ふとベンチを見ると

266: 黒ムツさん [sage] 2012/07/27(金) 21:27:34.63ID:9SqnS7DqO
    仕事帰りに缶コーヒーを買い、毎日のように公園のベンチで一服するのが日課となっていたが、忙しさにかまけここしばらくの間公園からは足が遠のいていた。
    梅雨明けと共に、久しぶりにあの野良猫の姿を見たくなり、コンビニで唐揚げ君を買い公園へと足を運んだ。
    いつものベンチに座り、唐揚げの入った袋を揺すってカサカサと音を鳴らすと、すぐに猫が子猫を数匹引き連れて私の前へと現れた。
    親猫には耳にV字の切り込みがある。この印のある猫は地域猫といって誰かが世話をしているそうだ。私にはこの猫に関わっている人物に心当たりがあった。

267: 黒ムツさん [sage] 2012/07/27(金) 21:47:33.82ID:9SqnS7DqO
    この公園で地域猫という活動をしているのはアラフォーの女性で、何度か話をしたことがある。不眠に悩んでいることや、彼氏に何をプレゼントすればいいかなどと他愛も無い相談にのったこともある。
    アラフォー女が現れれば公園の近況が聞けるかもしれない。そんな事を考えながら唐揚げ君を食べ、ダイドーのブラックの樽缶を飲みながら地域野良猫の親子を眺めた。

268: 黒ムツさん [sage] 2012/07/28(土) 01:00:02.20ID:97ka1nH0O
    ベンチに座って足元に野良猫の親子を侍らせていると、案の定アラフォー女が現れた。
    アラフォー女に挨拶をすると、彼女は聞いてもいない公園の近況を話し始めた。なんでも最近野良猫の惨殺事件が続いており、パトロール中なんだという。
    私はお目当てのキングオブガトーの事が気がかりになり、アラフォー女にそれとなく聞いてみると、しばらくの間キングオブガトーを見かけないと言う。
    まさかキングオブガトーに限って事件に巻き込まれたとは思えないが・・私は公園から遠ざかっていたことを後悔しはじめていた。

318: 黒ムツさん [sage] 2012/07/30(月) 23:17:06.70ID:U8wKnGAIO
    姿を消したキングオブガトーを探すため、私は再び仕事帰りに公園に通い出した。
    一週間程たったある日、裏山の近くで餌やりのバイク乗りに再会した。彼は以前二匹の猫を公園に遺棄し、度々餌を与えに通っていたが、二匹は既に他界している。
    話を聞いてみると、顔の周りに鬣のような毛が生えている猫に餌を与えているという。
    私はその猫がキングオブガトーだとすぐにわかった。しかし、アライゲマの現れる危険な裏山に移動したのは何故だろう?
    その日はバイク乗りと一緒に待ってみたが姿を現さなかった。しばらくこの辺りで姿を現すまで通ってみる事にしよう。

    
322: 黒ムツさん [sage] 2012/07/30(月) 23:32:46.97ID:U8wKnGAIO
    公園の端の裏山側に通い出してしばらくの間、野良猫やアライゲマの姿を見ることは無かった。
    公園の端の公衆トイレの身障者トイレは回転式扉になっているが、ある日、人気が無いのに勝手に扉が開くのを目撃した。
    夜になると街灯が少なく、薄暗く不気味な場所で勝手に扉が動くのを見て、出たか?この世の者では無いものが出てしまったのかと一瞬焦ったが、良く見ると、野良猫がトイレから出入りして扉が動いていた。
    残念ながらキングオブガトーでは無かった。暇なので唐揚げ君をこの野良猫の方に放ってやった。

    
343: 黒ムツさん [sage] 2012/08/01(水) 22:10:10.48ID:I8rKea2LO
    公園の裏山側に何度も足を運んだが、キングオブガトーには会うことは出来ず、変わりに身障者トイレを寝床にしている野良猫は唐揚げ君一つをあげてから毎度私を覚えて出てくるようになった。
    仕事が早く終わり、夕暮れ時に公園に訪れ裏山側に向かい歩いていると、身障者トイレから突然悲鳴が聞こえた。
    急いでトイレの中を覗いてみると、手押し車の横で老人が倒れていた。
    老人を助け起こし話を聞いてみると、用を足している最中、回転式扉と床の隙間から突然野良猫が入ってきて、老人と目があった瞬間、老人を引っ掻くわ飛び回るわで気がついたら床に倒れ込んでしまったという。
    辺鄙な裏山側の身障者トイレを使う者は少なく、トイレ猫は安心して寝床にしていて、帰ってきたら老人がいたのでパニックになったのだろう。
    トイレ猫をなんとかしないといけない。私はそう思った。

344: 黒ムツさん [sage] 2012/08/01(水) 22:20:59.85ID:I8rKea2LO
    アラフォー女の忘れ物を勝手に拝借した捕獲箱を使ってトイレ猫を保護しよう。私なりにトイレ猫問題の解決に取り組んだわけだが、意外な形でこの問題は解決した。
    キングオブガトーを探しに公園に訪れたある日、身障者トイレの辺りで若者がワイワイと騒いでいた。
    気になって遠くから見ていると、若者達は身障者トイレの水を何度も流している。健常者用トイレに入る振りをして近寄ってみると、便座の蓋を閉めて水を流し、蓋を少し開けて中を覗くのを繰り返し若者達は下品な声をあげて笑っている。
    何をやっているのか気になったが、無頼者に声をかけることも出来ず、彼らが居なくなってから、確認しに戻ってみることにした。

345: 黒ムツさん [sage] 2012/08/01(水) 22:35:31.82ID:I8rKea2LO
    キングオブガトーを探したがまたもや見つからず、帰り際に身障者トイレを覗いてみることにした。
    閉まった便座を持ち上げて見ると、うすうす感づいていた通り、便器の中にはトイレ猫の姿があった。
    顔と前足一本以外は全て便器の穴の中に入り込み、少し貯まった水から顔を出すことが出来ず溺れ死んでいた。あとわずか三センチ程水面が低ければ絶命しなかっただろう。
    私はトイレ猫に手を合わせた。老人に怪我をさせた以上、トイレを寝床にさせるわけにはいかず、保護して違う場所に移動するつもりだったが、今一歩及ばなかった事を悔いた。
    手を合わせた後、私は無意識にフラッシュバルブを押していた。便器の中を水が満ち、便器から溢れ出したのを見て私はその場を後にした。

    
363: 黒ムツさん [sage] 2012/08/02(木) 18:30:45.82ID:oU5x0CsKO
    再び公園に通い出した私だったが、キングオブガトーに再会できるのはしばらく先の話になる。
    トイレ猫水没事件の後しばらくして、身障者トイレのドアには使用禁止の張り紙が貼られていた。
    しばらく放置されたあと腐敗したグロさと悪臭で誰も直す気にならなかったのか。それともややこしい詰まり方をしたのかもしれない。
    何度もこの辺りに足を運ぶうち、たまに見かける初老の男性に声をかけられた。
    「あんたこの辺は出るから夜中には来ん方がええぞ」
    夜中になると人影も無いのに気配を感じたり、物が突然動いたり、トイレの扉が開いたり、なにしろ気味が悪いことが続いているそうだ。
    私も少し気味が悪く感じないわけでもないので、キングオブガトーの探索地を変えてみる事にした。


370: 黒ムツさん [sage] 2012/08/03(金) 00:59:02.03ID:Th8V7dwoO
    公園の裏山側からの帰り道、私が戯れに聖帝十字稜の形に積み上げたブロックの辺りまで来ると、アラフォー女とその友人らしきおっさんが二人でなにやら騒いでいた。
    聞いてみると、昨日、猫のバラバラ事件があったという。
    最近はこの町でこうした事件が度々発生しているようで、猫が数匹血を吐いて死んでいた事もあったらしい。
    そういえば警察の巡回も増え、私も一度声をかけられた事があった。
    2~3ヵ月前はキングオブガトーや沢山の野良猫の姿を見ることが出来たが、その多くは事件の犠牲になったり、心ある人に貰われていったりした事で、公園の野良猫の姿はめっきり減っていた。
    アラフォー女の連れのおっさんは、私を訝しい目でみている。
    私を警戒の目で見るおっさんは、野良猫専門のカメラマンとの事で、アラフォー女とはブログを通じて知り合った地域猫仲間だという。事件を聞き、遠方から駆けつけたそうだ。

371: 黒ムツさん [sage] 2012/08/03(金) 01:10:02.64ID:Th8V7dwoO
    アラフォー女との会話から、おっさんはNという名前なのがわかった。
    私は正直に鬣のある野良猫が好きで公園に通い、探している事を伝えた。すると、おっさんは半ば強引に犯人探しのメンバーになるように私を誘った。
    仕事帰りに公園に来ることだし、怪しい人物を見かけたら報告する位ならと私は協力する事にした。
    しかし、犯人は何故野良猫をバラバラにし、人目のつくところに放置するのだろう?公園での餌やりに対する見せしめのようなものかもしれない。
    確かにその多くが人慣れした耳に切れ込みのある地域猫が犠牲になっている事から、餌やりに対する悪感情からわざわざ人目につくように放置しているのかもしれない。


598: 黒ムツさん [sage] 2012/08/13(月) 23:43:24.90ID:pPfXtrOhO
    バカ騒ぎしている若者二人が子猫をそれぞれ抱え、一番悪そうな男が子猫の尻尾を結び始める。この男はトイレ猫を便器の中に入れて、何度も何度も回転しながら排水管へと誘った男だ。
    男は容赦なく結び目を一気に完成させた。「フギャッニャ☆※ー」
    結び目が出来た瞬間、即若者達は地面に二匹の子猫を落とした。異常な鳴き声と二匹が同時に反対方向に飛び跳ねる様にビビったようだ。私はMr.マリックのハンドパワーのパフォーマンスを思い出した。
    子猫達はある程度疲れを見せ、跳ねるのを止めると今度は互いに噛みつき、引っ掻き回しながら絡み合い始めた。
    子猫とは思えない位激しく爪を立て合い、互いの顔は流血に染まっている。絡み合いが収束に向かい動きが落ち着き始めると、結び目を作った若者は、
    「こっちを持て」
    仲間に高圧的に命令した後、反対側の子猫の首根っこを持った。

604: 黒ムツさん [sage] 2012/08/13(月) 23:57:27.14ID:pPfXtrOhO
    二人は互いに首の後ろの皮を掴み、タイミングを合わせ綱引きを始めた。
    子猫の尻尾はミシミシと言わんばかりにピンと張り詰める。二匹の子猫は鳴くのを既に止め、顔をしかめながら苦痛に耐えている。
    「ピシッ」
    呆気なく尻尾は切れた。片方の子猫の尻尾は千切れ、もう片方の子猫の尻尾には柄の違う尻尾の結び目が残った。
    「あっちにシーソーがあるな」
    一人がそういうと子猫を掴みながら若者達は遊具のある方向に歩き始めた。
    シーソーの端が地面に当たり穴が掘られている。若者達はシーソーの両端の穴に子猫を一匹ずつ押し込めた。
    私は予想出来るこのあとの展開を見ることが出来ずその場を後にした。足早に去りゆく私の背中の方から子猫の断末魔の鳴き声が聞こえた。
    ノボいやN氏に彼らの事を伝えねばならないと思った。

606: 黒ムツさん [sage] 2012/08/14(火) 00:08:09.45ID:OppnqodZ0
    暑さの厳しい中黒ムツの皆様いかがお過ごしでしょうか。
    最近の暑さは猫にもこたえるらしく、夕方出歩くと日陰でだらしなく伸びた猫をよく見かけます。
    私は数日前、夢の中で、相変わらず猫が伸びていたので、手近にあったパイロンをおもむろに持ち、
    猫に忍び寄り、すかさず上から被せ、その上に大量のパイロンとその重りを乗せて閉じ込めました。
    前回はこのパイロンの下から板を差し込み、パイロンを逆さにして板の隙間から水を流し込み溺死させましたが、
    今回は捕獲に満足して帰宅してしまい、数日間〆に行くことが出来なかったので、
    再び見に行ったころには勝手に虹の橋を渡っていました。猫も熱中症になるんですねえ。

610: 黒ムツさん [sage] 2012/08/14(火) 00:14:30.70ID:oXJYIdnvO
    次の日、早速N氏に会うことが出来たので昨夜の事を伝えた。
    N氏は顔を真っ赤にし、私の胸ぐらを掴んだ。
    「それはどこのどいつだ?ワレは黙ってみてたのか!」
    ノボ氏に締め上げられながら私は彼に謝った。無頼な若者が複数いたために傍観するしかなかった事を告げると彼は少し落ち着きを取り戻して私は解放された。
    彼をシーソーの位置まで案内した。
    シーソーの穴に子猫の姿は無かった。しかし穴の辺りの砂が血で黒く固まっている痕跡はあった。
    若者を見かけた場所である身障者トイレなどをN氏に伝えると、彼は無頼な若者に突撃するという。
    私は勿論行くのを止めるように諭したが彼は譲らない。仕方なく彼に付き従って若者のいそうな場所へ同行する事にした。
    しかし、その日は若者達の姿を発見する事は無かった。


188 :黒ムツさん : 2012/08/24(金) 21:59:15.29 ID:YcZN7YFAO
子猫の血に染まるシーソーのギッコンバッタン事件のあと、N氏に申し訳ない気持ちもあり、しばらく公園のパトロールを続けていた。
そんなある日、いつも通りに仕事帰りの公園についた瞬間、何やら大騒ぎしている声が聞こえてきた。
「おっさんどうするんだよ?あ!?」
背の高い夾竹桃が赤い花を咲かせていた。私はその陰に隠れて様子を見てみると、ノボいやNさんと無頼な若者達の姿があった。
「お願いだから止めてくれ」
N氏は若者達に向かって悲痛な叫びを発していた
リーダー格の若者は片手で尻尾の先を持って猫をぶら下げ、もう片方の手は幅広のカッターナイフで尻尾の根元に押し付けたり、お尻ペンペンさせていた。
N氏が若者に詰め寄ろうとする度に、幅広のカッターナイフを肛門や尻尾に刺す素振りを見せ、見事にN氏の行動を抑制していた。


191 :黒ムツさん : 2012/08/25(土) 01:43:39.98 ID:zmCfSKw+O
人質を取られ、完全に若者達のペースのようだ。N氏には以前、私の胸倉を掴んだ勢いは無い様子だった。
N氏は立派な事に3回回ってワンとお金を払って野良猫の解放を勝ち取った様子だった。
「3000円しか無いのかよ、ケッ」
若者は跪くN氏を尻目に捨てぜりふを残し去っていった。
N氏はこの事件からしばらく、この公園から姿を消すことになる。N氏身の代金支払い事件の後、N氏の束縛から解放された私は、キングオブガトー探索に専念出来るようになった。


251 :黒ムツさん : 2012/08/27(月) 22:37:49.94 ID:TISucakzO
夏の夜の公園は賑やかだ。花火をする人、夕涼みに来る人に加えてガラの悪い若者の姿も少なくない。
蒸し暑い夜も裏山からの風で公園を歩いている分にはいくらか涼しい。
人気の少ない裏山側の近くを歩いていると、無頼な若者達がいつものようにバカ騒ぎしている。
「よしよし、こっちにおいで。ウッシッシ」
野良猫を餌で釣ってまたなにか良からぬ事をしようとしているようだ。
かなり大きい野良猫のようだ。
野良猫が若者達の方に近づき、街灯の明かりの下に入った瞬間、私はキングオブガトーだとすぐにわかった。
仲間に餌を与えさせ、バットを持ったリーダー格の若者がキングオブガトーの後ろに回り込んだのが見えた。


253 :黒ムツさん : 2012/08/27(月) 22:48:22.78 ID:TISucakzO
キングオブガトーに向けて地面に餌を投げた後は、キングオブガトーを釣ろうと若者は手に持った餌をちらつかせていた。
リーダー格の若者は忍び足で距離を詰めていく。
一瞬の出来事だった。キングオブガトーは餌をちらつかせた若者の腕に飛びかかり、餌を奪った後、近くの茂みに飛び込み瞬時に姿を消した。
飛びかかられた若者の手から一筋の血が流れている。若者達はしばらく辺りを探したが、キングオブガトーを捕まえる事は出来なかった。
私は若者に近寄り声をかけた。以前、あの猫に引っかかれた人は足がパンパンに腫れてしばらく高熱で寝込んだと。早く水道で傷を洗うように勧めた。
若者達は素直に私の言葉に頷き、その場を後にした。


254 :黒ムツさん : 2012/08/27(月) 23:03:45.66 ID:TISucakzO
若者達のおかげでキングオブガトーに再会してからは、キングオブガトーの居所がやっとわかった。どうやら裏山の方をねぐらにして夜の公園には時々寄る程度のようだ。
公園の裏山側にはアライグマの姿を見かける。よく似たその姿に騙されそうになるが狸の親子も時々公園にやってくるようだ。
この辺りは以前、バイク乗りの若者が二匹の子猫に餌をやっていたが、二匹とも不幸な死に方をした。バイク乗りはあれからもこの辺りに立ち寄り、その狸に餌をやりにやってきていた。
バイク乗りは私に、狸に餌をやるように頼み込んでまたいつもの旅に出て行った。この狸は夜遅くにならないと姿を見せない。やっかいな事を頼まれてしまった。


257 :黒ムツさん : 2012/08/27(月) 23:43:28.90 ID:TISucakzO
バイク乗りに言われた通り、狸の親子に餌を与えにやってくると小さい子供の狸が真っ先に姿を現した。人には慣れているようだ。
餌を与えると喜んで食べている。私はほのぼのとした気分になっていた。
しばらくすると、耳に切れ込みのある大柄な猫が餌に気がついてこちらにやってきた。
子狸に何かあってはいけないので、私は子狸から離れた場所に餌を放り投げた。大柄な猫はそちらに近づいたが、匂いを嗅いだだけで、すぐに子狸の方をじっと見つめはじめた。
餌を食べている子狸は大柄な猫が背後から見つめている事に気がついていない。
これはマズい。子狸は大柄な猫にロックオンされてしまったようだ。


285 :黒ムツさん : 2012/08/28(火) 22:12:11.75 ID:p7j/MjURO
耳カットされた猫は地域猫の証だ。地域猫と思われる大柄な猫は、無邪気に餌を食べている子狸をロックオンし、いままさに襲いかかろうとしていた。
相手を見定め、ゆっくりと忍び足で近づき、射程距離までくると一瞬で仕留めるつもりなのだろう。
私は静かにカバンを引き寄せ、子狸が危うくなれば投げつけて割って入る用意をした。
張りつめた空気の中、近くの茂みから突然ガサガサと音がして、いくつもの黒い影が飛び出してきた。


286 :黒ムツさん : 2012/08/28(火) 22:24:25.09 ID:p7j/MjURO
大柄な猫は子狸に集中していたためか、突然現れた黒い影の接近に反応が遅れたようだった。
三匹の狸が大柄な猫の背後から噛みついた。飛び上がった猫は振り払おうと身をひねって転がるが、狸達は噛みついて離さない。
前足と後ろ足の付け根と首の後ろをそれぞれが噛みついて完全にキマっていた。狸達は猫が身をよじって暴れ、不利な体制から繰り出す爪や牙の攻撃との我慢比べに良く耐えた。
大柄な猫は次第に動きを鈍らせ、力無く地面に身を横たえた。


289 :黒ムツさん : 2012/08/28(火) 22:43:12.25 ID:p7j/MjURO
大柄な猫の抵抗が無くなると、狸達は猫から離れ、子狸を伴って山の方に帰って行った。どうやら子狸の家族なのだろう。
地域猫と思われる大柄な猫はしばらくすると起き上がり、トボトボと歩いてその場を後にした。体力を消耗しただけで、狸の攻撃は致命傷とはならなかったようだ。
しばらく一服したあと、私は家に帰ろうと歩いていると、騒がしい若者達の声が聞こえてきた。
声のする方を見てみると、若者達は先程の猫の尻尾を持って振り回して遊んでいた。狸の攻撃で弱り、若者達に容易く捕まり、玩具となってしまったようだった。
「室伏ぃ〜」
若者のうちの誰かの叫び声が聞こえたあと、ドボンと池の中に何かが落ちる音が聞こえた。若者達は笑い転げ、その声を背中に聞きながら私は公園を後にした。



758 :黒ムツさん : 2012/09/10(月) 21:12:21.02 ID:oY+hXIJXO
公園には積み上げられたまま放置されたレンガやブロックを使い、私が戯れに作ったオブジェがある。長く放置された資材でイタズラしたわけだが、ついにこの資材を使って工事が始まったようだ。
以前はよくこの辺りで会社帰りに缶コーヒーを飲んで一服したのだが、キングオブガトーが裏山に移り住んでからはこの場所からは足が遠のいていた。
工事が始まってからは出来上がりが少し気になるのもあり、私は進行具合を見に立ち寄る事にした。
公園の明るく賑やかな場所から少し離れたこの辺りは、野良猫に餌をやるおばさん達のポイントであり、野良猫の姿を良く見かける場所でもある。


766 :黒ムツさん : 2012/09/10(月) 21:36:15.53 ID:oY+hXIJXO
工事が始まってから少し経ったある日、資材置き場の近くで一面コンクリートが張られていた。先ほど施工されたばかりのようで、まだ柔らかそうだ。季節を考えると固まるのは早いだろう。
私がベンチで黄昏ながら一服していると、見慣れた餌やりおば様が現れた。すぐに野良猫が数匹集まってきて、母猫にヨチヨチついて来た小さな子猫の姿もあった。
餌やりおば様は他にも餌場があるようで、餌を地面に撒いて次の餌場へと移動したようだった。
コーヒーを飲みながら、撒かれた餌に群がる野良猫を眺めていると、子連れの家族が少し離れた場所で花火を始めた。


787 :黒ムツさん : 2012/09/11(火) 21:35:17.02 ID:uuCsMndHO
この公園では打ち上げ花火は禁止されている。子連れの家族は通行人に気を使いながら手に持つ花火や吹き上げる花火を静かに楽しんでいた。
しばらくすると、男の子が花火を持って私の所までやってきた。私にも一緒に花火をということらしい。
線香花火なんて久しぶりだなあ。持つ手をうまく動かしながら煮えたぎる小さな赤い玉が落ち無いように操ると、子供はえらく感心しているようだった。
「お兄ちゃん、これはどうやるの?」
子供はネズミ花火を取り出し私に見せた。


791 :黒ムツさん : 2012/09/11(火) 21:51:49.17 ID:uuCsMndHO
「こっちの先に火を着けて地面に置くとシュルシュル回転してパーンて音がするよ。やってみると面白いよ」
子供は説明を聞くと、おっかなびっくりとチャッカマンでネズミ花火に火をつけはじた。

なかなか火が着かないため、子供が覗き込むように顔を近づけた瞬間、突然火花が吹き出したため、子供はびっくりしてネズミ花火を放り投げた。
ネズミ花火は縦に回転しながら宙を飛び、地面に着地した後、回転の勢いで思いの外勢い良く転がり始めた。
ちょうど地面に撒かれたカリカリを食べている野良猫達の真後ろの辺りで乾いた音をたて爆発した。
野良猫達にはまさに青天の霹靂といった感じだったのだろう。蜘蛛の子を散らすように思い思いの方向に猛ダッシュで逃げ出した。


792 :黒ムツさん : 2012/09/11(火) 22:11:14.06 ID:uuCsMndHO
子連れの野良猫は二匹の子猫と同じ方向に逃げた。そう、まだ柔らかい張り立てのコンクリートに向かって。
母猫はコンクリートに入った瞬間、パワープレイで横にそれ、なんとか脱出出来たようだが、子猫の一匹は張られたコンクリートのど真ん中で半身浴のまま立ち往生している。
もう一匹の子猫はコンクリートの端の辺りで四肢をジタバタさせていた。ミーミーと情けない鳴き声で母猫を呼んでおり、母猫もすぐそばまでやってきて、中に入って助けようか悩んでいる様子だ。
私は近づき、子猫を助けようと手を伸ばした。
「フシャーォ」
突然背後で母猫の凄まじい鳴き声が聞こえ、私は背中に痛みを感じた。。
子猫をそっと掴んで持ち上げようとした際に突然の痛みを感じたため、私は前のめりになり、子猫を掴んだままズブッと肘の辺りまで柔らかいコンクリートに押し込んでしまった。



797 :黒ムツさん : 2012/09/11(火) 22:28:12.86 ID:uuCsMndHO
私は慌てて子猫をコンクリートの池の中から引き上げた。ドップリとコンクリートに浸かった子猫をそっと地面に置いた。
私は母猫を刺激しないようにその場を静かに離れた。
とりあえず私はコンクリートに浸かった右手を洗おうと水道に向かった。
水道で手を洗い戻ってみると、花火をしていた家族の姿は無かった。
野良猫の方を見てみると、子猫は体に纏わりついたコンクリートの重さでうまく動けないようだ。母猫はしきりに子猫に近づくが、首を傾げている。しばらくすると子猫を置いて立ち去ってしまった。
コンクリート漬けのため、匂いで我が子と認識出来なかったのだろうか?そう言えばさっきまでミーミーと鳴いていたのに全く鳴かなくなっていた。よく見ると全く動いていない。
コンクリートがベットリと顔を覆っているため、私が手を洗っている間に窒息死したようだった。
私は子猫を助ける事が出来なかった事を悔い、公園を後にした。


798 :黒ムツさん : 2012/09/11(火) 22:45:27.20 ID:uuCsMndHO
翌朝、昨夜の後味の悪さを感じながら通勤途中に公園に寄ってみた。なにか大事な事を忘れているような気がする。
昨日助けようとした子猫は、顔を上げ四肢をピーンと伸ばしたまま横たわっていた。体に纏わりついたコンクリートは既に固まっていた。
おもむろに持ち上げて立ててみると、四肢を地につけてカチンコチンにバランス良く直立している。
その時フッと右後ろの方から視線のようなものを感じ、振り向いてみると、張られたコンクリートから頭だけを出した子猫の生首があった。
私はうっかりもう一匹いたのを忘れていた。思えば背中を引っかかれた時に驚いて冷静さを無くしたのだろう。
私はカチンコチンになった子猫を生首の方に向けた。子猫の兄弟を向かい合わせにし、私は手を合わせた。
これ以上長居するのはマズい。工事現場の作業員に見つかるといけないので私は急いで会社へと向かった。
最終更新:2013年09月07日 23:34