転ばずの杖
魔術師が
魔法の行使の補助に用いる「杖」の一種。
持つ者の知性に応じ、魔法の効力を高める機能を持つ。
松の堅木から削り出された太い杖軸は、全体重をかけても折れぬ強靭さを誇る。
一方で適度な柔軟性も兼ね備え、地面を突いた衝撃を吸収するため、
持ち手の疲労を軽減することができる。
特殊効果は「万病予防」。
装備するか道具として使うと、その戦闘中に発生する状態異常を一度だけ防ぐ。
老いた魔術師トーレックは、歩くことすら覚束ない身体の衰えを補うため、
自身が常に持ち歩いている魔法の杖に目を付けた。
寸法や材質、重量を工夫し、体重を支えて姿勢を保つ三本目の足として使える杖を発明した。
「杖を歩行の補助に用いる」という奇抜かつ類を見ない発想。
その大胆で革新的なイノベーションは、足腰に不安を覚える老齢の魔術師たちを席巻した。
大魔術師"三つ足"トーレックの最高傑作。
―――フレーバーテキストより。
アルフヘイムの魔術師が扱う「魔法の杖」の一種で、
長さ1メートル・太さ直径3㎝程度のシンプルなデザインをしている。
柄尻にはグリップが取り付けられており、握りやすく滑りにくい。
さらにグリップには位置を調節する機構があり、使用者の体格に合わせて持ち方を変えることができる。
使用者は杖の先端を地面と垂直に接する形で保持するため、
接地部分は滑らないよう
スライムの素材で作られている。
このスライムは硫黄を喰わせて変質させたもので、弾性に富み摩擦にも耐える。
アルメリアの魔術師"三つ足"トーレックが発明し、
現在は彼の工房が特許を取得し専従的に製造と販売を手掛ける。
元は加齢によって足腰の衰えたトーレックが、散歩中に転倒してしまったことをきっかけに、
体重を支えられるよう自身の魔法の杖に改造・補強を施したもの。
魔法補助の機能はそのままに、杖は彼の三本目の足としてバランスの保持にも使えるようになった。
魔術師にとって、杖とは射程や精度・威力を伸ばす「魔法の発射台」のようなものであり、
形状や材質に差はあれども、れっきとした「武器」である。
「歩くときに杖をつくと転ばない」という斬新なアイデアは前代未聞のエポックメイキングとして、
すぐさま(老人を中心に)魔術師たちの間で広まり、賛否両論が巻き起こった。
曰く、戦士にとっての剣にも等しい術師の誇りたる杖をあろうことか土に汚すとは何事か。
曰く、机仕事の多い魔術師にとって足腰の衰えは職業病であり、できることなら対処したい。
曰く、道具に過ぎない魔法の杖なのだから身体を支える機能を追加するのは合理的だ。
高位の魔術師であれば魔法で身体を浮かせたり、なんなら弟子に抱えさせることもできるが、
そうでない一介の魔術師にとって加齢で満足に歩けなくなることは死活問題であった。
半ば自然淘汰的に反対意見は黙殺され、老人たちは皆杖をついて歩くこととなる。
瞬く間にトーレックの杖は市場を席巻し、三流術師でしかなかった彼に二つ名を与えるに至った。
月日の流れた現在、転ばずの杖は大手となったトーレックの工房で大量生産され、
多彩なバリエーションとともにアルフヘイムで一般流通している。
魔法の杖としてだけでなく、魔法補助の機能をスポイルした言わば「普通の杖」も存在し、
市井の老人や足を負傷した者にも広く使われている。
また、体重を効率よく支えられるという観点から、大荷物を抱えた旅や山越えなどにも適している。
さらにはある程度の運動は健康に良いという信じがたい事実が学術的に立証され、
魔術師たちの間で登山ブームが巻き起こった。
一時はローブを来て巨大な背嚢を背負った怪しげな集団がゾロゾロと山道を登り、
皆汗だくになりながら良い笑顔で下山して地元の温泉に浸かって帰る光景がそこかしこで見られた。
こうした一連の不気味な行為は、始祖たる魔術師の名前から「トレッキング」と呼ばれている。
不健康と不摂生の権化のような生活様式から下げ止まりとなっていた魔術師の平均寿命は、
トレッキングの流行によって実に5割近くも向上した。
海千山千の魔術師たちを病魔から救った大英雄"三つ足"トーレックであるが、
彼もまた山歩きと健康促進の魅力に取り憑かれ、本業そっちのけで良い汗を流している。
御年92歳。
ヒュームの長寿記録を絶賛更新中である。
ゲーム上では魔法系
クラスの中級装備として実装されている。
プレイヤーからの愛称は「コロ杖」、「
おじいちゃんの徘徊ステッキ」など。
中盤以降のショップで市販されており、到達時期で見れば安価な部類。
杖という武器種共通の性能としてINT依存の魔法攻撃力補正を持ち、
補正値はまぁまぁ。中盤の装備更新としては妥当な性能となっている。
この武器の真価は何と言っても特殊効果にある。
『万病予防』は「装備していること」もしくは「戦闘中に道具として使用」をトリガーに、
その戦闘中あらゆるステータス異常を一回分無効化するバフを自身にかける。
各種異常耐性系のアクセサリの下位互換にも思えるが、
一部ボスの特殊攻撃を除いて一度だけではあるがすべての状態異常を防げるため、
汎用性という面ではこちらに軍配が上がる。
特に短期決戦の場合、敵が状態異常を付与してくる機会も限られてくるので、
一度だけ防げればあとは火力で捻り潰すというスタイルに最適と言える。
装備していれば「使用」にターンを消費することもない。
状態異常「回復」ではなく「予防」という点も重要となる。
即死や麻痺、睡眠といった一度でもかかると致命的な状態異常は複数存在し、
あまつさえこれをパーティ全体にぶっ放してくる厄介な敵(
幻魔将軍ガザーヴァなど)もいるので、
状態回復
スキルの代わりにあらかじめ予防バフを積んでおくと安心できる。
装備としてはまぁまぁ止まりの性能だが、「道具」としては非常に便利な杖である。
まさに転ばぬ先の杖、もとい転ばずの杖と言えよう。
余談だが、この杖は購入のほかエネミーのドロップ品としても入手でき、
中盤以降に出てくる魔術師タイプの敵が落とす。
グラフィックで見分けはつかないが、老人なのだろうか。
最終更新:2022年06月03日 22:19