「きゃあああぁぁ。」
シュシュの悲鳴が聞こえる。
カイル達は今空間のうねりの中にいる。
空間の狭間は、ぐねぐねしていて自分がそこに在るのかどうかすら良く分からない。
空間旅行は何回やっても慣れないな、とカイルが思い始めた時、出口が見えてきた。

「うわっ!」
「キャッ!」
ドスッという鈍い音が響く。
「いつ~。」
カイルが落ちてきた場所にシュシュも落ちてきたようだ。結果、カイルの上にシュシュがのった形になった。
「わっ、ごめんなさい、カイルさん」
シュシュがあわてて飛び退く。
上を見ると、ジャンプをすれば届きそうな位の高さに小さな穴が空いている。
あそこから落ちてきたのだろう。
「えーと、ここは何処なのでしょうか・・・?岩山のようですが。」
「うーん・・・、故郷にあった大龍堂っていう山に似てるきもするけど、
違うみたいだ。」
自分の世界にあった山の大竜堂は、確かに岩山だったがここのように
連なっておらず一つきりだったはずだ。
「あれ・・・?」
「ん・・どうしたの、シュシュ?」
「上から物音が聞こえたきがするんです。」
「え・・・、ほんと!?」
オレは全然聞こえなかったぞ。
「はい。カイルさん、ちょっと行ってみましょう。」
「分かった・・・、痛ぅ。」
「どうしたんですか・・・あっ、カイルさん怪我してるじゃないですか。
さっき私とぶつかったときに。ちょっとかしてください。」
見るとカイルの膝のあたりから、血がでていた。
「大丈夫だよ・・」
「ダメです!ちゃんとみないと!」
擦りむいてただけ、と言おうとしたのだがシュシュに遮られてしまった。
「この怪我が原因でXYZと戦った時に死んでしまうかもしれません。」
そんなシュシュの言葉を聞いてカイルは数時間前のことを思い出す。

「よし。じゃあ、次の世界に行こう。」
シルフの世界でカイル達は、カイルの体調を良くするため休んでいた。
「えっ、カイルさんまだ休んでいて下さい。」
「大丈夫だって・・・」

結局その時もシュシュに押し切られ1時間ほど休むことになってしまった。
どうやら聡明なシュシュ嬢のなかでは―――ブラストに一人で立ち向からシュシュを逃がそうとした
あたりから―――勇敢だけど無茶をする・危なっかしい、そう思われているようだ。
「ッ・・・。」
そこまで考えていないが、それを悟ったカイルは声にならない悲鳴をあげた。
「ごっ、ごめんなさい、カイルさん痛くしちゃいましたか?」
「いっ、いや、そういう訳じゃないけど・・・。」
しばし二人の間に沈黙がながれた。それを破ったのは、
「うん。カイルさんできましたよ。」
というシュシュの声だった。
「ありがとう。シュシュはこういうことできてすごいな~。」
「エヘッ、どういたしまして。」
ほめられて、照れているのだろうか。頬がほんのり朱に染まっている。
「じゃあ、行ってみよっか。上のほうに。」
そうしてカイル達は、山の上のほうに行く―――すなわち登山をすることとなった。

「ん・・・、ほんとに音がする・」
カイルがふとつぶやいた。
「カイルさんも聞こえました・・・?」
「もうちょい・・上のほうから・・・?行ってみよう。」
登っていくと洞窟から「カーンカーン」という音が聞こえてきた。
のぞき込んでみるとカイルやシュシュと同じくらいの男達が鎚で鉄を打っていた。
「ドワーフ・・・?」
シュシュがつぶやいた。その直後後ろからいきなり、
「そんなとこでなにしてるさ?」
聞き覚えのある言語で声をかけられ、カイルは口から心臓が飛び出るかと思った。
「!?え、えーと。オレたち怪しいものじゃありません。」
後ろを向くと長身(カイル達に比べて)で細身な少年がいた。
「えーと、話すと長くなるんですけど・・・」
シュシュがテレパシーで説明をはじめた。
少年は最初信じられないという顔をしていたが、やがて真剣な顔つきになった。
話し終えるとその少年が言った。
「よし!そーいうことなら、今日はウチに泊まるさ!」
「え・・・?」
少年の突拍子のない発言にカイルとシュシュは同時に疑問符を浮かべた。
「その宝器だのなんだのをさがすんさ?それには今日はもう遅すぎるんさ。」
そう言って先に行ってしまった。
「え・・、カイルさんどうしましょう?」
「大丈夫なんじゃないかな・・・、泊めてくれるって言うし。」
「それよりカイルさんどうして話しが通じるんですか?」
そういえば忘れていた。少年とカイルは何故か会話ができた。
そしてシュシュが思いついたようにつぶやく。
「ひょっとして・・・偶然同じ言語が発達したとか・・・?」

そんなやりとりをしながらカイル達は少年の家に着いた。
少年の家族にXYZについて説明し自己紹介をした。
少年の名前は樹 大地(いつき だいち)というらしい。
父・母・大地・そしてもうすぐ生まれてくる妹がいるらしい。
大地の父は、ガッチリしていて、大地の母は、細い。
彼の細身は母譲りなのだろう。
そうしてカイル達の1日が終わった。

翌朝

カイルが起きるとシュシュはもう起きていた。
「あっ、カイルさん。お早うございます。」
シュシュは大地の母と朝食を作っていたようだ。
そんなシュシュをみてカイルは思う。
やっぱシュシュってすごい。
「ところで、宝器所有者ってどう探すの?」
「あぁ、それなら大丈夫。伝承によれば宝器所有者は手繰り寄せられるらしいですから。」
「そーいうもんか。」
そんな会話をしながら、朝食を食べた。そのとき、
「あーた、ちょっと剣打つの手伝うさ。」
大地に呼ばれた。
「え・・・」
そのまま引っ張られていってしまった。
「あ、カイルさん・・・」
シュシュがつぶやくと大地の母が、
「ごめんなさいね、シュシュちゃん。大地は言い出したらきかないの。」
「えっ、あっ、いいんです。あ、あのそれより、このあたりで旧家ってありませんか?」
仕方ない、ひとりだけど調べよう。そう思い聞いてみた。
「旧家?それなら一応家が旧家だと思うけど・・・。」
「ほっ、本当ですか?」
「ええ、確か・・・」
そう言って大地の母は何かをとりにいってしまった。
シュシュは一人になって、少し考え事をしてみた。
XYZのこと、ユグラのこと、そして自分の命を助けてくれた明るい少年のこと。
今思うとカイルに助けられてばっかりな気がする。
だから、シュシュはカイルのことを心配してしまう。
無茶をしないように、死んでしまわないように、と。

そのころその明るい少年は大地と一緒に自分の剣を打っていた。
「いや~、それにしても見れば見るほどいい剣さ。何処で手に入れたさ?」
「家にあったんだ。それより、この辺に旧家ってないかな?」
とりあえず聞いてみることにしよう。
「ん・・・、旧家さ?それって多分ウチさ!」
「えっ、それってホント!?じゃっ、じゃあさ、代々受け継がれてきたものとかないかな・・・?」
「ん~、この鎚とかさ?多分、竈もそうさ?あっ、後あれもそうさ。」
大地が指を指した先には柄の長い斧が飾られていた。
「うーん。」

「シュシュちゃん、家系図がみつかったわよ~・・・、
あれ!?シュシュちゃんどうしたの?顔、真っ赤よ・・・。熱でもあるの?」
大地の母にいわれ、シュシュは我に返った。
「えっ、え、い、いやなな何でもないです。」
気付くと自分でも熱いと思う程に顔が火照っていた。
「ふーん・・・、ひょっとしてシュシュちゃんて・・・ふーん?」
「え、え?ちょっ、ちょっとまって下さい、何言ってるんですか!」
大地の母の意味ありげな言い回しに思わず反応するシュシュ。

「よし・・・!あーたちょっとあれでおれっちと勝負するさ!」
「へ・・・?」
大地の藪から棒な物言いにキョトンとするカイル。
「おれっちの家系がそうかもしれないんさ?だったらやってみたほうがはやいんさ!」
カイルはしばしの間考え、やがて、
「うん・・・確かに、やってみよう!」

そのころ、シュシュは大地の母と一緒に家計図を見ていた。
「あ!これです!この上から3番目の名前、伝承に出てくる名前と同じです!」
「てことは・・・やっぱり家がその家系なのかな・・・」
シュシュと大地の母が納得していると外から、
どおおぉぉん、という大きい音が聞こえてきた。
「え・・・なんですか?今の・・・?」
「な、何・・・?ちょっと見てくるわ。」
大地の母が行こうとするのを、
「小母さんはここで待っていて下さい、赤ちゃんがいるんですから!私が見てきます。」
シュシュが音のした方向へ向かっていくと、そこは広場のようになっており、なんと
剣を構えたカイルと斧を持った大地と粉々の岩がいた。
「ちょ、ちょっとカイルさん達何やってるんですか。」
「ん、シュシュ・・・、えっとこれは」
「よそ見をしてないでつぎいくさ!」
途中で遮られてしまった。
二人の武器が交錯してゆく。ドワーフの力故かパワーでわ大地がおしている
ようにみえるが、カイルは小柄であることを利用してすばしっこさで応戦している。
剣と斧の応酬が続く中、シュシュは何かを感じとった。
(何・・・?このかんじ・・・。何かが来る・・・?ひょっとして!)
シュシュは二人の間に割って入っていった。
「カイルさん!奴らが・・XYZがここにきます!」
シュシュがそう言った瞬間、遠くから全長3メートルはあろうかという斜め上から
巨大な槍が飛んできた。それを、
「あーた達ちょっくらどくさあぁ!!」
なんと大地は、軽々と斧で弾き飛ばしてしまった。
「おめーら、不意打ちなんて卑怯なことすーじゃないさ。」
斧で槍が飛んできた方向を指す。そこには、大地の2倍ほどの身長の甲冑をつけた馬にのった騎士と
10体ほどの騎士が宙に浮いていた。さらに、驚いたことに馬と騎士達には全員、首がなかっのだ。
「XYZッ。」
カイルがつぶやく。
「宝気所有者、処刑する。かかれ。」
馬上の騎士がそういうと首無し騎士達がカイル達に向かってきた。
「だったら!俺たちだって、[カイル]!!」
「グランディオーソ!!」
カイルとシュシュはユグラを発動させる。
大地も
「おれっちも戦うさぁ!!」
やるつもりらしい。
ところが馬に乗った首無し騎士がカイルのところへ向かってきた。
「お前の、炎、厄介。攻撃範囲、広い。風との戦いみてた。」
そういって、カイルのえりくびをもって持ち上げてしまった。
「なっ!」
「カイルさん!」
カイルとシュシュは手を伸ばした。もう少しで届く―――しかし連れ去られてしまった。
「お前、別の空間で見ててもらう。XYZ空間発動!」
カイルは、何故かその瞬間故郷のばあちゃんやシルヴィスドラゴン、ジャックドラゴンのことを
思い出した。

それを別の空間から感じているものがいた。
「ふふふ、苦戦していますねぇ。カイル君達。」
ブラストだった。風に耳をすませている。
「それにしても、ここも変わってしまったものですねぇ。」
ブラストは今、ある人物に会うためコロボックルの世界にきている。
その人物とは・・・、
「何しにきたのじゃ?」
「ふふふ、お久しぶりですねぇ、師匠。
いいえ、それともこうお呼びしたほうがいいでしょうか、シルヴィスドラゴン。」

「XYZ空間発動!」
首なし騎士がつかんでいたカイルのえりくびを放した。
首なし騎士は現在地上から20メートル程はなれたところを宙に浮いている。
当然手を離されればカイルは落ちる。
「うわぁぁぁ、落ちるぅぅぅ!!」
落下の空気抵抗を肌で感じながらカイルは、
ああ、俺ここで死ぬのか・・・、もう一回だけ故郷のみんなの顔、みたっかたなぁ。
とまあ、ありがちなことを考えていたが、ある事に気づいた。
あれ?そろそろ落ちてもよくね?実は俺落ちてないとか?
いや、それはない。すさまじい空気の抵抗を受けていることが何よりの証拠である。
「なんだ?これ、落ちてない?」
「そうだ。お前、閉じ込めた。」
よくみると、上に首なし騎士がいた。
「だが、俺程度では、これ限界。俺より上には四人の隊長そして三神将がいる。
そいつらはもっと強い空間、張れる。俺では、元の空間以上の大きさを持たない。」
今までの話をまとめるとどうやらカイルは閉じ込められ、おまけにこいつ
より強いやつが最低7人はいるらしい。
「っ!どうすっか・・・。うーん・・・、そうだ!とりあえず、あれをしてみれば・・・」

そのころシュシュと大地は9人ほどの首なし騎士たちに囲まれていた。
その緊迫した沈黙を
「大地さん、お願いがあります。」
シュシュが破った。
「ん、いったいなんさ?」
と、大地が返した。
「この首なし騎士たちと一人で戦わしてくれませんか?」
「どーいうことさ?おれっちだって戦えるさ!」
大地がまぜっかえした。
「確かに、大地さんは力も強いですし、過去の所有者と共通点もあります。
というより、ほぼそうだと確信しています。ですが、まだ発動をしていません。
それに大地さんには、あなたのお母さんや他の人を守って欲しいんです。
お願いできますか?」
学のない大地にとってはここまで理屈をならべられては、ノーとは言えない、
それを確信したようなシュシュの目だった。
「・・・わかったさ。」
といって、下―――もっとも、この騒ぎを聞きつけたドワーフの人々があつまっていたのだが
―――に行った。
「ひひひ、いいのかい?お嬢ちゃん、一人にしちまって。」
首なしの一人が下卑た笑いで言った。
「・・・ベンチュード。」
シュシュはそれには答えずつぶやいた。
そうするとシュシュのまわりに浮いていた水がシュシュの右手に集まっていった。
そして、それは水の槍となった。
「私は、今いらだたしく感じているものが二つあります。一つはカイルさんを
さらっていったあなた達、もう一つはさっきカイルさんを救えなかった私自身です・・・!」
シュシュは首なしたちをにらみつけた。
首なしたちは、シュシュのにらみに心臓をわしづかみにされるような、
言い知れぬ恐怖とも覇気ともいえぬものを感じた。
なんだ・・・この小娘は・・・?本当にさっきまでの小娘か・・・?

シュシュの怒りを遠い地で感じているものがいた。
「ほう、あの少女が・・・、成るほど。」
ブラストだった。
「師匠、ひょっとしてここまで読んでいたのですか?」
「さて、わしには何のことだかさっぱりじゃなぁ。」

「シュシュ、シュシュゥゥ!聞こえるかぁ?」
「わっ!カ、カイルさん?無事だったんですか?」
空間から隔離されていたがなんとかテレパシーを届けることができた。
「シュシュ、今どうなってる?」
「えーと、私は首なしたちと対峙しています。大地さんには他の皆さんを守ってもらっています。
カイルさんのほうはどうですか?」
「空間に・・・閉じ込められてる!」
「そ、そんなことあるんですか?」
「なんとか、脱出しようとしてるけど・・・」
「わかりました。私もなんとかしてみます。」
テレパシーをここでやめた。
なんとかしてここを抜け出さないと・・・。
空間にむけて炎を発射したりと色々してみたが、効果はなかった。さらに首なし騎士がシュシュ
たちのところへいってしまった。
どうすればいい・・・?
どうすればいい・・・?
考え込んでいたその時だった。
「・ードをつか・・」
「な!なんだ、この声?」
「ノードを使え」
「な、なんだ、け、剣・・・?」
まさか剣に話しかけられるとは。
「はっ、はぁ?ノードってなんだよ。」
「万物に宿っているエネルギーのことだ。」
無機質で抑揚のない棒読みのような声だった。しかも、フィルターにかかったように聞こえる。
「やつの話を聞いたろう。元と大きさが同じなら、ノードの量もおなじだ。
ならば、それ以上のノードで吹き飛ばしてしまえばいい。」
「ど、どういうこと…?」
もう返事は返ってこなかった。
ノード・万物にある・炎・空間以上。
「あっ、そういうことか!」

「そろそろ、滅ぼす。バリスタ!」
上空から首無し騎士はそういうと、全長3mはある風を纏った槍をとりだし、人々がいるところえ投げた。
槍はスクリュー回転しどんどん加速して、人々がいるところへ―――その瞬間
槍が何者かにはたきおとされた。
「あんたの相手はおれっちさ!」
大地だった。
「・・・。」

「たぁ!!」
シュシュはいまだ囲まれてはいたが、首無しはもう残すところ4体となっていた。
もちろんシュシュもそれなりに傷をおってはいるが、槍と剣で戦っているにしても、シュシュの力は圧倒的だった。
始め9体の首無しがかこんでいて、なおかつ同時にきりかかったのだが、シュシュが動いていない
にも関わらず、切ることができなかった。
ユグラの力を使ったわけではない。
シュシュは、エルフ故の天性の超感覚で、相手の動く僅かな音と、空気の振動を肌で感じ取り
紙一重で見切りをしたのだった。
「とぉ!!」
シュシュの槍の一振りで残りは3体となった。
「だいぶ片づきました・・・。カイルさんは、どうですか?」
なんとかなりそうだったので、カイルにテレパシーをおくることにした。
そして、
「[カイ・]バー・・ップ最だ・げん・・つ・・どう。」
「カイルさん?」
首無し達は炎に灼かれていた。
炎の先には―――

「[カイル]バーンアップ最大限発動!!」
おそらく剣のいっていたことは、空間の大きさ以上の炎を
発生させて、空間をパンクさせる、ということだろう。
「うおおおおぉぉぉ!!」

「カイルさん!」
カイルがたっていた。
「無事だったんですね?」
「ああ!」
「どうやったんですか?」
「それは・・・」
ズゥゥン。その時だった。鈍い音がしたのは。
「!行こう、シュシュ。道々はなすよ。」

「ハァ・・・ハァ・・・」
そろそろちょっとまずいさ・・・。
始め、大地は首無し騎士のバリスタをなんとか弾いていたのだが、ユグラも発動できていない
状態では、いかんせん厳しすぎた。
「くっ、・・・まだまださ!」
大地は騎士に向かって飛びかかってゆく。
「・・・。」
騎士は無言で大地の攻撃をかわす。そんな中騎士が
「お前、周り見てみろ。」
といった。
大地は辺りを見回すと大地の周りに弾き飛ばしたはずの槍が五本ささっていた。
それは、ちょうど上から見れば星形五角形の形をしていた。
さらに、大地はそれの中心にいた。
「な、なんさ、これ・・・。」
その時、突如、大地の脇腹を何かが一閃した。
「がっ!」
大地は倒れ込んだ。気絶しそうになるのをこらえて騎士をにらんだ。
「それ、お前を閉じこめる結界。その中では、お前風で動けないし、切り刻まれる。」
「くっ・・・ぐっ!」
大地は吐血した。だが、それでも風は容赦なく襲い続ける。
「とどめ。」
騎士がバリスタをむける。
「大地~、何処~。大地?」
突如、声がした。
10mほどの高さの崖の上に大地の父と母がいた。騎士は黙って両親のほうに槍をむけた。
何やってるんさ、父さん、母さん。早くにげるんさ。
叫びたかったのに声にならなかった。動きたいのに、体が痺れたみたいに動かなかった。
くそ・・・!くそ・・・!!
守らなきゃいけないんさ、おれっちは兄貴になるんだから!
そうだ。守るのは父や母だけではない。もうすぐこの世に生まれてくる妹も守らなければならないのだ。
父さんを母さんを、そして妹を守るための力が・・・、
力が欲しい!!
そして、騎士の手からやりが放たれた。

「はぁ、はぁ、剣が言葉を話すなんてそんなことあるんですか?」
「うん、剣から声が聞こえた・・いや、なんていうか
感じた、てほうが近いかもしれない。」
カイルとシュシュは音のした方向へ走っていた。
「う―ん・・・でも、そんなことエルフの世界でも聞いたことないですよ・・・、
あ!あれカイルさん、ひょっとして!」
そこでカイル達がみたものとは・・・
なんと大地の両親の前に、槍があった。なにか植物の根のようなものにつかまれている状態で。

力が欲しい!!そう思った瞬間大地はぼんやりとした空間の中にいた。
そこで斧からそれを聞いた気がした。そして、それを呟いた。
「カ・タ・ス・ト・ロ・フ」
気が付くと根のようなものが槍を止めていた。
ズゥゥンという音を出して。
さらに、結界も解けていた。根がでた衝撃で槍がはずれたのだろうか。
「く・・・、目覚めてしまったか。」
「もう・・・、あーたのすきにさせねーさ!」
そういうと大地は、騎士にむかって斧を思い切り振り下ろした。
「ぐっ、くふう・・・」
騎士は槍で斧を押さえているが、長く持ちそうにない。
そのことを悟ったのだろうか。ふと、何か話し始めた。
「く・・・くくく、自分を倒した位でどうする?私の上に四隊長、さらにその上には
三神将がいる。」
「そんときは、そんときでまた倒してやるさぁぁ!」
そして、大地のカタストロフは騎士を一刀両断した。
だが、大地は両断した中にキラリとしたものを見た。
それは、正八面体のような形をした結晶だった。大地が触れるとそれは粉々になってしまった。
そこで、大地は騎士の声をきいた。
「くくく、いいことを教えてやろう。今、ここに三神将の一人
コードxyz―busido―uesugiがむか・・って・てい・ぞ・・・
ふふふ・・ふ・ふ・・ふ」
「なっ!それ知らせなきゃさ!」
大地はそれを思うやいなや走り出した。
ところが、
「大地さ~ん。」
という声が後ろから聞こえてきた。それはカイルとシュシュの声だった。
それを見ると大地はカイル達をこう呼んだ。
「あ!兄貴と姐さん。」
「あ、兄貴?な?、なんで?」
「あ、姐さん、ですか?」
明らかに頭の上にハテナマークが浮かんでいる二人に大地は彼なりの理由を述べた。
「おれっち、これから色々教えてもらわなきゃなんないさ!だから、そう呼ばしてもらうさ。」
理由を語られてもカイルはまだ怪訝そうな顔をしていた。
自分より背が高い子に言われても・・・。
シュシュを見るとシュシュも同じような顔をしていたので、似たようなことを考えているだろう。
「それより姐さん、三神将って知ってるさ?」
大地が藪から棒に質問をした。
「そういえば、オレも気になってるんだけど・・・。」
「三神将・・・ですか?」
カイルが同調し、シュシュが反応した。
「そうさ、それがここに向かってきてるっていってたさ!」
シュシュはその言葉を聞くといきなり大地につめよった。
「えっ・・・?!そ、それはほ、本当ですか??」
カイルにはシュシュが震えているように見えた。
「どっ、どうしたの?シュシュ。いきなり。」
シュシュは振り返りカイルにとおる声でいった。
「カッ、カイルさん、逃げましょう!!三神将には勝てません!!」

コロボックルの世界にて

「さて、師匠・・・、行きますよ。」
ブラストがシルヴィスに言った。
「どこへじゃ?」
そこで、ブラストはフゥとため息をついた。まるで、分かっているくせに、とちゃかすように。
「もちろん、貴方が鍛えた少年のところへですよ。」
「何故、わしが?」
シルヴィスはあくまで知らないふりをとおしている。
「いいんですか?あの場に三神将がこようとしているのですよ。
ひょっとして、それにすら気付いていて、計画どうりなんですか?師匠。」

「三神将には、まだ勝てません!!逃げるしかないんです!」
シュシュはカイルに向かって叫ぶ。
「でも、シュシュ!そうしたら、この空間の人達はどうなるんだ?!」
「・・・!」
シュシュは言葉をうしなった。そして、また口を開こうとした瞬間だった。
「今更、拙者の話をしておるのか?遅い・・・!!」
その低い声は頭に直接響いてきた。
「なっ?ひょっとしてこれが!!」
そう口にした瞬間、上から斬撃がきた。
次の瞬間には大地がそれを受け止めていた。
「はぁ、はぁ、敵はどこさ?」
大地がつぶやいた。
そして、またあの低い声が響いてきた。
「力が自慢のようだな。だが!!」
大地が吹き飛んだ。
「次は貴様らだ。」
斬撃が二人にとんできた。
大地が力負けした?
カイルはそう思いながらかわそうとした。いや、そうすることしかできなかった。思うひますらなかった。
シュシュをほうは紙一重でかわしている。
「エルフはやはり感覚が強いか・・・。ならば・・・。」
そういった声が聞こえその後とてつもなく高くて大きい音が響いた。
カイルは耳鳴りがしたが、我慢をしてシュシュを見ると、
シュシュは耳を押さえて震えている。目にはうっすらと涙が浮かんでいるようにも見える。
「シュシュ?どうし・・・」
「くらえ。」
という声がさえぎった。
カイルは夢中でシュシュのほうへ行き、彼女をかばった。
そして彼も吹き飛ばされてしまった。
カイルは消えそうな意識の中で感じた。
分断された、と。
カイル、シュシュ、大地は三方向に散らばっていた。
その圧倒的な存在を中心にして。
「児戯だ・・・!!」

「ふふふ、大変なことになってますよ、師匠。」
「そのようじゃの。」
ブラストとシルヴィス、二人はドワーフの世界にきていた。
「今の音は考えましたね。あの少女は感覚が強い。だが、それ故に刺激を強く
感じてしまうのです。」

それは兜をかぶり、腰に刀を下げ、鎧を着ていた。さながら、武士のような格好で。
「少々手荒かったか。宝器所有者達よ。
とはいえ、今から貴様達にハンディをやろう。」
「なっ?」
カイルは起きあがり声を振り絞った。なにかをしなければ、存在にのまれてしまいそうだったから。
「拙者はこれから、xyz空間はつかわん。刀の力だけを使う。
加えて・・・!そちらが攻撃するまでこちらからは攻撃をせん。
拙者は殺しではなく決闘をしなければならんからな。」
くっ・・・。カイルは奥歯をかみしめた。その時だった。
「カイルさん・・・。」
テレパシーだったが、自分を呼ぶ声がした。あわてて周りを見ると
片膝立ちで起きあがっているシュシュと目が合った。
「シュシュ!どうし・・・」
カイルが聞こうとするとシュシュは首をふって遮った。
「カイルさん、今それを話す時間はありません・・・、唐突ですけど1分でいいので
時間を稼いでください!望みは薄いですけど何とかなるかもしれません!。」
「・・・分かった。」
カイルが了承するのを聞いてシュシュは下をむいて何かを考え始めた。
カイルはとりあえず自分にできる事をしようと口を開いた。圧倒的なそれに向かって。
「お前があの首無し騎士がいってた三神将か・・・。
強いんだな・・・」
そこまで言ってカイルはふと疑問を感じた。そして、それを口にした。
「お前くらい強いヤツが3人もいるんだろ?なんで、今までこなかったんだ!?
そして、何故他の空間を攻めるんだ!?そもそもお前らはなんなんだ!?」
カイルは心にひっかかっていたものをぶつけた。
「聞きたいか?」
そのまま聞き流されるかと思ったのだが、意外な事に返答が返ってきた。
「知りたいのならば、最初の一つだけ答えてやろう。
単純なことだ。XYZにおいて四隊長および三神将は力が大きすぎて
な、他の空間では能力や活動時間を大幅に制限されるのだ。
そうだな・・・、拙者がここに居られるのも20分が限界。」
カイルはそれを聞いて勝機が出た、と思った。しかし、
あれ?じゃぁ、なんでこいつは此処にきたんだ?
だが、その疑問は言葉にならなかった。なぜなら、
「カイルさん、ありがとうございました!」
とシュシュが入ってきたからだ。
「カイルさん、ひょっとしたら、今の20分の話もありますし、
あいつをなんとか退けられるかもしれません。」
この言葉で疑問は吹き飛んでしまった。
「ほっ、本当か?!」
「ええ。今、大地さんにもテレパシーを送ってるんですけど、
作戦があるんです。」
僅かだが、語尾が上がっていた。それが、カイルにブラスト戦の事を思い出させた。
シュシュが策をだした時、あ時も語尾が上がっていた気がする。
「それで、姐さん!作戦てなんなんさ!?」
考えている内に大地が入ってきた。
「今から、お二人にいう通りに動いてもらいます。
お二人にお願いしたいのは・・・・・・。」
「・・・・・。・・・?」
「・・・!・・・。」
「・・・です!お願いできますか?」
「ああ!!」
「あいあいさ!」
カイルと大地は答え、自分の仕事をしようとした。


―――「まず1つめはカイルさんにしてもらいます。
剣に大きくなくていいので、炎を灯して下さい。」
カイルはシュシュの言葉を思い出し、炎を灯す。
でも、シュシュはここからどうするんだろう?
そんな疑問が頭に残る。


―――「2つめは私がカイルさんに炎を利用して
雨を降らせます。」
カイルさんの炎でできた上昇気流を利用し、さらに
自らのユグラの基本能力でもある液体操作を使って
薄い広範囲の雨雲を作り出す。
シュシュはその一連の動作を手早く行う。
「雲を作ってどうするつもりだ?」
武士が尋ねてきたが、シュシュは答えず、聞き流す。


―――「3つめ、これは大地さんにしてもらいます。
使うのは初めてで大変だと思いますが、ユグラの力を
最大に使ってこの辺りに密林を作って下さい。
雨が降ったら合図です。」
それを思い出していた大地の頭に水滴が落ちてきた。
雨はだんだん強くなっていく。雨が降ったら合図・・・!
カタストロフ発動!!大地はそれを使った。

しばらくすると一人を取り囲んでいる3人の円の同心円上に
植物の芽が生えたかと思うと、それらは一気に成長してあっという間
に密林になった。
そしてさらにそれを上からブラストとシルヴィスが傍観していた。
「ほう、考えましたね。どこかの世界には、風と水は100年かけて
森を作るという言い伝えがありますが、それをあんな短時間でやってしまうとは・・・。
しかし、これからどうするのでしょう?ねぇ、師匠。」
雨はもうやんでいた。

「なるほど、これで目くらましのつもりか・・・。だが、どうするのだ?」
そうつぶやく武士の前に炎が飛んできた。
「む!炎・・・ということはあの小僧か!はぁ!!」
構えて、刀の力で炎をなぎ払った。
「攻めてきたということは、こちらからも攻めさせてもらうぞ。」
そして、彼は抜刀しようとした。だが、刀は抜けなかった。
「なっ!?」
それもそのはず、刀の鍔と鞘が抜刀しようとかけた手および鞘をおさえる手に
ツタで何重にも巻き付けられていた。ツタからはのびている部分があり、
その先を見ると、
「もう刀は抜かせねーさ!!」
カタストロフにツタを巻き付けた大地が立っていた。
「くっ、小童がっ!!」
「兄貴ぃ、OKさぁ!!」

「!今のがヤツの刀の能力!」
シュシュは敵の力を観察していた。
今、分かった力は3つ。
1つ、超高速抜刀。はっきりとは見えなかったが
間違いなく、抜刀し納刀していたこと。
2つ、剣筋が複数にわかれる。炎をさいたのはそれだった。
3つ、刀に10メートル以上の射程があること。
炎が10メートル手前にあったのにヤツはそれを切った。
そこまで整理してから、自分の最後の仕事にかかった。

「雨がやんだら、ヤツに向かって炎を飛ばして下さい。」
カイルはそれを実行し終えると大地の合図がとんできた。
「最後、カイルさんはヤツに向かって炎の抜刀術で
つっこんで下さい。」
作戦を思い出し突っ込もうとした。
その時、
「突っ込・・むのだ・・・ったらもっと・・い・・いものがある。」
また剣の声だった。


「兄貴、ちょっと遅いさっ!」
大地は武士にツタを切られないようにかくとうしていた。
そこへやって来たのは、
「こういう使い方もあるのか・・・。」
といって、炎のサーフボードに乗ったカイルだった。
「くっ!今度は小僧か!!」
突っ込んでくるのかと考えたとき、武士はさっき自分が払った炎を見た。
それがいきなり激しく燃えだしたのだから。
よく見ると、自分の服が乾いていた。
!まさか!?水を酸素と水素に分解して・・・。
「くらえぇぇ!!!」
炎の抜刀が武士をとらえた。
そして、爆炎と爆音があたりを包んだ。

「カイルさ~ん!何処にいますか?カイルさ~ん。」
シュシュは煙の中でカイルと大地を探していた。
そうすると、カイルが大地の肩を支えながらこっちへ来た。
大地の方は半分気絶しているようだ。
「うまくいって良かった・・・。シュシュの作戦のおかげだよ。
ありがとう・・・、シュシュ。」
シュシュはカイルにお礼を言われるとは思っておらず、
「どっ、どういたしまして!」
と、かんだうえに語尾が強くなってしまった。
「カイルさん、でもこれで時間的にもヤツを・・・」
「倒したと思ったか!!」
その声は突然した。そして、剣閃も突然やってきた。
「!」
「っ!」
認知はしたものの反応はしなかった。
できなかった。
カイルというコロボックルとシュシュというエルフの反応速度を完全に超えていた。
それはやはり煙の中から現れた。
三人は倒れ込んでしまった。宝器発動による疲労と刀による傷でもう立ち上がる
ことなどできなかった。
「なかなか、考えたな。雨は森の為だけではなかったのか。
だが・・・、悲しいかな、拙者に傷を負わせるには力不足だったようだ。」
よくみると武士の鎧にこそ傷や破損があるものの露出している顔などには、
傷がついていなかった。
「貴様らを放っておくのは危険だ。此処でとどめをさしておこう。
時間も僅かに残っているのでな。」
そういって、ヤツは刀を構えた。
そして、刀を抜いた。
無数の剣閃が自分をとらえる、そう思い目をつぶった。
が、彼女に刀が届くことはなかった。
斬撃をカイルが自身の剣で受け止めていた。
大地は半ば気絶しながらそれを感じていた。
「兄貴・・・、斬撃からおれっち達を守るために・・・。
全くあーたって人は・・・」
そこで彼は完全に気絶し頭を垂れた。
「ほう、まだ立つことができたとはな・・・。
何故そこまでして戦うのだ?」
武士は問うた。
何の為に頑張るのか、と。
カイルはそれに死力をふりしぼって答えた。
「ハァ、ハァ、目の前にいる人を守りたいからだ!!!」
ただそれだけだと。
「ならば、守ってみせよ!残り時間を耐えたなら、そなたの勝ちだ!
耐えなければ・・・、ゆくぞ!!」
武士は全力で答えた。
しばらくの間、剣を打ち合う音が響いた―――。


―――カイルさんが戦っている・・・。
シュシュもまた気絶しながらそれを感じていた。
カイルさん、もう傷つかないで下さい。
カイルさん、もう―――。


剣の音は鳴り止んでいた・・・。

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最終更新:2010年02月01日 12:40