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それは碧に身を包んだ巨人。
それは空を制し、空にたたずむ巨人。
―――まさしく、正体不明。敵か味方かも分からない。
ただ一つ、言える事があった。
『……ベルフェリオン』
パールの呟き。
見上げる空に立ち尽くす、それは『風』を司る。


 桜華絢爛ベルフェリオン
   第五話「遭遇! ジャンヌダルク」


ツヴァイドリル、ドライフォートを持ち出した特訓から数日後。
4人の目の前のテーブルに示されたのは、大会のポスター。
此処エルヴィンでは、定期的にこういったロボット大会が開かれている。
なにも裁判や事件だけが戦闘の場だけではない。
娯楽である以上、エンターテイメントである以上、こういった場は人気イベントのひとつとなっている。
そして―――
「一週間後、私はこの大会に出ることになった」
張り出されたのはトーナメント形式の大会『ロボカップ』。
個人戦・チーム戦それぞれ『エキシビジョン』ということで優勝者と涼が戦うことになる。
「でけー」
今の総一には、間抜けっぽいがこの一言ぐらいしかひねり出すことはできない。
こうして目の前にいる彼女に雇われるということは、
状況が状況だったとはいえ、三人からしてみればありえないといっても過言ではないことだった。
実際涼の下についている身からは……いまだに現実味がない。
「はいはーい。広瀬さん、カメラ持ってってもいいですかっ?」
だが一人、春緋は順応していた。
元々野次馬的性質を持つ春緋は、涼のもとに着いてから精力的に働いてはいたものの、
どうしてもカメラだけは手放せなくなってしまったようだ。
デジカメとデジタルビデオを同時に扱う程度造作もない。
「撮影は禁止されてないからな……好きにするといい」
「わっふぃ!」
喜ぶ春緋、対して総一の表情はあまり喜ばしくないといった感じだった。
「質問、いいですか」
そして、いつもなら一歩退いた関わり方をする誠二は珍しく興味を示していた。
ん、と頷く涼に、自分から話を振ってくる。
「この大会、どの企業が参戦するか、しそうかとかは分かりますか?」
「一応、これはしそうだって目星は多少つくな」
大会―――それは企業が自分の宣伝を大々的にすることができる場。
華々しく活躍を残した機体、そしてパーツは放送される番組で宣伝され、
人気商品となるのである。
「ああ、お前んとこ工場勤務だったっけ」
総一は思い当たる。誠二の父はエルヴィンのとある工場で働いていた、という記憶。
その言葉に頷いて、二人は再び話し込む。
正直、あまり会社のことを知らない総一には今ついていくことはできない。
「マスター、マスター」
声の方を向くと、
むに。
そこには指があった。向くと頬が指に押されるような位置に指を置かれていたのだった。
「……パール?」
子供みたいな悪戯に引っかかった自分が許せなかったのか、パールの頬をぐにーと両側ひっぱってやる。
「いひゃいいひゃい」
解放されると、頬を抑えながら涙目のパール。子供か、と本気で呆れる。
「で、マスター」
「まともな質問じゃねェと聞かねーぜ」
「まともですよーっ。どうして弁護士の涼さんがえきしびじょんってのをするんですかってことですよ」
そういえば、パールは常識というものを知らなかった。
やれやれ、と溜息をつきながら、仕方なく総一は説明することにした。
「じゃあまず大前提からな。広瀬さんは『無敗』の『弁護士』なんだよ。
 そして、結果的にエルヴィンという都市のバランスを守る一員になってるんだ」
「バランス、ですか?」
首を傾げるパール。構わず続ける。
「そう。住民側を守る立場の人な。で、ここの管理してる側はある程度の問題は裁くが、
 判断が微妙だったりする場合にはロボット同士『戦闘』して決めるわけだ。
 その問題を起こしている側が、個人より強い集団である『企業』だから、
 企業が強いままだとやりたい放題になっちまう」
戦闘に裁判の結果が左右されるこの街では、住民を守る側が弱くては、
様々な意味で強い力を持っている企業が住民に対して異様に強くなってしまう。
そうまでになると、当然苦しくなるのは住民である。
しかし、此処に居るのは無敗の弁護士。
彼女は住民を護る側にいる人物の一人であり、不当な扱いから住民を護ることができる。
彼女が強いということは、結果的に住民側を護る力が強いということ。
「だから、俺ら住民を守ってくれる中で一番強いって言われてる涼さんは
 その力を企業たちにも、世間にも示す必要があるんだよ。
 それで、こういう大会にもゲストで出演したりするわけ」
勿論、エンターテイメント性を欠くため大会の本編には参加できず、
彼女自身の都合のため、あまり積極的に参加というまでにはいかないが。
幸い、彼女の戦いの本質は『逆転』であり、
相手がそれなり以上に強ければ見所のない戦いは基本的に起こりえない。
言うならば、キングのデュエルはエンターテイメントでなければならないといったところか。
「そーなのかー」
「お前本当に分かってンのか?」
返事があまりに呑気すぎる。分かれよ、と力強く言いたくなったがここは堪える。
そうこうしているうちに、誠二と涼の話が終わったようだ。
「……さて、大会の間君達にやってもらいたいことは追って説明する。
 少なくとも、参加はしないにしろ当日は君達も一緒に来てもらうことになるということは覚えてくれ」

「大会……ねえ」
ふー、と大きく息を吐いて呟く総一。ぐったりと机の上に突っ伏して。
「まあ、参加自体は俺達には遠い話だな」
「そうよねー。エル高といってもまだ授業って段階だし」
一人ぐったりしている総一の近くに誠二が来て、前の席の春緋が後ろを向いて。
特訓が始まってから、これがいつもの光景と化していた。
「でも、私としちゃ特等席、おまけに観戦費かからないでいっぱい撮れるだけで問題なし!」
「売るなよ?」
ちゃっかり通り越してちょっと邪な顔になっている春緋に釘を刺そうとする総一。
しかし、彼がそんなことを言おうとしたところで
「バラ撒くわよ?」
「すいまえんでした;」
ほらこんなもん。結局彼が春緋を御することは相当難しいのである。
「……ぁー?」
そんな彼の視界。一瞬、視線が包帯の少年とあう。
先日、最悪のタイミングで最悪の答えを返してしまったクラスメイト……井上純(いのうえ じゅん)。
総一の視線を感じたのか、何かに怯えるように純は顔を背け、歩いていってしまう。
(あー、謝らねェとな……)
そう。あれから総一は、結局謝るタイミングを見失ってしまった。
「ハルさんハルさん、バラ撒くって何をですか?」
「ああ、それはねー……」
聞こえるのはひそひそ話くらい。
パールに何か吹き込む春緋、呆れる誠二―――って、パール?
「……は?」
「ひふっへほー?」
そこには確かにパールが居た。
「お前何で常識皆無な癖にそんなネタばっか拾ってんだってかお前ここ学校だろ出てくんなひっこんでろー!?」

あまりにわかりやすく苛立ちながら、廊下を歩く一人の男、アフロ。
その筋肉質で、あまりにも脳筋的な見た目をしているその男、アフロ。
この白アフロ―――ダンカンである。
彼は屈辱に震えていた。
どこの馬の骨とも知れぬ、突然現れた巨人に敗北を喫した。
それゆえに、彼のプライドは大きく揺らいでいた。
「やあ、負け犬さん」
突如として。そんな言葉とともに、背後から現れる少年とも少女ともつかない人間。
ダンカンが即座に放った回し蹴りは空を切り、
「いきなりご挨拶じゃないか、脳筋白アフロさん」
「黙っとれフォース! このダンカン、今非常に機嫌が悪い!」
血走った眼が、フォースと呼ばれたそれを見据える。
「あれあれ、いいのかなー? 僕は君と違って、総統の直下にいる研究員なんだけど?」
「たかが研究員、実働部隊の隊長たる我に現場判断の口出しが出来ると思ってかぁ?」
フォースの挑発に易々と乗ってしまう、それほどに今のダンカンは苛立っていた。
当然である。苛立たないわけがない。
「まあ、何も武器持ってないベルフェリオンに負けちゃ格好つかないよね」
「な、なにを貴様……」
図星を突かれたダンカンが言葉を浴びせる前に、目の前に出された携帯レーダーっぽい何か。
「この街にもう一つあるのが分かったから、これでデバイス探してこいってさ。
 これ、総統からの命令だよ?」
そう口走ると、次の瞬間フォースの姿は見えなくなっていた。
「……どうにもアレは好かん」
前回の失敗のときはこっぴどく絞られ、関係者追撃を断念せざるを得なくなってしまった。
だが、いつか絶対にあの巨人にはリベンジを果たす。でなければ、我のプライドが許さない!
新たに意気込みを入れ、とりあえずはその下積みとして現状の任務を遂行することを優先した。
フォースという者はいけすかないが……。

エルヴィン第一総合高校。縮めてエル高。
ここはエルヴィンの中で最も巨大な高校である。
入りやすく学費も安い、設備も上々、特に現環境では「就職に役立つ」と人気の
ロボット関連学科が充実しているということで、高校自体の人気は高い。
総一、春緋、誠二の三人は全員この高校に進み、クラスが同じである。
……セキュリティは割と厳しく、当然部外者が勝手に入っていけないのであり。
「……何かと思ったら、そういうことね」
学校からの通報を受け、駆けつけた俊暁は頭を抱えることになった。
一応授業が終わった後だったので、総一が平謝りする羽目になってしまった。
「すみませんでした」
「いや、流石に俺も想定外だったよ……で、何で出てきたんだ?」
二人からの視線を受け、普通なら少しはそれらしい素振りを見せてもおかしくはなかった。
「暇で窮屈でした」
だが、この女はきっぱりと一言で切り捨ててしまった。
全く悪びれてない。
……だめだこいつ、早くなんとかしないと。
「こいつどうしようトシ兄」
「トシ兄ってなんだトシ兄って」
「じゃあとっしゃん」
「普通に呼べ!」
「なんだっけかー、えー……俊彦?」
天城総一、実は他人の名前を覚えるのは苦手である。
「どうしようっつったってなあ……とりあえず涼にもかけあってみるよ。
 折角だから今日は乗ってくか? 車で来てるし」
「あ、どもです」
歩きでは大変、かといって交通手段を使うのもしんどい。
総一がこの話題を受け入れないわけがなかった。
「じゃあ私助手席で」
とりあえずパールはほっぺたひっぱっておく。うにゅー。

「全く、あやつめ我々を使いッぱしりにしおって……!」
携帯電話とさほど変わらないサイズのレーダーを見ながら歩いている白アフロ。
ぶつかる? 心配はない。周辺の連れ以外は全員彼を不審人物と見ていて、避けているからだ。
「……ときにミュー、何故我々は避けられているのだ?」
「さあ……? 分かりません」
周辺の連れもこれまた変な格好だった。
黒づくめの服装の上に、一人残らず仮面をつけているのだから。
一人連れの中で背丈が低い、少女の声をした人物がミューと呼ばれ、答えを返す。
「おかしい。我の何処にも不審はない、パーフェクトなはずなのだが」
首を傾げる白アフロ。
半裸でもなく、ちゃんと上着は着ている。何故避けられているのか、彼には理解できなかった。

「黒尽くめの仮面集団とかどう考えても不審人物だろ……常識的に考えて……」
そこを通りかかった俊暁の車は信号待ち状態だった。
彼らは運が悪かったとしか言いようがない。
むしろ、リベンジを誓った相手とかち合ったことは幸運といえるのだろうか?
しかし、そんなことなど総一は知る由もなく。
「どうします? あれ」
呆れながらも聞く総一、返す言葉は―――
「職質だなこりゃ」
ですよねー。
シャッター音が車内で鳴り響く中、適当なところに車を止める俊暁。
「ハル、いいかげんやめい」
「ぇー」
むー、と膨れる春緋をよそに、俊暁が車を立つ。
「何やってるんでしょうね?」
「俺が知るか」
「お前ら静かにしろ、状況が読めない」
誠二の言葉に、さすがに総一も黙らざるを得なくなった。
一人その光景を見つめているパールは、んー? と首をかしげている。
職務質問に向かった俊暁、数秒後警察手帳を出した瞬間にアフロは逃げた。
「……どうするんだ、あれ?」
「面白そっ!」
「ちょ、おいハル!?」
総一が制止する間もなく、飛び出していく春緋。
「しゃーね、車頼む! 来いパール!」
「はいさーっ」
後を追うように総一が、そしてパールが飛び出す。
「……あのなあ」
行くに行けない誠二は、車の中で待ちぼうけになってしまった。

「ぜぇ、ぜぇ……もう、逃げられないぜ?」
追うこと数分。なんとか路地裏までアフロを追い込み、銃を構える。
仲間に連絡し、応援を頼み、それでも捕まえきれずだった。
息を切らしながら、これまでのしぶとさに心中で敬意を表しながらも。
「おとなしく、同行……願おうか」
「それもいいが……古人の言葉に、頭上注意というものがあってな?」
追い詰められながらも、余裕の表情で上を指す白アフロ。
つられて上を見た俊暁の上には、巨大な足があった。

「ゲゲェー!? あのときの白アフロ!?」
いつぞやの巨大な姿。見るものを圧倒させるそのアフロの存在感。
「マスター、白アフロってことは職務質問のあの人……」
「ありうるな。ってか、トシ兄どうしたんだ!?」
追いかけている途中で全員を見失い、その光景に呆れまくっていた総一は、
そこではっと我に返り焦る。勝手に携帯に連絡とかすると邪魔だろうし……
「ったく、とりあえず」
ここにいても仕方ない、まずは待たせている誠二のところに戻るか。
そんな思考で踵を返し、もと来た道を戻る―――
「ぬがっ!?」
「きゃん!?」
横から来た人に衝突を喰らってしまう。
痛い、特に痛いのは胸の傷ダイレクトに突き刺さった何か。
「大丈夫ですかマスター。仮面ぶちあたると痛いですねマスター」
「黙ってろお前」
しかしその言葉で気付く。
背格好は他より小さいが、黒のコートに黒の帽子、そして何より仮面。
―――あの黒尽くめの中にいた人間の一人であると。
白アフロが関わっていた以上、この黒尽くめもジャンヌダルク?
身構えて警戒をしようとする総一、しかし黒尽くめはそれより早く―――
「す、すみませんっ」
平謝りで一礼。
「あ、ああ」
あまりにも予想外な行動に、呆然と返事をすることしかできず。
「……あんな女もいるんだな」
声質と感触で女だと断定した総一は、数秒呆れた末にこんな言葉しか出せなかった。
「それなんてギャルゲ?」
だからそういう知識ばかりどっから拾ってきた!
突っ込みを入れようとする総一の耳に届いたのは、自分の携帯の着メロだった。
開いてみると、その連絡先は俊暁。あちらから連絡してくれたのならば都合がいい。
「もしもしトシ兄!? そっちどうなってんスか!?」
『トシ兄違う! さっきの白アフロがあれのパイロットだ、
 悪いけどこのまま抑えてくれないか! 今すぐ来れるのは君しかいないんだ!
 俺の機体、この前ので壊れちまったしな……とにかく頼む!』
「えちょ」
切れた。あまりに一方的過ぎて、反論のしようがなかった。
確かに言い分は正しいし、まあわかるのだが。
「……いけってことかよ」
「信用なりませんか?」
「違う。またあいつかってことだよ」
仕方ない、諦めた。今自分がやるべきことは一つ、奴を止めること。
半ば強引にパールの手を取り、前に突き出す。
「女の子のエスケープがなってませんよ?」
「エスコートだ、しかも意味合いが違う。―――やるぜ」

―――デバイス、オン!

眼前に見据えるは一機、他には見当たらない!
「先手必勝ってな!」
速攻で飛び蹴りを叩き込もうとする総一。
しかし、それが不意の一撃になるほど甘くはなかった。
「……って、マジか!?」
それどころか、その一撃を『受け止める』行為が、総一の出鼻をくじくこととなった。
『弾を感知すると書いて弾(ダン)・感(カン)! 屈辱を味わわされた貴様の気配なんぞ、
 とうに覚えたわあああああ!!』
「それ単にダンカン言いたいだけじゃねーかあああああああ!?」
大きく投げ飛ばされ、建物に突き当たって止まる。
「ってて……つー……!?」
それで止まるダンカンではない。
動けない隙に距離を詰めたダンカンが目の前にいた。
『もらいやァァァ!!』
「ち、くしょ……っ!」
―――迫る拳、バンカーはすでに準備完了していた。
腕で受け止めようとして、思い出す。
『しっかり自分でベルフェリオンを動かせるようになるまで、その腕は絶対に光らせるな』
涼の言葉。
最初は聞くつもりがなかったものの、その言葉で使用を一瞬でも躊躇った。
気の迷いが状況を悪転させてしまう。
「―――、が、は」
突き刺さるのはバンカー。一撃が重く鋭く、ベルフェリオンを穿つ。
貫通こそしなかったものの、重い一撃はその身体を傷つけ。
何より、総一へのダメージが大きく響いていた。
「マスター! しっかりしてください!」
「つっても……!」
実際、一点集中で重い一撃を与えるタイプのバンカーは大きくダメージが残る武器であり。
喰らった機体がまともに動くことはまず少ない。
ダメージが自分に跳ね返ってくるベルフェリオンであればなおさらである。
『好機、貰い受ける!』
気付けば、二撃目がすぐ傍に。
「なろ!」
咄嗟に、総一は思い切り『肩を押す』。
―――人型ロボットといえど、想定はしていなかったことだったが。
間接の都合上、肩を前に動かせなくなったダンカンの攻撃は大きく勢いをそがれた。
そのままバランスが崩れたダンカンは、情けなくも後ろにバランスを崩す。
追撃ができるほどの体勢は整っていない……何とか、両者起き上がる。
「構造が人間とあんま変わらいのが救いだな……」
確かどっかの番組かなんかでやっていたのを思い出した。
しかし、ここまでの段階で総一は致命的な欠点を感じていた。
バンカーによる重い一撃を備え、格闘攻撃を受け流し反撃ができるほどの
能力を持っているダンカンの機体。
対してベルフェリオンは、下手を打たなければまだ攻撃を凌ぐことはできる。
しかし、あの光る腕がなければ効果的な一撃を与えることは出来ない。
「他に何かないのかよ、何か……!」
再び始まったダンカンの猛攻を、避け、流し、かすり、考える。
このまま反撃に移れる余裕などない。
やれるとしたら、不意を打った強大な一撃のみ―――

そして。
あらゆる考えが錯綜する総一の横から、巨大な『壁』が吹き飛んできた。

それは碧(みどり)に身を包んだ巨人。
それは空を制し、空にたたずむ巨人。
―――まさしく、正体不明。敵か味方かも分からない。
ただ一つ、言える事があった。
『……ベルフェリオン』
パールの呟き。
見上げる空に立ち尽くす、それは『風』を司る。

『ぬぐぐ……貴様何奴!』
風という壁に殴りつけられたのは、総一だけでない。ダンカンも同様だ。
怒り心頭といった様子で、投げかける言葉も荒い。
『本来の目的を忘れるな。お前は何のために此処に来た?』
返す言葉、ベルフェリオンからの言葉は電子音声だった。
「できんのかよ、あれ」
『さあ?』
ベルフェリオンで電子音声? 徹底的に正体を隠すつもりなのだろうか。
だが、そんなことを呑気に考えている空気ではない。
ベルフェリオンが総一を向く。咄嗟に身構える総一。
『……お前では私に勝てない』
たった一言。
直後、吹き荒れる風を感じた総一の視線は、雲ひとつない冬晴れの空に飛ぶ。
出そうとした言葉は潰され、高く宙を舞った総一のベルフェリオンはそのまま落ちる。
『捜索作業は一時中断だ、引き上げろ』
風のように現れた碧のベルフェリオンは、言葉通り風のように、消えるように去っていった。
『くぅーっ……とんだ邪魔が入りおったわ』
白アフロがブースターをふかし離脱するのを、総一は止める気になれなかった。
背中が痛い? 動くと街が壊れる? 否。
「なんだ……あいつ」
あれが、ベルフェリオン。
あれが、自身の敵。
あれが、戦う相手。

たった一撃で、全てを思い知らされてしまった。
天城総一は、あんな強さの敵と命の奪い合いをしなければならないのだと。

「はぁー……ん」
大きく伸びをしながら、カメラを首から下げて歩く春緋。
見えてきた車には、一足先に総一が乗り込むところだった。
直後。
「―――ってぇ!?」
「ってぇ、じゃない! お前らまで勝手にふらついてどうするんだ!」
「ありゃハルがどっか……」
「どうせ携帯とかあるし、終わったら連絡入れるとかあるだろ! 馬鹿か!」
珍しく誠二の怒り声が聞こえる。
そういえば、総一とパールがあの状況で私を追いかけてきたら、
誠二一人が車の中だったっけ、と春緋は一人納得する。
「やっぱ誠二も人の子なのねー」
そして、春緋もまたその輪の中に戻っていく。

―――一瞬曇った表情を、笑顔に戻して。


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最終更新:2010年01月15日 21:29