EVOKE -舞- ニシル編プロローグ

真っ暗な空間の中で、誰かの会話が静かに流れた…


(少女の声)「ねぇ…おばあちゃん…。ママは…?パパは……?」

(老婆の声)「…ニシルや、お母さんとお父さんはもう、いないのだよ…」

(少女の声)「…どこかへでかけちゃったの…?」

(老婆の声)「……ニシルや…。」

(少女の声)「おばあちゃん……?どうして……ないてるの…?」

(老婆の声)「………ニシルや、よくお聞き。―――――お母さんもお父さんも、死んじゃったんだよ。」

(少女の声)「……ふぇ……?……ど、どうゆうこと、おばあちゃん?…なんで、なんでママとパパがしんじゃったの……?………うそだよ、おばあちゃんのうそつき。」

(老婆の声)「ニシルや…。」

(少女の声)「おばあちゃんのうそつき!!そんなはずないもん!!ママとパパはちゃんと「かえってくる」っていってたもん…!…しんでなんかないもん!!」

(老婆の声)「ニシルや、それはじゃの―――――――――」


ズッ、ズズズ…ッ…!! ズズッ、ズズッ、ズズズ…ッ…!!!


(少女の声)「……!!…お、おばあちゃん…?……どうしたの…おばあちゃん…!?」

(老婆の声)「ソ……ソ…レハ、レハ……ジジジャ…ノ……ノ……」

(少女の声)「ねえ…!…ねえ、おばあちゃんってば―――――――――」




(男性の声)「―――――――"この俺がブッ殺したからに決まっているんだろうが"―――――――」





水色髪の少女「うああああああああぁぁぁ!!!! ガバッ!!(目が覚め勢いよく上半身が起き上がった)」

水色髪の少女「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……!(全身汗だくで荒い息をあげながら、強張った表情でパジャマの胸辺りを強く掴んでいる)」

水色髪の少女「…はぁ……はぁ………はぁ……… ……ふぅ…(しばらく経って我に返り落ち着きを取り戻す)……こ、こは……?(静かにあたりを見渡す)」


少女は真っ白とした一室で、窓辺から差す陽光を受けてより白さが際立っている。窓の外には青一色の空が広がり、小鳥たちが飛び交っていた。


水色髪の少女「(目元を擦り、自分がベットで横になっていたことに気づく)…病院…?……私、いつの間に―――――――― 」


ガラララ…(スライド式のドアが開き、中にすらりとした体形の女性が入ってくる)


水色髪の少女「……!…あっ、カガリしゃう!?(誰かの名を呼ぶ途中で何かに頭を軽くぶたれる)」

カガリ「(手に持っていた鞘で少女の頭をぶった)搬送されてから一日と6時間かけてようやく目が覚めたか。まったく、どれだけ人様に迷惑をかければ気が済むんだ天然娘。疲労を募らせ過ぎだ、体に負担をかけるなとあれほど言っただろう。(やれやれと言わんばりの表情)」

水色髪の少女「ごっ、ごめんなさい、カガリさん…!…でも、あの時…『あの男』を見かけたという情報を知ってそれdふぁっ!?//(頬をつままれる)」

カガリ「(少女の頬をつまみうねうねさせる)言い訳など笑止。例え『仇』が目の前にいたとしても、その時のお前は既に疲労困憊。実力云々以前に、殺る前にあっさり返り討ちだろう。いいか、そういう事態に備えて体調管理はしっかりしておけ。それではせっかく鍛え上げたお前の力も全く無駄になるだろうからな。(少女から離れる)」

水色髪の少女「ぅ……はい…。(咎められてしゅんとなる) 」

カガリ「……。(少女の姿を横目で伺った後、窓の外に映る鳥たちを視界に捉える。まるで"何かの予兆"を感じ取ったかのような鋭い目つきとなって…)……着替えはそこのクローゼットに用意してある。食堂で朝食をとったあと、9時に退院予定だ。手続きは既に済ませてあるから安心しろ。その後は好きにしていいが、午後の18時までに私の家に戻ってこい。いいな、ニシル。 」

水色髪の少女→ニシル「(顔を上げる)は、はい…!あの、ありがとうございます…カガリさん。(両手を胸に添えて申し訳なさそうに頭を下げる)」

カガリ「……。(ふと何かを思い出したようにスーツのポケットから、誰かの住所が記された紙きれを取り出し、それをニシルに手渡した)…礼なら、その住所の人間にな。救急車が来るまでお前を介抱した奴だ。…さっさと挨拶に行っとけ。ガラララ…(部屋を出ていく)」

ニシル「……!(私のことを…助けてくれた人…。)(住所の紙きれを呆然と見つめる)……そうだ、ちゃんとお礼しなきゃ…!(ベッドから起き上がりクローゼットに手を伸ばす)…まずは『この人』のもとへ…!」



ニシル「はふぅ…(病院から出てくる)…手ぶらじゃ行けないから、まずは何かお礼の品を買わなきゃ…。えっと…どうしよう、何がいいかな……??(顎元に人差し指をさえて首を傾げる)」

ニシル「……まずは足を運んでから、かな…。(結局思いつかなかったのでデパートへ行くことに)」


~某デパート店~


アメリカ人女性店員「Hi!ソコノ貴女!オ土産、買ッテイカナーイ?(高い声でニシルに呼びかける)」

ニシル「わっ!(あぅ…びっくりしたぁ…。)…うーん…何があるかな…?(レジ前に並べられたお土産の品々を見る)」

アメリカ人女性店員「家族ニ、オ土産ー!ドレモ安イネ、安イネ!『怒り饅頭』『ノコノコ村自慢の亀煎餅』『トアル産カボチャのタルト』に『スカッとさわやかプププサイダー』イロンナノアルネー!」

ニシル「わわわっ…!な、なんかいっぱいある!うぅ~…どれにしようかな…。(とりあえず勧められた品から見てみるが…)」

アメリカ人女性店員「モット安イノアルネー!家族ニ、友達ニ、オ土産ー!安イネ、安イネ。(さっきからパターン化された発言しかしないことからマニュアルなのが丸見えである)」

ニシル「ふぇ~~!ど、どうしよう…何がいいんだろう~…!(優柔不断過ぎるため数多の品々の前でパニくってる)」

白服の青年〖――――――ふン、この『奥州のずんだ餅』というのは良さそうだネ。(いつの間にかニシルの隣に立って商品を手に取る)この餅菓子は一度お店で食べた事があるからわかるけド、とっても美味しくてテ、甘すぎず口溶けの良さがまた格別なんだよなァ~。…もしも迷ってるなラ、これにしてみたラ?きっと相手も喜ぶだろうネ。(ニシルに微笑む)〗

ニシル「ピョク…!(いきなり隣から声が聞こえたので体が飛び跳ねる)わぁ…お餅、確かに美味しそうですね。……わかりました、じゃあ、これにします…。あ、あの、包装もお願いします。 」

アメリカ人女性店員「マイド、ベリベリィアリガトウナノネ!マタ来テナノネ!(包装した土産の品を手渡す)

ニシル「(清算し、はにかみながら店員に軽く会釈する)ふぅ…いいお土産が買えてよかった。あの、ありがとうございま―――――(青年の方へ振りかえる) 」


先程までそこにいたはずの青年の姿はそこにはなく、行き交う人々の中にもそれらしき人物は見当たらなかった…。


ニシル「……!あ…あれ……?(…いなくなっちゃった…。)(不思議そうな表情を浮かべながら何気なくあたりを見渡すと時計が視界に入る)…あれから一時間しか経ってないんだ…。(ポケットから住所の紙きれを取り出す)調べたら、ここからそんなに遠くないはずだから…ゆっくり行こうかな。(デパートを後にする)」





ニシル「うぅ…急に寒くなってきた…。…もう秋なんだよね…。(お土産の入った紙袋を片手に震えながら街中を歩いている)

白服の青年〖――――――「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」…。…時の流れは早いんじゃなイ。時間という濁流に飲み込まれたボクらにはそれが早いと錯覚しているガ、実は気づくのが遅いんだよなァ、人間っテ。風に触れてやっと気づかされるんだもノ。ハハッ…!(ニシルが通り過ぎた誰もいない公園入り口前に、あたかもはじめからそこにいたように立っていた)〗

ニシル「―――――!(青年の声が聞こえたので振り返る)あ、貴方は…さっきの……。(…今、誰もいなかったはず…。)」

白服の青年〖ン?あア… …さっき会った娘だネ。こんにちハ。(微笑む)〗

ニシル「こんにちは。あ、あの…先程はありがとうございました。おかげで助かりました。(青年に深くお辞儀し)」

白服の青年〖おオ、そうかイ。そりゃあなによりだヨ。ングング…やっぱ美味しいナ、こレ。(いつの間にかずんだ餅を咀嚼している)…そのお土産、誰かにお礼しに行くのかナ?(2828)〗

ニシル「……。(あ、この人も買ったんだ、お餅…。)(汗) あ、はい。そうです。大変お世話になったので、これから挨拶に伺おうかと思いまして…。」

白服の青年〖へぇ、そうなんダ。ちゃんと挨拶へ向かうなんて律儀なんだネ。感心しちゃうナ。(被っている白帽子を目深に被り直し、再びニシルと目を合わせる)…軽い挨拶はこの辺にでもしようカ。…ボクにはね、キミがここに来ることは分かっていたんダ―――――はじめましテ、マダム・ニシル。(軽く腕を広げてニシルに微笑む)〗

ニシル「ピョク…!(全身に一瞬の震えが迸る)…あの、えと…何で、私の名前を……?(一驚した顔で問いかけ)」

白服の青年〖今日、ボクらがここ出逢ったのは運命なんかじゃなイ、すべては"必然"なのサ。(美しい輝きを帯びた碧の瞳が太陽の光によって露わとなる)…そウ、マダム・ニシル、キミにある『事実』を教えに来タ。(表情は一切歪まずだが、その発言には只ならぬ重みがあった)〗

ニシル「―――(歪な風で水色の髪が靡く)…事実、とは…?(青年の重みある言葉に違和感を感じたのか、一歩退く)」

白服の青年〖ピッ(ニシルの額にすれすれ接触するかしないかの近距離まで指を伸ばす)もう"すぐ"だヨ。もうすぐデ、この世界の掟(ルール)の破ることデ―――――キミの日常を取り戻すことができル――――― 〗

ニシル「世界の掟(ルール)…?日常を…取り戻せる…?あの、それは一体どういう―――――。」

白服の青年〖ボクは出会う前からキミのことを知っていル。キミは『ボクら』の求めた『選ばれし純潔の種族』のその一人なんダ。そんなキミのことをボクはたいそう気に入っていル。だからこそ「幸せになってもらい」たイ。故に今日、キミにその為の事実を教えに来たんダ…。―――――――キミは、幼い頃に家族を失ったようだネ。(表情から笑みが消える)〗

ニシル「――――!!!…ど、どうしてそれを……!?あの、貴方は一体…?何故私のことを知っているんですか!?それに世界の掟(ルール)とは、純潔の種族って…!?……貴方は、私のことを知っていると言いましたよね…!?じ、じゃあ…貴方はあの事件の真相を知っているんですか…!?………ぁ、あの…お、教えてください…。その、今、わからないんです。貴方の言っていることが…『事実』とは、一体…?(さっきまで青年を警戒していたにもかかわらず、気付かない間にずいずいと歩み寄っている)」

白服の青年〖フフッ…無理もないネ。見ず知らずの青年にいろいろ突き付けられて戸惑いを隠せないのは仕方がない事だヨ。ボクは『キミたち』には親切だからね、一つ一つ答えていこうじゃないカ。〗

ニシル「……ごくり…。(息を呑み込む)」

白服の青年〖まず一ツ、ボクに名前は無いシ、そんなものは必要はなイ。二つ目、キミのことを知っているのハ、ボクがキミより以前から存在している由縁であリ、その事件のことも全て知っていル。三つ目…ハ、まだキミに教える時期ではないネ。いづれわかることとなル。そして最後……そうダ、ボクは真相を知っているヨ。間違いなク、キミが予想している『その男』こそが犯人。そして彼は今もこの街の何処かで息を潜めているようだヨ。(淡々と質問に応えていく)〗

ニシル「(次々と明かされる事実にただ驚愕することしかできず、頬に汗が伝わる)……やはり…情報の通り、『アイツ』は今もこの街の何処かで…!!(ずっと大人しげな雰囲気を漂わせていたが、険しい表情に一変し空をキッと睨みあげる)」

白服の青年〖だガ―――――"それ"がすべてじゃあなイ。キミはまだ、真相を知りやしなイ。その『男』が何者で、今は何処かのグループの一人として行動していることとカ…。(面白そうな笑みを浮かべながら顎元を摩る)〗

ニシル「……!!何処まで知っているんですか…『あの男』のことを…!(ずいと迫る)」

白服の青年〖おっとっと…裕弁は銀、沈黙は金。これ以上教えても仕方ないよネー。(いつの間にか入り口付近に立っていた地蔵の頭の上に飛び乗っていた)心配しなくていイ…キミはいづれその真相を知ることとなル。今日ボクはその『事実』を教えに来ただけなんだかラ…。フフッ、ここまでで話は呑み込めたかな?(意地悪っぽく笑みを浮かべる)〗

ニシル「ハッ…!(背後からの青年の声が聞こえた瞬間、目の前にいたはずの青年が消えていたことに驚愕する)…えぇ…なんとか、理解できたと思います…。過去を知っているのなら、貴方を信じるしかなさそうです…。もっと知りたいことはあるけれど、今は、『あの男』がここにいることさえ分かれば、それでだけで……ギュゥ…(拳を強く握りしめ、溢れてくる感情を抑えようと必死に堪える)」

白服の青年〖……!そウ、その"目"ダッ!(ベンチから勢いよく立ちあがる)今の目ヲ忘れないでくレ…!それがある限リ、世界の掟(ルール)を破ることができル…!(一瞬取り乱したせいで帽子が歪み、慌てて深く被り直した)……だけど一つだけ忠告しておくヨ。キミ一人では『あの男』のもとへは辿り着けなイ。その理由はもう直わかるサ。だからキミハ…同じ志を持つ人間を探すことダ。でなければキミハ――――果たせず終いの仇打ちで生涯を終えル――――(目を細める)〗

ニシル「ビクッ…(最後の発言を聞き、それだけは望みたくないと体が震えだす)……。(同じ志を持つ人間…。つまり、『あの男』を恨む人間が他にいるということなのかな…?)…それだけは…ならない…。私は必ず、惨劇を断ち切ってみせる…。……そろそろ行かないといけないので、失礼します。(青年を過ぎ去ろうとした時、彼の方へ振りかえり)…いろいろ教えていただき、ありがとうございました。(もう一度深くお辞儀をして小走りで走っていった)」

白服の青年〖(去りゆくニシルに満面の微笑みを見せる)いつかまた逢おウ―――――――――『同胞』ヨ。(帽子をクイと動かす)〗

白服の青年〖―――――フッ―――――(その場から消える)〗


某所、街外れの山にて…


白服の青年〖(木の枝の上に立って街から沸き立つ陽炎をぼーっと見つめる)…なぁニ…何も今に始まったことじゃあなイ。『キミ』があの時『彼』に救われた時かラ、既に針は進んでいるんだヨ。(遠近法で小さく見える街並みを握る) ここから進みだすのサ、ボクたちの物語ハ―――――〗

白服の青年〖さア――――――〗


――――― 喪 失 の 頁 を 新 た な 歴 史 で 埋 め 直 そ ウ ――――――

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最終更新:2020年09月10日 08:56