1-425-429

「これは……厳しいですわね…」
 状況は良くない。BRの五体こそ満足だが、各部の反応が鈍く、ディスプレイには度々走査線が走る
 狙撃銃は至近で破裂した手榴弾にやられた。セントリーガンとシールドはどこかの道に置いてきた。現状武装はマーゲイ・カスタムのみ。補助武装としては充分だが、命を任せるにはなんと頼りないことか
 今はただ、味方がいるであろう方角に向かうしかない
 元いた部隊とは離れた。というか、部隊は榴弾の雨に呑まれた。私は一人、索敵のために離れていたために助かった
 その人達が生きているかは知らない。脱出装置はあるだろうが、そもそもそれが壊れないという保証がない
 戦線は総崩れ。敵の数が異常だ。一機いればその付近に五機はいる。ここまでなんとか、なんとか敵の目をかいくぐってきた
 首から下が汗で冷える。それはまだ良い、何かを感じ取れるというのは生きてる証拠だ。この冷たさが一瞬で感じれなくなったときは、蒸発した時だと思う。
 止まるわけにいかない。私が今隠れようとしている建物の陰に、敵がいるかも知れない
 敵は怖い。私を殺しにくる。
 まだ死にたくない。全て親に決められる人生が嫌で家を飛び出して、親が追ってこれないよう兵隊になって、結局まだ何もできてない
 まだ人並みに人生を楽しんでない。まだ知りたいことだってある。まだしたいことだってある。恋だってしてない
 こんな何もない人生で、死にたくない
―ピピッ―
 視界の端で、何かが跳ねた
 ジャンプ、マイ―

「うぅっ……」
 骨の軋む痛みが、自分がまだ生きていることを教えてくれる。
「早く……逃げないと…」
 今の爆発。嫌でも目立ってしまっただろう。
 思いとは裏腹に体と機体は反応してくれない。ディスプレイには警告の文字が浮かんでいる。自己メンテナンスの文字。何かの異常が発生したか。今の衝撃で脱出装置が作動しないなら、それは壊れているんじゃないか?
「早く……早くっ!…」
 辛うじて生きていたBRのカメラが動くものを捉えた
「っ……ヘビーガード……」
 そこにいるのは、敵。しかもこんな状況では一番会いたくない相手。マーゲイごときじゃ、止められない
 剣を抜いて迫ってくるのは、私がもう動けないと判断して、弾の浪費を抑えながら、トドメを刺すためか
―こんなところで……なにも、できないまま………
 自分の考えの甘さを呪ったとき、機体の生き残っていたマイクが、独特の音を感知した
 これは、アサルトチャージャー……?
 金属と金属が激突、引き裂ける音、何かが地面を転がった
 ヘビーガードの、腕?
 現れたのはクーガータイプ。デュエルソードを振り切った体勢で、そこにいた
 片腕でもお構いなしに、轟とSW-ティアダウナーが横殴りに振られる、が、それよりもデュエルソードが翻るのが速かった
 狙い済ました一閃が、肘関節を斬る
 くるくると刎ね飛んだ腕とが落ちもしない間に、そのクーガータイプはヘビーガードの側面に回り膝裏から足を切払い、倒れた敵の頭にデュエルソードを突き立てた
『………こ…シュラ………だ…………ぶか?』
 クーガーからの通信。が、酷く聞き取り辛い。通信機まで駄目になっているか
 ありがとう、と返事をしてみるが、通信は入らない。受信だけでなく、送信もダメらしい
 終わりかな、と思う。返事が無いなら、中の人間は死んだと思い、このクーガータイプは撤退するだろう
 いや、そもそも生きていると知らせてどうなろうか?BRの腕に乗せてもらう?この汚染地域で?機体ごと運んでもらう?それこそ馬鹿な考えだ
 変に気を遣わせて巻き込むくらいなら、死んでしまった方が、と兵士として未熟ながら、思う
 そうしよう、自分を恨みながら、一人、誰にも見られず―
―光……?―
「良かった。生きてるな?」
「え?」
 外部からコクピットハッチの強制開放?ハッチの外側には、人?
「なんで……?」
「このシュライクはもうダメだ。もう回収にも来てくれない。逃げたきゃ来い!」
 分からない。なぜこの人は、わざわざ危険な外に出てきたの?なんで?
「なんで?」
「なんでも良い!もう一度訊く!生きたきゃ俺の手を掴め!」
 差し延べられた手を拒むことなんか、できなかった
 乗ってきたシュライクは、酷い有様だった。とっくに限界だったところにジャンプマインを食らい、たがが外れてしまったのだろう。
 建物に寄り掛かるその姿は、まるで放り投げられたマリオネットの様だった
「急げ!」
 私を救ってくれた人が、私を急かす、が
「私は、どうすれば!?」
 そうだ、外に出たところでニュードが身体を蝕む。安全なのはコクピットだが、そこは一人入るのが精々―
「早く入れ、コクピットにだ!外になんかいられないだろ!?」
「え、えぇっ……」
「いいからっ!」
 コクピットに入った彼に、腕を引かれる。そのまま、されるがままに、私は彼の膝の間に座り、安全用のベルトを締めていた
「各機、撤退だ!」
『『了解』』『分かったよ~』
 アサルトチャージャーが機動し、あっという間に残骸と化したシュライクから離れる
 Gが骨に響くが、我慢した。彼は私の体重分のGまで余計に受けなければならないのだ。負担になる私が呻くのは、違うと思う
 その代わりに、背中全体に彼の身体を感じるようにした。でないと、彼が余計苦しくなると思ったから
「その……感謝、しますわ…」
「うん?なにをだ?」
「な、何をって……貴方がいなければ、私はあそこで死んでいましたわ…」
「気にするな、俺は俺がしたいと思ったことをしただけだ」
 左からこの機と同じ、アサルト装備のクーガー機が近付いてくる。
『こっちは誰とも合流できなかった。お前は?』
「パイロットが一人。機体は限界だったから脱出させて、今は相乗りしてる」
『ほう、膝の上に、なら女か』
「そういう言い方、良くないと思うな?確かに女性だが、必要なら男にだってそうするさ。なんならオッサンも今度俺の膝の上に乗るか?」
『ハッハッ、冗談がキツい、な……敵だ、先行する』
「頼む。三、四番機。援護してくれ」
 腕の中にいるのに、今の彼は、私のことを毫も気にしていないのだろう。そう思うと、少し寂しくなった。
 別に、特別な関係じゃない、どころか、会ってから一時間、いや、十分とたっていない相手なのに、そう思った 
 そもそもそんな相手にこんな格好を許して、嫌と思っていない。それ自体が特別―
 特別?彼が?そう思うと頬が熱を持つ。なんで?分からない、分からないけど、一緒にいたいと、思う―
「……これから、よろしくお願いしますわ」
「おう。宜しく頼む。で、機体なんだが……」

 あれから数日、私は彼の部屋にいた
 元いた部隊は壊滅。生き残ったのは私含め数人で、部隊の再編は無理だと判断された
 おざなりに渡された転属願いに私は彼がいた部隊を書いた。気休め程度だ。その通りにしてもらえる保証なんてなかった
 が、その希望通りになった。部隊からもちょうど増員要請が出されていたらしい
 運命、もしそんなものがあるのなら、感謝したい。向こうにとっては私など、数日前、偶然助けた一兵士だろうが、私にとって、既に彼は特別な存在になっていた
 命の恩人。いや、それ以上の何か。それが何かは分からないけど、それで良いと思う
 これから暫くは、彼と一緒にいられる。それで充分だと思う。その間に、彼が私にとってどういう存在か、分かれば尚、良い


参考:1-289
   1-347-349
   1-812-819


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最終更新:2009年12月13日 19:01
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