口元を漆黒のマスクで覆い、臙脂の軽鎧と兜を身につけた侍じみた姿。
人々からカオスヒーローと呼ばれた男が死を迎えた東京に二本の脚で立っていた。
今の東京にはかつてカオスヒーローが真っ当な人間であった頃の面影はすでにない。
虚飾と偽善の象徴であったビル群は、穴あきのチーズのようになってしまい大仰な墓標郡へと姿を変えた。
人間が誇る最大級の都市は、悪魔の跋扈する魔界へと姿を変えたのだ。
足元のコンクリート地面にはひび割れが走り、そこからはしなだれた雑草が弱々しげに生え茂っている。
「フン」
だが、そんな東京を見てもカオスヒーローには懐古の情が湧かなかった。
魑魅魍魎の悪鬼がうろつき回る東京では力こそが正義。
いつからか求めていたその論理がようやく世界を支配したのだ。
カオスヒーローの中にあるものは強さへの渇望だけだ。
飢えた魂こそがカオスヒーローの本質なのだ。
故にカオスヒーローはルイ・サイファーの言葉に乗ることを決意した。
命令されて殺し合いを行うことは尺ではあるが、力こそが全てという価値観は非情に気に入った。
弱肉強食の行き着く先にこそ、カオスヒーローの求める真の力があるのだから。
「ここは新宿……か?」
カオスヒーローがまず行ったことは現状の確認だった。
周囲を見渡し、建物の配置がカオスヒーローの記憶にある新宿区と僅かに重なった。
ビルの配置やかつて電車が走っていたであろう高架橋など、それらしきものはある。
確信は持てないが、少なくとも東京二十三区のうちの中心部であることは間違いないだろう。
「武器は……刀か、悪くないな」
手にとった刀の銘は『青龍の刀』。
不可思議な力は持たない、単なる切れ味の良いだけの『救世主の刀』だ。
だが、刀という明確な力はカオスヒーローの満足に足るものだった。
「さて……」
さらにデイパックの中身から水の入ったペットボトルを取り出す。
カオスヒーローはマスクをずらし、水を一口だけ口に含む。
そして、刀を強く握り締めた。
「どこからでもかかってきやがれってんだ……!」
戦闘準備の完了である。
いついかなる時でも反応できる、また襲い掛かれる戦闘の鬼へと確実に変わった瞬間だ。
そして、その戦闘は意外と早く訪れた。
「ほう……例えば、『今』『背後から』でも、か?」
言葉と同時にカオスヒーローは刀を構える。
カオスヒーローは、突如前方から現れた男の姿を確かに目にした。
「……強いな、お前」
筋肉はゴリラ!
牙は狼!
燃える瞳は原始の炎!
二メートル二十センチの全身には闘争エネルギーが充満していた!
「もはや俺に名前はない……だが、人は俺をこう呼ぶ」
そこに存在していた男の名は、ジャック!
「バイオレンスジャック(凶暴なジャックナイフ)―――と」
暴力の化身、バイオレンスジャック!
突如現れた怪漢・バイオレンスジャックに対してカオスヒーローは身構える。
ジャックの身体からは人のものではない妖気が感じられる。
また、悪魔合体によって手に入れた力が体の芯から溢れ出てくる。
水の張った二杯のグラスが共振するように、ジャックによって悪魔の力が導き出されたのだ。
目の前の男は悪魔か、もしくはカオスヒーローと同じく悪魔の力を手に入れた怪人に他ならない。
強敵の予感にカオスヒーローの周囲の空気が緊張で張り詰める。
「貴様は人間か、悪魔か?」
「なに?」
「悪魔の力を手にした人間なのか、人の姿をした悪魔なのかと聞いているのだ!」
ジャックが声を荒げる。
ジャックはカオスヒーローの身に悪魔の力が宿っていることを見抜いていた。
かつて、邪教の儀式である悪魔合体を行ったカオスヒーローの力を確かに見抜いていたのだ!
「悪魔だったらなんだってんだ」
「真の悪魔は関東には要らぬ……例え地獄の立ち去った地であろうと、ここは人の土地だ」
ジャックの右手に光を集まる。
その光はやがて一つの物体を形作った。
それは刃物だった。
形こそはジャックナイフだが、ジャックナイフと呼ぶにはあまりにも大きすぎる。
刃渡り四十センチ、幅八センチ、峰の厚さ一センチ。
もはや鉈や斧と呼ぶにふさわしい規格外のジャックナイフだ。
「関係ないだろうが……お前と俺が戦う分には、なんの関係もな!」
カオスヒーローは支給品の日本刀を振るう。
『青龍の刀』と呼ばれる刀だ。
不可思議な力は持たない、単なる切れ味の良い名刀。
しかし、悪魔の力を手に入れたカオスヒーローが振るうのならばすなわち妖刀だ。
星空の微光を反射しながら青龍の刀の切っ先が白く走った。
「いい太刀筋だ……やはり、その力は悪魔の、デーモンのもの!」
自身の脇腹へと襲いかかるその斬撃を、ジャックは右手のジャックナイフで受け止めた。
カオスヒーローの斬撃を受け止めると、滑らかに受け流す。
そして、空の左手を強く握りしめカオスヒーローへと殴りかかる。
人外の力によって振るわれた拳はそれ自体が必殺の一撃。
カオスヒーローはその拳を、なんらかの暗器が仕込まれている可能性も考慮し、やや大げさにスウェーで躱した。
お互いの攻防、この時点では互角であった。
もちろん、お互いが手札を全て切ったわけではないため、この勝負の天秤がどちらに傾くからはまだ定かではない。
どちらもお互いの間合いを測るように一定の距離を保ちながら睨み合う。
「貴様が――」
そんな時にジャックが口を開いた。
ボサボサの髪と僅かに汚れた顔という粗野な外見とは裏腹に理知的な声であった。
カオスヒーローは自身と切り結んでいるというのに、ジャックの落ち着いた声色に僅かに苛立ちを覚える。
しかし、間合いを維持しながらジャックの言葉の続きを待つ。
「貴様が悪魔なら殺す。だがしかし、貴様が人の心を持ち悪魔の力を手に入れたDevil Ma――――」
「その話か」
カオスヒーローはジャックの言葉を遮り
「俺は最強になる……」
青龍の刀を構え、カオスヒーローが間合いを詰める。
「神すらも超える力を、俺は手に入れる!」
迫り来るカオスヒーローを、ジャックが迎え撃つ。
「ただ、それだけだ!」
両者が、交錯した。
「五分……だな。余裕ぶってると、次は心臓をざっくり行くぜ」
ジャックの刃がカオスヒーローの左肩へと突き刺さり、カオスヒーローの刃がジャックの脇腹に突き刺さる。
生半可な使い手では刃が腹筋に阻まれるジャックの強靭な肉体を、カオスヒーローは確かに貫いたのだ。
「……」
「来い、バイオレンスジャック。どっちが強いかの力比べだ……単純だろう?」
カオスヒーローは青龍の刀を構え直す。
猛獣のように周囲の空気を凝縮させる。
カオスヒーローの意識は今、ジャックの生命にだけ向けられている。
「なるほど」
そんなカオスヒーローの、ある意味で純粋な瞳を見てジャックは言葉を漏らす。
カオスヒーローがジャックへと走りだしたその瞬間を見計らって、ボロの中から一つの球体を取り出した。
そして、球体をカオスヒーローへと向けて投げつける。
「むっ!」
ジャックが取り出したものは煙幕弾。
カオスヒーローの視界が塞がれる、さしものカオスヒーローも急ブレーキをかけた。
「子供だましを……!」
カオスヒーローは目を閉じることで視覚を捨て、他の感覚と第六感を頼りにジャックの奇襲へと備える。
一秒、ジャックは襲いかかってこない。
カオスヒーローは待つ。
五秒、ジャックは未だに攻めこまない。
しかし、カオスヒーローは待つ。
十秒、ここでカオスヒーローは疑問を抱きながらもジャックが逃走したものだと判断する。
ゆっくりと瞳を開き、多少煙のかかった周囲を見渡す。
「……あれほどの暴力を発する男が、戦いを前に逃げた?」
煙幕が晴れた時、二メートル二十センチの巨体が姿を消していた。
◆ ◆ ◆
「奴の目は人間だった」
バイオレンスジャックは誰に言うでもなく虚空へと言葉を溶かす。
その巨体はすでにカオスヒーローと刃を切り結んだ新宿区から離れ、隣区の豊島区へと移動していた。
「強さを渇望する魂を持ちながらも、その瞳は確かに人間のもの……ならば、俺はあの男を見過ごそう」
ジャックはカオスヒーローの居た方角へと背を向けて歩き出す。
圧倒的な存在感を持ちながらも霧のように実感を与えない不可思議な怪物、バイオレンスジャック。
そのジャックがカオスヒーローの中になにかを見た。
カオスヒーローは人を殺すだろう。
だがしかし、それでもジャックはカオスヒーローを生かすことに決めた。
少なくとも現時点では、カオスヒーローには希望を抱かせるものがあった。
「地獄を打破するには地獄そのものが必要……あの男にはその素質がある。
しかし……奴が魔道に落ちれば……!」
その時は、とつぶやいてジャックはナイフを握りしめた。
バイオレンスジャック、彼の行く先には暴力だけが残る。
暴力と屍だけが、バイオレンスジャックという怪物を語るのだ。
生き残れるものは、バイオレンスジャックがその背中に未来を見たものだけ。
【豊島区/一日目・深夜】
【バイオレンスジャック@バイオレンスジャック】
[状態]:右脇腹に刺傷
[装備]:バイオレンスジャックのジャックナイフ@バイオレンスジャック
[道具]:基本支給品、煙幕弾×3、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:?
1:カオスヒーローとはひとまず離れる。
2:カオスヒーローが魔道に落ちれば……
[備考]
ジャックナイフは支給品ではありません、バイオレンスジャックはジャックナイフを作り出せます。
【新宿区/一日目・深夜】
【カオスヒーロー@真・女神転生】
[状態]:左肩に刺傷
[装備]:青龍の刀@BASARA
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る。
1:バイオレンスジャックは逃げた……?
[備考]
登場時期などは後続の書き手に任せます。
【煙幕弾@真・女神転生】
必ず戦闘から逃げられるアイテム。
四個セットで支給された。
【青龍の刀@BASARA】
不可思議な力を持たない、単純な日本刀。
青龍の村に代々伝わってきた宝刀である。
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| ゲームスタート |
カオスヒーロー |
[[]] |
| バイオレンスジャック |
[[]] |
最終更新:2013年05月29日 09:58