躙り寄る死と理不尽の足音

コツ、コツ、コツ、と。
硬い石の上を淡々と歩む足音が、嫌に鮮明に響く。
音は、次第に大きさを増して、こちら側へとやって来る。
しんと静まり返った空間が、やたら恨めしい。
コツ、コツ、コツ、と。
無慈悲なほどに、響き渡る。

また、この夢だ。
この夢を見るのは何度目になるんだろうか。
俺は、この悪夢を何度も見ている。
まるで何かを知らせるように、見せられ続けている。

情の無い死神の足音が、俺の目の前まで迫っている。
いつも、奴の姿はぼやけてよくわからない。
今日もそうだ、特に顔は全くわからない。
ただ、奴は今日も感情無く無機質にこちらへと歩んでくる。
一歩、一歩と、それはまるで俺の命が終わるまでのカウントダウン。
そして、その音が目の前まで迫ってきた時。

俺は、首を切り落とされて死ぬ。
抵抗は、しない。
いや、できないと言ったほうが正しいか。
夢と自覚して、夢をある程度想像できるようになっても。
何故か、全く抵抗できない。
無慈悲に首を刎ねられるだけだ。
無慈悲に。
何度も。
何度も。
何度も。
幾度と無く、俺はこいつに首を刎ねられる。
今日で何度目かは、もうわからない。

そして、首を刎ねられた所で、俺の意識は覚醒する。
背中に冷や汗を大量にかきながら、目が覚める。
まただ。
俺はまた、あの訳の分からない奴に。
為す術もなく、殺された。
あいつは、何なんだ?
何のために、夢に出る?
何故、こんな何度も見る?

いくら問いを投げかけても、答える者はいはしない。
そりゃあそうだ、俺の部屋だから。
俺一人しかいないのは当たり前だ。
…だからって。
俺は、どうしてここまで散々な仕打ちを受けなければならない?
何故、俺はこんなにも理不尽な目に遭わなければならない?
誰か、教えてくれ。
誰か、答えてくれ。
俺はもう、心が折れそうだ。
折れても、頼れる相手なんていない。
俺に何を伝えたくて、こんな夢を見るんだ。
頼むから、そっとしておいてくれ。
俺はただ、生きたいだけなんだ。
生きて帰りたいだけなんだ。

俺の人生は、理不尽で塗り固められている。
今回だって、そうだ。
為す術もなく死ぬのは嫌だ。
だが、それでも俺は何もできない。
俺は無力だから。
俺はただの、貧弱な人間でしかない。
だからって、誰一人として頼れはしないいし、信用もできない。
こんな不条理な世界、いっそ壊れてしまえばいいと何度思ったか。
でも、俺には何もできない。
無力だから。

せめて俺は、力が欲しい。
自分の命を守れるだけの、力。
殺されないための、力。
理不尽に抗うための、力。
それでもどうしようもない事は、あるのかもしれない。
俺はいつ死ぬのかも、わからない。
だけど、せめて。
何も出来ずに死ぬのだけは、嫌だ。
せめて、せめて足掻きたい。
俺は死ぬまで、足掻き続ける。


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最終更新:2024年04月11日 03:11