ジール「友達になろう」

ジール「恐れることはないんだよ。友達になろう」



──公園──


「あ、白髪お兄さんだー!」

「ほんとだー!」

「おーい若おじいちゃーん!」

ジール「……ん、すっかり寝てしまったようだ、な」

「ベンチでお昼寝ー?」

「そのノートなーに?」

「ほんとだー!すげー皮作りだカッケー!見せて!」

ジール「おっと。ダメダメダメダメダメ…絶対にダメ。これはおじさんの大事な日記なんだから」

「ちぇー ケチー」

「さいてー」

ジール「!?wwww!!?wwwwさい…てい? 酷いな、誰だって秘密の一つや二つあるだろー?」

「若おじいちゃんひみつだらけじゃん」

ジール「ブッwww あーもういいわかったw また面白い昔話でもしてやるから機嫌直せって」

「ほんと!?」

「「やっ…たー!」」

ジール「うんうん、君達は素直でいい子だ おじさんのとっておきのお話を聞かせてあげよう」

ジール「むかしむかし、あるところに一人のやせ細った男がおりました」






私がその男に出会ったのは丁度60年前の話
会社という物が出来てサラリーマンというものが世の標準となった時代の話だ
私は彼ら彼女らのことが益々好きになった

あの頃は今程経済が豊かじゃなかったせいなのか、だいたいの会社員は、
まず入社して真面目に務めていればベルトコンベア式に出世できたものだが、
成る程、案外そうでもないようだ。遠目ではなく、現場に赴いてよくよく現状を見れば、
楽して出世できる輩は元々財力の基礎が出来上がっていた人間のようだ、つまるとこコネという奴だ

しかしどうだろう、今目の前にいるこの青年は安定した生活を送れる程の地位を得て、
おまけに家族がいるというのにまだ満足していないようだ
どれ、その満たされぬ欲を肥やす手伝いをしてやるか

サタナエル「やあ。」

男「!?」

「何をそんなに驚いている、背中から翼の生えた人間が声をかけただけじゃないか」

男「ひぁ…ば、化け物!」

サタナエル「ふーむ…同じ言語の筈なんだが、錯乱して対話どころじゃないのか
      恐れることはないんだよ、何、とって食おうという訳じゃないんだ」

私はポンっと札束をその男に差し出してやった、丁度餌をやるかのようにな

男「……」

サタナエル「どうだい、悪くない話だと思うんだが…聞いてはくれないだろうか」

男「あ、あなたはいったい……」

サタナエル「…ふむ、そうだな……『イエス・キリスト』と名乗っておこうか」



そう、私はその日から神となったのだ
私は姿を消し、その男の背後に付きまとうようになった
そして男も私を認識している、寧ろ歓迎してくれている

それは何故か? 簡単な話だ、甘い蜜の出処を教えてやったんだよ

男「部長、報告書をまとめておきました。よろしければ目を通しておいて下さい」

部長「おお、今回は早かったな」

男「ええ、それはもう…」

部長「……」

男「なにしろ遊郭へ趣き酔いつぶれた部長と売春婦が二人で店から出てくる場面を写真に収める
  ただそれだけの作業でしたから」

部長「……何が望みだ」

男「はい?」

部長「何が望みだと聞いているんだ!」

男「…別に、無知な奥方を思っての善業だったつもりなのですがね」

部長「この悪魔が!私んい何をさせたいんだと聞いているんだこの…ッ!」

男「声が大きいですよ。外に聞こえたらどうするおつもりで?」

部長「……っぐ…ぐ!」

男「…強いて言えば今年度の昇級日、部長から顔を立てて社長と取り合ってはもらえないでしょうか
  私も妻が居る身ですし、彼女には安心して生活して貰いたいんですよ、それはお互い様でしょう」

部長「…………一つだけ聞かせてくれ」

男「はい」

部長「その情報は誰から聞いた」

男「それは言えませんね、約束ですから」

サタナエル「本当は目の前に居るんだけどなw」


3年後


男「ああ、給料日ってだけじゃ楽しめなくなってきたかな…」

サタナエル「なんだ、まだ満ち足りないのか?」

男「貴方には感謝してますよ。お陰でマイホームのローンも払い終えたし、業績も鰻登り。
  その分不幸になった人々には申し訳ないが私が勝った、それだけの事でしょう
  でもね、人間は常に登り続けなければ萎えてしまう生き物なんです」

サタナエル「足ることを知らず…か」

男「ん…あれは」

サタナエル「お…あの車久々に見るな」

男「君、ちょっといいかな」

運転手「はい?あんた誰さ」

男「この車を買いたいんだが、良いよな? 君はこの紙幣でより性能のいい自動車を買えばいい、
  私はコレクションが増える。どうだ悪い話じゃないよな?」

サタナエル「………」

サタナエル「こいつ面白いな、もっと弄ってみたい」



10年後



男「キリスト」

サタナエル「んー、どうした。うおまっずい!なにこのビスケット!」ボリボリ

男「どうやら俺は今まで狭い世界を見ていたようだ」

サタナエル「ほう」

男「世界は広い、社交界とやらを知って面倒ごとも増えたが一つわかったのは
  美女とはなんたるか……だ」

サタナエル「…人は老いる、その女優も、君も、君の妻も例外ではないぞ」

男「……」

サタナエル「若い女を堪能し続けたいなら…」

男「今を捨てるしかない」

サタナエル「それと、人間性もな」

男「……あなたは本当に神様ですか」

サタナエル「逆に問うが、神がどんな存在かについて考えたことはなかったのか」

男「……」

サタナエル「私はあくまでも現実に存在する神だ。何をどうすれば物事を思い通りにできるか、
      その仕組みを知っているだけに過ぎない。神が倫理を持ってしまえばそれはエコ贔屓じゃないか
      つまりだな、神が特定の倫理を肯定するんじゃない、神が倫理そのものなんだ」

男「……」

サタナエル「つまりこういうことだよ。『私が神。君は選ばれた人間』」

男「……いいでしょう、あなたの口車に付き合いますよ」

サタナエル「それでいい」ニッ



その後、その男は妻のために得た財産で新しい女を買い、妻を捨てた
しかし、その事実が公へ晒されることはなく男はあくまでも優雅に振舞った



10年後



サタナエル「養子を買ったのか」

男「ええ、優秀な子供を両親から買い取りましてね」

サタナエル「くく…人間とは面白いな
      こんなチップと紙切れが人の人生を狂わせもするし輝かせもする」

男「ええ、しかしあなたの言ったとおり私も老いた」

サタナエル「だな、頭も光沢を帯びたしよく肥えた」

男「それは豊かさ故ですよ、ちなみに普段はカツラです」

サタナエル「知ってる」

男「ですよね。 で、私もいつかは死ぬであろうことがわかったのですが…どうも納得がいかない」

サタナエル「……」

男「私はこの一生使っても使いきれない財力の使い道と、息子を優秀な人材にする意味を見出した
  私の延命手術を行うために…です」

サタナエル「」

男「私はあなたのように世界の動く仕組みを知った!財力も得た!全てが思いのままだ!
  そうでしょう!だから私にはできる筈だ!この史上例のない財力を得た私なら…」

サタナエル「くは…はは…ハハハハハハ…!」

男「?」

サタナエル「ハハハハハハ!ハーッハハハハハハハハハハハッ!」

男「何が……おかしいんですか」

サタナエル「ハハ…思い上がるなよ人間!所詮お前は何処まで行っても人間でしかない!
      その繁栄が自分たちの力だけで成し遂げられたと思っている!」

男「…違う、とでも言うのか!?」

サタナエル「…いいさ、やってみろよ。楽しみにしている」

男「……?」


20年後



養子「父さん、入るよ」

男「おお、よく来たな…アメリカの事業は上手く進んだか」

養子「ええ、父さんの親会社が潰れてくれたお陰でクライアントが全部僕の方へ回ったからね」

男「なんだと?」

養子「とはいっても…これからそうなるっていう話なんだけどね。テレビ付けるよ」

男「!?」

ニュースキャスター「謎のハリケーンの15箇所同時発生により想像を絶する被害が発生しており
          F社の生産力を担ってきた工場全てが機能を停止する事が見込まれ被害総額は……」

養子「ちなみに、僕は保険会社に鞍替えしているんだけどね」

男「……あり得ない、こんな馬鹿な…」

養子「確かに…ね。これは普通の自然災害じゃないんだよ父さん」

サタナエル「やあ、久しぶりだな」

男「……!?……!!?」

サタナエル「10年振りだな。もうすっかり白髪になっちまってるな」

養子「僕はね父さん、彼に手伝って貰うのは今回限りって事にしたんだ」

男「……」

養子「彼に全て聞いたよ、父さんは一生分の不幸を全て繰り越して今の偉業を成し遂げたんだって」

男「なん…だって?」

サタナエル「当たり前だろう。私は神様や仏様じゃないんだ
      君が死ぬまで付き添って『不幸を遠ざけてやる』訳がないだろ?」

養子「全部彼の力で事は上手く運んでいたんだ。父さんはそれに気付けなかった」

養子「さよならサタナエル、父さんとゆっくり話をしてやってくれ。僕はもう君とは会わないだろうし」

サタナエル「……父親と違ってつまらない人間だよ、お前は」

男「」

サタナエル「……さて、何について話そうか? 君のこれからの行く末について話そうか」

男「……私は、いったいどうなるんだ?」

サタナエル「さあな。私にもわからんがこれまで避けてきた不幸全てが、
      『倍になって』降り注ぐことは街がいないな」

男「すると…どうなる?」

サタナエル「元の暮らし、いや。女も金も家もない生活に戻る『だけ』で済めばまあいい方だろう」

男「そんな……!」

サタナエル「おいおいそんな目でみるなよ。もう君の顔は見飽きてるんだ。すっかり老いたしな」

男「な、なあ待ってくれよ…何とかならないのか? なあいいだろ?悪くない話だろ?
  私のできることなら何でもするから!頼むよ!」

サタナエル「調子に乗るなよ、君は運が良かっただけの人間だろう?
      そんな役立たず、私にとっては玩具でしかないんだよ」

男「はっ……嫌だ……下民になるのは嫌だ!」

サタナエル「……そうか? だったら生き恥をさらさない方法を教えてやる」

男「た、頼む!」

サタナエル「ほれ。もう見慣れた代物だろう」

冷たく重厚な金属音が卓上に響く
銃だ。思えばこいつはこれで何人邪魔者を消したんだろうなぁ…ま、興味は失せたが

サタナエル「こめかみに押し当てててトリガーを引くだけだ。簡単だろ?」

男「……」

サタナエル「やれよ」

男「……」

男「」カチッ


ドパァンッ……


サタナエル「……やっぱり、人間、もとい肥やした家畜はいい暇つぶしだな」

サタナエル「あ、そこの君 うん、君だよ君」

サタナエル「恐れることはないんだよ、友達になろう」









ジール「……おや、飽きて眠ってしまったか」

ジール「ふふ…子供とはまさに天使だな。 あいつのような無能にはなってくれるなよ」

ジール「気をつけないと」

サタナエル「この私に取り殺されるからね」











fin

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最終更新:2024年04月11日 01:31