ミーティング【お呼びでない】

リアルキャストはミーティング大好き事務所として業界で名を馳せている。もう昼夜関係なく、ときには深夜にまでスタッフが集まりミーティングをしている。とても仕事熱心だ。事務所に突然出向くことがあるCHAGEとASKAだが、アポなしの事務所訪問はだいたいがミーティング中。誰にも挨拶をせずに帰るのもなんだしと思って、ひとこと挨拶をしようとミーティング中のドアを気軽に開けてみれば、シーンとしてジロッとにらまれるのがオチ。「あっ、お呼びでない」と植木等ぶってみても、誰も笑わない。事務所のアーティストに愛想笑いもできないくらい真剣にミーティングをしてるってことだし、そういうとき、アーティストは早々に退散したほうが賢明であるってこともCHAGEとASKAは知っている。

見えない、おっさんどいて【きつい】

ヤマハの大先輩であるツイストの人気は、そりゃもうすごかった。今でこそコンサートにおいての観客総立ちは当たり前のようになっているが、当時は総立ちコンサートなんてものはなかなかお目にかかれるものではなく、オープニングから観客を一斉に立たせてしまうツイストのコンサートは、業界でも話題になっていた。
さて、当時ツイストのマネージャーをしていたヤマハのスタッフU。本番中は後ろの席で会場全体を見守るのが彼の仕事だったが、根が真面目な彼は、観客の熱狂を直に体感してみたいと思った。そこであるとき、総立ち状態の観客をかき分け、前のほうまで行ってみることにした。やっとの思いで前方へ行けたのはいいが、その場に着いた瞬間、あっちこっちから飛んできたお客さんの怒号。「見えない! おっさんどいて!」。「見えない」はいい。だけど「おっさんはないだろう……」。その場で深く傷ついた彼は、何があっても二度と会場前方に出向くことはなかった。
後にデビューしたC&Aに、スタッフUはこのときのエピソードを打ち明けた。話を聞いたCHAGEとASKAは気の毒に思いながらも、「うちのスタッフも本番中は会場内をウロウロと視察するけど、お客さんに罵倒されるという目に合わなければいいなあ」と願った。ふたりの願いどおり、今現在、お客さんに「見えない! おっさんどいて!」と言われたスタッフはひとりもいない。その代わり、「あっ、○○よ!」って会場のあちこちで呼び捨てにされるスタッフは2~3人いるらしい。

三日月【思いはそれぞれ】

以前、仕事関係者からバースデープレゼントとして天体望遠鏡をいただいたASKA。天体には昔から興味があったが、望遠鏡で本格的に星を観測するなんてことはしたことがなく、いただいてすぐにのぞいてみた。そのとき、望遠鏡の丸いフレームの中に浮かんでいたのが三日月だった。黄金色に輝く色の美しさもさることながら、間近で見たクレーターは、月もまた宇宙に浮かぶ大地であることを思わせてくれた。ASKAはあの日に見た三日月を、しっかりと胸に刻んだ。
ところで、三日月と言えばCHAGEも一言あるらしい。
「三日月っていうのはだな、フランス語でクロワッサンって言うんだよ。ほら、クロワッサンの形を思い浮かべてみな。なるほどでしょ? たかがパンだけど、ちゃんと由来があるんだなあ」
と、笑顔で語るCHAGEの目は、三日月の形をしていた。

ミスリム【青春の鼓動パート2】

好きな女の子がユーミンファンだったため、ユーミンのアルバムを丸暗記したという、ASKAの高校時代のエピソードはわりと有名だ。このエピソードのクライマックスは、彼女がASKAの家に遊びにくる場面である。当時ユーミンは3枚のアルバムをリリースしていて、ASKAは3日間を費やして全曲を丸暗記した。しかし、彼女に気に入られたいというよこしまな気持ちで聞きはじめたアルバムだったが、聞いていくうちにいつしか自分もユーミンワールドの虜になっていた。とくに感動したのがアルバム『ミスリム』に収録されている『海を見ていた午後』。「ソーダ水の中を 貨物船が通る」なんて歌詞の一説は、ASKAの狭い勉強部屋を、山手のドルフィンに変身させていた。「よし。これだ」。ユーミンの虜になりながらもよこしまな気持ちはさらに膨らみ、ASKAはこの曲を彼女の前で歌うことを決意。「♪あなたを思い出すう~」「あっ! その曲大好き!」「♪この店にくるたびい~」「キャーッ!」。ASKAの頭の中には、一小節歌うたびに目がハートになる彼女が浮かぶ。ニヤニヤと想像しながら、イメージトレーニングを完璧にしたASKAは、さっそくその日彼女を迎え入れた。しかしASKAは失敗した。原因は最初にユーミンの歌を聴かせてしまったことにある。現在のようなボーカル力を身につけていなかったため、本家本元の歌の後では素人の弾き語りは哀れなだけという事実に、ASKAは気づかずにいたのだ。しらけた空気を察することもできないまま夢中で歌ってみたが、目はハートになるどころか、彼女は二度とASKAの家にくることはなかった。若者の誤った思い込みが生んだ、ありがちな失恋物語でした。

見せ物小屋【悪への憧憬】

秋と言えば秋祭り。祭りと言えば、柴田、宮崎両少年にとって忘れられないのが博多の放生夜である。生き物を供養する祭り・放生夜では、金魚すくい、綿あめ、カルメラ焼きなど、縁日の定番がズラリと並んだ。なかでも最も少年の心をくすぐったのが、見せ物小屋だった。「さあさ、見てらっしゃい、寄ってらっしゃい」のにぎやかな口上につられて行ってみれば、その後に続く口上も少年の好奇心をかき立てるに十分。「本日の見せ物は、アマゾンの密林で発見された、世にも珍しい大イタチー!!」。「大イタチげなあー」。少年は、綿あめをレロレロしながらも、世にも珍しい大イタチに興味津々。見せ物小屋のほったて感やら極彩色で描かれた看板が、これまた淫靡な雰囲気をかもしだしていて、少年の悪への憧れを刺激する。少年は半ズボンのポケットから小銭を出して、綿あめよりもうんと高いお金を口上係のおじさんに差し出す。そして暗い見せ物小屋に入っていけば、小屋の中央には土を掘って作られた小さな沼が。息を飲んで沼に見入っていると、ブクブクと泡が浮かんでくる。「おおー! 大イタチが出てくるばい!」。手に汗握る少年。しかしそこで目にしたものは、大きなイタチではなく、赤いペンキが塗られた大きな板だった。「はい! これが世にも珍しい"大板血"(大イタチ)」。
見せ物小屋ってのは、こんなもんである。他にも「世にも珍しい牛の夫婦」(牛が二頭いるだけ。しかも雌牛は文金高島田のかつらつき)とか、「世にも珍しい猫に育てられた猫少女」(猫のメークをしているだけ)とか、「スミソニアン博物館から贈与されたエジソンの子供の頃のしゃれこうべ」(よく考えたらそんなものあるわきゃない)とか、見せ物小屋とは要するに言葉のあやを逆手にとったコントなのである。それを真面目に受け止め、何度騙されても見てしまった柴田・宮崎両少年。秋になると、いたいけな当時の自分を思い出し、つい苦笑いしてしまうのだった。

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百科 1996年
最終更新:2025年06月23日 22:24