンパイオーは両手の爪を突き刺した。
ヤブル「くっ!」
テッケン「おぅ!」
仲間の血が流れ込んでくる。その感覚に、抜人は敵の血を吸ったときとは別の高揚感を味わっていた。
腹の底で火が燃えるような熱さ。これは、二人の魂の一部に違いない。
ノーライ『量は少ないが、質がいい。ぎりぎり何とかなりそうだ』
バンパイオーが爪を抜くと、ゲンカイザーとテッケンオーは倒れた。
抜人「ヤブルさん!」
ヤブル「……平気だ、生きてる。テッケンも、大丈夫だよな?」
テッケン「当たり前だ。俺たちに構ってる暇があったら、とっとと終わらせちまえ!」
抜人「くっ……絶対に、決めてやる!」
バンパイオーは翼を広げ、宙に舞った。
地上を見下ろし、無数のクレリッカ達の大群を見定める。
胸にある肋骨上の装飾が開き、深闇に続く巨大な口が開く。そしてそこに力が集中し――
抜人「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
バシャァァァァァァァァッ!!
バンパイオーの胸から放たれた閃光は、幾筋にも分かれた光の雨となって地上へ降り注いだ。
抜人(あ……銀河だ……)
光の雨はその一条一条がそれぞれクレリッカに突き刺さり、撃ち倒していく。
秀一「これは……不謹慎かも知れんが、美しいな」
さながらそれは、流星雨のようだった。
光の雨が止んだとき、立っているクレリッカの姿はなかった。戦いは終わっていた。
バンパイオーはゆっくりと降下し、着地した。
ノーライ『見事だ。エネルギーを収束して多数の細いビームにしたのか。
まるで天の川、さしずめ……ギャラクシーバスターといった所か』
抜人はノーライの感覚が自分と同じだったことに驚いた。
「意外と、ロマンチストなんだな?」
返事がない。
抜人「ノーライ?ノーライ・フキング?」
それでも返事はなかった。残された時間は僅かだと言っていた、その最後の瞬間が今だったのか?
「君で良かった」
最後にそう聞こえた気がしたが、頭の中に直接響く声は、空耳と区別がつかなかった。
ヤブル「行っちまうのか」
抜人「もう隠れる必要もありませんからね。ならしっかり調べてもらった方がいいですよ」
抜人とヤブルとテッケンは揃って貧血で病院に運ばれ、輸血されて戻ってきた。抜人にも、退院のときが来たのだ。
これからバンパイオーは自衛隊に収容され、その機構を調査されることになる。抜人もそれに付随して隊に身を寄せることになっていた。
ヤブル「そうか」
抜人「一宿一飯の恩なんて言ったら古くさいけど、お世話になりました」
言いながら抜人は手を差し出す。
ヤブル「……あの時は、できなかったんだよな」
ヤブルはその手を強く握った。
抜人「お元気で」
ヤブル「お前もな」
手を放すと二人は互いに背を向け、それぞれの場所に向かって歩いていった。(つづく)
最終更新:2011年12月07日 20:18