美空ウイルス.exe【ver:1.1】---------------------------------------------------------------
美空「
これは天誅である。…っていうか、神のお怒り、天罰、そうな感じ。
今まで"空気""空気"と呼ばれ続け、しかし私は息を潜めてきた。
突然の驚きを与える、新たなる主要人物としての華々しきデビュー
があると信じて疑わなかったからだ。
ところがどうだ?
お前たちは驚かず、それどころか私に空気という称号を与え続けた。
謎のシスターは私だ!
本当は魔法生徒だったんだ!
だから、いじれよっ!
特別なんだからさっ!
よって、ここに復讐を宣言する。
愚かなるこのスレに、今、天罰を!
」
こうして美空の復讐は始まった。
そして、その計画の手始めは、空気とはほど遠い存在への憧れと嫉妬が深く関係していた。
美空ウイルス.exe【ver:1.2】---------------------------------------------------------------
今夜も、真名さんはPCに向かっていた。
長谷川から教えてもらった共有ソフトWinnyttaで、愛しいアキラのあんな画像やこんな画像を収集しているのだ。
「検索ワードは、"アキラ""AKIRA""大河内""M子"…っと。
これで良し!ポート開放も完了!さーて、いくつのファイルが見つかるか…」
検索ヒット件数:671件
「キタ━━━('∀')━━━━!全部ダウソだ!うっはっは〜!特に一番下のこれが早くやりたい!ダウソだ!ダウソだ!」
…
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.exe
美空ウイルス.exe【ver:1.3】---------------------------------------------------------------
真名さんは全てのファイルをダウンロードし終え、部屋には雄叫びが響きわたりました。
「グッジョブ!光回線!ビバ、光回線!早速、アキラ・オルタナティブでアキラにあんなことやそんなこと…」
興奮しきった真名さんは何も気にせず、そのファイルを実行したのです。決して実行してはいけない、そのファイルを…。
「ん?なんだ、なんか表示されたぞ?なになに…"ウイルスに感染"?」
====================
スーパーハッカーの友達の謎のシスターMより
このスレはウイルスに感染しました。あらゆる対ウイルス・ソフトウェアは、このウイルスに敵いません。
私は学園のアイドル、シスター美空が空気なる扱いを受けていることに憤りを感じ、このような行為に至った。
このスレには私以上の空気が存在している。分析隊がそれを証明している。
それにも関わらず、私が空気扱いされているのは何故だ。私は許さない。
このウイルスは以下の事項を実行するものである。
・「ネギまほラジオ:ゆえパル分析隊」にて空気認定を受けた者を新たなる空気とする。
では、私が本気であることを証明するため、まず見せしめとして、最新の空気を空気にしてみせよう。
美空ウイルス.exe【ver:2.1】---------------------------------------------------------------
それは突然訪れました。
西の空が夕焼けに染まって、雲の輪郭がくっきりと切り分けられ始めた頃、
私、村上夏美はいつも通りに寮に向かって歩いていました。
「はぁー、演劇の練習…大変だったなぁ…でも、がんばらなくっちゃ!もうすぐ、公演だもんねっ」
私は、長く伸びた自分の影を見つめて、独り言を口にしていました。
「あら、夏美ちゃん。珍しく不安なのかしら?」
肩越しに、声が飛んで来ました。
「あぁ、ちづ姉。聞いてたんだ…」
ちょっと恥ずかしいな(////)
「ええ。あれだけ大きな声で叫んでいたら、例え向こうの方にいても聞こえてしまうわ」
そう言って微笑みながら、ちづ姉は私の影が伸びる方の先を指差しました。
「でもね、夏美ちゃん。ここが、もし舞台だったら、
あなたの声はお客さん全員の心まで、ちゃんと届くと思うわ。自信持って。ね?」
「うん。ありがとう、ちづ姉…」
「さぁ、帰りましょう。今晩はクリームシチューよ」
夕焼けに照らされた、ちづ姉の後ろ姿は、何もかも包み込んでしまう『ぬくもり』に満たされていました。
ありがとう、ちづ姉…でもね。私、わかってるんだ。
本番の舞台を迎えるまでの時間や、ちづ姉のクリームシチューを食べるまでの時間は、もう私には残ってない…って。
…あれ?
…涙が……
……涙が…止まらないよ…
「どうしたの?夏美ちゃん?こんなに震えて」
「ごめんね、ちづ姉、ごめんね」
「何を言ってるの?」
「わたし…わたし…」
「ねぇ、夏美ちゃん!しっかりして!」
意識が遠退いていく。空気になるって、こういう事なんだ。…寒いよ、…怖いよ
倒れかけた私を、ちづ姉が抱きしめてくれました。ちづ姉…温かい
「ちづ姉…ありが
Action:Virus_Misora【村上夏美:空気設定を完了】
美空ウイルス.exe【ver:3.1】---------------------------------------------------------------
あやかは心配していた。もう外はすっかり夜である。なのに、千鶴がまだ帰ってこない。
あやかは時計を何度も見直し、矛先の失った気持ちを胸に、部屋を行き来するしかなかった。
もし、彼女が事故や事件に巻き込まれたなら、部屋で待ち続けなければならない。
電話が掛ってくるかもしれないからだ。
その時、寮の廊下に足音が響いた。あやかはそれを耳にするなり、玄関から飛び出した。
そこには、幽霊のように立ち尽くした千鶴の姿があった。
「千鶴さん!今まで何処にいたのです!?」
あやかは千鶴を問いつめた。しかし、千鶴の目は焦点を失っているようで、あやかの言葉すら留めていない様子だ。
「千鶴さん!?ねぇ、しっかりしてくださいっ!」
あやかに肩を揺さぶられ、千鶴はハッと意識を取り戻したかに見えた。
「あ…あやか?」
喉の奥から絞り出されたその声は、かすれていて涙声だ。
「夏美ちゃんが…夏美ちゃんが…」
その名前を繰り返し、やがて息を荒げ、苦しそうに千鶴は喘いだ。
「何があったんです?!」
あやかは再度、訊いた。
「夏美ちゃんが…消えちゃったの…」
それを聞いて、あやかは首を傾げた。
「今、なんて?」
あやかは慎重に聞いた。聞き間違いかもしれない。
「だから、夏美ちゃんが消えちゃったの…」
返事を確認し、あやかは素直に言うことにした。そうする以外、何が出来ようか。
「夏美さん、とは誰です?」
千鶴は凍りついた。起きていることが、まるで信じられなかった。
それでも、あやかの案内に従い、とりあえず、部屋に入ることにした。
美空ウイルス.exe【ver:3.2】---------------------------------------------------------------
「なにか悪い夢でも見たんですわ」
あやかはそう千鶴に声をかけた。それは、最大限の慰めの言葉だった。
そして、意味合いは違えど、確かにその言葉は千鶴を慰めた。
これは夢だ。悪夢なのだ。夏美ちゃんが目の前から消えて、あやかの記憶からも消えてしまうなんて有り得ない。
有り得てはいけない。そう思うことにした。
あやかは暖かいココアを差し出した。千鶴はそれを抱えると、ぼんやり中を覗き込んだ。
白っぽい茶色と濃い茶色が、光の加減でマーブル状に揺らいで見えた。
『本当に、夏美ちゃんのことを覚えてないの?』
その問いが何度も喉まで出掛った。でも、底無しの恐怖が舌ごと、その言葉を呑み込ませてしまうのだ。
恐くて、訊くことができない。
「それで、今まで何処にいたのですか?」
あやかは不思議そうな瞳で千鶴を見つめながら言った。
「学園内を探し回っていたわ」
「その夏美という方と一緒に?」
「違うわ、あやか。探していたのよ、彼女を」
あやかは怪訝な顔をした。千鶴に初めて見せる表情。
何か得体の知れないものへの恐怖、自分への問いつめ、状況への懐疑心…それら全てが、
若き乙女の形相に入り混じって表れたようだった。
「まぁ、いいですわ。今日は寝ましょう。こんな夜じゃ、食事も喉を通りませんし」
あやかの言うことを聞き流し、千鶴は明日のことだけを考えた。
夜が明け、朝となれば、また元通りの日常に帰れるはずだ。そう信じていなければ、正常を保てなかった。
【つづく】
美空ウイルス.exe【ver:4.1】---------------------------------------------------------------
東の空が赤く染まり、朝の訪れを告げる。千鶴が待ち続けた朝。悪夢を振り払い続ける夜の終わりだ。
きっと学校で会える。教室に行けば、いつも通りに「ちづ姉、おはよー」と声を掛けてくれるはずだ。
そのように信じているのに、教室に行くのが怖かった。
あやかが教室のドアを丁寧に開けた。その後ろで、千鶴は小さくなりながら、あやかを追って教室に入った。
とりあえず、席につく。見回しても分かるが、教室に特に変化はなかった。
夏美がいない、ということだけを除けば。
予鈴の後、ネギ先生が入ってきた。軽快な足音を鳴らし、教卓の前に立つ。
「皆さん、おはようございます」
『おはよー、ネギくん!』『おはよう、ネギ坊主』『おはようネ』
それぞれが元気に挨拶を返す。夏美はまだ来ていない。
「それじゃあ、出席をとりますね」
始まった。自分の記憶を確かめる瞬間が近付いている。千鶴はごくりと大きく唾を飲んだ。
もし、夏美の番が来ても、呼ばれなかったらどうしようか。自分が狂っているとでも言うのか。
そんなはずはない。昨日の朝も、ネギ先生は夏美の出席を確認していた。
「…ばさん、なばさん、那波さん?」
「あ、はい。います」
「はい。那波さん、ぼーっとしていちゃダメですよ」
ネギ先生の微笑みに、クラスの皆が笑顔になる。自分は呼ばれた。夏美の番はもうすぐだ。
「エヴァンジェリンさん」
「いるぞ」
もうすぐ。
「宮崎さん」
「は…はぃ…」
次。
「えーと、いいんちょさん」
「はい!ここにいますわ、ネギ先生」
千鶴は挙手をした。
「ネギ先生、ひとり忘れています」
美空ウイルス.exe【ver:4.2】---------------------------------------------------------------
教室内がざわめいた。それでも、千鶴は手を下ろさなかった。
「え…誰ですか?」
「村上夏美さんです」
皆が静まった。息苦しい。
「村上…夏美さん?そんな人は、このクラスにいませんよ?」
「ちょっと待ってください。出席番号を数えてみてください。
エヴァンジェリンさんが26番、宮崎さんが27番、そして、あやかが29番……村上夏美、28番が抜けています」
ネギ先生の口元がわずかに震えたように見えた。
「あ…ありがとうございます、那波さん。印刷ミスみたいですね、なんで今まで気付かなかったんだろう」
クラスの雑声が少し戻ってきた。"そういうこと"で納得されてしまうのだ。"印刷ミス"ということで…。
千鶴は思考するのを諦めた。自分は狂ってしまったのかもしれない。
村上夏美という妄想に取り憑かれてしまったのかもしれない。きっと自分が変になってしまったのだ。
ネギ先生が続ける。
「それじゃあ、これからは、いいんちょさんが28番で、四葉さんが29番、ザジさんが30番とします」
村上夏美…彼女が実在していた証が消えていく…。
視線を感じて、千鶴はそっちを振り向いた。あやかが鋭い目で睨んでいた。
いつも通りに授業は始まった。
いつも通りに休み時間があり、いつも通りに昼食を採り、いつも通りに下校時刻を迎えた。
しかし、いつも通りの生活であっても、村上夏美の存在は完全に消滅していた。
【つづく】
美空ウイルス.exe【ver:5.1】---------------------------------------------------------------
足元の定まらない歩きで、千鶴は夏美の残滓を求めて彷徨っていた。
何が起きたのか分からない。明らかに事態は理解を越えている。
演劇部の部室。これが最後の頼りだ。
しかし、ドアの前に立ってみると、無意識に足ががたがたと震え始めた。怖い…。
今朝のネギ先生の対応、昨晩のあやかの振る舞い、それだけじゃない。
クラス全員が、夏美を無視していた。まるで、夏美が要らない人だったかのように…。
「あの…何かご用ですか?」
「えっ」
声の方に振り向くと、一人の少女が千鶴を見つめていた。演劇部の部員だろう。
「あの…」
確かめなければいけない。私が変なのか。皆が変なのか…。
「あの、村上さんは居るかしら?」
言えた。胸の辺りが暖かくなる。私は夏美を裏切らなかった。
「村上…村上…?そんな子いたかなぁ…」
言葉が出なかった。全てを否定された気がした。事実、否定されたのだ。
誰からも、村上夏美という人物の存在を。
千鶴は逃げた。部員の呼び止める声が聞こえたが、無視した。足が千切れるほどに走った。
何かが、大切な何かが壊れてしまう…。
振り返ると、演劇部の部室はもう見えなくなるほどに遠くだった。
千鶴は自分を責めた。夏美を守りきれなかった、そんな気がしたからだ。
跪き、天を仰ぐ。夕焼けに染まった空が、虚しくも美しい時を奏でていた。
昨日の同じとき、夏美と別れたとき、彼女の消える瞬間を、鮮明に思い出すことができた。
微温暖かい涙が、つうっと頬を伝った。
「夏美ちゃん…ごめんなさい」
嗚呼、なんて、美しい、空。
美空ウイルス.exe【ver:5.2】---------------------------------------------------------------
放課後、龍宮真名はPCを持って、ある人物の寮部屋を訪れた。
「長谷川、居るか?」
しばらくの沈黙の後、鍵が開く音がして、軋みながらドアが開いた。
長谷川千雨がビスケットのようなものをくわえたまま顔を出した。
「入れよ」
「邪魔するぞ」
後ろ手に扉を閉じる龍宮に向かって、椅子にどっかと座った千雨は訊いた。
「で、PCが変になったって?」
「そうなんだ。これを見てくれ」
龍宮は鞄から中古のノートPCを取り出すと、机に置き電源を入れた。
「まぁ、ノートPCでWinnyttaを使うこと自体、かなりの勇者なんだが」
「これを売りつけたのは長谷川だろう」
「どのPCが良いか分からないから選んでくれ、って言ったのは誰だよ」
「ふん、まぁいい…」
次第に、PCの画面に怪しげな文字の羅列が映し出された。
「これか?変になった、って」
「あぁ、謎のシスターMだとか、果たし状か犯罪予告文みたいなものが表示された後は、ずっとこの画面だ」
=====================
・「ネギまほラジオ:ゆえパル分析隊」にて空気認定を受けた者を新たなる空気とする。
======================
「意味がわかんねぇな…」
千雨は苦笑した。こんなウイルス、お目にかかったことがない。
「早速、対処してほしい。これではアキラの画像がダウンロードできない」
呆れながら、千雨は答えた。
「とりあえず、こっちのPC貸してやるから、そっちのPCは預かるよ。どんなウイルスだか調べないとな」
新種のウイルスなら、新人のネトアを潰すのに使えるかもしれない。千雨の頭脳はそんな考えに徹していた。
「『Virus_Misora』…マニアックな名前だぜw」
龍宮が帰った後、千雨は密かに笑みを溢した。
【つづく】