第16章



「凶戦士の事?それなら、一通り説明したが………」
ファルコが怪訝そうな顔で聞き返す。
そう。凶戦士の事は「ここ最近、破壊活動を繰り返す男」という説明を受けた。
しかし今、大地が聞きたいのは『凶戦士について』ではなく『凶戦士とファルコたちについて』だっ
た。

「単刀直入に言うんさ。………『凶戦士』ってのはファルコさん達の仲間だったんさ?」

今度は、ファルコの表情が驚いた顔になった。
「………どうしてそう思ったんだい?」
「なんとなくさ。でも、しいて上げるならファルコさん達が凶戦士と戦っている時のことさ。みんな、
なんか躊躇ってるような感じだったんさ」


夢を見た。
それはシュシュが幼いころ、初めてエイリーに槍を教わった時のものだった。
5、6歳くらいだったと思う。
「どうして修行をしなきゃいけないの?」
幼心に気になったのだ。強いことの必要性が。
シュシュがそう尋ねると、エイリーはにっこりと微笑んで、
「シュシュ様は、お父上のことは好きですか?」
と、逆に聞いてきた。
「うん。お父様のこと、だぁーい好きだよ!」
「では、お母様のことは?」
「お母様も大好き!」
エイリーのこともお爺様のことも、みんな大好き。
「ならもし、シュシュ様の大好きなお父様が、何か危機に陥っていたらどうしますか?」
エイリーが少し、声色をおとした。
「んー……とね、シュシュがお父様を助けてあげるの!」
フフーン、とちょっと偉そうに胸を張ってみた。
「そう言うと思いました。大切なものがある時、それを失わなくてもいいようにするため。シュシュ様がしている勉強も、
この修行も、すべてその為にするんですよ」
シュシュ様の場合はお父様や周りの大好きな人ですね、と付け足す。
そう言って、私の頭を優しく撫でてくれた彼女の顔は、なんだかすごく大人っぽかった。

視界が暗転する。

今度は見知らぬ光景。
シュシュは、果てしなく続く水面の上に立っている。
後ろから名前を呼ばれた気がして振り向くと、これまた見知らぬ少女がいた。
その少女は、長く淡い水色の髪を持ち、なんの装飾もされていない、真っ白いワンピースを着ていた。
見知らぬ筈なのに、その水色の少女のことを知っている気がした。
「疲れてもう歩けない?」
と、水色の少女が尋ねてきた。
シュシュは、まさか、と首を横に振る。
「良かった。なら、あなたの傷、私が少しだけ癒してあげるね」
ありがとう、と呟いてシュシュはゆっくり歩き出した。
水色の少女はささやくように声を投げ続ける。
「がんばって。私はいつもあなたと一緒にいるし、いつでもあなたと戦うから―――」


シュシュはゆっくりと目を開けた。
目の前には、心配そうな顔をしたカイルがいた。
「シュシュ!良かった~、目、覚まして」
どうやら、いつもと立場が逆転してしまったらしい。
「ごめんなさい、心配かけて………。でも、もう大丈夫です!」
傷を負った腹部へと手を伸ばす。
すると腹部にあったはずの傷が消えていた。
(やっぱりあなたが助けてくれたんですね。)
シュシュは微笑みながら、自身の宝器である指輪、グランディオーソを見る。
(感情に任せて、あんなひどい使い方したのに)
指輪についているサファイアが、瞬いた。
カイルは、ニコニコして指輪を見つめるシュシュを、?という顔で見ていたが、
「そういえば、大地がファルコ達のところに来て、って」
と思い出したように言った。
今後のことでも話すのだろうか、と考えながらそこへ向かうことにした。

その部屋に行くと、大地とファルコ達がいた。
ファルコは、シュシュたちの顔を見ると出し抜けに、
「先に謝っておく。すまなかった」
と、頭を下げられた。
「そそんな、いきなり………、とともかく頭をあげてください」
驚いたシュシュは少々どもりながら返事をする。
「君達を呼んだのは、凶戦士………と私達の事なんだ」
『凶戦士について』ではなく『凶戦士とファルコたちについて』、ということだろうか。
「私達は隠していたつもりだったのだが、大地くんにはばれていたらしい」
ファルコが大地の方を見た。
その大地は、いつもより真面目そうな顔をしていた。
「結論から言うと、私達と凶戦士は仲間だった」
目を見開いて驚いた。
だが、その割に冷静だった。口を挟みそうだったカイルに目配せをしてやめさせた。
今は、黙って聞いていた方がいい、と思ったからだ。
「何から話すべきか……。そうだな、始まりはある事件だった」
ファルコはそう切り出し、語り始めた。

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最終更新:2013年06月16日 00:01