氷冬「(コツ…コツ…)ふぅ…(さて、と…次の試合まで時間があるからまずはフーナたちと合流して――――)(会場から出てくる)」
スカーフィ「―――――つーらーらー!!(がばぁーっ!)(会場から出てきた彼女を待ち構えていたかのように勢いよく抱きつく)」
氷冬「ひゃ…っ!?す、スカーフィ…っ?(突然の出来事に困惑)久しぶりだね。ふふっ。(彼女の頭を撫で)」
フーナ「もーっ、スカーフィったら。……氷冬、元気だった?(ふふんと明るい笑みを浮かべて迎える)」
スカーフィ「氷冬ー!会いたかったよ~!!(ぎゅー♪)ん~…♪ひんやりして気持ちい~♪(すりすり)」
氷冬「……!ええ、フーナも元気そうね。(懐かしの二人と再会し表情が和らぐ)うぅ…離れなさい…(汗)(ぐいぐい)」
フーナ「本当に見違えたね…とても綺麗になってる。それに強くもなってる…先の試合を見て何もかもびっくりしたよ!」
氷冬「ありがとう。八ヵ月…長い様でとても短かった気がするわ。まだ完璧とはいえないけれど、確かにあの時よりも強くなった実感がある…今度こそ、絶対に勝つよ。(凛とした目で向き合う)」
スカーフィ「かぅ~、その意気だよ!氷冬!(むぎゅー)」
フーナ「ふふっ、今の氷冬を見ているとなんだか頼もしくなるね。…まあ、とりあえず!話したいこともいっぱいあるから、まずはランチでも食べに行かない?」
スカーフィ「かぅ、さんせーっ♪(元気よく手を上げて)」
謎の一頭身「 ザ ッ ――――――(三人のもとへ颯爽と現れる)再会を喜んでいるところすまない。…君たちに大事な話がある。」
氷冬「ええ、いいわね。それじゃあ……?(突如として現れた謎の一頭身の方へ振り返る)私たちに何か用かしら。貴方は…?」
スカーフィ「かぅー?(聞き覚えのある声に小首を傾げる)…あっ!その声…もしかして…!」
フーナ「スカーフィ、知ってるの…?」
謎の一頭身→
メタナイト「ああ、スカーフィとだけは何度も面識があるからな。(全身を覆っていた黒いローブの一部を上げ、素顔を現す)――――――…私だ。」
スカーフィ「かぅ!やっぱりメタナイトだ♪久しぶりだねー!メタナイトも大会に出場してたんだね!」
氷冬「貴方は…かの有名な剣士の…!(メタナイトを前に若干興奮している)」
フーナ「あっ、久しぶりだね…!(
新世界編を始め、様々な事件に友に挑んできた過去を振り返りながらメタナイトに会釈する)」
メタナイト「ああ、君たちとこうして相見えるのも随分と久しいことだ。…とはいえ、今は少し急を要している…(辺りを右往左往と身私、ローブを再び被さる)ここだと人目につく。私に着いてきてほしい…君たちに、話したいことがある。昼食も用意している。…こっちだ。(そういい、三人を会場から離れた場所へと誘う)」
メタナイト「―――…ここだ。(着いた先は古い宿屋の一室。三人と共に室内へ入る)そこに昼食用の弁当がある。好きなだけ食べるといい。(三人の顔が見える位置へ移動する)…それぞれ、忙しいところ集まってもらってすまない。世間で言う『英雄』、あるいはそれに近しいと私自身が判断した者に集まってもらったわけだが、君たちがまさにそうだ。」
フーナ「『英雄』…噂にはよく聞いていたけれど、私たちってそうなのかな…?実感はないけど。(人差し指で頬を掻きながら)」
氷冬「んー、そうね。まあ私はそういう称号なんて気にしていないけれど。」
スカーフィ「はふぅー?『へーゆー』?ほれっへほほいいほー?(訳:かぅー?『英雄』?それって美味しいの?)(たくさんの食べ物を口いっぱいに頬張りながら喋る)」
メタナイト「君たちが本物の『英雄』であろうとなかろうと、それに値するに相応しいほどに不屈の精神を持っている。その精神を持っている君たちにこそ、聞いてもらいたい話があるのだ。…本大会、いや…――――― 十刀剣武祭の優勝賞品にもなっている『
クロリアー』のことは知っているな?」
フーナ「クロリアー…私の上司(
デイリン)から話は聞いたことがある。"罪剣"と謳われた、呪いの剣…その剣を握った者は剣に潜む魂に乗っ取られて、その者を血見まみれにするという恐ろしい伝説があるって聞いたよ…」
氷冬「物騒な話ね。剣士としての意見では、
ケイオスにおいて最強と言われている宝剣だと聞いているわ。大会に出るまでは、実物を目にしたことがなかったけどね。」
スカーフィ「かぅ…ボクは全く知らないよ。(はむはむっ)(サンドイッチを頬張る)」
メタナイト「そうか…(各々の意見を聞いて)…そうだな、まずは、クロリアーのことから話すべきか…――――」
『クロリアー』―――いつの時代から存在していたのか謎に包まれた剣。クロリアーを最初に手にした人物は、その剣に潜む魂――混沌世界の負の感情――に取り込まれ、殺意でしか行動できなくなる。
不屈の精神があればクロリアーのその呪いを拭い去ることもできる。しかし、実際そのような精神を持つ者は少ない。
ある時、ある男が某国の外れで偶然にもその剣を発見した。剣を手にしたことで精神を蝕まれた彼は、その国の王女が持つ特別な力、『陽』と呼ばれる力により、クロリアーの呪縛から逃れることが出来た。以来彼は、その剣を封印することにした。
後にクロリアーはその国の王の手に渡った。その剣を手にした王はたった一人で紛争地帯の敵を駆逐した。それも、命を殺めることなく。
紛争を鎮圧できたが、クロリアーに精神を奪われた王は、王女を殺害した。そう、クロリアーは憤りを感じていたのだ…王女が持つ『陽』の力に。故に、王の身体を奪い殺害を図ったのだ。
しかし王女の、王への愛の力がクロリアーの呪縛を打ち払い、彼女は自らの死と引き換えに王を罪剣から救い出したのだ。
そして王によって、クロリアーは深い海の底へと沈められたのだった。
それ以来、偶然クロリアーを拾った戦士たちもいるが…王女の『陽』の力を永続的に受け継いだ『ある若き男』によって、罪剣が人の精神を喰らうことはなくなったのだ。
メタナイト「……以上が、クロリアーに纏わる最近の出来事だ。」
フーナ「そんな凄惨な出来事があったんだね… ということは、今のクロリアーには呪いの力が宿っていないということになるの?」
氷冬「それなら、罪剣ではなく…ただの宝剣になるわね。大会運営陣が、そんな危険な事例を持つクロリアーを手に入れられたのもその為なのかしら…」
メタナイト「いや、実際は違うのだ。…『
レインド』を知っているな?君たちも共に戦ったことがあるだろう。彼は長期的にクロリアーを所持していた。それは、例の王女の加護を受けたこともあり、唯一クロリアーを使いこなせたからだ。」
スカーフィ「えっ!?レインドって…あのレインド?(過去の戦いで共に共闘したレインドを思い出す)」
メタナイト「しかしそれは、彼だからこそ使いこなせたものであり…それ以外の者は別だ。本来ならクロリアーは王女の加護を受けた彼のもとにあるべきなのだが、ある輩に奪われてしまったのだ。それ以降はクロリアーの行方は謎に包まれていたが、今となって、この大会に姿を現した…ということだ。」
氷冬「へぇ…そういうことが…ねぇ…(あらゆる人の手から手へ… クロリアー、私が想像していたよりも大きな何かを抱えているかもしれないわね。)」
メタナイト「そして、ここからが本題だ。彼、レインドにしか扱えないそのクロリアーが今、大会の優勝賞品となっている。王女の『陽』の力、そしてその加護を受けていない他人の手に渡れば、再びクロリアーは持ち主の精神を喰らい、過去の惨劇を繰り返すことになるだろう。私はクロリアーが誰かの手に渡るのを是が非でも阻止したい。」
スカーフィ「ふぅん………!(何か既視感を覚えたのだろうか、あることを閃く)じゃあさ、そのクロリアーを奪っちゃえばいいじゃん♪(ぴこーん☆)」
フーナ「ちょっ、本気で言ってるのスカーフィ…!?(汗)」
メタナイト「確かに…惨劇を回避するには、運営陣からクロリアーを直接奪うのが良いだろう。世界政府も関与していない非公式の大会だ、実行を移すにしても問題はあるまい。しかし、会場の表舞台に飾られているあのクロリアーは、実はレプリカなのだ。本物の行方は分からないが、必ず会場内の何処かにあると踏んでいる。そこでだ。君たちに協力してほしいことがある。…なんでもいい、クロリアーの在処、或いはその在処を指し示すような小さな情報でもいい…それを入手してほしいのだ。」
氷冬「なるほどね…確かに今の話を聞いていたら他人事じゃないわね。それに…クロリアーのこと、興味が湧いてきたし。いいわよ、協力するわ。」
フーナ「私も…神界政府の一員として、罪剣は放っておけない。」
スカーフィ「そっか…だから、姿を隠して、出場者として潜入していたんだね…メタナイト。(納得したようにコクリと頷き)…かぅ、誰かが傷つくのは嫌だ…ボク、そのクロリアーを探してみるよ!」
メタナイト「……!みんな…感謝する…!(深く頭を下げて)ああ、一刻も早くクロリアーの在処を把握しなければ… なぜなら…仲間の情報によれば、我々とは別の理由で、クロリアーを狙っている者がいるらしいからだ。」
スカーフィ「ふぇ…!?本当なの、メタナイト…?」
メタナイト「確信的な根拠はない。だが、私の様に、クロリアーの為だけに選手として会場内に潜入した者がいることを知っていてほしい。その者が何を企んでいるのかは未だ分からないが、なんにせよ、クロリアーは我々が取り戻さなければ、必ず惨劇は起きる!試合を終えた合間でもいい、各自で探索を行ってほしい。何かあれば、私は常に控室で待機するようにしているから声をかけてくれ。それから、頼んでおいてこのような事を言うのは無粋だが、くれぐれも…無茶なことはしないでくれ。」
フーナ「わかった。何かあったらちゃんと報告するね。氷冬はなるべく試合の方に集中してて。私とスカーフィの二人でできるだけ多くのことを探ってみるから。」
氷冬「ええ、ありがとう。……(呪いの剣…そんなものを景品とする運営の意図とは一体…あるいは本当に何も知らないのかしら…)(天井の一角を見上げて考え耽る)」
スカーフィ「かぅー!なんだか張り切ってきたよー!絶対に見つけ出そうねー!(先程の緊張感などすぐに消し飛んだかのように、無邪気な子供の様に意気揚々と弾む)」
メタナイト「(スカーフィを見て呆れたように顔を振る)……そして、氷冬。」
氷冬「……?(「何?」と目を見開いて顔で応える)」
メタナイト「…強くなったな。共に戦ったあの時と比べ、随分と逞しくなったものだ。…いや、君たち三人、大きく成長している。かの『英雄』たちの姿が見られなくなったが、時代は進む……君たち新たなる戦士が、これからの時代を築き上げていくのだと思えば、私も安心するものだ。フフッ…」
氷冬「……伝説の剣士にそう言われると、恐縮だわ。(照れくさそうに)」
フーナ「そうだね…私たちはいつだって三人一緒だった。(二人の顔を交互に見つめながら)」
スカーフィ「これまでも、これからも、ずぅーっと!だよっ♪かぅー♪」
メタナイト「……(強く結ばれた絆か…
ハルシオン、お前が目指していた輝かしい時代は、すぐそこまで来ているのかもしれないな…)(三人の少女を見つめて、心の中で喜々とした感情を覚える)……さて、そろそろ試合も動いてくる頃だろう。各自手分けして探索に当たってくれ。そして氷冬、武運を祈る。」
氷冬「ありがとう。(…クロリアーは必ず、私がこの手で…―――――)」
その頃、試合会場では…
――― 第二十一試合 ――――
×××「クスクス…(貴族衣装の少年。腰元に携えた二刀の内の一振りを片手で構え、空いた片手を背後に回し、不敵な笑みを零し続けている)」
ストライク「ゼェ…ゼェ……(両腕の鋭い鎌を地面に突き立て、傷だらけの身体で跪いている)」
キリギリス「ここまで自慢の刃で猛威を振い続けてきたストライク!!しかしッ!相手の『フォウ』には傷一つ負わせられず、反撃を喰らうばかりだーーッ!!!これはどうしてしまったのかァッ!?」
剣士「また
ゴルドニアファミリーの一人か…しかし、あんな餓鬼は初めて見たぞ…(興味深そうに×××を客席から見つめている)」
大剣使いの男「二男の「フォウ・ゴルドニア」か…俺もこの目で確かめたのは初めてだ。四男(シグス)がいるということは、当然その上もいるはずなのだが…しかし、妙だな。(訝しんだ目つきで×××を見据え)
剣士「何がだ…?」
×××→フォウ「ククク…何が起こっているのか、理解できていないようですねえ。(目の前で跪くストライクを嘲笑いながら見下して)」
大剣使いの男「先程からの奴の立ち回りは大したことがない。踏み込みも刀を振う速度も、これまでの猛者たちと見比べれば至って普通だ。避けることもいなすことも容易いはず…それに相手(ストライク)もそれを完ぺきにこなしたはずだ。それなのに、何故奴の"攻撃が決まっている"のだ…?(鋭い眼光で)」
フォウ「腑に落ちないのでしょう?私の剣戟をかわし、弾いたにもかかわらず…何故傷を負っているのかを。そしてその謎も解明されないことに、焦燥感が表面に漏れていますねえ。(クククと込み上げてくる笑みに耐える様に、口元を拳で覆う)」
ストライク「ギリィ…!(悔しそうに歯を食いしばると、重い身体を起こすように勢いよく駆け出す)」
フォウ「懲りないですねぇ、これだから単細胞は…――――ブンッ ! (いたって勢いの無い斬撃で迎え撃つ)」
ストライク「ストライッ!!(ガキィィインッ ! ! )(鎌で斬撃をいなし、もう片方の鎌の刃先をフォウに向け、そのまま斬り上げようとするが…)――――― ブ シ ャ ァ ッ ! ! ! (その刃がフォウに届く前に全身に一閃が迸り、痙攣しながらうつ伏せに倒れ伏したのだった)」
フォウ「(刀を握った腕は依然弾かれたまま微動だにしておらず、追撃を仕掛けたような挙動が一切見られない。"自ら攻撃を与えた"相手が崩れ落ちていく様を静かに嘲笑った) そうですね、虫けらは地べたを這いずるのがお似合いですよ。クククッ…(刀を鞘に納め、両手を背後に回したままステージを去っていく)」
キリギリス「ききっ、決まったぞぉぉぉおおおおおーーーッ!!!勝者はフォウッ!!全く見えない素早い剣術で敵を圧倒したァーーーッ!!!」
大剣使いの男「……っ…!?(いや、そんなはずはない…そんなはずは… 今のが、高速剣術だと言うのか…?ならば、初手の攻撃は油断を誘うための囮だと言うのか…?それにしては……)(腑に落ちない表情で考え込んでいる)」
そうして試合は着々と進行していき、数多の剣士たちの中でも選ばれた強者のみが生き残ろうとしていた…
――― 第二十二試合 ―――
雛菊「ふぅ…(試合を終え、刀を静かに納める)……(私は"ここ"にいます…お師匠様…―――――)」
――― 第二十三試合 ―――
八頭身ギコ侍「ブ ン ッ … (刀で虚空を斬る)見事な太刀よ…だがしかし、某(それがし)には届かなかった。この身にも、この魂にも。」
――― 第二十四試合 ―――
開拓者「アハハ…!最強の刀を持つ私に敵う者などいない…!クロリアーもこの私が手に入れて見せるわ…フフフ…!」
――― 第二十五試合 ―――
ユキ「シャッ―――チン!(鞘を勢い良くかぶせるようにして垂氷丸を納刀する) ここまで、ね。またバチバチしましょ?(いつも通りの微笑を浮かべ、ひらひらと手を振る)」
――― 第二十六試合 ―――
×××××「シュコー…(口元から蒸気の様な荒い吐息を噴き出す)…良し良しだ。良し良し、良し良し…(金属音の様な鈍い足音を鳴らしながら盤上から降り立った)」
キリギリス「――――― 第二十七試合!ワンス vs ペイルライダーだ!!これは見逃せない戦いになりそうだァ!!選手はステージへどうぞォ!!!」
貴族の青年→ワンス「――――――― カ ツ ン … (厳かな覇気を放ちながらステージへ足を進める)」
あれがそうか…ッ…!! ああ、間違いない…! そうか、あいつが…(ワンスの登場によって会場全体がざわつき始める)
大剣使いの男「……『ワンス・ゴルドニア』…ッ!癖者揃いのゴルドニアファミリーを束ねる長男にして、前・十刀剣武祭序列"3位"の実力を誇る最強の男…!」
――― "斬神の長男" ワンス・ゴルドニア ―――
ソードプリム「あ、あの序列1位の『柊木雪』と序列2位の『翡翠雛菊』と比肩する最強の剣士なのか…!う、うわぁ…なんという覇気だ…外見で判断してもその次元の違さがわかる…!」
ボトロン「聞けば懸賞金20億の特S級犯罪者でもあるらしいな…奴の怒りを買った瞬間、その命だけでなく故郷まで滅ぼすとんでもない男だ…!あいつだけは…あいつとだけは相手したくねえ!(怖れ慄く)」
ペイルライダー「……(エストックを片手にステージへ)」
アロアロス「だ、だがよ…!相手のペイルライダーも相当な強者なんだぜ!?ここまで無傷無敗を誇っているようだしな…」
ロックマンゼロ「……とにかく開戦と同時にすべてが分かる。静かに刮目しろ…ここからの戦いは、一瞬たりとも目は離せない。」
キリギリス「それでは試合―――――――開始ィェァッ!!!!」
ペイルライダー「 ダ ン ッ (試合開始の合図と同時に瞬発的速度でワンスとの間合いを詰める)」
ワンス「………(それに対し全く動じることなく仁王立ちしたまま悠然と街構える。腰元に携えた西洋剣を引き抜くこともなく…)」
ペイルライダー「―――――――― ビ ュ ォ ッ ! (そして懐で鋭く研ぎ澄まされたエストックによる高速の刺突を放った)」
モララー「(――――!)疾いッ!!!(瞬間移動とあの突き…相手が誰だろうと、あの速度の攻撃をかわすことは―――――)」
ワンス「………―――――――――― ふん。」
ペイルライダー「―――――――!?」
手応えはあった…故に決まったと思い込んでいた。しかし、それは誤りだった。ペイルライダーが予想していたよりも、その相手は彼を凌ぐ速度でその剣術を見抜いていたのだった。
ワンス「(腕を束ねたまま、上半身を仰向けに反って回避していた)……俺は低俗な輩に剣は振らない。理由は解るよな。(緩慢化した世界の中で、ペイルライダーに呟く)グルン――――――(彼の武器を掻い潜り、自らの身体を浮かせ蹴りの態勢に入る)」
ペイルライダー「(―――――!!) メ ゴ オ ォ ッ ! ! ! ! (稲妻に貫かれた様な想像を遥かに絶する激痛が顔面に走り、音もなく吹き飛んで闘技場の壁に強く激突した)パラパラ…ッ……(壁にめり込んだまま、気絶している)」
ワンス「 ト …――――(華麗に地に降り立つ) 脆弱の血で我が刃を汚したくないのだ。失せるがいい。(戦闘不能に陥った相手に一瞥を与えることもなく、マントを靡かせその場を後にする)」
キリギリス「…………!!?き…き、決まったああああぁぁぁぁーーーーッ!!!!しょ、勝者は…勝者はワンスだああああぁぁッ!!!流石は序列三位の
実力者!!たった一蹴で、あの無傷無敗のペイルライダーを瞬殺したァーーーッ!!!!!」
ブーメランプリム「なん…だと…ッ…!?(驚愕と戦慄による冷や汗を流す)…ペイルライダーがやられた…それも、たったの一度の蹴りで……!」
大剣使いの男「(試合結果に目を細める)…俺は前回の十刀剣武祭をこの目で見たことがある…無数の獣が睨み合うかの様な凄まじい激戦区だった… その中で…奴、ワンス・ゴルドニアは桁外れの実力者だった。あれから一年以上経つが…奴の覇気は以前にも増してより濃く、強くなっている。…奴よりも上に立った例の二人に対する憎悪が、奴を更なる高みへと連れ出したのか…っ…」
シグス「流石は兄上だ…そうだ、無名の剣士風情が兄上を越えられるわけがない。(負傷した部位に包帯が巻かれている)」
スリーズ「ギュフ…フフ…ッ…お兄様…素敵、カッコいい…もういっそお兄様と結婚したい…(同様に包帯が巻かれた状態で涎を垂らしている)」
フォウ「お兄様とお姉様は我々の憧れですからね。お二人を差し置いて頂点を掴もうなど愚の骨頂というものです。」
トゥエル「あら…可愛いことを言うのね、フォウ。流石は私の自慢の弟よ、うふふ…次の試合も華麗なる勝利を期待しているわよ。」
フォウ「お姉様に期待されるとは、誠に光栄なことです。それでは、行って参ります。(両手を背後に回した小柄な少年が、不気味に口角を上げて廊下の奥へと消えていく)」
キリギリス「さぁ!どんどん進めていこうではありませんか!!第二十八試合! 氷冬 vs フォウだ!!選手はステージへどうぞッ!!!」
氷冬「……(ひとまずクロリアーのことはフーナたちに任せよう。今は、目の前の試合に集中するだけ…――――)(ステージへと登る)」
フォウ「コツ…コツ…―――― ザ …よろしくお願いします。(紳士的な笑みを浮かべて氷冬に会釈する)」
氷冬「……ええ。(張りぼての笑顔―――目の前の少年のその偽りの表情を見透かす様な鋭く冷たい目で挨拶に応える)」
キリギリス「それでは試合――――開始ィァアッ!!!」
氷冬「……(先の試合…彼自身の太刀筋は他愛もなかった。問題は、どうやって相手に攻撃を与えるのか…その術を見極められるかどうか、ね。)(ゆるりと一刀を抜き出してその切っ先をフォウに構える)」
フォウ「フフフ…(腰元に携えた二刀、その一振りを抜き出して同様に突きつける)さァ、デュエルスタートです。フンッ――――(前のめりに倒れる様な駆け出しから氷冬に斬りかかる)」
氷冬「 カ キ ィ ン ッ ! (一刀を振り上げて斬撃をいなす)………!(その時、何かを感じ取ったかのように反射的にフォウから距離を置いた)」
フォウ「……!(斬撃をいなされたあと、後退した彼女に対し僅かに目を細める)…ふん!(再び距離を詰めながら何度も斬りかかる)」
氷冬「(…今の感じ…もしかするとこいつは…)……カキャァンッ ! フンッ―――― カキィンッ ! フォンッ―――――(繰り出される斬撃を刀でいなす度に、相手の斬撃の"軌跡外"から逃れるように回避を繰り返す)」
騎兵「…んあ?なんだいあの娘…さっきから攻撃を防ぐ度に奇妙な動きをしやがるぜ。(面白おかしそうに氷冬の挙動を見る)」
大剣使いの男「……(あの娘…何かを感じ取ったようだな。俺ですら感じ取れなかった、『何か』を…)」
フォウ「なかなかいい動きで避けますね。(嘲笑うかのような不気味な笑みを浮かべると、突然彼女の周りを囲む様に疾走する)――――― ヒ ュ ン ッ ! (風の如く駆け出す最中、自らの残像を生み出し、本体と残像からなる二閃を繰り出す)」
氷冬「……!(フワッ―――――スタ…)(鋏討ちの斬撃を跳躍回避し、宙を華麗に舞いながら降り立つ)」
キリギリス「おおっ!これはすごい!!素早い動きによって生み出された分身攻撃!そしてそれに動じることなくかわした氷冬!!これは壮絶な戦いになりそうだァーッ!!」
フォウ「まさかこの技もかわされるとは…フフフ、流石はシグスを討ち破った実力はありますね。少々貴女を侮っていました。(依然不気味に口角を上げたまま氷冬と対峙する)ならばこれはどうです?(残像と息を合わせた絶妙な立ち回りで片手に握った刀を振う)」
剣士「残像を生み出すなんて…な、なんて速さなんだ…!」
氷冬「―――――!(迫りくる二人のフォウを交互に見比べる最中、あることに気付き始める) フ ォ ン ッ ! (回転斬りによる風圧を起こして吹き飛ばす)」
フォウ「……!(衝撃に圧倒され後方へと退く)フフフ…お見事…!(残像が消滅すると同時に再び斬りかかる)」
氷冬「ギ ャ キ ィ ィ ン ッ ! ! フォンッ―――― スタ…(フォウの斬撃をいなすと、またその軌跡外から身を退かせる)」
フォウ「私の攻撃を避けてばかりですか…それでは貴女に勝ち目はありませんよ?(何故か僅かな憤りを含んだ表情で)」
氷冬「……―――――― そうね。でも、それは貴方も同じじゃないかしら。それとも、私がその"術"に気づいていないとでも思っているのかしら?(眼光を鋭く輝かせ)」
フォウ「……!!(氷冬のその発言に微動する)……これは驚きましたね。まさか、気付いてしまったのですか。(興味深そうに口角を上げて)」
氷冬「…貴方の斬撃はいたって単調過ぎる。正直欠伸が出そうなくらいにね。だけど、その攻撃をかわす度に、一瞬だけど違和感を感じるの。まるで、"二つの刀を同時に振っているかのような"不思議な感じをね。」
フォウ「ホゥ…とても面白い、想像ですね。いやぁ、気付かれてしまったのなら仕方ありませんね。…私は"斬双"の名を冠するフォウ・ゴルドニア。ファミリーの中でも、お姉様に勝るとも劣らない高速剣術の使い手です。私が操る残像剣は、貴女の言うとおり一見は他愛もない太刀筋に見えますが…実際は目にも止まらぬ速度で刀を振うことで、相手の視界を翻弄しつつ攻撃するものでして――――――」
氷冬「―――――― " 違 う " ――――――」
フォウ「……へ…?」
氷冬「…そうじゃないでしょ。貴方の剣術はやはり単調なもの。貴方において一番警戒するべきなのは…貴方自身の剣術でも立ち回りでも、ましてや刀の力でもない。」
フォウ「…それでは、何だと言うのです?」
氷冬「…さっきの斬撃、貴方が残像を生み出す前に、たった一人で斬りかかって来た時…貴方の中に潜む気が二重(ふたえ)になって揺らいだのが“
アンビション”を通じて感じ取れた。貴方の中に、"貴方ではないもう一人の誰かが潜んでいる"。それは残像の正体であって、私が感じ取った「違和感」の正体でもあるわ。」
フォウ「………ククッ…ハハ…ハハハハハ!面白い…!実に面白い、妄想ですね…!(滑稽に耐えきれず片手で自らの顔面を覆う)…貴方も“アンビション”の使い手でしたか。しかしそれで確信的な根拠となり得るのですかね?精神を覗いただけで、我が残像剣の正体を見破ろうなどと―――――」
氷冬「根拠なら、あるわよ。誰の目でも見える、確信的な根拠が。(そう言ってフォウ…ではなく、彼の腰元に携えた二刀の鞘を指差す)見たところ貴方は二刀流の使い手らしいけど…最初から一刀しか引き抜かなかった。にもかかわらず、何故"その鞘にはもう一刀が納まっていないのかしら"?」
フォウ「――――――ッ!!(図星を突かれた様に動揺する)」
氷冬「そう、貴方が一刀で攻撃を仕掛けた時、既にもう二本目は引き抜かれていた…貴方の中にいる「誰かさん」によってね。そして消えた二本目の刀は、残像剣によるコンビネーション攻撃によって姿を現した…本物の残像剣なら、本体と残像は全く同じ姿であるはず。にもかかわらず、本体と残像…それぞれが刀を握っていた手は"左右逆"だった。」
フォウ「…………」
氷冬「貴方の中にいるのは瓜二つの「双子の兄弟」かしらね。だから残像剣による演出によって、会場の観客たちからその"秘密"を逸らした。そして、貴方たちはもう一つ秘密を隠している…―――"その秘密を秘匿する為のもう一つの秘密"――― 貴方たちは、"互いの身体を合体・分離する能力"と、"触れたものの姿を不可視にする能力"を持っているということ…。…私はそう思ったのだけど、違うかしら?貴方の言う通り、妄想に過ぎないかもしれないわね。(自嘲気味に鼻で笑う)」
フォウ「………」
――― 「あぁーあぁー…バレてしまいましたねぇ、フォウ。」 ―――
フォウ「ええ、『 ファイ 』…やはり彼女は警戒すべき相手でした…。せっかくお兄様が我々の存在を世間から覆い隠してくれたにもかかわらず、何処の馬の骨とも分からぬ小娘如きに見破られてしまったのですからね…(腹の底から煮えたぎる感情に身を震わせ、紳士的と思われていた面影の一切が消失する)」
氷冬「……(ようやく本性を現したわね…悪魔…)チャキリ…(凛とした態度で刀を身構える)」
【フォウ】&〖ファイ〗:『ヴヴンッ――――(ファイの身体が幻影のように揺らめくと、彼と瓜二つの姿をした双子の弟「ファイ」が姿を現す)』【私はフォウ。】〖私はファイ。〗【貴女の言う通り、我々は双子の兄弟。故に"斬双"なのです。】〖そして貴女の考察は見事に的中いたしました。大変素晴らしいことでございます。〗(右手に刀を構えたフォウと、左手に刀を構えたファイが彼女と対峙する)
氷冬「思ったとおりね。長い間、戦いに身を投じてきたからわかる。私が知るのは何も刀剣者やその武器だけじゃない。世界に存在する能力者だって同じよ。」
【フォウ】&〖ファイ〗:【そう、我々はファミリーにおいて唯一の能力者。生まれ持った天賦の才というものです。】〖しかし我等にとって最大の武器は、一卵性双生児であるが故の抜群のコンビネーション。〗【我々は二人で一人…たとえ剣術が素人であろうと、二人で斬りかかればどんな剣豪も簡単に討ち沈められる。】〖勝利を得るためならば手段は選ばない。それが我ら、ファミリーの心得。〗
氷冬「そう…私が最も嫌いとするタイプの人間よ、貴方たちは。…だけど、分身でも分裂でもないと分かった以上、貴方たちがこうしてステージに立っているのは反則行為に繋がるんじゃないかしら?この大会…刀剣とは名ばかりに多少戦術は何でもありな緩いところがあるけれど…原則、一対一の真剣勝負が求められる。能力で正体を隠し、二人がかりで試合に勝ってきたことが全員に知れ渡れば、貴方たたちは強制失格になる。諦めて、降参しなさい。」
【フォウ】&〖ファイ〗:【……ハ、ハハハ…フハハハハ!!】〖ハハハハハ!!〗【聞いたかい、ファイ?】〖聞いたよ、フォウ。実に滑稽なことだよ。〗【…愚かだな、雪桜氷冬。確かに我々が双子で、二人同時に試合に出場したことが判明すれば我々は強制退場になるだろう。しかし―――】〖――その事実を知っているのは雪桜氷冬、貴女だけだ。つまりここで貴女を殺せば、我々の正体を知る者は誰もいなくなる!〗
氷冬「――――――!」
【フォウ】&〖ファイ〗:【フフフ…何も知らない小娘の貴女に教えてさしあげましょう。】〖"真実"なんてものは勝者によって塗り替えられる。〗【正義を豪語する大きな組織ですら、自らが犯した過ち、その"真実"を覆い隠し続けてきたように――――】〖世界において"真実"とは常に書き換えられ、変質していくものなのです。〗【全ては「力」ある者によって変えられる!】〖「力」なき者は"真実"と共に消えていく運命にある!そして貴女も――――〗【〖 我 々 が 消 し 去 っ て 差 し 上 げ ま し ょ う! ! 〗】
氷冬「…… ギ リ ィ …(込み上げてくる怒りに歯を食いしばる)やれるものならやってみなさい、ただしその頃には―――――― 貴方たたちは八つ裂きになっているわよ。(もう一刀を振り抜き、二刀の態勢に入る)」
【フォウ】&〖ファイ〗:【斬首刑だ、ファイ!】〖斬首刑です、フォウ!〗(それぞれに構えた刀に“アンビション”を纏う)【〖――― “ 波 動 シ ズ ァ ー ゼ ル ” ―――〗】( ド ギ ュ ア ア ア ァ ァ ァ ッ ! ! ! ! )(双方向から鋏討つように放たれた凄まじい斬撃波が、氷冬の首を狩らんと解き放たれた)
氷冬「――――――――― “ 隼 ” ――――――――――」
ザ キ イ イ ィ ィ ――――――――――――――― ン … ッ … ! ! (彗星の如く駆け抜けた蒼く疾い一閃が、二重の斬撃波を討ち滅ぼし、双子を斬り抜けた―――)
【フォウ】&〖ファイ〗:【〖―――――――ッッ!!??〗】【…馬鹿、な……ッ…――――ドサァ…ッ… ! 】〖我々が…そん……――――ドサァ…ッ… ! 〗(刹那の内に斬り裂かれた二人は共倒れになる)
キリギリス「き…決まったあああああああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!!!勝者は氷冬だァーッ!!!!」
氷冬「スチャン…(二刀を鞘に納める)…貴方たちは多くの剣士を侮辱した…恥を知りなさい。(倒れ伏した二人の姿に一瞥もくれず、颯爽とステージを降りていく)」
大剣使いの男「……!!(あのフォウまでもを討ち破ったか……あの四刀使いの娘、第一回の大会の時より、著しい成長を帯びている…一体、何処で何をしていたというのだ…っ……)」
最終更新:2017年07月31日 11:41