『L7-0XXXc SS』
「400。200。0。着弾を確認しました。
珍しくタフな相手でしたがね。これにてKI401小隊全機撃破。
……………………いや」
珍しくタフな相手でしたがね。これにてKI401小隊全機撃破。
……………………いや」
その時、狙撃弾のラプラス観測を続けていた二番機――市筑が、かすかに声を曇らせる。
演算圏の境界付近に、新たな光点が出現している。連盟軍の信号ではない。
ウニじみたシルエットを見せる蝟虫八式の位相アンテナ群が、複雑に旋回した。
演算圏の境界付近に、新たな光点が出現している。連盟軍の信号ではない。
ウニじみたシルエットを見せる蝟虫八式の位相アンテナ群が、複雑に旋回した。
「所属不明機(ストレイ・ドッグ)。1機のみです。11時方向8150。
4秒後に交戦域に入ります。増援でしょうか」
4秒後に交戦域に入ります。増援でしょうか」
「それ以外に考えられんだろう。
ふん。出遅れた一機か。『朔月』の歳化に勝てると踏んだか?」
ふん。出遅れた一機か。『朔月』の歳化に勝てると踏んだか?」
「なるほど。そこで我ら航機拾八小隊の名を出さないという事は、
一番機の隊長お一人であの犬を狩れる自信があると。
さすがは『朔月』。大した慢心ですね」
一番機の隊長お一人であの犬を狩れる自信があると。
さすがは『朔月』。大した慢心ですね」
「観測演算では残り何秒程度だ、市筑。
それとその類の冗談は、最低限私に追いつけるようになるまで慎む事だな」
それとその類の冗談は、最低限私に追いつけるようになるまで慎む事だな」
「索敵用の蝟虫で隊長の翡翠に追いつけるとのお考えでしたら、
いずれ隊長ご自身で試す事をお勧めしますよ……残り1.65秒。
……演算結果より速いようです。伍號領区製の機体ではあり得ない」
いずれ隊長ご自身で試す事をお勧めしますよ……残り1.65秒。
……演算結果より速いようです。伍號領区製の機体ではあり得ない」
「毎秒3キロか。些か異常な速度だな。こんな辺境に『天使』の迎えが来たか?」
「……可能性はあります。指示を」
OMによる近接圧縮通信は、神経下で意識されるよりも早く互いの思考を交換し、
強化兵の脳内に組み込まれた情報庫と微細思考液は、思考そのものをも高速化する。
未確認機察知から、僅か2秒あまり。『朔月』歳化光以下、航機拾八小隊の6機は……
戦闘を終えた後の弛緩した空気から、一瞬にして生死の境の緊張に揺り戻された。
強化兵の脳内に組み込まれた情報庫と微細思考液は、思考そのものをも高速化する。
未確認機察知から、僅か2秒あまり。『朔月』歳化光以下、航機拾八小隊の6機は……
戦闘を終えた後の弛緩した空気から、一瞬にして生死の境の緊張に揺り戻された。
「4番機病乃、6番機鈴待は即座に帰還しろ。市筑は病乃に交戦記録を渡せ」
「ひよっ子の鈴待は分かりますがね。俺はまだやれますよ、隊長。
『天使』が相手なら……正直、5機でかからねェとまずい」
『天使』が相手なら……正直、5機でかからねェとまずい」
「ふん。その制動翼の損傷でやれる相手だと思うならば、貴様の方が相手を舐めすぎだな、病乃。
2番機市筑、3番機殻井、5番機緋登は、全員イオン盾を破棄。この歪曲EMF化ではどの道使えん。
きついが、敵の全攻撃は界兵器の起動で防げ」
2番機市筑、3番機殻井、5番機緋登は、全員イオン盾を破棄。この歪曲EMF化ではどの道使えん。
きついが、敵の全攻撃は界兵器の起動で防げ」
圧搾ガスの排気音が響き、4機のOMの右腕の防御装置が同時に落下する。
もはやこの距離からでも、未確認機の青白い光が雲を通して眼に飛び込んでくる――
もはやこの距離からでも、未確認機の青白い光が雲を通して眼に飛び込んでくる――
「それじゃまァ、俺はせいぜい撃破報告を楽しみにさせてもらいますよ」
「申し訳ありません、隊長!」
同時に4番機と6番機が反転、交戦域から離脱。
「――来ます。残り0.8秒。悠長に構えすぎですよ、隊長」
「減らず口を叩く余裕があるなら、貴様が隊長をやればどうだ、市筑。
2番機市筑は4時方向、演算圏の境界付近へ離脱。観測を継続しろ。
3番機殻井は先ほどの戦闘と同様に待機、狙撃による牽制を最優先に。
5番機緋登は波長欺瞞を起動。『天使』の背後に周り、私に合わせて挟撃しろ。できるな」
2番機市筑は4時方向、演算圏の境界付近へ離脱。観測を継続しろ。
3番機殻井は先ほどの戦闘と同様に待機、狙撃による牽制を最優先に。
5番機緋登は波長欺瞞を起動。『天使』の背後に周り、私に合わせて挟撃しろ。できるな」
「了解です。隊長を任された心構えで取り組むとしましょう」
「……はい」
「ありがとうございます! 無論可能ですッ!」
次の刹那――雲を突き破る薄緑色の光の嵐が、散開する4機のOMへと同時に殺到する。
あらゆる構造材を強度を無視して切断する恐るべきスピン反転レーザーはしかし、直撃の寸前で歪曲。
歳化らの動きを止めるには至らない。瞬間的な界兵器の起動による物理防御だ。
あらゆる構造材を強度を無視して切断する恐るべきスピン反転レーザーはしかし、直撃の寸前で歪曲。
歳化らの動きを止めるには至らない。瞬間的な界兵器の起動による物理防御だ。
しかし、界兵器を維持できるのは僅か数秒。連続起動は不可能である。
その上、今しがたの単なる近接兵器とは思えない常軌を逸した同時攻撃……
その上、今しがたの単なる近接兵器とは思えない常軌を逸した同時攻撃……
「あれが『乙女の指先』か。自分自身のレーザーまで操作するとはな。
警戒しろ殻井。界兵器をケチるな。
半端な範囲での起動では、レーザーが回りこんでくるぞ」
警戒しろ殻井。界兵器をケチるな。
半端な範囲での起動では、レーザーが回りこんでくるぞ」
「……分かりました」
……恐らく、殻井の3番機……笹螽蟖砲撃仕様では、あのレーザーの雨には長くは耐えきれないだろう。
離脱させるべきだったが、そもそもが攻撃の性質も不明尽くしの敵だったのだ。
歳化に悔やんでいる時間はない。短期決戦で決める他はないだろう。
離脱させるべきだったが、そもそもが攻撃の性質も不明尽くしの敵だったのだ。
歳化に悔やんでいる時間はない。短期決戦で決める他はないだろう。
非現実的に揺れ動く青白い光を前に、最大推力で追いすがる。
整流シールド越しでもなお感じるGの変化が、歳化の奥歯をガチガチと鳴らす。
まるで稲妻じみて鋭角的に、『天使』がこちらへと反転。
狙い通りのヘッドオンだ。この1番機に集中させた上で、背後から5番機の緋登で、とる。
整流シールド越しでもなお感じるGの変化が、歳化の奥歯をガチガチと鳴らす。
まるで稲妻じみて鋭角的に、『天使』がこちらへと反転。
狙い通りのヘッドオンだ。この1番機に集中させた上で、背後から5番機の緋登で、とる。
「極西機関の亡霊め」
暴力的な速度で雲が流れていく。
『天使』の長い尾は、まるで幻想の中の怪物のようだ。
翼のように舞い散る、光の羽。そして今まで相対したどのエースよりも――速い。
『天使』の長い尾は、まるで幻想の中の怪物のようだ。
翼のように舞い散る、光の羽。そして今まで相対したどのエースよりも――速い。
「隊長! 私が合わせます!!」
「緋登。隊長が出遅れた場合は、2番機の私が手柄の独占を許すぞ。
射撃点まで0.4、3、2、1……今!!」
射撃点まで0.4、3、2、1……今!!」
緋登と市筑の声のタイミングに合わせ、吸い込まれるように虚空の座標に銃口を向ける。
轟音と共に撒き散らされる無数の物理弾頭は、
この近接戦闘起動の中では相対的に止まっているかのような錯覚すら覚える。
轟音と共に撒き散らされる無数の物理弾頭は、
この近接戦闘起動の中では相対的に止まっているかのような錯覚すら覚える。
狙いは『天使』本体ではない。
弾頭内に仕込まれた粘体が炸裂し硬化、200m四方の単分子ネットが展開する――!
弾頭内に仕込まれた粘体が炸裂し硬化、200m四方の単分子ネットが展開する――!
「――緋登!!」
波長欺瞞を起動した緋登の5番機、翡翠が『天使』の背後に回りこんでいるはずだった。
『天使』は一瞬で推力器を右方に集中させ変形、
人間ではあり得ない程の反応速度で単分子ネットを回避する。
だとしても、この一瞬で緋登が――
『天使』は一瞬で推力器を右方に集中させ変形、
人間ではあり得ない程の反応速度で単分子ネットを回避する。
だとしても、この一瞬で緋登が――
「……」
「緋登。どうした。訓練時代にホームシックを済ませていなかったか。
5番機……応答しろ。……5番機」
5番機……応答しろ。……5番機」
市筑の一方的な通信が聞こえる。いつものように冷静な声色を装ってはいたが、
その声には僅かな動揺が含まれているように見えた。
その声には僅かな動揺が含まれているように見えた。
「墜とされたな」
「はい」
5番機の姿を捉えられなかったのは、波長欺瞞によるものではなかった。
既に『天使』は後方にレーザーの触手を伸ばして――
何をやったのかは分からないが、珪素感覚群に捉えられない筈の緋登のステルス機を……
こちらに接近しながら、斬って捨てていた。
既に『天使』は後方にレーザーの触手を伸ばして――
何をやったのかは分からないが、珪素感覚群に捉えられない筈の緋登のステルス機を……
こちらに接近しながら、斬って捨てていた。
「3番機は」
「……応答ありません」
「ふん。貴様は報告が遅いのが欠点の一つだ。
正面方向に全推力を集中。奴に背後を取られるな」
正面方向に全推力を集中。奴に背後を取られるな」
一瞬のチャンスは、やはり瞬刻の間に瓦解した。
『天使』は後方。残るは2機――
『天使』は後方。残るは2機――
歳化の駆る翡翠は、緋登と同型機だ。だがこちらには波長欺瞞兵装は装備されていない。
「(――正面からやれという事か)」
僅かに舌打ちする。背を取られればまず間違いなく負ける相手だ。
多くのエースを屠ってきた。
歳化の、OM乗りらしからぬ莫大な自尊心が、今は自らを押し潰す錘となって圧し掛かる。
正面から、あの化物と。市筑を死なせずに……どこまでやれるか。
多くのエースを屠ってきた。
歳化の、OM乗りらしからぬ莫大な自尊心が、今は自らを押し潰す錘となって圧し掛かる。
正面から、あの化物と。市筑を死なせずに……どこまでやれるか。
「隊長。熱核反応ジェルの散布を終えました」
「ふん。時間稼ぎに過ぎんだろうな。
余計な事に手を出すのが、貴様の欠点の一つだ」
余計な事に手を出すのが、貴様の欠点の一つだ」
「私にいくら欠点があろうが気にはしませんよ。隊長よりは少ないでしょうから」
霧状に散布された熱核反応ジェルは、視覚では捉えられない超高熱域を作り出す。
熱知覚をも、常軌を逸した高熱によって無効化する。
『天使』だろうが、熱までは曲げる事はできない。いわば透明の空中機雷だ。
熱知覚をも、常軌を逸した高熱によって無効化する。
『天使』だろうが、熱までは曲げる事はできない。いわば透明の空中機雷だ。
だが、歳化と市筑のOMは、背後に追いすがる『天使』の軌道を捉えていた。
全てが回避されている。本当に無人OMなのか――
まさか戦場で仄めかされる怪談にあるように、中に『人間』でも入っているのか?
全てが回避されている。本当に無人OMなのか――
まさか戦場で仄めかされる怪談にあるように、中に『人間』でも入っているのか?
「転回する時間はありませんか、隊長。
もう一度ヘッドオンであれを迎え撃ってもらいたいのが私の正直な願望ですが」
もう一度ヘッドオンであれを迎え撃ってもらいたいのが私の正直な願望ですが」
「馬鹿を言うな。貴様はどうやら性格だけでなく、戦況判断にも難があるようだ」
「……。それでは、頼み事は別にしましょう。
基地の整備兵とやったブラックジャックで、少々負けが込んでしまっていましてね」
基地の整備兵とやったブラックジャックで、少々負けが込んでしまっていましてね」
「……」
「隊長が、代わりに借りを返していただけますか」
「……馬鹿が。聞けるわけがない」
賭博は禁止していたはずだ。俯いたまま、歳化は声を絞り出した。
だが、これしか策がないのも事実だった。
やはり翡翠に対して、蝟虫八式は――どうしようもなく、推力に劣るのだ。
だが、これしか策がないのも事実だった。
やはり翡翠に対して、蝟虫八式は――どうしようもなく、推力に劣るのだ。
一人が食い止め、一人が反転して背後の『天使』を迎え撃つのであれば。
食い止めるのは2番機の市筑でしかありえなかった。
食い止めるのは2番機の市筑でしかありえなかった。
「なに。構いませんでしょう。どの道2階級上がれば、私はあなたの上官です。
命令を先借りしたところで、文句を言う者はいませんよ。
ついでにこの際――賭博も解禁にいたしましょう」
命令を先借りしたところで、文句を言う者はいませんよ。
ついでにこの際――賭博も解禁にいたしましょう」
「……市筑」
光の嵐が迫る。市筑は同時に界兵器を起動する。
歳化への直撃を防ぐ形で歪曲したレーザーは、一瞬だけ困惑したように蠢き――
歳化への直撃を防ぐ形で歪曲したレーザーは、一瞬だけ困惑したように蠢き――
「良い上官を持ちました。お元気で」
起動時間限界に達したその脆弱な装甲を、紙のように引き裂いた。
「……」
歳化が反転を完了した時、『白い天使』は月を背に悠然と雲間を漂っていた。
美しい。しかしこの美しさは……化物の美しさだ。
戦場のエースを刈り取る、機械の死神。
美しい。しかしこの美しさは……化物の美しさだ。
戦場のエースを刈り取る、機械の死神。
「天使人形ごときが……」
歳化は正面からその白い機体を見据えた。
涙が流れる事はなかった。
涙が流れる事はなかった。
「朔月の夜の恐ろしさを教えてやる」
2つの機体が動いたのは同時だった。
歳化の全身の筋肉が、みしみしと悲鳴を上げている。
人体は脆弱だ。ならば人ではない『天使』は強いというのか。
歳化の全身の筋肉が、みしみしと悲鳴を上げている。
人体は脆弱だ。ならば人ではない『天使』は強いというのか。
「貴様が……人形が戦場の罪に救いを与えるだと?
その権利が誰にある……」
その権利が誰にある……」
交錯し、全ての運命が決まる。
――その、一瞬の前に。
交錯した筈の『白い天使』は、急上昇して雲上に逃れた。
群れるレーザーが、ゆらゆらと『天使』の周囲を漂い、敵の存在を探る。
例えば……ラプラス観測をも超える確実なる接触感知、
『乙女の指先』の索敵能を持ってすら、この近距離で敵を見失う事など、あり得るだろうか。
群れるレーザーが、ゆらゆらと『天使』の周囲を漂い、敵の存在を探る。
例えば……ラプラス観測をも超える確実なる接触感知、
『乙女の指先』の索敵能を持ってすら、この近距離で敵を見失う事など、あり得るだろうか。
歪曲EMFですら感知できない敵の存在があるとしたら――
「かかったな」
『白い天使』の真下から、銃口が閃いた。
――ばら撒かれた熱核反応ジェル……その高熱圏内!!
――ばら撒かれた熱核反応ジェル……その高熱圏内!!
重厚な装甲は、無敵の防御能たる界兵器の限界起動を経てもなお、ボロボロに溶け崩れ……
珪素感覚群の大半が機能を停止し、深刻なダメージを負った中で。
しかしその操作棺の中で、『朔月』の歳化光には、勝利の確信の笑みがあった。
珪素感覚群の大半が機能を停止し、深刻なダメージを負った中で。
しかしその操作棺の中で、『朔月』の歳化光には、勝利の確信の笑みがあった。
「(削りきる! 勝ちだ……俺の!!)」
『白い天使』は冷徹に敵の1番機を見下ろし、レーザーの雨を降らせた。
放たれた特殊徹甲弾が、白い装甲を削り取っていく。
その成果を確認するよりも前に、歳化の機体もまた、無数の鉄片に分解されて消える。
放たれた特殊徹甲弾が、白い装甲を削り取っていく。
その成果を確認するよりも前に、歳化の機体もまた、無数の鉄片に分解されて消える。
―――――――――
何もかもが墜落した戦場に、青白い光の群れがゆらゆらと舞い落ちている。
白いシルエットが遠くの雲間に羽ばたいて、再び成層圏へと消えた。
白いシルエットが遠くの雲間に羽ばたいて、再び成層圏へと消えた。
<終>
『L7-0XXXc SS2 石田ギリオ対イブニングスター』
それはまだヴィクター博士が生きていた頃の話……
ヴィクター博士の研究所がキャンピングカー(不法駐車)に移って間もない頃の出来事である。
博士と石田ギリオは今や、借金返済のために皮肉にも他の自営業騎士の追跡を逃れつつ生活する有様だった。
博士と石田ギリオは今や、借金返済のために皮肉にも他の自営業騎士の追跡を逃れつつ生活する有様だった。
「ギリオさん! 完成しましたよ! ついに私は『俺の嫁』の根源へと辿り着いてしまったようです!
『メカっ子』ですよ! はい試作74号さん、キャラ立てて!」
『敵機索敵を開始/ 哨戒状態から近接戦闘状態へと推力配置を移行/ ピガッ!』
『メカっ子』ですよ! はい試作74号さん、キャラ立てて!」
『敵機索敵を開始/ 哨戒状態から近接戦闘状態へと推力配置を移行/ ピガッ!』
「なにそれ」
石田ギリオは迂闊な自らの返答を後悔した。
いっそそれを見なかった事にできないものかと、逃避じみた思考すら走る。
石田ギリオは迂闊な自らの返答を後悔した。
いっそそれを見なかった事にできないものかと、逃避じみた思考すら走る。
完成した74号(メカっ子)は、石田ギリオの目には完全なる戦闘機械としか認識出来なかった。
嫁の魅力=火力をコンセプトとするヴィクター博士にあってすら、これほど露骨な兵器は初めてである。
全身のシルエットはもはや人型ですらなく、発光する青白い粒子を周囲に撒き散らす様は
石田ギリオの乏しい知能をもってしてもなお、あまりに警戒に値する様相であった。
嫁の魅力=火力をコンセプトとするヴィクター博士にあってすら、これほど露骨な兵器は初めてである。
全身のシルエットはもはや人型ですらなく、発光する青白い粒子を周囲に撒き散らす様は
石田ギリオの乏しい知能をもってしてもなお、あまりに警戒に値する様相であった。
「ねぇ、既にこれ女の子ですらないんだけどさ、
ヴィクター博士は何をもってこの殺人機械を嫁と言い張っているの?」
「ウヒヒ、よく聞いてくれました! 私、時代はバックボーンのある嫁だという事に気づいたのです!
この74号、なんと東亞圏攻渉介入末期に開発された極西機関製無人OM(中略)
超遠域電離投射兵装が神経全統連結システムに(中略)大陸衝合戦争のトップエースが(略)
という設定の嫁なんですよ~~! いかがです、この緻密な世界観! 石田さんも驚愕してください!」
ヴィクター博士は何をもってこの殺人機械を嫁と言い張っているの?」
「ウヒヒ、よく聞いてくれました! 私、時代はバックボーンのある嫁だという事に気づいたのです!
この74号、なんと東亞圏攻渉介入末期に開発された極西機関製無人OM(中略)
超遠域電離投射兵装が神経全統連結システムに(中略)大陸衝合戦争のトップエースが(略)
という設定の嫁なんですよ~~! いかがです、この緻密な世界観! 石田さんも驚愕してください!」
「言っていることが何一つ分からない……
いやー正直すごいわ、俺はちょっと博士の頭のおかしさに驚きそうなんだけど、
それはそれとしてこれさ、軍とかに普通に売れるんじゃね?」
「ハイ! そうなんです! 戦略兵器としても優秀な嫁が今回のコンセプトですからね!
どうですかこの禍々しいゼルエ光子の翼! そしてそれを作り出すこの私ですよ!
石田さんも私を天才だと崇めてくださって構わないんですよ!」
『ピガッ! 2体のターゲットを捕捉しました/ 殲滅行為へと移行/ LOCK.ready_> 11_10_9_8_』
いやー正直すごいわ、俺はちょっと博士の頭のおかしさに驚きそうなんだけど、
それはそれとしてこれさ、軍とかに普通に売れるんじゃね?」
「ハイ! そうなんです! 戦略兵器としても優秀な嫁が今回のコンセプトですからね!
どうですかこの禍々しいゼルエ光子の翼! そしてそれを作り出すこの私ですよ!
石田さんも私を天才だと崇めてくださって構わないんですよ!」
『ピガッ! 2体のターゲットを捕捉しました/ 殲滅行為へと移行/ LOCK.ready_> 11_10_9_8_』
石田ギリオは、感心した。
「すっげー! こいつ全然俺たちへの殺意を隠す気がないよ!
なんかもう正々堂々としてるよね! 本当に今までの嫁と違うわ!」
「しまった、74号のAIが少々暴走しているようです……
でもそういう理由不明の殺人もまた可愛いところなんですけどねウヒヒヒ!」
「そもそもどういう層に向けた嫁なんだこいつ」
「すっげー! こいつ全然俺たちへの殺意を隠す気がないよ!
なんかもう正々堂々としてるよね! 本当に今までの嫁と違うわ!」
「しまった、74号のAIが少々暴走しているようです……
でもそういう理由不明の殺人もまた可愛いところなんですけどねウヒヒヒ!」
「そもそもどういう層に向けた嫁なんだこいつ」
『ピガッ……展開/ 殺戮開始重点/』
74号の両腕が禍々しい変形を遂げる! 殺人的レーザーデバイス!
「博士、あれは何」
「レーザー発振スピン反転型量子切断ですよ! 原子のスピン方向を反転させる事で強度に関わらず(略)」
その長々とした説明が始まった時には既に、石田ギリオはドアから博士を蹴り出していた、
狭いキャンピングカーからの脱出に、博士の体が邪魔だったのだ。
74号の両腕が禍々しい変形を遂げる! 殺人的レーザーデバイス!
「博士、あれは何」
「レーザー発振スピン反転型量子切断ですよ! 原子のスピン方向を反転させる事で強度に関わらず(略)」
その長々とした説明が始まった時には既に、石田ギリオはドアから博士を蹴り出していた、
狭いキャンピングカーからの脱出に、博士の体が邪魔だったのだ。
こうして博士の研究所(キャンピングカー)は寸断されたバラバラの鉄屑と化した。
しかし、ヴィクター博士の『俺の嫁』計画はなおも続くのであった……
しかし、ヴィクター博士の『俺の嫁』計画はなおも続くのであった……