アットウィキロゴ


「頼む」
片手を突き出す。それは、命を預ける相棒への、珍しい願い。
「力、貸してくれ」
その言葉に、なさそうでそれなりにはある胸を張りながら、勢いよく自身のそれを重ねる相棒、パール。
「喜んで!」
一切ブレない彼女の言葉に元気づけられ……唱えるは無窮の誓い。

逆境、窮地、それがどうした!
あの人はそれを何度も覆し、踏み砕いてきた!
ならば自分も応えよう! 最初で最後の華舞台、舞って散らせる絢爛舞台!
―――天城総一、大立ち回り!
「「デバイス・オン!!」」


  桜華絢爛ベルフェリオン
    第十一話「ベルフェリオンVSベルフェリオン! 裂光の捕食者クライガイスト」


『謎ロボ無罪確定!血迷った広瀬涼』
『エールフランベルジュ再臨』
紙面を見ると、昨日の騒ぎで一面が占領されている。
無理もない。久々の逆転合体による大立ち回りなのだから。
だが、紙面に食い入るように見入る男の興味は、そこではなかった。
『お騒がせ男・天城総一』
『遂に暴いた! 公務執行妨害常習犯』
記事にあるのは、天城総一の姿。
時折事件に出撃する謎ロボ―――ベルフェリオンの所持者が彼であることが、公になっているのだ。
それも、最大限悪意をつぎ込み、否定的解釈で埋め尽くした紙面で。
「……私怨丸出しやな」
紙面を見つめながら、男は呟く。
食堂で昼飯を摂りながら、苦い表情で。
おそらく「天城総一」は、何者かに睨まれ、簡単に干されたのだろう。
何故かあの英雄・広瀬涼と同時に姿を見ることが多いと話を聞くが、
紙面では「血迷った」「庇う相手を間違えた」「お人よしにも程がある」等と、散々。
その言葉の羅列を見ると、ひとつの事実に若干不安が押し寄せる。

「―――いつか、他人事ではなくなるだろう」

「……な!?」
後ろを振り返る男。男の背後には、中性的な容姿の人影がひとつ。
灰色の長髪を下げた、一見柔和そうな、少年とも少女ともおぼつかぬそれが。
明確に、彼を『デバイスの所持者』として認識したような発言を零している。
「お前、何モンや?」
眼鏡をくいと上げ、男は警戒する。
「僕のことはどうでもいいよ。それより……いい話を持ってきたんだ」
「お断りや。帰れ」
突っぱねる男。しかし、その人影は欠片も驚きもせず、一言。
「息子さんが、どうなってもいいのかい?」
その言葉とともに、男にちらつかせる写真。
顔半分が醜く爛れた姿―――その写真を見るだけで、男ははっとして、唇を噛む。
「そうそう。ちゃんと聞いてくれれば、それでいい」
愉快そうに笑いながら、まるで手品のように、一瞬で写真を片付ける。
そして、近づくその人物が示すのは……広瀬涼の出陣する、判決の決定戦が、明日存在するという、予定記事。
「……ワイに何をしろと」
「この予定、今日中には面子変更の知らせが入る予定だよ。代わりに出るのは……天城総一。こいつだ」
指さして示す、紙面内の天城総一の写真。
広瀬涼が出ず、代わりにこの男が出る。そして、一般公開された事実―――
「ワイに潰せと?」
「そういうこと。無事に済めば、息子さんの修理費は出してあげるよ」
どこまでも足元を見る、嫌な奴だ。
その視線を褒め言葉とばかりに、張り付いた笑みを浮かべる、少年だか少女だか。
「お前の話、どこまで信用したらええねん」
デバイスを知っているような口ぶりに、話はとりあえず聞いたが。
男の言う通り、いきなり現れたこの人間に、何ができるのだろうか……疑念はないといえば嘘になる。
確かに、何か人とは違うものは感じる。だが、それだけだ。
彼だか彼女だかに、何ができるのだろうか。権力か、人脈か、それとも。
下手をすれば、人質にできそうな口ぶりも、嘘に―――

ズゴンッ!!

突如、店の外の道路に突き刺さる何か。
窓が割れ、客も従業員も驚きを隠せず、テーブルの下などに潜る。
その混乱の中で、男は見た。
それは、巨大な脚。それも、似たようなものを見たことのある足が。
膝のあたりから虚空に形成され、踏みしめている様を。
「―――というわけ。お願いするよ、井上轟さん」
人影は去っていく。名を呼ばれた、立ち尽くす男―――井上轟の手元には。
対戦カード変更の確認を促す、メールを受信した携帯端末が残されていた。


「誠二、ほんとに大丈夫?」
「まあな。今となってはお前の方が重病人だ」
結局、休養と検査を経て数日で退院となった誠二。
親に心配され、色々気を使われ……ひと段落した今、向かうのは総一の家。
あれから三人揃う機会が皆無であったため、晴れて刑事上無罪となった今、
数日ぶりに集まろうと考えたのだ。
涼とは連絡が取れず、転送先だった俊暁の話によれば、広瀬法律相談事務所は今日は店休にする、と。
「仕方ないじゃない、あんな事態じゃ傘なんて……くしゅんっ」
一方、春緋はどうしたのかというと……単なる風邪である。
傘もささず、冷たい雨に打たれ、総一逮捕の瞬間に直面したのだから、仕方ないといえば仕方ないのだが。
おそらく精神面での問題もあるのだろう、微妙に涙の後も残っていなくもない。
無罪の知らせを受け、漸く体調も落ち着いてきたのだそうな。病は気から、ともいうが。
「……まったく。総一も総一で、もう少ししっかりしてくれるとありがたいんだが」
彼だけが悪いとは言えないし、刑事上でも無罪ではあるのだが。
逮捕を受けてからの、春緋の崩れようを見ると、どうしても彼にはしっかりしてほしいと思ってしまう。
「本当よね。まったく、毎度毎度迷惑かけてばっかで」
「お前が言うな」
そこはジト目で返す。
いつも通りのやり取り……だが、一人かけるだけで、こうも脆く見えるのか。
春緋はずっと、携帯電話を握り締めている。
総一が逮捕された時、その場に置き去りになった携帯だ。
寝込んでいる間、春緋はずっとその携帯を握り締めて離さなかったのだという。
どれだけ支えになっているのか。
総一は気づいているのか知らないが、細かな仕草でこうもはっきり分かるものだと、
そこまではどうでもいいとも思いながら、誠二は感じていた。

そうこうしているうちに、総一の家に到着。
そこには、まるで食べ物に群がる蟻のように、
ひたすらマスコミの人間が張り付いている姿が見えた。
「……うわあ」
これには思わず春緋も絶句。
動きが出た瞬間、どう考えても無理矢理記事にする気満々である。
いくらなんでも、これでは動けない。
思案している中、突如この緊張した空気を、駆動音が引き裂く。
家の中で停止したのはバイク。ヘルメットを上げると、そこにいたのは予想通り―――
「トシ兄さん!」
「定着させたいのかな、それわ」
早々の歓迎にため息をつきながら。確かに俊暁だった。
「……君達も入るか?」
「お願いします」
状況的には非常に心強い味方。
警官という場馴れした先導者が味方に加わったことで、多少強引にマスコミの包囲網を潜り抜け、
総一の家に入ることができた。

「誠二! それにハル、トシ兄さん!」
「だからねえ……」
もはや総一と春緋の間では統一された感のあるお出迎え。
三人を迎え入れた瞬間、鍵とチェーンをかけ、念入りにドアを閉めた。
「全く、この状況じゃ買い出しにも行けやしねえ」
ため息をつきながら、居間に三人を通し、ソファーに座る。
「災難だな。一応、3~4日持つ分は買い込んだよ」
「あざっス」
買い物袋を受け取る総一。
いつも通りパールも居り、これで最初の事件に関わった主要人物は集合したことになる。
……未だ意識の戻らない、広瀬涼を含めて。
「あ、パールちゃん……って、え」
固まる空気。ソファのひとつを占領し、寝かされているその姿は、
下手したらマスコミの格好の餌になりそうだ。
「……総一、まさか広瀬さんに変なコト」
「してねーって!?」
勿論、必死に否定する。万にひとつ、そんな事をしでかしたりしたら、今度こそ刑事罰でアウトだ。
それ以上に社会的に、肉体的に、あらゆる手段で殺戮対象になる。
「まあ、そもそもマスターにそんなことする度胸なんてありませんし」
「おいテメエ今なんつったよ」
「こんなに可愛い私達が近くにいるのにまだ夜のお相手の一人もいないってどういうことですか」
相変わらずの雰囲気ブレイカーである。
というか何ですか、隙あらば下ネタに走るって。一応年頃といえばまだその範疇にいないこともないが。
「はいはい自画自賛自画自賛」
「そんなだからまだ関係持てないんですよチェリーボーイ!」
かちん。男として尊厳を傷つけられる言葉が飛んできたような気がする。
後で覚えてろよてめェ。
「そうよ、気のある娘一回がーっと襲っちゃえばいいのよ! 私とか!」
「やはりエロインだった!!」
「エロインって何よ。もしかして、ヒロインって認めてくれた?」
「一文字抜けてンだよ、ばーたれ」
露骨に身体を売ってくる……いやらしい。
女性陣との、どこまでも脱線しそうな会話を聞くと、ああ、やっと三人揃ったんだな、と誠二は自覚する。
「……全く。で、これからどうするんだ?」
「っとと、悪い。誰かさんのせいで話がこじれちまった」
「誰かって誰よ?」
春緋の抗議をよそに、総一は俊暁とともに、現状の説明をする……。

「……また随分、大役を引き受けたわね」
春緋の口から漏れる言葉もご最も。
「しゃーねーわ。俺以外に動ける奴探せってのも厳しいし、買収の疑いもある。
 広瀬さんとの約束もあるし……最初の最後って奴だよ」
そもそも、涼を潰してまで閉鎖地区の住民追放を敢行するということは、
政治面での裏がないという方がおかしい。
そういった介入がない総一が出なければ、あとは八百長だ何だでどうとでもできる。
「……最初の最後?」
「この状態の俺が表立って動くのはまずいだろ。
 JDAの事件で状況共有してなかったら、お前らとも距離置いてるぜ?」
確かに。マスコミに囲まれ、あらぬことを書かれ続ける男の関係者だと知れたら。
それこそ今の総一のような話題の餌にされたり、社会的地位を暴落されたり。
総一の考えも最もだ、と納得する誠二。だが、彼の懸念はもう一つ。
「あまり自分を追い込むな。広瀬さんも不本意かもしれないぞ」
……周囲に気を使い過ぎる。
迷惑をかけたくないという気持ちも分かるが……そのまま外界と関係を絶ち続けてしまえば。
誠二の頭に浮かぶ光景。それは、自ら全ての関係を断ち、社会の闇へと消えていくイメージ―――。
「善処するわ」
その言葉にも、どうにも安心できなかった。
「……天城君。決まったぞ、今回のマッチングが」
誠二の不安をよそに、ミニサイズの情報端末で俊暁が開いた画面。
そこには、次の公判決定戦の予定が表示されていた。
明日昼、設定は1対1。
対戦者の名前には、確かに天城総一の名前があった。
「何とか1対1になったよ。広瀬が動けない以上SLGは使えないし、
 実質の人数上ハンデを背負うのは厳しいだろう?」
安心したように肩を撫で下ろす俊暁。

明日昼の公判決定戦。
対戦カード、弁護側:天城総一VS検事側:井上轟。
総一当人は知る由もなかったが―――エルヴィン公式で、ベルフェリオン同士の対決が、実現してしまった。

その後、マスコミに気を使うように。
雨戸までも閉め、ほぼ密閉された空間で一日を過ごすことになってしまった。
本当はもう一度、ベルフェリオンで戦闘経験をしておきたかったのだが、マスコミにこうも囲まれては仕方ない。
意識の戻らない涼を除き、各々が割り振られた部屋で過ごす中で。
自らの部屋で一人、天井を見上げる総一。
ここまで、色々なことがあった。
JDAに捕まり、死にかけて。広瀬さんに拾ってもらって。
逮捕され、また広瀬さんに助けてもらって。
「……全く」
この力が呪わしい。
パールを拾い、デバイスと契約して。それ以降、自分を取り巻く状況が急変しすぎている。
誰に狙われているか、と聞けば多分、JDAにマスコミなのだろうが。
だが……その力で、何ができるのだろう、と考える。
今まで状況に振り回されるまま、あるいは状況を変えるために使ってきたデバイスの力。
今、その力を自らの意思で使おうとしている。
それは、望んで魔道に落ちるということかもしれない。
此処まで睨まれた以上、既に「普通の一学生」として過ごすことは不可能に近い。
ならばせめて。この力を、自らの望むままに過ごせたら。

思い出す。最初にデバイスに込めた願いを。
『俺ァな、友達が苦しむのは見たくねェんだよ。誰かが近くで困ってると何かしたくなるんだよ』
自分の言葉を反芻する。
『今ここで手が届かなかったら自分が許せない! 何もできなかった無力な自分が!』
今は、不本意ながら力がある。そして、守りたいものが確かにある。

思い出す。自らを苛む真紅の記憶を。
炎の中、あの少女を―――自らの妹を、助けられなかった記憶を。
もし、この力で誰かの未来を変えられたら。

思い出す。拘置所で出会った少年のことを。
彼もまた、弟を守るために戦っていた。
行動の是非はあるにしても、守るための行為は、間違いではない。
そう願って起こした行動ではないにしろ、あの少年に道を作ることはできるのかもしれない。

呪わしい力を、誰かの未来のために使う。
その為には、自分が犠牲を払おうとも構わない。
社会的に言えば、今これ以上動けば、自分がどうなるか悪い意味で分からない。
だからこそ、表舞台は最初で最後。
自分から決定戦に出ると言い出した時、一度は俊暁に止められた。
『馬鹿を言うな。君が表舞台に出ることが、どういう状況か分かっているのか?』
最もな話である。
だが、それでも止められなかった。何かをしたいという衝動。
必死に頼み込んで、ようやく聞いてもらえたチャンス。これが最初で最後になろうとも。
自身のためにその身を削ってくれた涼に、何かしら報いることができたら、もう何があっても構わない。

だが、正直怖い。
自分が表舞台に立ち、非難を覚悟で真っ向勝負を押し通す。
下手をすれば、エルヴィンの大半を敵に回す行為になりかねない。
自分には、広瀬涼のような「正義」の免罪符がないのだから。
だからこそ、怖くないはずがない。
あと一押しの勇気を。
幼い日の、「父親」に借りる。
―――机を開く。大事に残されていた、特注の手袋。
幼いころ、自分を残して消えてしまった、「父親」の唯一の遺品。
「……借りるよ、父さん」
その右手だけの手袋を嵌めると、自然としっくりなじむ気がした―――。


そして、運命の時。
今回は偶然か、それとも嫌がらせか、廃墟を障害物に逆用した、屋外の巨大戦闘スペースが舞台に選ばれていた。
ご丁寧にも、いくつか設けられている「観戦塔」だけは整備が行き届いていて。
春緋と誠二は、その観戦塔のチケットを配布されていた。
本来二人で行くことは避けたいが、事件から時間が経ち、総一のみが中心で巻き込まれていることと、
俊暁が涼についていなくてはならないという事実と、二人にとっての総一の存在を考え、こういう形になった。
「……勝つかな、総一」
「BMM相手なら勝てるだろ。今までは相手が相手だったんだ」
予定席に座りながら、いつもの観戦とは全く違う心境で、戦闘スペースを見つめる二人。
その横の空席に、また一人座る。
「……あら、井上君?」
「あ、藍澤さんに高見君。君達も観戦?」
井上純。けっこう衝撃的な復学を果たした、顔面の半分が包帯で覆われた少年だ。
総一も含めた三人とはクラスが一緒で、二人は覚えていないはずがない。
「まあな。ところで井上……大丈夫なのか、その顔?」
「ああ、うん。もう収まってきてるし……外傷はひどいけど」
「あまり無理はするなよ」
気遣う誠二。だが、そんな彼の心配を、一瞬で別の心配に変えてしまう一言が、直後。
「うん。でも今日、父さんが出るみたいだから……」

―――父さん?
驚愕の表情で、顔を見合わせる二人。
「え、父さん? どういうこと?」
「うん……父さんが、昨日いきなりエントリーしてて、気づいて……
 でも、僕には一言も言ってくれなかったんだ。だけど、折角の父さんの晴れ舞台、見たいし……」
再び、顔を見合わせる二人。
まさか、まさか。
クラスメイトの父親と、一応スポーツのような規則があるとはいえ、ガチで対立し戦うことになるなど―――。


「……ぅ、げふ、げほっ!」
一方。総一の家。突如咳き込む声に、驚き駆け込む俊暁。
「大丈夫か、広瀬!?」
顔面蒼白、どう見ても病人のそれ。
病に引き込まれながらも、彼の予想通り、意地と気力で無理に意識を引き戻したのだ。
息も途切れ途切れ、意識も確かなものではない。
動くのがやっとといった感じで、ソファーから一歩も動けるような状態ではない。
「ぅ、あ……今、何日……」
「無茶しすぎなんだよ! 今○○日!」
だというのに。
今の日付を聞いた瞬間、無理矢理身体を捩る。立ち上がろうとでもいうのか。
「ぃ、か……なきゃ……」
「寝てろ!」
肩を抑え、彼女の動きを制止する俊暁。そうでなければ、この女はどこまでも無茶をする。
それを分かっているからこそ、俊暁は今日の公判決定戦を彼に託したのだ。
「公……判……」
「代理立てといた。今からじゃ間に合わないぜ」
「誰に……っ」
顎で示す、テレビ画面。試合開始前の特番では、総一の顔が写っていた。
『さて、ここまで迷惑なことに世間を騒がせてきた天城総一ですが。
 先日あの広瀬涼に無罪にしてもらったようですね?』
『昨日の今日とまでは言えませんが、面っ皮厚いですね。
 将来は政治家にでもなった方がいいんじゃないですかね?』
事情を知る二人には全く面白くない冗談を交えながら、トークが進んでいく。
愕然とする涼、見つめる俊暁の顔は真剣そのもので。
「……寝られないなら見とけ。あいつなりに考えて、結論出したんだ」
「…………っ」
決して良くない身体。二日は寝たきりでいたのに、まだ身体が回復しきっていない。
追いつかない脳を、吐き気の止まらない身体を必死で抑えながら、画面を食い入るように見つめる……。


廃墟に立つ男女の姿。
正体が割れている以上、隠す必要もない。
非難の視線を四方から浴びながら、天城総一は相棒と共に立っていた。
「……マスター」
「ああ」
口数少なめに、前を見つめる。
同じく立っている男。おそらく、彼が今回戦う相手なのだろう。周囲に機動兵器の類は用意されていない。
ということは……似たようなものなのだろうか。
召喚系の機体などそうそうない。フランベルジュだって、意思があるからか、呼ぶことができるわけで。
漫画やアニメの類でなら、他にいくらでもありそうだが、現実を考える―――。
「……ベルフェリオン」
まさかとは思うが、こんな公式の場で対立することになるとは。
とはいえ現状を考えれば、わざとベルフェリオンを当ててきたと考えるのが妥当か。
同じベルフェリオンを相手に、勝つ自信は、ない。

―――ほら、できるじゃないか。最初から諦めるからできないんだ

同位の存在に気圧されそうな心に、ふと「父親」の言葉が響き渡る。
右手を見る。自身が左寄りのため、利き手と逆の手に嵌められた手袋。
折れそうな言葉を支える、「父」の声。
「頼む」
片手を突き出す。それは、命を預ける相棒への、珍しい願い。
「力、貸してくれ」
その言葉に、なさそうでそれなりにはある胸を張りながら、勢いよく自身のそれを重ねる相棒、パール。
「喜んで!」
一切ブレない彼女の言葉に元気づけられ……唱えるは無窮の誓い。

逆境、窮地、それがどうした!
あの人はそれを何度も覆し、踏み砕いてきた!
ならば自分も応えよう! 最初で最後の華舞台、舞って散らせる絢爛舞台!
―――天城総一、大立ち回り!
「「デバイス・オン!!」」


「……マジか」
想定外の出来事に、それしか言えない誠二。友人と、別の友人の父親が、同じ条件で戦う。
本人が知らないのが不幸中の幸いか。
「ちょっと、これって……」
だが、事態は最悪。
大会規定では、どちらかが戦闘不能になるか、機能停止と判断されるかで勝敗が決定する。
ベルフェリオンには、コアがない。故に、機能停止の判断材料が、ない。
つまりそれは、本人が危険な状態に陥ろうと―――
「止まらないって、ことか」
文字通りの公開処刑もあり得る……考えうる限りで、最悪の事態に陥った。
背負うものがある以上、逃げ場もない。
不安げに誠二を見上げ、腕をきゅ、と掴む春緋。
振りほどくことなく、外の光景を食い入るように見つめる……。

『悪いが、仕事なんでな。個人的感傷はナシや』
対立する巨体。以前助けた光のベルフェリオンが、今総一の目の前にいる。
まさかこんな形で、敵対することになろうとは。
「恩知らず」
『何言っても無駄や、お前の場合』
もう世論上、どちらが悪でどちらが正義か、決まったようなもの。
上等だ。一度限りの大舞台、真正面から世論にぶち当たって勝ちを決めるのも悪くない。
「そうかい。なら、遠慮なくいかせてもらうぜ……」
構え、気合十分。
『裂光の奔走者、クライガイスト。お前を葬る名や、覚えとき!』
「中二臭ェ!」

試合開始―――互いの戦意が、放たれる!

「速攻!」
全速力で突っ込み、拳を振りかざす。
思い切り振り抜く、ストレートの一撃……だが、次の瞬間。
躱されることは考えていたが、事態はそれを大きく上回る。
「消えた!?」
一瞬で、姿が掻き消えた。
次の瞬間、気づく間もなく背後から蹴りいれられたことで、把握する。
自身の認識も追いつかぬ、瞬間的な移動。
どんなタネを使ったのかは知らないが、あのベルフェリオンは自身に与えられた特性を理解しているのだと思い知らされる。
その思考に至るまで、追撃で何度蹴られ、殴られ。
「あんたも素手かい……!」
ダウンしたまま好き放題された状況は、身を捩り一発の拳を回避し、相手の身体を突き飛ばしたことで振り出しに戻す。
代償として、相当の痛手を喰らってしまったが。
『男なら拳ひとつで勝負せんかいってことですかね?』
「ならこいつだ!」
わざわざ相手の土俵に上ってやる道理もない。
以前覚えた爆発の技術……若干後ろに跳び、起こした爆発で急速に後方移動、距離を取る!
脳裏に流れる情報、イメージが顕現される……
光のベルフェリオン、クライガイストにはないアドバンテージ。
それは今手元に宿ったこの鋼鉄。拳銃を純白の機体に向け、容赦なく放つ―――

『甘ェわ』
跳びながら照準を合わせていた、そのはずだった。
引いた引鉄、だが距離をとり狙いを定めていたことで、明確になるその力。
一瞬にして消えた。それだけならまだよかったのだが―――瞬間移動!?
背後に現れたその機体に、思い切り蹴りを入れられ、廃墟に激突。
『もう一発!』
追撃とばかりに急降下、がら空きの背中に―――全重量を込めた一撃が、突き刺さる!
「が、ふ……っ」
またしても脚で蹴り払われ、地に落ちる身体。だが、相手は手を緩めない。
追い打ちとばかりに、手元に顕現した黄金の槍。
『喰らいや!』
一瞬脳裏に思い描いた最悪のビジョンが、近い形で実現する。
勢いよく投げつけられたそれは、胸の辺りを大きく抉り、地面に突き刺さる。
「ぁ……が……がああ……ッ」
人間ならば確実に、心臓を貫き絶命させていたであろう一撃。
ベルフェリオンの硬さ故か、致命傷には至らず。それでも大きな深手となった一撃。
よろよろと立ちあがろうとする身体―――よりにもよって、顔面を思い切り蹴りつけられて。
『どや! 泣け、叫べ、喚け!』
何度も、何度も。踏みつけながら、追い打ちとばかりに槍が手元に戻る……。


「……っ、死んじゃう、総一が死んじゃう!」
もう見ていられない、と言わんばかりに、腕に抱きついて顔を伏せる春緋。
「え。死ぬってまさか……競技でしょう?」
そんな大袈裟な、と宥めようとする純。だが、二人は知っていた。知っているからこそ、深刻なのだ。
契約者同士の戦いに敗れた後、力尽きた側はデバイスに魂を飲まれ、封じられる。
それは、デバイス本人であるパールから公言された情報。
何より、あんな調子で深手を喰らっていれば、仮に勝利から逃れられても……。
二人の心配をよそに、大多数の人間は湧き上がり、歓声を響かせている。
「いいぞ、やっちまえー!」
「ざまぁねーぞ! そのまま消えちまいな!」
「そのまま勝てー! 2万かけてんだぞ俺はー!!」
孤立無援の地獄絵図。
不安に駆られる春緋を受け止めながら、誠二はただ黙って見守るしかできない。


「いい加減に……ッ!」
苦し紛れの一発。
槍を構えた瞬間、フリーの両腕から必死に片方を動かし、意趣返しと言わんばかりに顔面を狙い、撃鉄!
小気味よい音とともに、弾けた銃弾は、顔面クリーンヒット。
『当たった!?』
パールの驚きも当然。今まで調子よく避けていたクライガイストに、初めての直撃が加わったのだから。
そのまま肘でクライガイストを突き離し、再び五分に戻す。
とはいえ、やはり外傷は比較にならない。どう考えても、総一のダメージが遥かに大きい。

だが、収穫はあった。
ひとつは、反応が人並みであること。これは確実。
苦し紛れながらも、無理やりに反撃した今の攻撃に反応できなかった事実。
つまり、どんなに能力があったところで、使えなければ意味がないということ。
もうひとつ……これは予測だが、連続で何度も瞬間移動?できないということ。
そうでなければ、わざわざ槍を投げてから普通に移動する必要はなかった。
刺さった槍のところに現れ、引き抜いて確実に心臓を刺せば、それだけで終わりそうなものだ。
だが、クライガイストは確かに走って総一のもとに向かい、蹴りつけた。

まだ判断材料が足りないが、初見でここまでの情報が手に入ったのは貴重だ。
思考を必死に絞り出し、打開策を考える―――だが、それを破る言葉が。
『……殺すぞ』
怒りを露わにした、クライガイストの姿。
向かってくる。そう思った時には、既に拳銃を構えていた。
撃つ直前……やはり、またしても姿は消える。

『ッ!?』
だが、天城総一もただでは終わらなかった。
消える姿に反応して……死角を狙い過ぎたのが失敗したか。
一瞬ながら、完全にクライガイストを視界に捉えた。
攻撃を避けるまでにはいかなかったが、反応が追いつき始めた。
そして、もうひとつ収穫。
これだけの攻撃をしながら、瞬間移動?後は、わざわざ予備動作をしての攻撃しかしていない。
明確にその瞬間を見た今ならわかる。行動まで瞬間的にはならず、移動と攻撃が両立しないこと。
受け身を取り、横っ飛び。元いた場所に槍が突き刺さる。
そして……仮説が真実だと証明するかのように、クライガイストはこちらに向けて突進してきた!
『マスター、手袋!』
迎え撃つ体制に差し掛かったところで、水をさすかのようなパールの言葉。
悪態をつこうとした瞬間―――パールの思考が、流れ込んでくる。
GS01追走の時と同じ。言葉を超えて繋がる、瞬間的な意識の交感。

……まさか、そんなことが。

理解しながら、瞬時に行動に移る。
牽制とばかりに、片手で拳銃を放つ。普通に反応、回避され、距離を詰められる。
密着しそうな距離―――強烈なアッパー。直撃だけは避け、顔面を掠れる。
だが、肉弾戦となればこちらのもの。伊達に格闘一本で、広瀬涼から戦闘の手ほどきを受けてはいない。
お返しにこちらも顔面を狙い、右で一発。
続けて動こうとした瞬間―――

クライガイストの思考速度が、爆発的に上昇する。
ここはクライガイストのみが辿りつける境地。
左に拳銃をホールドしたまま、制止する総一のベルフェリオンの姿。
『悪いが、貰うたで』
この状態であれば、反応できるほどの余裕はないだろう。
あとは背中に回り、ダウンさせたところで槍の一撃を見舞えば、一方的に終わるだろう。
見込みを立てて、動こうとするクライガイスト―――

だが。
『何やコレェ!?』
気づけば顔面が、何か訳のわからないもので縛られていた。

拳銃を突きつけながら、総一は思う。
パールの思考。どうやら、身に着けていた手袋が、ベルフェリオンの装備に反映されていたのだろう。
そこはいい。そこはいいとして。
形見の手袋に、何故こんなものが仕込んであったのか。
クライガイストの頭に絡めた、右手のワイヤーを引きながら、頭の片隅で思っていた。
鳩尾はがら空き。相手はなぜか移動しない。
「父親」に助けられ、得ることができた一世一代のチャンス。
モノにできなければ、誰に顔向けできようか。
「クライング・バーストッ!!」
零距離、鳩尾目掛け、閃光とともに弾丸が迸る。
二発、三発、四発。ありったけの弾が、全力で吐き出される。
「行けよォォーッ!!」
最後の一発。鳩尾に直接突き立て、密着状態の一撃―――!!
『が、ふ……っ、うがああああああ……っ!?』
苦悶の声を上げ、膝がよろめくクライガイスト。
無茶をさせすぎた拳銃を引込め、もう一度素手になった左……容赦なく、鳩尾にブチ込む!

クライガイストの特殊能力―――それは、瞬間移動ではない。
正確に言うと、「光速移動」。
あらゆる物質を上回るスピードで駆ける光と自分を化し、瞬時の移動を可能とする能力。
だが、光はその性質上、物質に与える影響力が極めて小さい特徴がある。
故に、どんな些細な物質だろうと、光速のクライガイストが干渉することは許されない。
だからこそ、光速での移動と攻撃が両立せず。
だからこそ、こんな細いワイヤーを絡められただけで、光速で抜けることは叶わない。

厳密な意味で正解に達したわけではないが。
移動と攻撃の両立が不可能な点、そしてパールの助言、「父親」の遺物。
それら全てが重なり―――光速の神域は、天城総一により、崩された!
「こちとら、伊達に……背負っちゃ、いねえんだよオオオオッ!!」
回し蹴りのクリーンヒット! 頭を揺さぶる強烈な刺激、たまらずクライガイストも後退する。

『背負ってる……やと……』
だが……彼の、井上轟にも、意地はあった。
『それが自分だけと思わんことやなーっ!!』
返す拳。右手でクライガイストを縛っているということは、総一も逃れられる場所がないということ。
再び顔面を狙われ、クリーンヒット。今までの傷もあってか、戻りが鈍い。
『ワイかて背負っとるわ! 息子の手術代かかっとるんやで!?』
調子づいたのか、殴る、蹴る。
『だから……往生しぃや!!』
そして、容赦なく構える黄金の槍―――


「……まさ、か?」
思わず、包帯の上から自身の頬に触れる純。
「僕のために、こんな……?」
状況はわからないが、自分の為に戦っているのは間違いない。
でなければ、どうしてこんなに必死になれるものか。
―――相手が友人でなければ、応援できていたのかもしれない。
生死の関わる状態であれば、尚更。
「嫌……総一……っ!」
涙まで浮かべ、戦闘を見ては顔を伏せの繰り返しの春緋。
ただ、早く、無事に終わってくれることを祈り、微動だにしない誠二。

優勢になれば歓喜の嵐。劣勢になればブーイング。
わかりやすい総一完全アウェイの状況の中、ぽつんと三人だけ取り残される……。


「それをなあっ!」
突き込む槍を、左手で弾く。
リーチが長い特徴はあるが、懐に潜られては、槍のその長所が殺されてしまう。
ほぼ密着状態の今、偶然にも槍の機能しない位置をとっていた。
「それを否定したりできるかよ!」
飛び込んできた、槍を持つ手を……左の肘と膝で、挟み込むような一撃!
『ぐ……っ』
たまらず、槍が落ちる。これで双方徒手空拳、残されたのは己の身体のみ。
「背負ってる人間は! 他者の背負うものを馬鹿にしたりはしねェ!」
拾われないように、槍を思い切り蹴飛ばし。
先に踏み込んだのは、やはり総一だった。
脳裏に浮かぶ真紅の記憶。轟が何を想い、息子のために命を張ったのかは理解できる。
肉親の力になりたい、その想いを否定することは、自身の原動力を否定することにつながる。
「だから、正面ぶつかって!」
左だけで、一発、二発、三発。拳が舞う。
「俺の力だけで、勝ち取ってやる!」
さらに振りかぶる、もう一撃―――
『ワイもや』
―――さながら、クロスカウンター。
同時に顔面に突き刺さった拳。両者倒れず、再び拳をぶつけあう姿勢をとる。
『負けんで、天城総一!』
「やってみろや!!」
なおも交差する拳、脚。
ワイヤーに絡んだ二人が、何度も激突し、折れそうになる身体を支えて。
それは、戦闘という形式を最早投げ捨てた。
―――子供の、喧嘩。

ただ殴り合い、蹴りつけるだけの戦い。
インターバルもなく、ただひたすら、己の背負うものをぶつけ合う。
『とどめぇ!!』
「潰えろッッ!!」
タイマン最長記録を軽く更新する、長い長い激闘の果て―――

最後の拳の交差、両者ともに直撃。
足が崩れ、折り重なるように倒れ―――消える。
後に残ったのは、文字通り精根尽き果てた二人に、一人立ち尽くす少女。

判定、不能。
まさかの結末に、観戦塔は騒然とした空気に包まれた。
初めての「引き分け」。今まで戦闘において、寸分狂いなく同時に倒れるなんてことはなかった。
ベルフェリオンの特殊な仕様が生み出した、まさかの結果。
―――それは図らずとも、デバイスの無情な仕様の穴を突いた。
両者相打ち、精根尽きた状態で生存。デバイスの移動は発生しない。
つまり、両者の魂も、無事に残り続けている。

「よか……ったぁ……!」
ぎゅ、と腕にしがみついたのも束の間、火が点いたように走り出す春緋。
「……お前も、来るか?」
呆然とした純を見かね、誠二が出した言葉……純は、迷うことなく頷いた。


「……引き分けか」
想定外の事態にひやっとしたが、ようやっと肩を下ろすことができた。
テレビで観戦していた俊暁は、ほっと一息。
毎度のことながらまたボロボロになっているが、総一なら生きているだろう。
「……ば、か……」
そう言い残し……気力だけで保っていた涼は、意識を手放す。
だが、彼女にも伝わっただろう。総一の応えた結果を。
だからこそ、最後に意識を手放すとき……ふ、と笑みを浮かべていたのだから。
そして、そんな彼女に一言だけ、言っておくべきことがあった。
「お前が言うな」
同じく無茶をし続ける涼の頭を、優しく小突いてやる。


「……っ、父さん!」
三人が着いた頃は、ちょうど轟だけがタンカで運ばれるところだった。
「純……お前……」
「何やってるんだよ……こんな命がけのこと……!
 僕、父さんの命かけてまで、治してほしくはないよ……っ!」
涙を浮かべながら、轟を追う純。
自身のした行為がいかに無茶であったか、それで何を失うところだったか、改めて理解した。
その上で、彼を助けるために必死であったのだが。
「……悪かったな。迷惑、かけてもうた」
力なく笑う。だが、生きている。
見る限り外傷は浅く、命に別状はなさそうだ。
「本当だよ、もう……っ」
でも、生きててよかった。
その言葉は、湧き上がる感情にしゃくりあげてしまい、すぐ口には出せなかった。

「……ねーわ、この扱いの差」
明確に胸に傷を負い、血がだくだくと溢れている。
またしても傷だらけ。生傷が絶えないというレベルでは済まされない。
「何やってんのよ馬鹿ーっ!!」
駆けてきた春緋に、涙を落とされながら、上から覗かれて。
「……生きてただけ儲けもの、とでも言えばいいのか?」
誠二も入ってきたところで、二人に肩を貸され、よろよろと立ちあがる。
「……どうなるんだ、これは?」
「規定では再試合だ。とはいえ、お前らの今の状況で、まともな試合はできないがな……」
ボロボロに傷ついた身体をよそに、結果の心配ばかりをする総一に、助け舟。
とりあえず、現状最悪の事態は回避できた。それだけで、よしとしよう。
「意地張った甲斐がありましたね、マスター」
ひょっこりと横から顔を出すパール。
ベルフェリオンがあれだけ傷ついて、こいつは無傷なのが妬ましい。ぱるぱる。
「まあな。再試合とはいえ、これだけ傷ついたんだから、代理くらい立てられるだろ」
「また出る気か?」
「あー……日時設定による」
今後の心配ばかりする総一。本当に、人の為ならどんな無茶だろうと平気でする男だ、と改めて誠二は思う。
だが。
「馬鹿ぁ……もうやめてよこんなぁ……っ!」
「やめてやれ。あまり女を泣かせるな」
肩を貸しながらマジ泣きに入っている春緋を見かねて、きつく総一を諌める。
命がいくつあっても足りやしない。
「あのさあ。今回、ぶっちゃけ言えば特例ベリーハードだぜ?
 本来もうちょい何とかなるレベルだったんだよ、最悪」
それがご覧のルナティックである。
とはいえ、仕組まれた一戦を乗り切り、二人がリアル戦闘不能に追い込まれた以上、
再試合にしても双方が代理を組むことになるのだろうか。
どちらにせよ、当面の閉鎖地区の危機は回避されたことになる。
「……父さん」
ふいに見やる、右手の手袋。
何故、形見のそれにワイヤーが仕込まれていたのか。そこまで考えられる余裕はなかった。
今は素直に、ありがとう。


だが。
「えぐ……ずず……っ」
「わー馬鹿それ使うなそれー!?」
手袋で涙や鼻水を拭おうとした春緋に抗おうとし、崩れ落ちる総一。
綺麗に終わらせてくれなかったのも、総一らしいというか。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年12月20日 05:56