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Apocalypse Now



その世界は暗黒の世界だった。


五十人近くの人間が上下左右の感覚が無くなった、ただ浮遊しているだけの状態に陥っていた。
宇宙に放り投げられるとこのような状態になるのかもしれない。
あるいは『光りあれ』と神が宣告する前の、混沌の大地はこのようなものだったのかもしれない。

「光、あれ」

その瞬間、夥しい光が暗闇を照らした。
不思議な力を持った言葉なのか、それとも単なる演出なのか。
どちらかは分かり得ないことだが、そこには確かに光が生まれた。
暗黒からの突然の光量に、視覚が麻痺を起こし視界が白く染まる。

同時に浮遊していた身体に重力が加えられる。
ボスっと音を立てて柔らかな椅子へと座り込む。
強烈な閃光が徐々に弱まっていき、前方にだけ光が集まっていく。
さながら舞台のスポットライトのように、周囲は薄暗いままに一箇所だけが光に照らされる。
そこには一人の青年が上品で豪奢な椅子に腰をかけていた。

暁を照らす明星の如き黄金の髪。
この世のすべてを見透かすような白い肌。
蛇のちらつかせる舌を思わせる赤い瞳。
この世のすべてを冒涜するかのような、あるいはすべてを肯定するかのような美しさだった。
しかし、その美を彩り過ぎた容姿は不完全なものでしかない人間たちにとってはあまりにも不気味なものだ。
人間の本能に恐怖を沸き起こす美貌だった。

「ルイ・サイファー」

青年はハスキーな声を発する。
この世の端から端まで届くような声だった。
単純な音量の話ではなく、もっと別の概念的な部分で不思議な力を持った声なのだ。
誰もが息を呑む、あるいは警戒をする。
ルイ・サイファーを名乗った青年の次の言葉を待ち続けた。

「私の名前だ、今後ともよろしく」

豪奢な椅子に座ったまま、ルイ・サイファーと名乗った青年がにこやかに言葉を続ける。
組んだ脚を組み直しながらの、妙な馴れ馴れしさを持った声だった。
そのままルイ・サイファーは口を開く。

「これから君たちには、最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう」

相変わらず天使のような、しかし悪魔じみた微笑みを浮かべながらルイ・サイファーはこともなさげに言い放った。
果実のような潤いを持った唇から発せられた言葉は、ひどく衝撃的なものだった。

当然、誰かが反論するように口を開こうとする。
ルイ・サイファーの神をも超える横暴な言葉に反感を抱かぬ人間が居ないわけがない。
しかし、本来ならば空気を振動させて生まれるはずの音は一切響かない。
ルイ・サイファーの持つ不可思議な力により声を封じられているのだ。

あるいは五十名ほどのうちの幾名かはその不可思議な力を打破する方法を知っている。
これは単純にルイ・サイファーの力が五十名の全てを支配できる力だというわけではない。
ただ、多くの人間はその法則を知らないだけなのだ。
四則演算を知らない原始人が数字の羅列を理解できないように、だ。

「特殊なルールはない、ただ君たちは荒廃した東京を舞台に殺し合いをしてもらうだけだ。
 殺し合いに必要な武器や、数日の生存に必要な食物などはこちらから支給する。
 また、特別なものはないが、単純な刃物や食物ならば特定の家屋に置かれているかもしれない」

ルイ・サイファーがまくし立てる。
相手の反論を許さない、投げつけるだけの言葉。
それは殺し合いという凄惨な催しを語る内容にもひどくマッチしていた。

「七度、ラッパを吹く」

ルイ・サイファーの透き通るような美麗な瞳が妖しく輝いた。
七度のラッパの音。
天使的な美貌と相まって、黙示録の日を連想することはそう難しくなかった。

「日の出と日没にラッパを吹き、その時に立入禁止の区画と死亡者の発表を行う。
 そして、七度目のラッパの音が響いた瞬間……つまり、四日目の日の出の瞬間に複数人が生き残っていればゲームオーバー。
 勝者なしの全員が敗者……皆殺しだ」

ルイ・サイファーの言葉に偽りはない。
その言葉には確かな殺意が込められていた。
しかし、すぐに張り詰めた空気を解くように顔をにこやかなものへと変えた。

「私は本気だ、本気で君たちに殺し合いをしてもらいたいと思っている。
 殺し合いに優勝した者は報酬を与えよう」

ルイ・サイファーは言葉とともに、その美麗な瞳で幾人かの人間を見据えた。


「愛するものとの平穏な日々も」


世紀末救世主・ケンシロウを見据え。


「地獄を乗り越えた安寧の関東も」


暴力の化身・バイオレンスジャックを見据え。


「緑の溢れる平穏な国も」


運命の子・更紗を見据え。


「荒廃した東京からの全都民の救出も」


救出人形<コッペリオン>・成瀬茨を見据え。


「誰にも縛られぬ絶対の自由も」


健康優良不良少年・金田正太郎を見据え。


「月という名の太陽の元に死を忘れない世界も」


永遠の生命・キャシャーンを見据え。


「絶対のバランスを維持した天秤の世界も」


英雄・ザ・ヒーローを見据え。


「無限の欲望を満たすことも」


砂漠の妖怪・砂ぼうずを見据え。


「このルイ・サイファーの力を持って、どんな願いも叶えて見せようじゃないか」


確かに、言い放った。


それは悪魔の契約だった。
自分以外の人間を殺すことでしか願いを叶えないと言っている。
悪魔としか契約を結ばないと、ルイ・サイファーは悪魔の声で宣言したのだ。

「だが、それも殺し合いの勝者にだけ与える……私の本気を見せるための証拠を一つ見せよう」

その言葉によって別の箇所にスポットライトが当てられる。
光を当てられたものはあまりにも奇怪な生き物だった。
肘から先と膝から下が切り落とされ、全裸に剥かれて一片の布を身につけることも許されていない。
ただ首輪と切り落とされた短い手足を保護するカバーだけを身につけた人間。
犬の形をした人、というのが正しいだろう。

かつての名を飛鳥了と言った人間は、事実、その名前を『人犬』へと変えられていた。

「ぬぅ!」

その瞬間、ルイ・サイファー以外の言葉が響いた。
拘束を打ち破った男は鎧武者めいた巨漢の男だった。
ルイ・サイファーへの警戒を超える激しい怒りがルイ・サイファーの拘束を打ち破ったのだ。
そう、激しい感情こそがルイ・サイファーの拘束を打破する力なのだ。

「わしの人犬……貴様!」
「スラムキング、君のペットは見せしめとしてお借りするよ」

ルイ・サイファーは親しげに鎧武者の男――スラムキングに話しかけて、パチンと小気味良く指を鳴らした。
その瞬間、人犬の首輪が破裂した。
同時に繋がっていた首と胴体も切り落とされる。
ピクピクと、半分の長さとなった手足を震わせる。
ルイ・サイファーに勝るとも劣らない端正な顔が不気味に歪んで地面を転がる。

人犬を、人を、ルイ・サイファーはあっけなく殺してみせた。
満足したかのようにルイ・サイファーは脚を組み直すと言葉を発した。

「私に反感を抱いたいのならば、私と戦ってもいい。
 情けなくも徒党を組んだ襲いかかるも、正規の方法で殺し合いに勝利してから挑むのも自由だ」

挑発だった。
殺し合いをしなくてもいいが、あまりにも呑気すぎるということを言外に含んでいる。
弱肉強食の理を肯定する中で平等を唱えるのか、と言っているのだ。

「さあ……殺し合いの開始だ」

【飛鳥了@バイオレンスジャック 死亡】
【世紀末バトルロワイアル スタート】

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最終更新:2013年05月29日 13:01