SF百科図鑑

ケイト・ウィルヘルム「アンナへの手紙」

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匿名ユーザー

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2001年

8/15
ウィルヘルム「アンナへの手紙」★★★★
途中までミステリ仕立てでラストで突然飛躍してタイムパラドックス小説?になります(ほとんど松本清張「悲の器」あたりを思わせるアンフェアすれすれの飛躍ぶり(笑))。「たんぽぽ娘」なんかを連想するオチです。あるいは「プッシャー」とか。研究所の爆発で死んだ科学者が研究していたのが実は時間で、彼は未来と行き来して未来の娘とつきあっていてこの娘からの手紙を持っていたのだ、というオチで、この娘の夫で科学者との浮気を公認していたのが語り手だった、というのもかなりこじつけというか御都合主義と言うか、必然性がないような気がしますけど。まあウィルヘルムなのでプロットが弱いのは仕方がないか。最近はミステリを多く書いているので、こういうミステリ仕立てになってしまうんでしょうか。しかし、科学者の雇い主の副社長が手紙を筆跡鑑定士に分析依頼する設定といいその後の対応といい、何か説得力がないんですよねえ。鑑定士が鑑定するうちに手紙の主に惚れてしまって、遂に探し当てて結婚するというのも無理があるし。その鑑定士が離婚した妻とその妻との間の2人子を抱えているという暗い設定(笑)にウィルヘルムらしさが出ていますが。大体、何で自分の研究ファイルを未来の語り手の金庫に仕舞うような人間である科学者が、アンナからの手紙を放置しておいたのか、語り手など固有名詞部分だけをわざわざ切り抜いて? 説明するとすれば科学者は未来に語り手と接触して語り手が「アンナの手紙」がきっかけでアンナと知り合ったことを明かしたため、タイムパラドックスを起こさないように語り手の話に合わせて行動をした、ということになるのでしょうが、そうなのならきちんと説明しないと、辻褄合わないように読めてしまいますしね(説明しないところがウィルヘルムらしいという気もするけど)。何回か読んでもこのオチは結構腑に落ちないです。とまあいろいろ悪口ばかり書いたけど、文体や雰囲気はいいし、上記の点を気にしなければそれなりに話も面白くは読めるのでまあまあということで★4つにしました。
この話はオムニか何かで訳されているけど入手至難のため、「驚異のヴィジョン」という学生向けSF教科書に再録されている英語版を読みました。この本にはウルフ「アイランド博士の死」も入っていますがこちらは翻訳の載ったSFMを注文中なので来るまで待ちます。

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