哀しみには人間のドラマがつまっています。本当の哀しみを知らない人には、本当の喜びもありません。喜怒哀楽の豊かなC&Aも、哀しみには敏感なのです。さあ、今月は【哀】です。心のひだにしんしんと染み入る、ふたりの【哀】を感じてください。
【長編・秋田の長い1日】
これは、CHAGEが体験した世にも珍しく哀しい実話である。
あれは10月19日。札幌から秋田へ移動した日であった。時間もあるし、ひさしぶりだしってことで、CHAGEは岡田、主催者ノースロードミュージックの色男・佐藤氏らとともにパチンコへ繰り出した。よーし、いっちょガンガン出してやるかー。パチンコ台の前で奮起するCHAGE。ところが、5千円を使っても、玉は全然出ない。そんなとき、終了台を開放させる場内アナウンスがあった。終了台とは、一度打ち止めになった台のことで、つまりとってもよく出る台である。それを時間をおいて開放するのである。もちろん、みんなが待ち焦がれている台でもあるから、当然のように並んでくじ引きとなる。CHAGEは行きたかった。くじ引きをしたかった。でも、やっぱりCHAGE&ASKAという立場が彼の足を止めた。「CHAGEさんっ!見てくださいよ」そのとき、背後から聞こえた岡田の声。彼の手には、くじで当てた開放台の番号が。おーっ、岡田、よくやった。そう。CHAGEは自分のために岡田が当ててくれたのだと思ったのだ。でも、違った。「いいでしょー」。岡田は単に開放台を当てたことを見せびらかしにきただけなのだった。CHAGEの空っぽの台と、ジャンジャン出して山のように玉が溢れている岡田の台。CHAGEはとっても哀しかった。それだけならまだいい。CHAGEのケアのために、仕方なくCHAGEの横の台で遊んでいた佐藤氏までもがジャンジャン出して「いやー、CHAGEさんすいません。あれっ、また入っちゃった。すいませんねー」。
岡田も佐藤氏も勝ったのに、自分は1万円以上負けた。ガックリきていたCHAGEを見て、佐藤氏はあることを思いついた。「CHAGEさん、映画に行きましょう。僕がおごりますから」。あたりまえだ、ばかもん!
パチンコと映画館での二重のショックで、CHAGEはその日の夕飯はパスすることにした。それにその日は深夜からNORU SORUがある。10時半まで仮眠をとろう。CHAGEはホテルに戻り、7時半くらいには熟睡をしていた。なのに、1時間くらいして電話が。岡田だった。食後すぐの電話だったらしく、爪楊枝をシーシーさせながら岡田は言う。「あーっ、CHAGEさんですか?今、メシ食い終わったんですけど、シー、ASKAさんがゴルフの打ちっぱなしにでも行こうって、シー、言っているんですよ、シー。CHAGEさんも行きませんかー? シー」
CHAGEは眠っていたのだ。NORU SORUのために、深夜の仕事のために。このときは、さすがにTAOの心も通用しなかった。岡田に対して殺意を感じたのは仕方のないことだろう。
気を取り直して、CHAGEはまた寝ようとしたが、すでにもう眠れない。哀しい、悔しいがCHAGEの心の中で渦を巻く。そうだ、こんなとき、おれには気分転換の強い味方がある。風呂だ。風呂に入ればいいんだ!
でも、寝る前に一度入っているから、もう洗うところがない。シャワーを浴びるのもなんか哀しいなー。で、何気なくバスルームを見回してみたら、ヒゲそり用のカミソリが。おっ、ヒゲはまだそってなかったぞ。CHAGEはアゴにいっぱい泡をつけて、ゾリゾリとヒゲそりをした。それにしても岡田のバカヤロー。あいつはどうしてああなんだ。そっている間、岡田の顔が浮かんでくる。怒りと哀しみも交互に襲う。ちくしょー。ゾリッ!なんと岡田への怒りで指に力が入ってしまい、カミソリで唇を切ってしまったのだった。お湯で体温が温まっているから、血はどんどん吹き出る。なんとか自分で止血したからよかったが、今でも唇には傷痕が。
長い長い秋田の1日だった。哀しい哀しい秋田の1日であった…。完。
【続・カブト虫】
みなさん覚えておいででしょうか。『Sons and Daughters』のプロモーションビデオ撮影中に、ASKAがもらったあの夏のあのカブト虫のことを。あのカブト虫は9月いっぱい生きて、天国に召されたのです。
8月いっぱいしか生きないと言われる夏の昆虫が、9月いっぱい生きただけでも驚きものですが、残りの1匹はさらに生きつづけ、なんと10月の20日に余生を終えました。
2匹とも桃が大好きで、皮までも食べてしまうほどでした。その桃に覆いかぶさるようにしての最後だったのです。
生き物には寿命があります。生を終えたことに哀しみを覚えたASKAでしたが、同時に生命力の偉大さに驚きを隠せなかったとも。
ASKAは2匹を同じ場所に埋めて、そっと手を合わせたのでした。合掌。
【健康診断】
11月のある日。リアルキャスト社員の健康診断があった。もちろんCHAGEもASKAも参加した。指定の病院へ行って、手術着みたいなガウンを着せられて、他の人と同じように並んで診断を受ける。どこからともなくCHAGEよ、ASKAよって声が聞こえてきたけど、そんなことをいちいち気にしていられない。健康状態を調べてもらうのが先決なのだ。
CHAGEはバリウムが大の苦手だ。前回、ブーッと吹き出して、顔を真っ白にした経験がある。今回は失敗しないようにと、嘘飲みをした。喉をならして、飲んでいるフリをした。ところが、そんな子供だましの手口が通用するわけはない。「はい、ちゃんと飲んで。自分のためでしょ」と係員に冷たく言われ、仕方なく飲んだ。哀しかった。加えて、手術着みたいなガウンが、CHAGEだけどうも違う。みんなはひざが隠れているのに、自分はひざ小僧丸出し。足を組めばパンツまで見えちゃって、リラックスできない。よく見たら、CHAGEは女物のガウンを着ていたのだった。哀しかった。
ASKAはバリウムも採血も心電図も自分のためだと思って、積極的に検診を受けた。ブーブー文句を言うCHAGEを横目に、堂々と検診に挑んだ。でも、身長を計る段でいきなり落胆。なんと5ミリも身長が減っていたのだ。哀しかった。
ただ、救いもあった。「僕はダイエットしてますから。80キロ切ってますよー」。日頃公言してやまない岡田の体重が、なんと81.3キロもあった。ASKAが後ろでしっかり見ているのも知らずに、コソコソと体重計に乗った岡田。「なんだー、81.3キロもあるじゃないかー! J・WAVEの周波数と同じだなあー!」。病院中に響きわたるASKAの大声で、CHAGEの表情はパッと明るくなったのだった。
ちなみにこれで味をしめたCHAGEは、ミヨコの健康診断の結果までをも盗み見して、岡田とミヨコの伝言ボードの欄に体重を書いては、ウキウキとしているのであった。
【ジーパンとセーター】
CHAGEはときどきけっこうな酔っぱらいになる。年に2~3度は、前後不覚の酔っぱらいになって、スタッフをあわてさせる。
今回のツアーで、すでにそういうことがあった。あれは札幌の夜。コンサートもうまくいき、気分がよかったのか、CHAGEはわりと飲みまくってくれた。それはいい。それはそれでいい。
次の日、コンサートのオフ日で、スタッフらとゴルフの約束をしていたCHAGE。早朝の電話でたたき起こされて、CHAGEはあわててベッドから起き上がった。しかし、いきなり脚がもつれて転んだ。なんと、ジーパンを足首まで下ろしただけの状態で寝てしまっていたのだった。哀しかった。でも、そんなことはいつものこと。CHAGEは手早く仕度をして、スタッフが待つロビーへと急いだ。たったの3分でロビーに降りてきたことに感心するスタッフとともに車に乗り込む。おれは仕度は早いんだ。ASKAとは違うんだ。はっはっはっ。と自慢してみたものの、スタッフの目はなぜか冷たい。その目線はなぜか自分のセーターに注がれている。ハッと気づけば、セーターが裏返し。首にタグをヒラヒラさせたまま、CHAGEは人がいっぱいのホテルのロビーを通り抜けて来たのであった。
CHAGE&ASKAとしてのプライドも立場もなくなる瞬間。CHAGEはいったい、あといくつの哀しみを体験すれば気がすむのであろうか。
最終更新:2025年06月23日 22:11