第30話
「みっともない…」
坂本ジュリエッタは物陰に隠れながら戦況を見守っていた。
坂本ジュリエッタは物陰に隠れながら戦況を見守っていた。
「中位メンバーが死んだおヴォ、ぉヴォ、どうしたらいいヴォヴィ」
露骨に焦る越境。ダイヤル式の電話を回してとあるホテルの一室に連絡を取ろうとしていた。
露骨に焦る越境。ダイヤル式の電話を回してとあるホテルの一室に連絡を取ろうとしていた。
「シカゴくんはこのアジトのどこかにいるんだよな?」
ラフィンに尋ねる黒死Q。
ラフィンに尋ねる黒死Q。
「まんじゅうがタクシーでそう言ってたよ、この様子だともぺ天を全員倒すしかなさそうだけどね」
旧ツイッターを見ながら答えるラフィン。次の瞬間、衝撃が走った。
旧ツイッターを見ながら答えるラフィン。次の瞬間、衝撃が走った。
「シカゴくんのXが更新されてる!もしかして5chに更新されてないって書かれたからか?」
Chicag023はアクリル画、自撮り、読書感想文などをポストしていたのである。かつて5chで文武両道アピールと言われた言動が復活していた。
「この絵は本当にシカゴくん本人が描いてるのか?あの噂が本当ならこんなことしてる場合じゃないだろ?」
疑問に感じる黒死Q。
疑問に感じる黒死Q。
「もぺ天がシカゴくんの端末を奪って代理投稿してるんじゃないかな」
勘繰るラフィン。
勘繰るラフィン。
「虚栄心の強い人間は窮地に陥ったときほど余裕を見せようとする。とにかくXだけでシカゴくんが無事だと考えるのは早計だよ」
黒死Qはかつての仲間の心理状態を解析していた。どちらにせよ、Chicag023がもぺ天のアジトに幽閉されていることは確実であった。
黒死Qはかつての仲間の心理状態を解析していた。どちらにせよ、Chicag023がもぺ天のアジトに幽閉されていることは確実であった。
第31話
飲み会は歌舞伎のホテルリブマックスで行われた。905号室に入る前、もぺ天メンバーのワンフラは女性たちに忠告した。
「素直に喜ぶのはいいけど、名前を叫んだりはしないでほしい」
他の女の子へ申し訳なさそうに目配せする百合。昨晩、牛肉から「明日めっちゃVIPが来るから、女の子を用意できる?」と頼まれた百合は断れきれず女友達と汚いホテルに連れ込まれたのだ。狭い部屋には中央に一人しか寝られないベッド。集まった女性は百合を含め三人。牛肉の傍らで忙しく駄菓子を並べていたのは、Resistanceだった。
テーブルに置かれたいいちこを指差し、牛肉が上機嫌で言う。
「これ、いい焼酎だよ。ここは特別な部屋だしさ。今から本当にすごい世界的なライマーが来るから。誰が来るか、当ててごらん」
こあ子が「型月さん?」と言うと、牛肉は「さすがにそれは行き過ぎ」と苦笑した。Resistanceが言う。「くれぐれも失礼のないように。怒らせることをしたら、この辺り、新宿とネットライム界隈を歩けなくなっちゃうかもしれない」
そして現れたのは何処となく悲壮感の漂うドカタ。一瞬、女性たちの間で誰だ?という雰囲気が流れる。
「スペシャルゲストは顔射さんでした!」
酒が進みおどけるワンフラ。百合たちは半泣きになっていた。百合は婚約中の黒死Qが助けに来てくれたらいいのにと願わずにはいられなかった。
「素直に喜ぶのはいいけど、名前を叫んだりはしないでほしい」
他の女の子へ申し訳なさそうに目配せする百合。昨晩、牛肉から「明日めっちゃVIPが来るから、女の子を用意できる?」と頼まれた百合は断れきれず女友達と汚いホテルに連れ込まれたのだ。狭い部屋には中央に一人しか寝られないベッド。集まった女性は百合を含め三人。牛肉の傍らで忙しく駄菓子を並べていたのは、Resistanceだった。
テーブルに置かれたいいちこを指差し、牛肉が上機嫌で言う。
「これ、いい焼酎だよ。ここは特別な部屋だしさ。今から本当にすごい世界的なライマーが来るから。誰が来るか、当ててごらん」
こあ子が「型月さん?」と言うと、牛肉は「さすがにそれは行き過ぎ」と苦笑した。Resistanceが言う。「くれぐれも失礼のないように。怒らせることをしたら、この辺り、新宿とネットライム界隈を歩けなくなっちゃうかもしれない」
そして現れたのは何処となく悲壮感の漂うドカタ。一瞬、女性たちの間で誰だ?という雰囲気が流れる。
「スペシャルゲストは顔射さんでした!」
酒が進みおどけるワンフラ。百合たちは半泣きになっていた。百合は婚約中の黒死Qが助けに来てくれたらいいのにと願わずにはいられなかった。
第32話
歌舞伎の激安ホテルで開催される飲み会。ベッドの上にはもぺ天が食べ散らかしたじゃがりこのカスが散らばっていた。もう一人のゲストを呼ぼうとする牛肉。
「今からもう一人レジェンドが来るから。誰が来るか、当ててごらん」
こあ子が「Liaさん?」と言うと、牛肉は「さすがにそれは行き過ぎ」と苦笑した。
「サイト対抗戦にも出ていたあの人だよ」牛肉がヒントを出す。再度答えるこあ子。「弟さん?」
次の瞬間ドアが開き男が入ってきた。
「スペシャルゲストは因幡うあさんでした!」
そこにはサイト対抗戦に出ていたが本当に出ていただけのライマーの姿。こあ子はもう泣き始めていた。百合は豊満な胸元で黒死Qのキメ顔が入ったペンダントチャームを握りしめる。
「今からもう一人レジェンドが来るから。誰が来るか、当ててごらん」
こあ子が「Liaさん?」と言うと、牛肉は「さすがにそれは行き過ぎ」と苦笑した。
「サイト対抗戦にも出ていたあの人だよ」牛肉がヒントを出す。再度答えるこあ子。「弟さん?」
次の瞬間ドアが開き男が入ってきた。
「スペシャルゲストは因幡うあさんでした!」
そこにはサイト対抗戦に出ていたが本当に出ていただけのライマーの姿。こあ子はもう泣き始めていた。百合は豊満な胸元で黒死Qのキメ顔が入ったペンダントチャームを握りしめる。
第33話
「ネットライムの判定は間違ってると思うねん。ネットライムはもぺ天みたいな金も名誉もある団体が勝てるようにならないとあかん。5chは狂ってる。なんでもぺ天が何人も勝てないんや」
因幡うあは女性たちを凝視しながら言葉を続けるのだ。
「俺的には三人とも全然ありやしという。で、俺のリリック産めるの?養育費とか、そんくらい払ったるから。俺のリリック産まん?」
部屋には豚骨の匂いが充満した。もぺ天全員が行きつけの3丁目の桂花ラーメンで腹ごしらえしていたためである。百合とこあ子は鼻を摘んでなんとか耐えていた。
因幡は一人一人の瞳を覗きこむ。女性たちは各々拒否したが、因幡の目は一切笑っていない。すると、牛肉がここぞとばかりにゴマをする。
「良かったねぇ。因幡さんにそんなこと言ってもらえることないよ!」
「良かったねぇ。因幡さんにそんなこと言ってもらえることないよ!」
第34話
プルルル……プルルル……
突然鳴り出した電話。室内に緊張が走る。電話に出たのは最年長(40歳)の彦頁身寸だった。
「もしもし」
すると越境が喋り始めた。
「‥‥おヴォ、中位メンバーが死んだおヴォ、早くアジトに戻るおヴォー、次は準上位メンバーの出番おヴォヴィ」
「準上位メンバー!??!!?!?」
聞き慣れない言葉に顔射は思わずのけぞった。もぺ天メンバーはネットライムの強さとオフ会やSNSの言動に応じてランク付けがなされていた。もともとは下位、中位、上位の三つに分けられていたのである。しかし準上位という新しい区分が作られたのだ。
「だ、誰が準上位になるんだ?」
因幡うあは特に焦っていた。準上位と見做されればコンパを抜けなければならない。それだけは絶対に避けたかった。因幡ほどではないが、牛肉とワンフラ、Resistance、顔射も同じ気持ちだった。
因幡うあは特に焦っていた。準上位と見做されればコンパを抜けなければならない。それだけは絶対に避けたかった。因幡ほどではないが、牛肉とワンフラ、Resistance、顔射も同じ気持ちだった。
第35話
「はやく準上位メンバーは出発するおヴォー」
越境が急かす。ラフィン、黒死Q、まんじゅうを倒すためには人員が必要なのだ。
越境が急かす。ラフィン、黒死Q、まんじゅうを倒すためには人員が必要なのだ。
「越境は誰が準上位メンバーだと思う?」
Resistanceが恐る恐る尋ねる。
Resistanceが恐る恐る尋ねる。
「知らないおヴィ、自分たちで判断するおヴォよ」
なんでもいいから早く来てくれと言わんばかりの越境。
なんでもいいから早く来てくれと言わんばかりの越境。
「行けワンフラ」
ワンフラを小突く因幡うあ。
ワンフラを小突く因幡うあ。
「あんたも準上位なんじゃねぇの?」
因幡に反抗するワンフラ。
因幡に反抗するワンフラ。
この中では比較的レジェンド感を漂わせることに成功していた顔射だが最近は支持率が低下していた。原因は安全圏からfcポパイを煽ったり、ingeに負けたのにバトルを続けたりしていたからである。そして何よりもXでは学がないおっさんが政治に首を突っ込みたがったときにありがちな残念感を発揮していたのだ。
「準上位はここの全員なんじゃないか?」
思わず本音を漏らす牛肉。牛肉は型月に敗れ長年の伏線回収を終えたからかネットライムの意欲を失っていた。今はXでの文武両道アピールに専念しているため区分には興味がなかった。
思わず本音を漏らす牛肉。牛肉は型月に敗れ長年の伏線回収を終えたからかネットライムの意欲を失っていた。今はXでの文武両道アピールに専念しているため区分には興味がなかった。
「ごめんな?こあ子と百合たちはここでしばらく待っててくれへんか?ワシらはアジトで黒死Qらを倒しに行ってくるわな?」
女の子たちに謝る因幡うあ。
女の子たちに謝る因幡うあ。
「じゃあこの部屋で待ってますね」
フィアンセの名前に反応して百合の顔が一瞬強張る。しかしなんとか平静を装った。
フィアンセの名前に反応して百合の顔が一瞬強張る。しかしなんとか平静を装った。
続々と部屋を後にする男たち。百合は安堵のためか大きくため息をついた。
第36話
「因幡の兄貴、腹ごしらえしていきませんか?」
牛肉が因幡うあに声をかける。
「せやな?竹虎でも行こか?」
顔射の越境に嫌々呼び出されたもぺ天準上位層。アジトに直行しなかったのはせめてもの反抗だった。
牛肉が因幡うあに声をかける。
「せやな?竹虎でも行こか?」
顔射の越境に嫌々呼び出されたもぺ天準上位層。アジトに直行しなかったのはせめてもの反抗だった。
「最近の動画が全然回ってないな?」
餃子をつまみながらレジスタンスが言う。
「多分サイトメンバーの連中が拡散をサボってるからやな?」
牛肉は不服そうである。サイトメンバーはもぺ天の楽曲を一日中再生することと毎日リポストすることが義務付けられていた。しかしもぺ天の圧政に耐えかねて近頃はサイトメンバーの浮上自体が減っていた。
餃子をつまみながらレジスタンスが言う。
「多分サイトメンバーの連中が拡散をサボってるからやな?」
牛肉は不服そうである。サイトメンバーはもぺ天の楽曲を一日中再生することと毎日リポストすることが義務付けられていた。しかしもぺ天の圧政に耐えかねて近頃はサイトメンバーの浮上自体が減っていた。
「KIRIKAのせいやな?あいつが意外と若手に人気なかったな?」
顔射がジョッキを机に叩き付ける。文面ラッパーの支持を集めるため、もぺ天に加入させられたKIRIKA。しかし皮肉なことにもぺ天が迫害した人妻善逸よりも全てのスペックが劣っていたのである。
顔射がジョッキを机に叩き付ける。文面ラッパーの支持を集めるため、もぺ天に加入させられたKIRIKA。しかし皮肉なことにもぺ天が迫害した人妻善逸よりも全てのスペックが劣っていたのである。
「最近はメンバー同士しか聞いてへんな?これやったらグループラインにのせるのと同じやな?」
山芋ステーキを頬張りながら因幡が吠える。
山芋ステーキを頬張りながら因幡が吠える。
「裏竹虎ラーメンのお客様こちらでございますね」
店員が続々とラーメンを運んでくる。
「こちら胡麻味噌坦々つけ麺になります」
「あご出汁醤油ラーメンです」
店員が続々とラーメンを運んでくる。
「こちら胡麻味噌坦々つけ麺になります」
「あご出汁醤油ラーメンです」
「美味そうやな?もう食べてええな?」
「もう食べてるな?」
4人は仲睦まじい様子で麺を啜る。その様子を陰で見つめている人物がいた。
「もう食べてるな?」
4人は仲睦まじい様子で麺を啜る。その様子を陰で見つめている人物がいた。
第37話
「こいつらが現代ネットライム崩壊の元凶もぺ天か…… 許せん……」
竹虎の店員に扮した献花三重丸は拳を強く握り締めた。今は亡きキャラバンと蚯蚓との思い出が次々と胸の内に去来する。
「みんなでポータルを盛り上げてた時間は今思うと青春だった」
「あの頃に戻れないとしても仇は打たなきゃな」
まんじゅうのもとで道徳感情を育んだ正義漢献花は決意を固めていた。
「あの頃に戻れないとしても仇は打たなきゃな」
まんじゅうのもとで道徳感情を育んだ正義漢献花は決意を固めていた。
「ほなご馳走さん」
会計を済ます因幡うあ。もぺ天一行が続々と店を出ていく。その様子を献花はほくそ笑みながら眺めていた。
会計を済ます因幡うあ。もぺ天一行が続々と店を出ていく。その様子を献花はほくそ笑みながら眺めていた。
臭いゲップをして満足そうな因幡たち。しかし次の瞬間、一斉にバタバタと倒れる準上位メンバー。ただ一人顔射を除いて。
「あぁぁあぁあぁぁあぁああーーーん!!!!」
仲間が死んでパニックに陥る顔射。咄嗟に叫んでみたものの誰一人共鳴する者はなかった。
仲間が死んでパニックに陥る顔射。咄嗟に叫んでみたものの誰一人共鳴する者はなかった。
「非常事態やな?とにかくもぺ天のアジトに戻るしかないな?」
顔射は小走りで2丁目を駆け抜けた。
顔射は小走りで2丁目を駆け抜けた。