親の別離手続における子どもの権利および最善の利益の保護に関する欧州評議会閣僚委員会勧告
親の別離手続における子どもの権利および最善の利益の保護に関する欧州評議会閣僚委員会勧告 CM/Rec(2025)4
前文
閣僚委員会は、欧州評議会規程(ETS No.1)第15条bの規定に基づき、
欧州評議会の目的が、とくに共通の政策および基準を促進しかつ人権分野における共通の行動を通じて共通の利害に関する事柄についての立法を調和させることにより、加盟国が共通に継承する理想および原則の保護および促進を目的として加盟国間のいっそうの統合を達成することにあることを考慮し、
すべての人間の固有のかつ平等な尊厳の原則を再確認し、かつ、欧州評議会のいずれかの加盟国の管轄下にあるすべての子どもが、いかなる理由に基づく差別もなく、自己の人権および基本的自由の全面的な行使、保護および促進ならびにその尊重を享受することを保障することの重要性を強調し、
関連の国際条約および欧州諸条約、とくに国際連合・子どもの権利に関する条約、人権および基本的自由の保護のための欧州条約(ETS No.5)およびそれぞれの追加議定書ならびに欧州社会憲章(ETS No.35およびその改正版であるETS No.163)に掲げられた子どもに対する義務を顧慮し、
欧州人権裁判所の関連の判例ならびに子どもの権利、家族法および関連の法的手続の分野における閣僚委員会の基準および指針、とくに
子どもにやさしい司法に関する欧州評議会閣僚委員会指針を想起し、
戦略的目標として「2.1.すべての子どもにとっての、暴力からの自由」、「2.4.すべての子どもにとっての、子どもにやさしい司法」および「2.5.すべての子どもに対する意見表明の保障」を含む
欧州評議会・子どもの権利戦略(2022ー2027年)に留意し、
選ばれた欧州評議会加盟国で協議の対象とされた子どもたちの意見および見解を認知し、
子ども、親および家族の支援にあたり、共通の枠組みのなかで国の関係機関と協力しながら非政府組織を含む市民社会が果たす重要な役割を認識し、
子どもに関わるすべての決定および行動において子どもの最善の利益が第一次的に考慮されるべきであり、状況によっては最高の考慮事項とされるべきである一方、実際には、親の別離手続において子どもの最善の利益が常に正当に考慮されているわけではない場合があることに懸念とともに留意し、
権利の保有者としての子どもの地位に適切な立法上、手続上および実体上の承認が与えられるべきであり、かつ、これらの子どもは、自己に影響を与えるすべての決定および事柄における権利行使に際し、適切な支援の利益を受けられるべきであることを確信し、
親の別離手続に関わる自国の立法、政策および実務の改善に関して加盟国に指針を示し、かつ、権限ある当局、関連の職員および専門家ならびにこのような手続に関与する親および子どもを対象とする指針の提供に関して加盟国を支援できることを希望し、
この勧告は、加盟国の法制度の多様性を認めつつ、子どもの最善の利益を評価するための共通の枠組みの確立を目的とするものであることを強調し、
加盟国政府が次の方策をとるよう勧告する。
1.親の別離手続において次のことを確保すること。
- a.子どもの最善の利益が第一次的に考慮され、または法律で求められている場合には最高の考慮事項とされること。
- b.手続全体を通じて子どもの権利が尊重されかつ保障されること。
- c.子どもに関わる決定が、子どもの最善の利益にしたがい、効果的かつ時期を得たやり方で実施されまたは執行されること。
2.親の別離手続における子どもの権利および最善の利益を考慮する裁判外紛争解決プロセスを発展させかつ促進すること。
3.この勧告の付属文書に掲げられた原則を関連する国内の法律、政策および実務において実施するために必要または有益と考えるすべての方策をとりまたは強化すること。
4.この勧告(付属文書のガイドラインを含む)が翻訳され、かつ親の別離手続に関与する権限ある当局、関連の専門家および子どもとともに働くその他の関係者の間で可能なかぎり普及されることを確保すること。
5.この勧告の効果を増進させる目的でその実施状況を定期的に検証するとともに、加盟国その他の関係者がとった方策、達成された進展、および、その採択から5年を経ても残っている欠点について閣僚委員会に通知すること。
勧告CM/Rec(2025)4の付属文書
I.適用範囲および定義
適用範囲
1.この勧告は、子どもの同居していないまたはもはや同居を望まない両親が関与するすべての手続および裁判外紛争解決プロセスであって、親責任、監護もしくは養育、子どもへのアクセスまたは子どもとの交流に関する決定が行なわれ得るものに適用される。
定義
2.この勧告の適用上、以下の用語はそれぞれ次のことを意味する。
- 「手続」(proceedings)とは、権限ある当局における行政上および司法上の手続をいう。
- 「権限ある当局」(competent authority)とは、親の別離手続に関与する子どもについての取決めに関して法的拘束力のある決定を行なう権限を有する司法機関または行政機関をいう。
- 「裁判外紛争解決手続」(alternative dispute resolution)とは、当事者が、1人または複数の専門家の援助を得て合意形成のために交渉するプロセスをいう。このプロセスは、国内法の定めにしたがい、法的手続の前、最中もしくは終了後に、または法的手続に代えて、進められる場合がある。
- 「高葛藤事案」(high-conflict case)とは、親の一方または双方に、別離に関する和解または合意に達する目的でそれぞれの違いを脇に置きかつ子どもの最善の利益に焦点を当てる能力または意思がない事案をいう(ただしドメスティックバイオレンスをともなう事案を除く)。高葛藤事案には、一般的に、次のいずれかもしくは複数の特徴がある。
- a.両親間の高度な敵意、敵対心および不信。
- b.コミュニケーションの継続的困難および繰り返される争訟。
- c.とくに成立した和解もしくは合意の実施または親責任、監護もしくは養育、子どもへのアクセスもしくは子どもとの交流に関する決定の実施における、両親間の協力の欠如。
- 「子ども」(child)とは、18歳未満のすべての者をいう。
- 「親」(parents)とは、国内法に基づき子どもの親であると見なされている者をいう。
- 「親責任」(parental responsibility)とは、国内法の定めにしたがい、子どもの発達しつつある能力にしたがって子どもの権利およびウェルビーイングを促進しかつ保護することを目的とする、一連の権利および義務をいう。
- 「親責任を有する他の者」(other holder of parental responsibility)とは、国内法にしたがい、子どもの(両)親に加えてまたは(両)親に代わって親責任を有するいずれかの者をいう。
- 「交流」(contact)とは、子どもが他の者と同居していない場合に子どもと当該他の者との間で行なわれる、限られた期間の滞在、面会およびあらゆる形態のコミュニケーションをいう。
- 「きょうだい」(siblings)には、父または母を異にするきょうだいおよび義理のきょうだいも含まれる。
II.全般的原則
子どもの最善の利益
3.この勧告の適用範囲にあるすべての手続および裁判外紛争解決プロセスでの合意の確保および紛争の解決において、子どもの最善の利益が第一次的に考慮されるべきであり、かつ、法律で求められている場合には最高の考慮事項とされるべきである。
意見を聴かれる権利
4.子どもは、情報を提供されかつ相談される権利および自己の意見を表明する権利を持つべきである。子どもの年齢および成熟度にしたがい、子どもの意見が正当に重視されるべきである。
法の支配
5.適正手続基準は、子どもに対しても大人と同様に適用されるべきである。これらの基準は、子どもに配慮した、年齢にふさわしいやり方で適用されるべきであり、子どもの最善の利益を口実として最小化されまたは否定されるべきではない。
尊厳
6.すべての子どもは、常に配慮(sensitivity)と敬意をもって扱われるべきである。子どもの成熟度、個人的状況および特有のニーズへの特別な注意が求められる。
適時性
7.子どもが関与する手続は時宜を得たやり方で開始され、終結しかつフォローアップされるべきであり、かつ、特別な注意(exceptional diligence)をもって扱われるべきである。手続における遅延は一般的に子どもの最善の利益に合致せず、それどころか子どもに害を与える可能性がある。
差別の禁止
8.いかなる理由に基づく差別もなく、子どもの権利が確保され、かつ子どものニーズが満たされるべきである。
私生活および家族生活を尊重される権利
9.加盟国は、子ども、親および親責任を有する他の者ならびにその他の家族構成員の、私生活および家族生活を尊重される権利を確保するべきである。
III.子どもの最善の利益の評価
10.子どもの最善の利益が第一次的に考慮されるべきであり、または法律で求められている場合には最高の考慮事項とされるべきである。
11.子どもの最善の利益の評価に際しては、当該事案の事情ならびに子どもの権利の確保および子どものニーズの充足に関連するすべての要素が考慮されるべきである。これらの要素には次のものが含まれるべきであるが、これに限られるものではない。
- a.子どもの年齢、成熟度および発達しつつある能力。
- b.子どもの意見(子どもが意見の表明を選択した場合)または子どもの見方(子どもが自分自身の意見を形成しもしくは表明することができない場合)。
- c.子どもの家族および社会環境の適切な維持。
- d.子どもをケアしかつそのニーズを満たすことに関する、いかなる種類の差別もなく考慮されるべき、それぞれの親の意思および能力(子どもが他方の親または子どもにとって重要なその他の人と意味のある個人的関係を持てるようにする、一方の親の意思を含む)。
- e.子どもの養育およびケアの歴史。
- f.身体的もしくは心理的危害からの、または虐待、ネグレクトもしくは暴力の対象とされもしくはそれらにさらされることからの、子どもの保護。
- g.脆弱性またはリスクが生じる何らかの状況ならびに保護および支援の提供元。
- h.子どもの発達上、情緒上、教育上および健康関連のニーズ。
- i.自己のアイデンティティを維持しかつ発達させる子どもの権利に関連した考慮事項。
- j.子どもの通常の日常的活動および趣味。
12.各要素の内容および重みは、状況により、個別の具体的事案ごとにさまざまである。事案において考慮された諸要素の評価によって矛盾し合う結論が導き出された場合、子どもに生じる可能性があるいかなる短期的、中期的および長期的影響をも正当に考慮しながら、慎重な比較衡量が行なわれるべきである。
13.複数の子どもが影響を受けるまたはその可能性がある手続では、1人ひとりの子どもの最善の利益が個別に評価されるべきである。
14.事案の事情によって正当と考えられる場合、権限ある当局は、関連のサービス機関および専門家に、多職種アプローチを用いて子どものニーズおよび両親間の葛藤の水準を評価するよう求めることができるべきである。
15.障害または特別なもしくは追加的なニーズもしくは脆弱性のある親または子どもが関与する手続では、当該親または子どもが手続に意味のある形で参加できるようにするための適切な手配が行なわれるべきである。
16.親の別離手続および交流権に関する決定を行なうにあたり、権限ある当局は、子どもの権利、および、子どもは、それぞれの親および子どもと家族としての絆を有しまたはその他の形で子どもにとって重要な他の者と、その最善の利益に合致するかぎり多くの直接の交流を持つべきであるという原則を、実施するべきである。子どもの最善の利益にしたがい、子どもがそれぞれの親と意味のある関係を維持しかつ発展させることを可能にする、十分な時間が配分されるべきである。
17.子どもが低年齢であることは、両親との交流を確立しかつ維持する権利を子どもから奪う際の決定的要因とされるべきではない。
18.制限のない交流が子どもの最善の利益と合致しないときは、監督下における当該親との直接の交流またはその他の形態の交流の可能性が検討されるべきである。場合により、まったく交流しないことまたは交流を一時停止することが子どもの最善の利益に合致するかもしれないという可能性も、認識されるべきである。
IV.意見を聴かれる権利
19.子どもは、直接またはその他の方法で自己の意見を表明する真正のかつ効果的な機会が提供されるべきであり、かつ、その際、一連の子どもにやさしいしくみおよび手続を通じて支援されるべきである。子どもの理解力およびコミュニケーション能力の水準ならびに事案の事情が考慮されるべきである。
20.権限ある当局は、子どもの理解力の水準を個別事案ごとに評価するべきである。年齢にかかわらず、とくに子どもが意見を聴くよう求めたときには、十分な理解力の水準があると推定されるべきである。意見を表明するのに十分な理解力の水準を子どもが有しないと見なされる年齢制限が国内法で定められている場合、当該年齢水準は定期的な見直しの対象とされるべきであり、かつ、加盟国はその削除を検討するよう奨励される。
21.子どもが意見表明のための援助を必要とする場合、援助が提供されるべきである。年齢または能力を理由として子どもが意見を表明できない場合、適切なときは、特別に任命されかつスキルを有する代理人または専門家によって関連の事柄に関する子どもの見方が確認されかつ伝達されるべきである。
22.子どもの意見または適切なときは子どもの見方は、その年齢および成熟度にしたがい、正当に重視されるべきである。
23.子どもの意見は意思決定プロセスにおける重要な要素のひとつだが、必ずしも権限ある当局の決定を左右するものではないことが、子どもに対して明確にされるべきである。権限ある当局は、子どもの最善の利益を認定するにあたり、他の関連の要素とあわせて子どもの意見を考慮するべきである。
24.手続が複数の子どもに関連するものであるときは、1人ひとりの子どもに対し、別々に自己の意見を表明する機会が提供されるべきである。
25.子どもの意見は、次のようなさまざまなやり方で確認することができる場合がある。
- a.適切な保障措置がとられることを条件として、権限ある当局が子どもに面接することを通じて。
- b.権限ある当局が任命した訓練された専門家が、子どもとの面接に基づいて作成した報告書を通じて。
26.いかなる特定の事案で利用されるしくみまたは手続においても、特有の事情、子どもの年齢および理解力の水準ならびに子どものコミュニケーション能力が考慮されるべきである。適切なときは、子どもと、どのような方法で意見を聴かれたいかについて相談することが求められる。適切なときは常に、子どもの意見が直接聴かれるべきである。
27.過度のストレスおよび不快さを避けるため、子どもの意見の聴取は子どもにやさしい環境で行なわれるべきである。
28.子どもが自由に自己を表現できること、および、表明されたいかなる意見も不当な影響力または強要の結果ではないことをできるかぎり確保するため、十分な保障措置が設けられるべきである。
29.子どもが自己の意見の内容について反対尋問の対象とされることは、けっしてあるべきではない。
30.子どもの意見聴取を繰り返し行なうことは、それが子どもの最善の利益に合致する場合を除き、可能なときは常に回避されるべきである。
31.手続的公正を理由として、子どもが表明した意見についての報告書は、子どもの最善の利益にしたがい、かつ子どもの保護を確保するためのいずれかの適切な手段により、当事者に通知されるべきである。そのため、完全な報告書ではなく要約報告書を優先させることが求められる。適切なときは、自分の意見を報告書でどのように表現するかについて、子どもと相談するべきである。
V.情報および援助に対する権利
情報に対する権利
32.加盟国は、とくに次のことについて子どもに通知するための、子どもにやさしい情報サービスが整備されることを確保するべきである。
- a.手続の理由。
- b.手続における権利(意見を聴かれる権利を含む)および役割。
- c.手続の諸段階および見込まれる期間。
- d.手続中および手続後に子どもを支援するために利用可能なしくみまたは制度および手続的調整。
- e.関連するときは、不服申立て(適用される期限があるときは当該期限を含む)および独立の苦情申立て機構へのアクセス。
援助に対する権利ならびに弁護士および代理人に対する権利
33.加盟国は、
子どもにやさしい司法に関する欧州評議会閣僚委員会指針にしたがい、子どもが、手続全体を通じ、独立の支援および法的援助、ならびに、国内法にしたがい、親または他の当事者の代理人とは別の者による法的代理を受ける権利を持つことを確保するべきである。
34.子どもは、子どもに助言および支援を提供し、子どもによる手続の理解を容易にし、信頼のできる関連の情報を提供し、意見を聴かれる権利を行使したいという子どもの希望を確認し、かつ、手続全体を通じておよび関連する場合は不服申立て手続中に子どもに同伴することのできる者によって援助される権利を認められるべきである。子どもは、当該援助者といつでも直接連絡をとって情報および助言を求めることができるべきである。
35.子どもの最善の利益の保護のために必要とされるときは、
子どもにやさしい司法に関する欧州評議会閣僚委員会指針にしたがい、子どもの代理人として活動する特別訴訟後見人または独立の代理人弁護士ができるかぎり早く任命されるべきである。
36.効果的で持続可能な信頼できる法律援助制度へのアクセスが、子どもおよびその親または親責任を有する他の者に利用可能とされるべきである。関連するときは、
子どもにやさしい司法に関する欧州評議会閣僚委員会指針にしたがい、無償の法的援助制度へのアクセスが、大人に適用されるものと同一のまたはより寛容な条件で、子どもに利用可能とされるべきである。
苦情申立て機構
37.独立した、効果的な、非司法的で子どもに配慮した苦情申立て機構に子どもがアクセスできるようにされるべきである。
VI.親の別離手続の実施
手続前
38.子どもに対する自己の責任の行使に関して親の別離手続の前、手続中および手続後に親に情報および支援を提供し、かつ子どもの最善の利益にのっとって友好的合意に達するのを援助するための、専門的サービスが設けられるべきである。
手続中
39.事案の事情によって正当と考えられるときは、権限ある当局は、子どもの最善の利益を評価し、かつもっとも適切な形態の家族への介入を特定する目的で、関連のサービス機関および専門家に対して時宜を得たやり方で要請を行なうことができるべきである。
40.加盟国は、子どもの権利および最善の利益を確保する目的で、家族に対してもっとも早期にもっとも適切な形態で介入できるようにするため、高葛藤事案の時宜を得た特定を可能にする効果的なしくみおよびケースマネジメント措置を整備するべきである。こおような措置としては、早期スクリーニング、監督付きの直接交流、調停その他の裁判外紛争解決プロセス、親教育プログラムおよび両親間調整(parental co-ordination)などが考えられる。
41.子どもの最善の利益を保護するために必要なときは、権限ある当局は、いずれかのケア手続および/または子どもを保護するための処置を発動させる必要性を評価するべきである。保護のための処置またはサービスが必要と考えられるときは、権限ある当局は、複数の当局が個別に設けられている場合、相互に緊密に協力するべきである。
緊急処置および暫定的処置
42.とくに高葛藤事案で子どもの健康または安全に切迫したリスクがある状況においては、国内法で、緊急決定または暫定的保護処置を得るための緊急付託および迅速手続が利用可能とされるべきである。子どもの最善の利益にしたがい、緊急処置は、子どもの意見を事前に聴取せずにとることができる。ただし、本案に関する最終的決定が行なわれる前に意見を聴かれる機会が子どもに与えられることを条件とする。
43.事案の事情または手続の性質のために最終的決定が遅れる可能性が高いとき(とくに当該事案でさらなる調査が必要なとき)は、子どもの権利および最善の利益を保護するための適切な暫定的処置がとられるべきである。
44.子どもがいずれかの親によって虐待または危害を受けるおそれのあるときは、権限ある当局は、暫定的に直接の交流を速やかに停止するか、間接的交流、監督付きのもしくは支援付きの直接交流または子どもの最善の利益に合致する他のいずれかの処置を命ずることができるべきである。
45.親による交流妨害があるときまたは子どもが交流を執拗に拒否するときは、この点に関する暫定的処置が、子どもの最善の利益に合致する形で、最終的決定が行なわれるまでとられるべきである。
46.緊急処置および暫定的処置は、直ちに執行可能な、原則として短期のものであるべきであり、かつ、その後に、子どもおよび関連当事者全員の権利のための手続的保障措置を全面的に尊重するさらなる決定が行なわれるべきである。
裁判外紛争解決プロセス
47.加盟国は、子どもの最善の利益を考慮した合意または和解の達成に関して両親を支援するため、調停その他の裁判外紛争解決プロセスのような任意のプロセスを発展させかつ促進するするよう奨励される。
48.調停その他の裁判外紛争解決プロセスは、ドメスティックバイオレンスが立証されている場合または暴力もしくは虐待が行なわれるという十分に理由のあるおそれが存在する場合には、ふさわしくない。ただし、当事者の安全を確保し、かつ両親が相互の合意に自由に達することができるようにするための適切な保障措置が設けられているときは、この限りではない。
49.いかなる法的手続においても、その開始前に、調停その他の裁判外紛争解決プロセスの利点を説明する情報が提供されるべきである。国内法で、このようなプロセスに関する情報提供のための会合への出席を両親に要求することも適切となり得る。
50.法的手続が始まったことを理由に、権限ある当局が、調停その他の裁判外紛争解決プロセスに関与するよう、両親にいつでも奨励することが妨げられるべきではない。
51.調停委員またはこのようなプロセスに関与するその他の専門家にとって、子どもの最善の利益が第一次的考慮事項であるべきである。これらの専門家は、両親に対し、子どもの最善の利益に常に焦点を当てるよう奨励するとともに、子どものウェルビーイングを確保する自己の第一次的責任および子どもに情報を提供しかつ子どもと相談する必要性を想起するよう、求めるべきである。
52.適切な場合に裁判外紛争解決プロセスにおいて意見を聴かれかつ参加する子どもの権利が、子どもの最善の利益にしたがって確保されるべきである。
53.加盟国は、
子どもに対する暴力に関する通報・報告システムの強化についての加盟国への閣僚委員会勧告CM/Rec(2023)8に掲げられた基準にしたがい、専門家が通報の際に直面し得る障壁を除去するなどの手段により、裁判外紛争解決プロセスに関与する専門家に対し、子どもに対する暴力を通報するよう奨励しかつ支援するべきである。
54.調停その他の裁判外紛争解決プロセスに基づく合意に法的効力を与えるため、これらの合意の登録、または当該合意が子どもの最善の利益を正当に考慮しており、かつすべての参加者にとって公正であると権限ある当局が納得した場合の当該当局による承認のための体制が整えられるべきである。
55.調停その他の裁判外紛争解決プロセスに関連するやりとり(発言および記録を含む)は守秘の対象と見なされるべきであり、諸手続または他のいかなる文脈においても開示されるべきではない。開示は、法律で求められている場合もしくは保障措置がとられている場合、または子どもの保護に関わる懸念がある場合に限って認められるべきである。
決定
56.決定において、子どもの意見または適切なときは子どもの見方がどのように徴集されかつどのように正当に重視されたかについて、説明されるべきである。子どもの意見が聴取されなかった場合、決定においてその理由が明示されるべきである。
57.決定には、明確かつ透明な決定理由が記載されるべきである。そこでは、関連の要素がどのように評価され、検証されかつ重視されたかを説明するとともに、子どもの権利およびニーズと当事者の正当な利益との比較衡量にあたり、子どもの最善の利益がどのように正当に考慮されたかを示すことが求められる。
58.決定内容は、子どもの年齢および成熟度を顧慮しながら、子どもに対して速やかに伝達されかつ説明されるべきである。
実施および執行
59.執行手続が可能なかぎり効果的かつ効率的であるようにするため、国内法で、不遵守の場合の一連の措置が定められるべきである。
60.個人的関係および直接の交流の執行に関連する命令は、子どもの最善の利益を常に促進しかつ保護するものであるべきであり、かつ個別事案ごとに決定されるべきである。
61.いずれかの当事者が決定を尊重しない場合、権限ある当局は、必要なときはその実施に関する調停または交渉の段階をともなう、自発的遵守の促進をまず行なうべきである。
62.決定および処置のうち子どもが関与するものおよび子どもに影響を与えるものは常に、子どもの尊厳および脆弱性を尊重する、時宜を得た子どもにやさしいやり方で実施されまたは執行されるべきである。
63.不遵守が持続する場合に、決定を執行し、または決定を見直しかつ必要な修正を行なうための機構が設けられるべきである。
決定の見直し
64.加盟国は、子どもに関わる決定が実効的な行政上または司法上の監督ならびに事情の変化があった場合の見直しの対象とされ得ることを確保するべきである。
VII.転居
65.子どもの転居は、両親もしくは親責任を有する他の者によって共同で、または意見が合わない場合には権限ある当局によって決定されるべきであり、その際、子どもの最善の利益が全面的に考慮されるべきである。
66.子どもとともにまたは子どもをともなわずに転居しようとする親は、子どもの最善の利益を全面的に考慮しながら、他方の親または親責任を有する者に対し、時宜を得た事前通告を行なうべきである。子どもを転居させる意図の通告は、当該子どもとの個人的関係および直接の交流に対する執行可能な権利を有する他の者に対しても行なわれるべきである。
67.権限ある当局が子どもの転居について決定するときは、転居の許可または不許可に関していかなる一般的推定も存在するべきではない。転居事案における決定では、親の移動の自由と、子どもの最善の利益ならびに親および子ども双方の家族生活の尊重に対する権利との比較衡量が追求されるべきである。
68.子どもの最善の利益を評価するプロセスにおいては、それぞれの親、祖父母、きょうだい、他の家族構成員および子どもにとって重要な他の者との意味のある関係の維持に対してとくに注意を払いながら、あらゆる関連の要素を検討するべきである。
69.転居した子どもと他方の親、祖父母またはきょうだいとの定期的な直接の交流が不可能または非現実的になるときは、転居に関する合意の取決めに、定期的な遠隔コミュニケーションに関する対応、ならびに、子どもの人生における重要な日および出来事を記念するための通信および贈り物の受領に関する対応が含まれるべきである。
70.転居しようとする親が子どもの最善の利益を考慮したことを確保するため、転居の提案の合理性および適切なときは転居しようとする親から提出される理由の合理性が、客観的評価の対象とされるべきである。
71.個人的関係および直接の交流の取決めについても、関係する費用負担および交流中断の水準を顧慮したその実際性が、客観的評価の対象とされるべきである。
VIII.雑則
データ保護
72.子どもが関与するいかなる手続も、子どものプライバシーを保護するため、可能なかぎり非公開で進められるべきである。
73.親の別離手続に関与する子どもその他の者の個人情報は、法律にしたがって収集され、利用され、共有されかつ保存されるべきである。
74.関連の権限ある当局、専門家およびサービス提供者の間での子どもの個人データの共有は、それが子どもの最善の利益に合致している場合、実務上確保されるべきである。
75.子どもおよび該当するときはその(両)親もしくは親責任を有する他の者、訴訟後見人または代理人弁護士に対し、子どものデータ保護権を行使するための手続(関連の記録における不正確または不完全な個人情報の訂正を申請する権利を含む)が通知されるべきである。
76.加盟国は、親の別離手続に関与する子どもを、メディア報道で特定されまたは特定可能とされることから保護するべきである。
研修および専門職基準
77.加盟国は、権限ある当局および親の別離手続に関与する専門家(裁判官、弁護士、調停委員、心理学者およびソーシャルワーカーを含む)が、親の別離手続における子どものニーズおよび権利ならびに子どもの聴取技術に関する必要な水準の専門性を獲得するための、適切な支援、実践ガイダンスおよび研修を提供されることを確保するべきである。
78.高度な専門職基準を常時確保するため、親の別離手続および裁判外紛争解決プロセスに関する望ましい実践規範が策定されるべきである。
モニタリングおよび調査研究
79.親の別離に関わるすべての立法上、政策上および予算上の決定は、モニタリング、科学的調査研究の知見および統計データに基づいたものであるべきである。
80.加盟国は、親の別離手続に関わる子ども、親および家族のためのサービスの開発および見直しが、子ども、親、養育者および関連分野の職業的サービス提供者との定期的協議に基づいて行なわれることを確保するべきである。
国際協力
81.加盟国は、国境を超える側面を有する親の別離手続において子どもの最善の利益を効果的に確保しかつ促進するため、加盟国間の協力を強化するべきである。
82.加盟国は、国境を超えた経験、調査研究およびサービスモデルの交流ならびに権限ある当局および関連の専門家の国境を超えた研修を促進するべきである。
最終更新:2025年06月12日 16:07