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「また、今日もか……」
 基地の自室、目を覚ました俺を最初に迎えたのは、右腕にかかる、小さな頭の重さだった。それから30分ほど、今日の予定を反芻しながらそうしていただろうか
「……おはよう」
「……ん………あ…おはよぅ……」
 もぞもぞと少女が目をこすり始めたのを見て、声を掛ける
「……またか?」
 毎朝繰り返している問い
「……だって、お兄ちゃんね、暖かくって、気持ち良いんだもん………ダメ?」
 甘えるような声。これもいつものことだ。返答もいつもと変わらない
「……駄目じゃない……駄目じゃないが…」
「が?」
「頭、よけてくれないか?腕が痺れて痺れて………」
「あ、ごめんなさい」
 いつから枕にされていたのか?指先の感覚が殆どない。そんな指に戸惑いながら、ベッドから起き上がり、壁に掛けていた服を着る
「しかしお前、昨日10時前には寝てたと思ったんだが?俺が寝たのは日跨いでからなんだが、いつ来た?」
「……んー……夜」
「………まぁ良いさ。いつまでそうしてるんだ?」
 いまだ俺のベッドの上でごろごろしている少女の髪をわしゃわしゃと掻き回してやる。
「……お兄ちゃんの匂い、好きー」
「ったく……非番だからって、ダラダラし過ぎるなよ?」
「………はーい」

「遅いです」
 部屋を出るやいなや、横からそんな声を掛けられた。
「あー……おはよう」
「おはよう、じゃありません。もう殆どの人は行動始めてます」
 遅れたのは確かだ。言い訳も必要とされてない、が
「あぁ、すまない、が……君は今日、非番だろう?なんでそんな仕事スタイルなんだ?」
 一分の隙もなくキチッと軍服を着こなし、小脇には書類がまとめて抱えられている。が、別に今日は、彼女がそうする理由はないはずだ
「そういう隊長も非番でしょう?」
 そうだ、別に今日は、ベッドの上で一日中寝転げていようが、まぁ、ためている仕事も無く、職務的には問題はないはず。
「一応俺は、隊一つ預かる責任者だからな。見落としてる仕事もあるかもしれん、臨時で上に補給申請しなきゃならない資材も出るかもしれないしな。それの確認が終わったら休みさ」
「そう言うだろうと思って、手伝いに来ました」
「もし、休む気だったら?」
「仕事させます」
 さらりと言ってのけるあたり、冗談ではないのだろうと思わせる
「………まあ、いいけどさ。ほんとお前さんは真面目だよな。仕事、好きか?」
「…別に、仕事が好きってわけじゃないです」
「……意外だな」
「………嫌なことだらけって訳じゃ、ないですから」
 少しだけ、俺の部屋を覗き見るような素振りをみせる
「あの子、今日も居るんですか?」
「ん?あぁ、居るよ。もう二度寝に入ったんじゃないかな」
「………羨ましい」
「なにが?」
「…何でもないです……一応訊きますけど、何もしてませんよね?」
「何って、何を?」
「………何でもないです……」

「あ、隊長さん。ちょっと良いかしら?」
「ん、なんだ?」
 書類も片付け終わった昼過ぎ、空腹の誤魔化し程度にガムを噛みながら、資材の確認にBR格納庫に寄ると、BRのコクピットから女性が話しかけてきた
「私のBRのアサルト装備で相談なのですけど、ヴォルペに変えれないかしら?」
「ヴォルペか……今は」
「今は二番機、六番機にFAM、五番機にCタイプ、ですね」
 後ろについてきていた彼女が補足してくれる
「そうか……Cタイプでいいか?そうすれば弾薬の共有も出来る。そういうのはできれば部隊内で統一したいからな」
「了解ですわ」
「ん、申請はこっちでやっておくから………昼飯、食わないか?俺達はこれからなんだが」
「あー……お誘いはありがたいのですけど、今のうちに機体の調整しておきたいので……これが終われば休みなのですけど……夕食は御一緒出来ませんこと?」
「ん、良いぞ。一人で食べるのよりはふた「わ、私も御一緒させてもらえませんか!?ほら二人で食べるのより三人で食べる方が楽しいじゃないですか!」
 らしくない大声で捲し立てる
「……いきなりどうした?まぁ、俺は良いぞ」
「……ずるいですわ…………隊長サン、そのガム、私にもいただけませんこと?」
「へ?ああ、悪い。この口に入ってるのが最後の一枚だったんだ」
「別に良いですわよ」
「?良いってどうゆっ…」
「こういうことですわ」
 俺の言葉を遮ったのは、白いしなやかな指だった
 そんな指が惚けた様に開いた俺の口からガムを奪い、それを彼女の口に運んだ
「なっ!お、お前っ、それ俺のってか、えぇっ!?なに、何してっ」
「あら、どうせ食事なのですから捨ててしまうのでしょう?なら私が貰ってしまってもよろしいじゃありませんか?それとも、返した方がよろしい?」
「え、いえ、充分、充分でいでぇ!?」
 後ろ髪を引き抜かんばかりの勢いで引かれた
「何をっ「ご飯、貴方の奢りです」
 なんで?えぇ、そんなことを口にしていたら、私の後ろ髪は無くなっていたかもしれません

参考:1-289
   1-425-429
   1-812-819


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最終更新:2009年12月13日 19:00
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